odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

読書

桑原武夫「文学入門」(岩波新書) 抑圧から解放された時代に、海外直輸入の理論で文学の在り方を考える。「人生いかに生くべきか」にこたえる大衆小説に、答えを出せない文学はどう応じるか。

個人的なことから。高校3年の大晦日が初読。もうすぐ共通一次試験なのだが、一日くらいいいだろうと夜の受験勉強をやめて読んだのだった。暖房のない寒い部屋にひとり。 さて本書は1950年の出版。文化生活のために文学を読みましょうという呼びかけとその方…

外山滋比古「思考の整理学」(ちくま文庫) 勉強すること教養を身に着けることの意味や意義がなく、乱雑な構成で使い勝手の悪い仕様のマニュアル本。

元本が出たとき(1983年)は大学生だったから、そのとき読んでいれば感激しただろうな。大学の専門のこと以外に関心興味が深まっていて、どうやれば勉強できるか考えていた時期だったので。そのような若い年からずっと離れて老年に入ってから読むと、いささ…

斉藤孝「読書力」(岩波新書) 21世紀の大学生向けの読書指南。にしては構成も内容も粗雑。

大正教養主義のころから読書術はいろいろ書かれてきたが(三木清「読書と人生」(新潮文庫))、80年もたち、日本人が読書をしなくなると(明治維新のときに外国人は日本人の識字率の高さに驚いたと日本スゴイ系の番組でよく言われるが、21世紀にはそんなこ…

山形浩生「新教養主義宣言」(河出文庫) 21世紀の日本は20世紀後半で蓄積した遺産を食いつぶしていてヤバい。もっと教養を身に着けて生産性を上げようぜ。

ざっとおさらいをすると、教養主義の起源は19世紀ドイツ。それが丸ごと輸入された1920年代からこの国の人口に膾炙。とくに知的エリートである大学生に普及した。そこには多少政治的なかかわりもある。1920年代に社会主義やアナキズム、それに抗するナショナ…

本多勝一「日本語の作文技術」(朝日新聞社) 文章を書くための基本技術を手に入れるためにうってつけの指南書。

文章を書くための基本技術を手に入れるためにうってつけの指南書。ここでは小説家や詩人のような美文をつくることや法律・契約書のような特殊な文章の書き手になることは目的に入れていない。文章を書くことで収入を得るこれらの職業につくには、本人の特殊…

デイヴィッド・ウイングローブ編「最新版SFガイドマップ」(サンリオSF文庫) サイバーパンクより前の1984年の最新を網羅。評論のできは悪いが書誌情報は有益。

1972年のジョン・ガッテニョ「SF小説」(文庫クセジュ)ではSF小説の未来は明るい。それから12年後の1984年にイギリスで出たこの「最新版SFガイドマップ」になるとSFは危機にあるか解体寸前であるような認識に変化している。どういうところが危機かという…

荒俣宏「稀書自慢、紙の極楽」(中央公論社) ビブリオマニアがものとしての本に向けるフェティシズムの狂気と修羅

本を集めるとき、あるいは保管しようとするとき、注目するのは内容や書かれていること。夏目漱石「坊っちゃん」に熱烈な愛着を持ち、座右の書として永久保管を決めたとする。その時に保管する一冊は自分の読んだ本であって、新潮文庫・岩波文庫・角川文庫・…

荒俣宏「別世界通信」(ちくま文庫) イギリス幻想文学の膨大な書肆。西洋哲学と科学の歴史、神秘思想を渉猟する本書の詳細な注解が欲しい。

1977年に初出で、ちくま文庫に収録。まず、サマリーまで紹介されている幻想小説を順にリストアップ。 イギリス幻想文学をほぼ網羅。 マンディアルグ「ロドギュヌ」 トールキン「指輪物語」 E・R・エディスン「ウロボロス」 ラッセル=ホウバン「ボアズ=ヤ…

