odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ロバート・キャパ「ちょっとピンぼけ」(文春文庫) キャパはハンガリーのユダヤ人。パリに亡命して戦場写真家になり、インドシナ半島の戦争で41歳で亡くなる。

文春文庫ででていて、新訳に変わった。でも自分が読み直したのは、筑摩書房の世界ノンフィクションシリーズ。1960年代に出版されたもので、第3章が省略されているとのこと。文庫版より写真が多いような気がする(文庫版処分済のため比較できず)。 「今朝か…

マハトマ・ガーンディー「真の独立への道」(岩波文庫) ガーンディが本格的にインド解放、独立の運動を開始する直前、帰国途中の船中で書いた本。闘争のマニフェスト?反近代の思想書?

ガーンディが本格的にインド解放、独立の運動を開始する直前、帰国途中の船中で書いた本。1909年の作で、当時40歳。 国民会議とその指導者たち ・・・ 国民会議は1885年創設の独立および自治をめざす組織と思える。1909年には、ある種の若者はこの穏健な組織…

阿波根昌鴻「米軍と農民」(岩波新書)

伊江島は沖縄本島の北部から西にある島。明治維新後、零泊した武家が移住し、開墾がはじめられた。土地が貧しいので、多くの人を食わせることができず、多くの若者が島を出て働きにでかける。著者・阿波根さんはとりあえず1903年生まれということになってい…

阿波根昌鴻「命こそ宝」(岩波新書)

前著「米軍と農民」は1973年で記述が終わっている。こちらは1973年から1992年までの記録。 大きな変化は1973年の沖縄「本土復帰」(本土からみた「沖縄返還」というのはどうも実情を正しく反映しているとは思えないなあ。では本土復帰がよいかというとこれも…

野坂昭如「国家非武装、されど我愛するもののために戦わん」(光文社)

著者は昭和5年(1930年)生まれ。この場合、元号表示のほうがよい。神戸の貿易商に関連する家で育った。小田実のいう「ええとこのボンさん」だった。近眼で兵隊になれないので、軍国少年として率先して奉仕する。昭和20年の神戸空襲で、家族と家をなくし、終…

開高健「渚から来るもの」(角川文庫) 東南アジアの架空の国アゴネシアを舞台にした「ベトナム戦記」の小説版。

もとは1966年1月から10か月間朝日ジャーナルに連載された小説。ずっと単行本化されなかったので、1970年代に新潮社が出した「全仕事」には収録されていない。単行本になったのは1980年で、1983年に文庫化。 東南アジアの架空の国アゴネシア。1940年までフラ…

開高健「歩く影たち」(新潮文庫) ベトナム戦争体験の小説化。ノンフィクションやエッセイの切実さはここにはない。

兵士の報酬 ・・・ ベトナムのCゾーンで大隊ほぼ全滅の戦いから生還した日本人記者の3日間の休暇。アメリカの曹長と食い、飲み、買う。休暇が終えていないのに、曹長は戦場に戻るという。「渚から来るもの」の終わったところから始まるノヴェル。ストーリー…

岡村昭彦「南ヴェトナム戦争従軍記」(岩波新書) 戦争当事国がメディア管理をしていない時代にフリーライターが潜入ルポした。現代戦争のリアルを伝える。

1962-64にかけての南ヴェトナムの従軍記。1960年にベトナム解放戦線が作られ、ゲリラ戦が始まる。ゴ・ディン・ジエム大統領は直ちに対抗。この政府をアメリカが支援し、軍事顧問を派遣する。ゴ・ディン・ジエム大統領が独身のカソリック教徒で、極めて質素な…

モルデジャイ・ロシュワルト「レベル・セブン」(サンリオSF文庫)

1959年作。 主人公の軍人「ぼく」に突然、召喚命令が下る。命令受領と同時に、地下施設に行けというのだ。身の回りのものはもちだせず、別れの挨拶もできない。関係者には失踪扱いされたということになっている。すなわち、彼は全面核戦争に対処する最終対応…

米国技術評価局「米ソ核戦争が起こったら」(岩波現代選書) 1980年代にでた核戦争被害のシナリオ。アメリカ主導のレポートの内容は悲惨だが、甘く見積もりすぎ。

1980年代の初頭には、東西国家間の核戦争が起こるかもしれないという危機感があった。1975年にベトナム戦争が終了したこと、1973年の第一次石油危機を西側諸国がどうにか乗り越えたことなど、1970年代はデタントの進んだ時期だった。それが1980年代になると…

ポール・ポースト「戦争の経済学」(バジリコ) 感情やイデオロギーをカッコにいれて数値と要素に分解された「科学」的な議論をしよう。

「憲法9条改正?自衛隊を正規軍に?でもその前に一度、冷静になって考えてみよう。戦争は経済的にみてペイするものなのか?ミクロ・マクロの初歩的な経済理論を使って、現実に起きた戦争―第一次世界大戦から、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争まで―の収支を…

