odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

イタロ・カルヴィーノ

イタロ・カルヴィーノ「くもの巣の小道」(福武文庫) 北イタリアのパルチザン活動。戦時を日常になると、人は疲弊し人間の弱点を露わにして分断を強める。

イタロ・カルヴィーノの最初の長編小説。カルヴィーノはパルチザンに加わっていたし、WW2戦後にはイタリアで「レジスタンス小説」が多数出版されたそうだ。その時流に乗っていながら、ズレたところのある小説。 おそらく1944年夏の北イタリア(具体的な年月…

イタロ・カルヴィーノ「むずかしい愛」(岩波文庫) 大衆社会における恋愛の困難さはコミュニケーションの機会と技術の不足。

解説を読んでも発刊の経緯はよくわからない。1958年初出の似たようなテーマを集めた短編集。 ある兵士の冒険 ・・・ 汽車に乗っている兵士が豊満な若い女性に愛撫を試みる。言葉のないコミュニケーションを言っているのかもしれないが、行為は痴漢そのものな…

イタロ・カルヴィーノ「レ・コスミコミケ」(ハヤカワ文庫)-1 Qfwfq老人(別の訳者ではクフウフクと表記)のホラ話。宇宙的進化論的な超歴史的、非人間的できごとを通俗的な物語に換骨奪胎。

Qfwfq老人(別の訳者ではクフウフクと表記)のホラ話。科学の記述を聞くと、わしはそこにいたと叫んで、思い出話に花を咲かせる。1965年初出。 月の距離 ・・・ 月の軌道がいまより地球に近かったころ。老人のいた岩礁から月にいくことができた(途中の無重…

イタロ・カルヴィーノ「レ・コスミコミケ」(ハヤカワ文庫)-2 Qfwfq老人(別の訳者ではクフウフクと表記)のホラ話。「私」から抜けられないモノローグの文体なのに、自閉的ではない。

2022/07/19 イタロ・カルヴィーノ「レ・コスミコミケ」(ハヤカワ文庫)-1 1966年の続き Qfwfq老人のホラ話。後半。 いくら賭ける? ・・・ 宇宙ができるまえ、何が起こるかを老人は学部長と賭けをする。どんどんエスカレートして地球の歴史のささいなことま…

イタロ・カルヴィーノ「柔らかい月」(ハヤカワ文庫、河出文庫)-1  Qfwfq老人(別の訳者ではクフウフクと表記)のホラ話。生命現象を語る自己の特権性を強調できなくなる。そうすると、語り手は自分を普遍的なお喋りシステムにするしかない。

「レ・コスミコスケ」1966年に続く1967年の短編集。第1部はQfwfq老人のホラ話。訳者が変わったので、老人のイメージから中堅サラリーマンのようになった(一人称が「わし」から「私」に変更)。でも、底を流れるのは過去が回復しないことへの諦念。同類や仲…

イタロ・カルヴィーノ「柔らかい月」(ハヤカワ文庫)-2 Qfwfq老人(別の訳者ではクフウフクと表記)のホラ話。語り手は事態を鳥瞰することができなくなり、論理のわなにはまって、行動できなくなる。

2022/07/14 イタロ・カルヴィーノ「柔らかい月」(ハヤカワ文庫)-1 1967年の続き 以後はQfwfq氏の名は出てこない。でも「ティ・ゼロ」で「私Q0(0は小文字)」と表記されるので、Qfwfq氏が語り手だと推測可能。 第三部 ティ・ゼロティ・ゼロ ・・・ 突如…

イタロ・カルヴィーノ「パロマー」(岩波文庫) 27のフラグメントからわかるパロマー氏は自分をすきになれない冷笑家で、人間同士のコミュニケーションを信頼しない。

パロマー氏という中産階級のインテリを語り手にした短編集。短編というにはオチもないし視点はズレるしで奇妙な味をもっている。3部3章3節で合計27のフラグメントからなる。 中年男性、職業不詳、家族は妻と娘一人、パリとローマにアパートを所有―これがパロ…

イタロ・カルヴィーノ「マルコヴァルドさんの四季」(岩波少年文庫) 読者の隣人であるマルコヴァルドさんの運の悪さに憐憫を感じながら、笑いのあとに背筋の寒くなる思いをする。

マルコヴァルドさんは都会に住む人夫(倉庫勤務の工員だ)。奥さんと4人の子供が狭苦しい家に住んでいる。彼が得意なのは街中に自然の息吹を見つけることだが、それに感心するひとはいない。自分や他人のために良かれと思って行ったことは、たいてい失敗する…