尾之上浩司編「ホラー・ガイドブック」(角川文庫) 「ホラー」というジャンルがミステリーやSFよりもあいまいな領域にあるのがわかる。日英米作品ばかりなのが残念。

2002年の初出だけど、手にしたのは2013年。懐古的な気分になるのは、ミステリーやSFではこの種のガイドブックはそれこそ江戸川乱歩や筒井康隆のそれに始まって、すでに古い歴史を持っているけど、こと怪談・怪奇小説・ホラーではその種のおおがかりなものは…

レフ・トロツキー「文学と革命 下」(岩波文庫) ロシア革命以前の亡命時代に、主にドイツの雑誌に書いた小文集。生活のための糊口しのぎの文章で教条臭はない。

下巻はロシア革命以前の亡命時代に、主にドイツの雑誌に書いた小文を集めている。1900年前後のドイツには総合雑誌のようなものがたくさんあって、文化の傾向を主導する役割を果たしていた。そういう雑誌に小文を書くことで名を馳せたジャーナリストがいたの…

レフ・トロツキー「文学と革命 上」(岩波文庫) ソ連を追われてからの文芸評論。教条主義を文学に持ち込まない中庸な精神の持ち主。

この本には、ロシア革命以後に書いた文学関係の論文が収められている。トロツキーには、政治煽動家、軍事指導者として名の残っている人なのだが、亡命後には著述家としての一面も持っている。「裏切られた革命」「ロシア革命史」「わが生涯」などの多数の本…

南條竹則「ドリトル先生の英国」(文春新書) ビクトリア朝の英国中産階級の暮らしをみる。植民地支配と先住民差別を指摘していないので、各自補うように。

自分も幼少期の読書でドリトル先生に魅了された。最初は、母親が移動図書館から借りてきた「郵便局」だった。それからしばらくの間にすべて読むことになった(そういう子ども時代に熱中したシリーズには、「ムーミン」と「アマゾン号」がある)。そういう経…

ショウペンハウエル「読書について」(岩波文庫) 熟練した読書家によるニセ学問を見分ける方法

読書指南の上級編。素人が手を出すと、強烈な熱に犯されかねない。 「読書は思索の代用品にすぎない。」 「読書は自分の頭ではなく、他人の頭で考えることである。」 「読書は他人にものを考えてもらうことである。」 「良書を読むための条件は、悪書を読ま…

三木清「読書と人生」(新潮文庫) 大正教養主義時代に「非政治的」という政治的な立場から読書の仕方を考える。

三木清は1897年生まれ(1945年没)。第一高等学校から京都帝国大学に進み、西田幾多郎に師事する。昭和16年にかかれた表題作では、有名人が続出する。京大にいたのは西田幾多郎、波多野精一、田辺元。同世代には戸坂潤、大内兵衛、羽仁五郎、天野禎祐、九鬼…

尾崎俊介「紙表紙の誘惑」(研究社) ものとしての書物へのフェティシズムは表紙絵の探索に向い、戦争が読書好きを生んだことを発見する。

本はたしかにそこに書かれている内容にほとんどすべての価値があると考えることもできるだろう。ビジネス書やハウツー本なんかは目的とする情報を入手し、それを活用し、情報が古くなれば、躊躇なく廃棄することができる。そういう実用的な目的のものばかり…

松岡正剛「遊学 II」(中公文庫) 31歳が世界の思想家・文学者・科学者・芸術家・宗教家など、著者の琴線に触れた142人を描写したエッセイ。

世界の思想家・文学者・科学者・芸術家・宗教家など、著者の琴線に触れた142人を描写したエッセイ。2割の人は作品を読んだか見たかしていて、6割は名前を知っているだけで、2割は始めて知った人。自分の興味にフォーカスを当てると、登場する音楽家は、バ…

梅棹忠夫「知的生産の技術」(岩波新書) カード型データベースソフトを利用した本と感想文の管理の仕方。

一気通貫。 文章を書くためには、本田勝一「日本語の作文技術」とロゲルギスト「理科系の作文技術」があればよい。考え方を鍛えるには別冊宝島「知的トレーニングの技術」があればよい。これらのルーツはこの梅棹の本といってよいだろう。 とはいえ、僕はカ…