odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2014-01-01から1年間の記事一覧

伊東信宏「バルトーク」(中公新書) ドイツの辺境であり、エキゾティズムと差別の対象であるハンガリーの民謡研究家としてのバルトーク。

ハンガリーという場所を現在の国境線で考えるとおかしな認識になりそうだ。第1次大戦の敗戦まではトランシルヴァニアやスロヴァキア、トルコの一部がハンガリーであったし、それ以前となるとまたハンガリーの指すものはあいまいになってくる(オーストリア=…

シェーンベルク/カンディンスキー「出会い」(みすず書房) ユダヤ人芸術家の出会いとすれ違い。カンディンスキーはよく我慢できたなあ。

シェーンベルク1874-1951、カンディンスキー1866-1944。彼らの仕事を紹介するときに、それぞれ互いの名前が出ることはまずない。しかし、この本によると、1910-30年代にかけて彼らは文通をして、深い交友があり、ロシア革命で決裂した。その関係と対立(とい…

シュテファン・シュトンポア「オットー・クレンペラー 指揮者の本懐」(春秋社) 音楽に神秘(ミステリ)を見出さない奇人指揮者は70歳まで不遇、そのあと尊敬されるようになった。

生松敬三「二十世紀思想渉猟」(岩波現代文庫)ではジンメル経由で触れられる指揮者オットー・クレンペラーの証言をこちらで読む。 生涯を略述すると、1885年ドイツ生まれのユダヤ人オットー・クレンペラーは歌劇場の手伝いからキャリアを開始。マーラー、シ…

アルマ・マーラー「グスタフ・マーラー」(中公文庫) 20歳年上の有名人に嫁いだ才媛の回想。どちらにもストレスフルだった不幸な結婚生活。

アルマは画家の娘として1879年に生まれ、1902年にマーラーと結婚。2人の娘を授かったものの一人は死別し、1911年に夫とも死別する。その後はグロピウス、ココシュカその他と華麗な恋愛を繰り返す。1964年にアメリカで死去。この本は、1939年にナチスによるマ…

ド・ラ・グランジェ「グスタフ・マーラー 失われた無限を求めて」(草思社) マーラー-アルマ-グロピウスの三角関係は「トリスタンとイゾルデ」そのもの。

1993年10月に書いた感想文。 - 「グスタフ・マーラー 失われた無限を求めて」を読んでいます。前評判とおりに、とてもinterestedでinterestingな本ですね。未読の本の山を少しでも低くするべく新刊から遠ざかっていたのですが、ひさびさの音楽の本はとても新…

宮田光雄「キリスト教と笑い」(岩波新書) カール・バルトはゲシュタポに捕らえられたとき「塔の中の囚人の歌」を歌った。

1992年5月に書いた感想文。 - 宮田光雄「キリスト教と笑い」(岩波新書)を読んでいたところ、次のような一節をみつけました。今回はカール・バルト(1886〜1968)の話です。 1935年、ヒトラー政権下のドイツで神学者のバルトはヒトラー式敬礼とヒトラーへの…

柴田南雄「グスタフ・マーラー」(岩波新書) マーラーの音楽の特長は歌の復権と、メタミュージックであること。1980年代マーラーブームの記録。

1984年10月に販売されて即座に買い、翌日には読み終わり、そのあと数年間は繰り返し読んで内容をすっかり覚えてしまった。マーラーの作品や生涯のみならず、ここには著者の50年間に経験したこの国のマーラー受容史も書かれていて、録音のない物故者の名前を…

「TAJIRIのプロレス放浪記」(ベースボール・マガジン社) 日米プロレス団体比較。団体所属のサラリーマンと個人事業経営者の集まり、どっちがいい?

昭和の中ごろからプロレスラーは本を書いていた。たいていの場合は、ゴーストライターによる代筆だろう。 プロレスラーが自分で書いていることを宣言したうえで、文章を発表した端緒は、馳浩が安田忠夫のデビュー戦を週刊プロレスでレポートしたとき(いっし…

「TAJIRI ザ ジャパニーズバズソー」(ベースボール・マガジン社) ECWの終焉を伝える貴重なドキュメント“This Is Not For Everyone” “Join The Revolution”

本名田尻義博で、21世紀になってからアメリカのプロレス界でもっとも名の知られた日本人レスラー。20世紀だと、戦前のキラー・シクマから戦後のジャイアント馬場、マサ斎藤、ヒロ・マツダ、キラー・カンなどの成功者を上げることができる(ここでは日系アメ…

