odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

児童文学

ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」(旺文社文庫) 序文からして回顧調でエピローグでも楽しい時代は終わってしまったという幻滅や悲哀の感情が漂っている。

最初に読んだのは小学館のカラー版名作全集「少年少女 世界の文学」イギリス編で。スティーブンソン「宝島」と「ベオウルフ」も載っていた。たぶん小学1年の5歳の時(早生まれなので)。子供のころから理屈っぽいのが好きで、論理や合理がしっかりしている…

ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」(旺文社文庫) 聞き役に徹するアリスは「レディ」のつつしみのようだが、自由を抑制されていて悲哀の雰囲気を漂わせている。

2020/05/08 ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」(旺文社文庫) 1865年の続き 「不思議の国のアリス(1865年)」から6年たって、「鏡の国のアリス(1871年)」が書かれた。アリスは7歳半(作中で自身がいっている)になった。前作で子猫だったダイナが…

ルイス・キャロル「愛ちゃんの夢物語」(青空文庫) 児童文学の文体が確立した1910年の翻訳。聞き分けのよい子供像を押し付ける教育書になった。

著者名はよく知っているのに、不思議なタイトルになっているのは、1910年に丸山英觀が翻訳した版だから。この国の「不思議の国のアリス」の初訳ではないが、とても古いもの。当然、21世紀に本を入手できるわけもなく、青空文庫に復刊されたもので読んだ。 ww…

ロバート・スティーブンソン「宝島」(新潮文庫) 拙速な探検プロジェクトが凄惨な事件を起こしたのだが、ジョン・シルヴァーの造形に目を奪われる。

最初に読んだのは小学館のカラー版名作全集「少年少女 世界の文学」イギリス編で。キャロル「不思議の国のアリス」と「ベオウルフ」も載っていた。 病気がちの父が経営している「ベンボ―提督亭」にフリント船長と名乗る船乗りがやってきた。そのときから15歳…

都筑道夫「少年小説コレクション1」(本の雑誌社)-「ゆうれい通信」 大学生・和木俊一が主人公の昭和35年ころのジュブナイル探偵小説。

都筑道夫のジュブナイル小説(少年小説と呼ぶ方が当時にはあっている)。敗戦後に生まれた大量の子供がティーンエイジになり、娯楽のマーケットが生まれたのだ。学習誌、マンガ雑誌、貸本マンガなどのメディアがいっせいにできた。そのために書き手が不足し…

都筑道夫「少年小説コレクション2」(本の雑誌社)-「ゆうれい博物館」 大学生・和木俊一が主人公の探偵小説。中学高校生向け。

「少年小説コレクション1」に続いて本格探偵小説を集める。前の巻よりも少し後の時代のものを集める。初出誌は「中〇コース」「中〇時代」「高〇コース」「高〇時代」「少女コース」など。〇には学年を表す数字がはいる。 ゆうれい博物館 1970.04-71.03 ・…

都筑道夫「少年小説コレクション6」(本の雑誌社)-「拳銃天使」「どろんこタイムズ」 冒険アクションや少年推理のジュブナイル。昭和35年前後の作品。

1959-61年のジュブナイルのうち、冒険アクションや少年推理ものを集める。下記は「少年マガジン」「漫画王」「高校時代」「中学時代」「中学生の友」「中学生画報」などに連載されたもの(ベビーブームの子供たちがいっせいに進学したころで、生徒向けの雑誌…

都筑道夫「少年小説コレクション5」(本の雑誌社)-「未来学園」「ロボットDとぼくの冒険」

1960-80年のジュブナイルのうち、SF、ホラーの系統にあるものを集める。 未来学園 1965.04-1966.03 ・・・ 百年後(2065年)の中学1年生の生活。野村マリとクニオの一卵性双生児が学園に入寮する。そこで起きる騒動。幽霊、電話破壊、消える死体、誘拐、宇…

都筑道夫「少年小説コレクション4」(本の雑誌社)-「妖怪紳士」「ぼくボクとぼく」 SF、ホラーの系統にあるジュブナイル長編。

1960-70年のジュブナイルのうち、SF、ホラーの系統にある長編を3つ収録。 「妖怪紳士」は週刊少年キングに連載(このころにはマガジン、サンデー、ジャンプはマンガのみになっていたので、小説の連載はめずらしい)。この時代を思い出すと、1965年から水木…

都筑道夫「少年小説コレクション3」(本の雑誌社)-長編「蜃気楼博士」と「中一時代」に連載されたフォト・ミステリー。

1970年前後のジュブナイルのうち、本格推理の系統にあるシリーズをまとめる。 蜃気楼博士 第一の挑戦 蜃気楼博士 1969.05-11 ・・・ 久保寺俊作はアメリカでドクター・クボとして有名になったマジシャン。その見事さから、ドクター・ミラージ、すなわち蜃気…

