odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

熊谷奈緒子「慰安婦問題」(ちくま新書)

2014年初出。慰安婦問題は解決されていない戦争責任と戦後補償の問題。問題の社会化、日韓の補償事業の挫折などを経て2010年代の状況をまとめる。 序章 いまなぜ慰安婦問題なのか ・・・ 占領地の女性をターゲットにした慰安婦問題が社会問題になったのは199…

池明観「韓国 民主化への道」(岩波新書)

韓国の1945年の日本からの解放後を、民主化という視点で歴史をみる。1980年以降の韓国の民主化運動は、とても参考になる。どころか、日本は学ばなければならない。ことに、不正をする大統領を辞任に追い込み、逮捕させた2016年のろうそく革命(100万人でもが…

鄭大均「日本のイメージ 韓国人の日本観」(中公新書) 1945~2000年の韓国ナショナリズムのあらまし。21世紀に韓国人の日本観は劇的に変化している。

日本に住む朝鮮にルーツを持つ人たちが日本をどう見ているかは、たとえばこれらが参考になった。そこからわかるのは、数十万人数百万人もいるグループだから、考え方は多種多様。ルーツが同じという属性だけで均質な集団になっていると思い込んだら大間違い…

田中宏「在日外国人(第3版)」(岩波新書)-1

2013年にでた第三版を読む。前の「新版」が出たのは1995年。およそ20年後との大きな違いは、日本社会に排外主義やレイシズムが蔓延するようになり、路上やネットでヘイトスピーチがおおっぴらに発せられるようになったこと。アジア諸国が経済発展する…

田中宏「在日外国人(第3版)」(岩波新書)-2

2022/05/23 田中宏「在日外国人(第3版)」(岩波新書)-1 2003年の続き 前回は1エントリーで終わった感想が今回の再読では2エントリーに増えた。最近の動向をすこしは知るようになったので、メモしておくべき事柄が増えたのだ。 差別撤廃への挑戦 ・・・…

文京洙/水野直樹「在日朝鮮人」(岩波新書)-1

在日朝鮮人の問題を歴史的にみる。明治政府以降の日本がどのような政策を朝鮮に取ってきたかは以下のエントリーを参考。これらには日本国内の事情はほとんど書かれていないので、本書で補完することになる。2017/05/25 海野福寿「韓国併合」(岩波新書) 199…

文京洙/水野直樹「在日朝鮮人」(岩波新書)-2

2022/05/19 文京洙/水野直樹「在日朝鮮人」(岩波新書)-1 2015年の続き 後半は日本の敗戦後。日本にいることを選択した/余儀なくされた在日朝鮮人の歴史や記録は多数でている。自分が読んだのは以下の数冊だけ。勉強不足です。2019/4/26 福岡安則「在日韓国…

角南圭佑「ヘイトスピーチと対抗報道」(集英社新書) 2016年のヘイトスピーチ解消法施行以後の状況。在特会の活動は激減したが、無名の人々がカジュアルに「悪意なく」差別するようになった。

このブログで取り上げてきたヘイトスピーチの記録には以下のようなものがある。2019/04/22 有田芳生「ヘイトスピーチとたたかう!――日本版排外主義批判」(岩波書店) 2013年2019/04/19 神原元「ヘイト・スピーチに抗する人びと」(新日本出版社) 2014年2017…

今野晴貴「生活保護」(ちくま新書) 生活保護のバッシングとヘイトデマを止めるためには本書の知識を持つことが必要。

差別者、レイシストは外国人生活保護の廃止を要求する。それに対抗するために、連中が言っていることを調べて、デマばかりであることを明らかにしたことがある。 odd-hatch.hatenablog.com メディアの報道など断片的な知識は入っても全体の知識がないので、…

本田良一「ルポ・生活保護」(中公新書) 日本では江戸も明治政府も「隣保相扶」で貧困や公共サービスにはまったく関心・興味をもたず、常にコストを惜しんで、公の責任を放棄しようとしてきた。

日本では1970-80年代に貧困の話を聞くことはとても少なかった。まったくなかったわけではないが、メディアが報道することがなかったからだろう。佐和隆光/浅田彰「富める貧者の国」(ダイヤモンド社)が2001年にでたとき、「貧者」は景気回復が進まず、公共…

岩瀬大輔「生命保険のカラクリ」(文春新書) 個人の最適を図る生命保険より、国民全体の最適をめざす健康保険制度が充実しているほうが重要で有益。

2009年にでた本書で、著者は生命保険に加入するポイントを書いている。生命保険の目的は、死亡後の配偶者他係累の保障、医療保障、貯蓄の3つ。収入や体調などにあわせて適切なものにしよう(詳細は本書で)。最後の貯蓄は「金利が上がってから」としている…

ガボリオ「ルコック探偵」(旺文社文庫)-2 1860年代の殺人事件ではすでに科学的捜査が行われている。ホームズ譚によくあるギミックはすでに出そろっていた。

前回から干支をひとまわりして再読。 odd-hatch.hatenablog.jp 150年前の小説なので、ある程度詳しくストーリーを紹介することにしよう。 パリのうらぶれた居酒屋で深夜、銃声が聞こえる。駆けつけた警察官のみたものは、3人の男の死体と銃を持った一人の男…

ガボリオ「ルコック探偵」(旺文社文庫)-3  二世代にわたるロマンス。親の世代の恨みつらみとこの世代の愛憎関係は正反対。頑張るほどに生きにくくなる。

2022/05/11 ガボリオ「ルコック探偵」(旺文社文庫)-2 1869年の続き 1815年の「ワーテルローの戦い」でナポレオンが失脚。すると、王党派が権力の奪還に来るのである。フランス革命以来、四半世紀近く放逐されていたセルムーズ侯爵領はラシュメール一家が管…

黒岩涙香「短編集」(別冊幻影城)「無惨」「紳士のゆくえ」「暗黒星」など 言文一致運動にかかわらなかった作家は自我にかかわらないで、物語の楽しさを技術で書く。

ある程度まとまった著者の短編を読むには「黒岩涙香探偵小説選〈1〉〈2〉 (論創ミステリ叢書) 」が便利なのだろうが、ここでは別冊幻影城、日本探偵小説全集〈1〉 (創元推理文庫)、青空文庫で入手できた短編を読むことにする。 無惨 1889 ・・・ 明治22年(…