前田日明「格闘王への挑戦」(講談社文庫) 格闘少年の「父親」捜し。読みでがあるのは「パワー・オブ・ドリーム」。

1988年に出たので、著者が「第2次UWF」を旗揚げしてしばらくしたところ。翌年がこの団体のピークで、たしか東京ドームで大会を開いたのではなかったかな(U-COSMOS 1989年11月29日。TVで録画放送されたが、なんと旅客機のハイジャック事件が起きて、半分の試…

和田京平「読む全日本プロレス」(MF文庫ダ・ヴィンチ) 観客1万人を年6回集めてもプロレス興行会社は自転車操業。それでもプロレスはやめられない。

ジャイアント馬場の全日本プロレスは1972年に創立された。さまざまなスターレスラーを誕生させ、1999年に社長のジャイアント馬場が亡くなった後、選手とフロントで内紛がおき、分裂した。そのあと新日本プロレスの武藤敬司が社長に就任する。それも2013年に…

スタン・ハンセン「魂のラリアット」(ベースボール・マガジン社) 団体の利益のために全力を投入するが、団体への帰属意識は薄く、自分にふさわしいと思われる報酬は遠慮なく要求する「日本で最も有名な外人プロレスラー」

いうまでもなく、1980−90年代でこの国を主戦場にしたプロレスラーで最も知られ、最も成功した人。名前を書いた途端に、vsアントニオ猪木、vsアンドレ・ザ・ジャイアント、vsジャイアント馬場、vsジャンボ鶴田、vs天龍源一郎、vsハルク・ホーガン、vs四天王(…

ザ・デストロイヤー「マスクを脱いだデストロイヤー」(ベースボール・マガジン社) アメリカとこの国のプロレスの勃興と没落のタイムラグをうまく利用して、最適な場所に自分をおくことができた「世界で最も有名なマスクマン」

本名リチャード・ベイヤー(バイヤーのほうが発音に近いらしいが、この国ではベイヤーでとおっている)、通称ディック・ベイヤー。こちらの名でリングに上がったことがある。われわれにとってはジ・インテリジェント・センセーショナル・デストロイヤーあるい…

和田春樹「歴史としての社会主義」(岩波新書) 1989年の東欧革命、1990年のソ連邦崩壊を受けて、20世紀の社会主義運動と国家成立を概観する。

1989年の東欧革命、1990年のソ連邦崩壊を受けて、20世紀の社会主義運動と国家成立を概観する。記述は19世紀初頭のユートピア社会主義から1990年まで。地域もヨーロッパ、ロシアにとどまらず、東欧・中欧、東アジア、東南アジアと広域にわたる。社会主義の思…

エイゼンシュタイン「映画の弁証法」(角川文庫) 20世紀前半のもっとも偉大な映画監督の一人で、モンタージュ理論の確立者。スターリニズム下の論文や講演を収録。

20世紀前半のもっとも偉大な映画監督の一人で、モンタージュ理論の確立者。彼の映画理論に関する論文や講演などを収録したもの。1953年初版で、自分の持っているのは1989年の第9刷。これも入手しにくくなっていて、たとえばWikipediaのエイゼンシュタインの…

レフ・トロツキー「裏切られた革命」(岩波文庫)-2 トロツキーは自由選挙、複数政党制、経済民主主義を提案する。すべては1917-23年の「革命」時代を取り戻すために。

2014/12/03 レフ・トロツキー「裏切られた革命」(岩波文庫)-1に続けて後半。 7 家庭、青年、文化 ・・・ プロレタリア革命はあらゆる差別(性、職業、民族その他)から解放するはずであった。なるほど蜂起の一瞬には解放のきざしはあったであろう。しかし…

レフ・トロツキー「裏切られた革命」(岩波文庫)-1 1928年国外追放1932年市民権剥奪となったトロツキーが1936年に書いたスターリン時代のソ連批判。

レーニン死後、スターリンとの権力闘争に敗れ、1928年国外追放1932年市民権剥奪となったトロツキーが1936年に書いたスターリン時代のソ連批判。亡命後はイタリアとドイツと日本のファシズムの勃興があり、著者はそれらの帝国主義・排外主義・全体主義などを…

エドワード・H・カー「ロシア革命の考察」(みすず書房) 主張はあいまいだが、計画経済はレッセ・フェールの自由市場経済の不備を克服する優れた仕組みといっているよう。

1950-60年代の講演や書評を並べたもの。大著の「ソヴェト・ロシア史」が進行中で、雑誌に国際関係の論文を多数発表している時期。おりしもソ連は世界第2位のGNPであり、冷戦のさなかで、第三世界に多額の援助を多数行っているものの、国内情勢はほとんど外に…