マーク・トウェイン「トム・ソーヤーの冒険」(講談社文庫) 子供を抑圧しなければおのずと正義と自由を考えて実践する

そういえば西部劇映画には子供が出てこないなあ、あのころ子供はどういう暮らしだったのだろうと思って、今まで読んでこなかった「トム・ソーヤーの冒険」を読む。完全に読む時期を失したおかげで、うきうきわくわくの時間を持てなかった。 ミシシッピーに住…

今坂柳二「さやまの民話」(狭山市農業協同組合) 明治生まれの人が伝承していた民話は昭和の高度経済成長期に失われた。

これは普通では入手できない本。農業協同組合の機関紙に連載していた民話を家の光出版サービスが印刷製本したもの。農協の関係者と図書館くらいにしか配本されていないと思う。親類が農業をしていたので、謹呈されたようだ。 前書きをみると、1977年ころから…

山中恒「おれがあいつであいつがおれで」(旺文社文庫)

もとは1979年に旺文社の雑誌に連載されていた。自分が読んだのは1982年の旺文社文庫版。いまでは角川文庫で出版されている。この小説はむしろ大林宣彦監督の映画「転校生」で知られているかな。 「斉藤一夫は小学六年生。ある日クラスに斉藤一美という転校生…

ミヒャエル・エンデ「モモ」(岩波書店) 時間貯蓄銀行は貨幣の比喩。資本主義や利子の付く貨幣による社会の不正や混乱を克服するのは芸術であるという主張。

この本を読んだある経済学者がエンデに「この本の主題は貨幣だね」といったところ、そうだという返事をもらった。そこでエッセーを書き、シルビオ・ゲゼルという経済学者(現在では傍流のいささかふうがわりな学者と思われている)の研究雑誌に載せた。その翻…

舟崎克彦「ぽっぺん先生と帰らずの沼」(ちくま文庫) ありふれた陳腐な教訓や道徳から遠く離れていることが、この児童文学を大人になってからの再読に耐えるものにしている。

ぽっぺん先生シリーズの第2作。1974年初出。 大学は夏休みになったけど、ぽっぺん先生は今日も出勤。というのも、大学構内の「カエラズの沼」の生態系を30枚で書いてくれという執筆依頼があるから。暑さのせいか書きたいことがありすぎるのか、ぽっぺん先生…

舟崎克彦「ぽっぺん先生の日曜日」(角川文庫) 本読みが本の世界に巻き込まれるという本好きにはたまらない本。

ぽっぺん先生シリーズの第1作。1973年初出。 ファンタジーにおいて、設定した異世界にまで主人公を届ける描写は難しい。そこに到着するまでの間に、異世界に移動したことを読者にわからせなければならず、同時に異世界と読者や作者のいるこの世界が隔絶して…

舟崎克彦「野ウサギのラララ」(福音館書店「母の友」連載) 初版はキャラが行動的で、ドラマはアクションでもってすすめられる動的な語り口で、自分にはこっちが好ましい

KINDLEやipadを購入したので、「母の友」をPDF化した。そして「母の友」連載版による「野ウサギのラララ」を作成した。これでいつでも初出を読めるようになった。あいにく連載第4回が欠けている。まずは、1970年代の母親向け雑誌の表紙をご覧ください。 とい…

舟崎克彦「野ウサギのラララ」(理論社ライブラリ) 記憶を失って現れ、自分とは何かを探すというのは、実のところ、人生の比喩そのものではないか。

記憶を失ったウサギの男の子が一人。岸に打ち上げられている。目を覚まし、島の奇妙な友人達といっしょに生活を開始する。春夏秋冬それぞれに事件が起こり、彼は島の重要な人物になっていく。彼の記憶は取り戻せるのか・・・・ ミステリーやホラーによくある…

斎藤惇夫「冒険者たち」(講談社文庫)

イエネズミを追い出し理想の住居をドブネズミのガンバは手に入れていた。安楽で平安な日々。ただ、心は鬱々としていたがどうしてよいかはわからなかった。隣人のマンプクが港町でネズミの饗宴があると誘われ、不承不承出立することにした。ガンバ本人は帰宅…

斎藤惇夫「グリックの冒険」(講談社文庫)

「飼いリスのグリックは,ある日,北の森で生き生きと暮らす野生リスの話を聞き,燃えるようなあこがれをいだきます.カゴから脱走したグリックは,ガンバに助けられ,動物園で知りあった雌リスののんのんといっしょに,冬の近い北の森をめざします….日本児…

大石真「チョコレート戦争」(講談社文庫) 通俗的な教訓や道徳を提示しない。子供らに問題を提示して、行動のあり方やモラル、エシックスを考えさせる。

小学生の時に「教室205号」を読んで以来の著者との再会。著者が職業作家になるきっかけの作品で、1965年に初出。 チョコレート戦争 ・・・ 地方都市に金泉堂という洋菓子店がある。その洋菓子は子供の憧れで、大人が子どもに言うことを聞かせるための道具。…