片岡義男「ぼくはプレスリーが大好き」(角川文庫) アメリカの20世紀ポピュラー音楽の歴史と現代(1971年)における意義。白人の若者は窮屈で退屈に反感し、黒人の若者は低賃金労働と差別に抗って歌を作る。

ずいぶん長い間品切れ状態。1970年に請われて書いた文章をまとめて、1971年に出版。のちに角川文庫に入ったが、彼の小説のブームがとりあえず終わった1990年代にはもうこれだけは書店で見つからなかった。自分はどこかの古本屋で2000年ころに買ったらしい。 …

中島健蔵「昭和時代」(岩波新書)

1903年生まれ、1979年没。戦前の肩書きは東京帝国大学文学部フランス文学講師にでもなるのだろうが、この人は文学者というよりも、人を集める組織者、運動の理事や幹事を引き受けるオルガナイザー、政治・文学・芸術などの評論家と見ることがおおい。もうひ…

中島健蔵「証言・現代音楽の歩み」(講談社文庫) 敗戦後から高度成長期にかけて日本の現代音楽を聴いた人の貴重な証言。

「昭和時代」岩波新書がかかれたのは1957年で敗戦まで。こちらは1977年で、1974年くらいまでのことを書いている。 これによると、著者の活動は、文学・音楽・政治の3つの分野にあるという。そのうち、音楽に関する証言がここに書かれている。なぜ、証言かと…

堀内敬三「音楽五十年史 上」(講談社学術文庫) 幕末1850年ころから1890年代日清戦争あたりまでの洋楽受容の歴史。助っ人ガイジンを読んでチームの強化を図る。

昭和17年刊行(!)の洋楽受容史。この種の歴史を記述した本は少ない(と思う)ので非常に貴重。とりわけ、明治初頭のころはこの本以外で読んだことはない。なので、クラシック音楽愛好家には必携なのだが、ずっと品切れ中。 乱暴にいえば、この国と洋楽のか…

堀内敬三「音楽五十年史 下」(講談社学術文庫) 明治の終わりから昭和の始めにかけての洋楽受容の歴史。合唱運動とSPレコードで愛好家とディレッタントが生まれ、国家が教育する。

2012/08/09 堀内敬三「音楽五十年史 上」(講談社学術文庫) 続いて明治の終わりから昭和の始めにかけて。ここになると、洋楽の普及めざましく、出来事はいっぱい。なので記述も総花的になるがしかたない。 ・日清戦争から日露戦争にかけてのトピックは、軍…

芥川也寸志「音楽の旅」(旺文社文庫) 「父」を「龍之介」と呼ぶ作曲家の軽妙な語り口の自伝。でもこの人はしゃべりのほうがおもしろかった。

「父・龍之介の書斎でストラビンスキーを聞き入った幼少の思い出から、現在の作曲家・指揮者の生活までを語る自伝抄「歌の旅」、人びととの出会いや外国旅行記を含む「出会ったこと忘れ得ぬこと」、音楽教育への直言「私の音楽教育論」などを収録。すべての…

大町陽一郎「楽譜の余白にちょっと」(新潮文庫) 初めてウィーン国立歌劇場でオペラを指揮した日本人指揮者。巨匠時代のエピソードがクラオタにささる。

著者は1931年生まれ。戦後芸大に入学。同期が岩城宏之や山本直純、大賀則雄。すぐにウィーンの音楽大学指揮科に入学。同期にはズービン・メータがいた。先生はスワロフスキーになるのかな。また同じころにヴィオラの土屋邦雄も留学中(のちに日本人初のベル…

武満徹/小澤征爾「音楽」(新潮文庫) リヒャルト・シュトラウス「英雄の生涯」第4部「英雄の業績」の1。世界に追いつき、追い越せたとき、その先のヴィジョンがない昭和一桁世代の典型。

1979年から1980年にかけての3回の対談を収録。このとき、武満徹50歳(1930年生まれ)、小澤征爾45歳(1935年生まれ)ともっとも精力的に活動していた時期。ふたりとも、かつて(20代前半)は徹夜でいろいろ話をしたことがあるけど、この頃は忙しくてねえと嘆…

小澤征爾「ボクの音楽武者修行」(新潮文庫) リヒャルト・シュトラウス「英雄の生涯」第1部英雄。アジア人がスクーターに乗ってヨーロッパに乗り込む。

著者が26歳のときに発表。この若々しさやういういしさというのはまぶしいし、西洋に対する不安やおののき、それを凌駕しようという自信と努力、こういうのは戦前生まれの人(著者は昭和10年、1935年の生まれ)によくみられるものだ。とりあえずこの本で明か…