odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2019-11-01から1ヶ月間の記事一覧

フョードル・ドストエフスキー「後掲『プーシキンに関する演説』についての釈明」(米川正夫訳)

一八八〇年八月 第1章 後掲『プーシキンに関する演説』についての釈明 『作家の日記』の本号(一八八〇年の唯一号)のおもなる内容をなす、次にかかげるプーシキンとその意義に関するわたしの演説は、本年六月八日、ロシヤ文学愛好者協会の大会で、多数の聴…

フョードル・ドストエフスキー「作家の日記 下」(河出書房)-3(1880年)「プーシキン論」 イワン・カラマーゾフの問いがここでも問われる。

「カラマーゾフの兄弟」連載のさなかの1880年と81年に「作家の日記」が再開された。 1880年はプーシキン論(1880年6月8日、ロシア文学愛好者協会大会での演説)。「作家の日記」収録にあたって、ドスト氏は「釈明」を書いている。それによると、ドスト氏は演…

米川正夫「ドストエーフスキイ研究」(河出書房)-1 個人約全集を出版した訳者による研究書。第1部は生涯。作家が生きた時代がさっぱりわからない。

河出書房でドストエフスキーの個人訳全集を出版した訳者による研究書(全集別巻)。「ドストエーフスキイ」の表記は訳者による。 第1部は生涯。家族や知人、友人の記録を参照しながら、生涯のできごとを記載する。今回、「貧しき人々」からだいたい発表順に…

米川正夫「ドストエーフスキイ研究」(河出書房)-2 個人約全集を出版した訳者による研究書。第2部は作品論。ロシアの特殊事情を無視した普遍化・象徴化。

米川正夫「ドストエーフスキイ研究」(河出書房)-2 個人約全集を出版した訳者による研究書。第2部は作品論。ロシアの特殊事情を無視した普遍化・象徴化。2019/11/26 米川正夫「ドストエーフスキイ研究」(河出書房)-1 1958年の続き 続いて第2部は作品論。…

レフ・シェストフ「悲劇の哲学」(新潮文庫)-1 ドスト氏の地下室に孤独に引きこもるキャラは、社会の問題から解放されて(引き受けなくてもいいことにして)、孤独な人格の問題を取り上げることに専心する。

レフ・シェストフ(1866年2月12日(ユリウス暦1月31日)- 1938年11月19日)はロシア出身、ドイツに住んだ哲学者、文芸評論家。本書によるドストエフスキー読解は戦前の若者に大きな影響を与えたという。そういう歴史的な古典を、古本屋で河上徹太郎訳の文庫…

レフ・シェストフ「悲劇の哲学」(新潮文庫)-2 社会に背を向ける行為は、全体主義やファシズムに取り込まれることになる。この評論はその区別を読者は付けられるかの試金石になりそう。

2019/11/22 レフ・シェストフ「悲劇の哲学」(新潮文庫)-1 1903年の続き 続いて後半の論文。 ニーチェ ・・・ ニーチェもまたドスト氏と同じく苦悩と罪人を考えた人。その思想の経歴には似たところがある。ドスト氏のシベリア流刑のように、ニーチェは師で…

河出文芸読本「ドストエーフスキイ」(河出書房)-1 戦後25年の間に書かれた論文で日本人がドスト氏をどう受容したかを見られる。自由や自我を抽象的な問題にした批評は全然響いてこない。

河出書房新社が1970年代に出した有名作家の論文・エッセーのまとめ。なくなるまでに国内外の作家30人くらいが出たのではなかったかな。夏目漱石とドスト氏だけが2冊出た。需要が多かったわけだ。タイトルの「ドストエーフスキイ」は、この出版社で出してい…

河出文芸読本「ドストエーフスキイ」(河出書房)-2 ギリシャ(ロシア)正教と19世紀ロシア史の解説はとても有意義。

2019/11/19 河出文芸読本「ドストエーフスキイ」(河出書房)-1 1976年 もうすこし具体的な問題を取り上げた論文を読む。全体の10%に満たない文章のほうが重要だった。 ドストエフスキー(E・H・カー)1931 ・・・ 歴史家カーの最初の本であるドスト氏の伝…

亀山郁夫「『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する」(光文社新書) 書かれなかった第2部では皇帝暗殺事件=社会的な父殺しが主題になるはず。

2007年の病気療養中の3月から翌月にかけて、中学生の時に死ぬまでに一度読み通すという決心をした本を集中的に読んだ。マルクス「資本論第1巻(岩波文庫1~3)」、埴谷雄高「死霊」、ドストエフスキー「悪霊」と「カラマーゾフの兄弟」。毎日13-14時間を…

奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-1 上海に帝国主義国家の猫が集まり、国の代表のように駄弁をふるう。

まえもって夏目漱石「吾輩は猫である」を読んでおいた方がいい。なので、未読の人は本書を読むのは後回しにすること。 猫の「吾輩」はビールに酔っぱらって水死したはずである。「吾輩は死ぬ。死んでこの太平を得る。太平は死ななければ得られぬ。南無阿弥陀…

奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-2 テキストで1905年から6年を再現しようという意思が働いていて、蘊蓄・博識を隠さない。

2019/11/14 奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-1 1996年 新聞などから解る事情はこういうこと。1905年11月23日。夕方客のあったあと自室にこもっていた苦沙弥氏は翌朝頭を殴られて死んでいるのが発見された。家屋は内から戸締りがされていて…

奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-3 名無しであるという無個性はそれゆえにこそ宇宙的な普遍性を獲得する。しかし猫の普遍性は人間には全く影響を及ぼさない。

2019/11/14 奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-1 1996年2019/11/12 奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-2 1996年 古典的なテキストを基にして、別の物語を載せてリフレッシュさせる文学は、例えばクリストファー・プリースト…

山口雅也「日本殺人事件」(角川文庫)

日本人の母(再婚のため血縁はない)を失ったとき、トーキョー・サムはまだ見ぬニホンへの憧憬が強まった。サンフランシスコの私立探偵ライセンスは米軍基地のあるカンノン市では有効である。そこで、失業したサムはわずかなたくわえでニホンへ向かった。そ…

山口雅也「続・日本殺人事件」(創元推理文庫)

「日本殺人事件」1994年の評判が良かったので、作者に連絡をとってあと2作を翻訳して1997年に発表した、とされる。 巨人の国のガリヴァー ・・・ 私立探偵事務所を開くことになったトーキョー・サム。最初の依頼人はなんとスモウ・レスラーだった。カンノン…

山口雅也「生ける屍の死」(創元推理文庫)-1

創元推理文庫で650ページ弱の分厚さで、途中でメモを取るのをあきらめたから、以下のサマリーには盛大に勘違いがあると思います。 アメリカ、ニューイングランドの片田舎にあるトゥームズヴィル(墓の町)という奇妙な名前の町。イギリスから移民したバーリ…

山口雅也「生ける屍の死(創元推理文庫)-2

2019/11/05 山口雅也「生ける屍の死」(創元推理文庫)-1 1989年の続き 初出は1989年(その後改訂されたらしい)。思い出すと、1980年代後半に「脳死」論争があった。医療機器の発達で脳以外の器官は機能停止にならないが、脳だけが機能停止した状態があり、…

山口雅也「キッド・ピストルズの冒涜」(創元推理文庫)

パラレル世界のイギリスは読者の現実世界と地続きではあるが、微妙な差異がある。たとえば、シェークスピアは「オセロ」を喜劇として発表し、ジョン・レノンは暗殺されていなくて・・・。それでも経済停滞はどうしようもなく(バージェス「時計仕掛けのオレ…