フィリパ・ピアス「トムは真夜中の庭で」(岩波少年文庫) すれっからしになった中年以降が読んだほうがいい郷愁の児童文学。

トムは落胆していた。夏休みが始まったというのに、ロンドンでははしかが流行し、弟のピーターが感染してしまったのだ。そのため、ロンドンの北にある叔父さんの家に滞在することになった。その町でもはしかの小規模な感染があり、トムは外にでることができ…

イタロ・カルヴィーノ「マルコヴァルドさんの四季」(岩波少年文庫) 読者の隣人であるマルコヴァルドさんの運の悪さに憐憫を感じながら、笑いのあとに背筋の寒くなる思いをする。

マルコヴァルドさんは都会に住む人夫(倉庫勤務の工員だ)。奥さんと4人の子供が狭苦しい家に住んでいる。彼が得意なのは街中に自然の息吹を見つけることだが、それに感心するひとはいない。自分や他人のために良かれと思って行ったことは、たいてい失敗する…

アントワーヌ・サン=テグジェベリ「星の王子」(岩波少年文庫) 「星の王子」は高度3000-5000mくらいを時速200-300kmで高速移動する場所で考える「人間」。憂い顔の王子は他人とコミュニケートできない。

自分はサン=テグジェベリの良い読者ではなくて、久しぶりの再読でもこの童話には感心できなかった。 この人は飛行士であって、黎明期(1920−30年代)の夜間飛行を行うくらいの冒険野郎だった。当時のこととて、レーダーはないし、航空管制もないし、地図も満…

江戸川乱歩「鉄塔の怪人/海底の魔術師」(講談社文庫) 鉄塔王国はこの国の急激な工業化・電化に対する恐怖のシンボル。少年は機械の奴隷である工場労働者になることにおびえる

戦後になってから書かれた少年向けの明智探偵冒険譚。 鉄塔の怪人 ・・・ 白髪の老人がのぞきめがねを見せた。奇怪な鉄塔とカブトムシ。その翌日から、荻窪(周囲に民家のない閑静地)に住む高橋家に奇怪な事件が起こる。一千万円を鉄塔王国に寄付せよ、さも…

江戸川乱歩「怪人二十面相」(講談社文庫) 永遠に決着がつくことがない明智小五郎と小林少年と怪人二十面相の嫉妬の三角関係がここから始まる。

1980年までに小学校を卒業した人には、江戸川乱歩の児童読物の読書体験があるみたい。おどろおどろしい表紙に、奇怪な犯罪とその謎解きに魅了されたのかな。自分はあいにく江戸川乱歩体験をもっていないので(かわりに戦記ノンフィクションとファンタジーを…

新美南吉「牛をつないだ椿の木」(角川文庫) 弱いものが強いものの憐憫や同情に感謝するよう要請される童話。豪傑君(中江兆民「三酔人経綸問答」)が書いたらこうなる。

新美南吉は1913年に生まれた。成績優秀で東京外語大を卒業したが軍事教練に出なかったので、中学教員になれなかった。小学教員をしながら創作童話を発表。結核を病んでいて、1943年に29歳で病没。生前は2冊の童話集しか出版されなかった。戦後友人の手で著作…

小川未明「童話集」(旺文社文庫) 自然主義から国策童話までふり幅が広くて、評価が定まらない童話作家。

たぶん鈴木三重吉といっしょにこの国の童話の基礎を作った人。1882年に生まれて、小説家として1904年ころから作品を発表。しだいに童話に移行して、1925年からは童話作家を宣言。1961年の死去までたくさんの作品(600編ともいわれる)を書いた。 なるほどか…

アーサー・ランサム「ツバメ号とアマゾン号」(岩波書店)  親が見えないように監視する子供たちの夏季休暇。イギリス上流階級向け児童文学のテーマはいかに子供が紳士(ジェントルマン)と淑女(レディ)になるか。

小学5年生のときに読み、中学を卒業するまで繰り返し読んだ。そのあとずっと品切れ状態。ようやく少年文庫で出始めたのがうれしい。今回は1990年代の世界児童文学集の29巻を読んだ。 ウォーカー家の兄弟姉妹4人は夏休みで、たぶんスコットランドの田舎に行く…

佐藤紅緑「ああ玉杯に花うけて/少年讃歌」(講談社文庫) 貧困層の少年は家族愛と自己修養に励んで共同体への友誼と感謝をもとう。1920年代のナショナリズム喚起児童文学。

青木千三(チビ公)は、ちびの豆腐屋。小学校までは首席を通すほどの秀才であったが、父が政治に入れ込み財産を失ったところで亡くなったために、家を売り、叔父の豆腐屋で手伝いをしなければならない。当時の義務教育は6年間だったので、小学校卒で仕事につ…