エドワード・H・カー「ロシア革命」(岩波現代選書) 1917年の帝政崩壊から1929年のスターリン体制確立まで。ソ連があった時代の古い研究書。

「革命」がいつ始まり、いつ終わったかの合意をとることは難しい。この小さな本では、1917年の帝政崩壊から1929年のスターリン体制確立までを扱っている。ほかの人であれば1905年の血の日曜日を開始とするだろうし(トロツキー「裏切られた革命」などがそう…

ジョン・リード「世界をゆるがした十日間 下」(岩波文庫) 10月革命時のボリシェヴィキの暴力はのちの共産党政権の問題を予感させる。

2014/11/27 ジョン・リード「世界をゆるがした十日間 上」(岩波文庫) の続き。 ロシア革命といっても10月革命の「十日間」ですべてが決したわけではない。その前後にも、さまざまな重要な出来事があり、人々が右往左往しながら物事を決めていった。その期間…

ジョン・リード「世界をゆるがした十日間 上」(岩波文庫) 1917年10月のペトログラードにいたアメリカ人ジャーナリストの記録。一次資料が豊富に掲載。

ジョン・リードは1887年生まれのアメリカ人。1917年の2月革命の報を聞き、ロシアに向けて8月に出発。彼はアメリカの社会党員でジャーナリストの実績を持っていたので、ボリシェヴィキに受け入れられる。ここでは、10月革命の現場であるペトログラードにいて…

レーニン「国家と革命」(国民文庫) 抑圧体制を打倒するには、「武装した労働者」が蜂起し、国家の搾取構造に寄生する搾取者を一掃しなければならない、のだそう。

19世紀後半、工業化によって資本主義がヨーロッパを覆う。機械の導入は生産性を向上し、賃金を上げるはずであったが、資本家や経営者は労働者の要求を拒んだ。労働環境は劣悪で病気にかかりやすく、事故が多発する危険な場所である。そのうえ政府は住宅問題…

松田道雄「世界の歴史22 ロシアの革命」(河出文庫) ロシア帝室の政治・経済政策にほとんど触れないロシアの革命家と党派の歴史。

もとは1974年初出で、1990年に文庫化された。著者は小児科医で、育児の本で有名。彼の原作をもとに商業映画もつくられたくらい。一方、ロシア革命の研究家でもあるらしく、いくつか著作があるようだ。このあとがきによると、書き手がほかにいなくてお鉢が回…

ウィリアム・モリス「ユートピアだより」(岩波文庫) 西洋の近代がもたらしたもの(資本主義、貨幣経済、民族国家、科学技術、民主主義など)をすべて廃棄した活動と生活の芸術化、信義と友愛の疑似家族の世界。

188X年、社会主義者の会合で疲れて帰宅した「私」は夢を見た。それは200年後の社会で、共産主義社会が実現していた。その話をぜひ書けとすすめられたので、ここにまとめてみた。というわけで、19世紀の詩人で工芸家ウィリアム・モリスの構想したユートピアが…

ジュール・ヴァレース「パリ・コミューン」(中央公論社)-2 1871年普仏戦争の敗北とパリコミューンの記録。出来が悪いので好事家向け。

2014/11/19 ジュール・ヴァレース「パリ・コミューン」(中央公論社)-1 後半の150ページが1871年の「パリ・コミューン」のドキュメント。小説を見る前に、このできごとをまとめておこう。 遡ると1789年のフランス革命まで行ってしまうが、そこまで行くのは…

ジュール・ヴァレース「パリ・コミューン」(中央公論社)-1 不格好な生き方をしたジャーナリスト。DVを受けたので、親と学校は嫌い。

そういえば19世紀後半のフランスを知らないなあ、大仏次郎の「パリ燃ゆ」も読んでいねえなあ、ということでタイトル買いした一冊。1965年初版の中央公論社版「世界の文学」の第25巻。その後、この小説は復刻された様子がないので、読むにはこの本を入手しな…

柄谷行人「マルクス その可能性の中心」(講談社文庫)

タイトルの論文は1974年に雑誌連載。そのあと改訂されて1978年に単行本化。自分の初読の1980年代半ばには「差異」「テキスト」「貨幣と言語」というのは人気のあるタームになっていて珍しくもなかったが、雑誌初出のころを考えると先進性がすさまじい。なに…

吉本隆明「マルクス」(光文社文庫) 「経哲草稿」から見るマルクスの可能性。国家が幻想であるように「労働者」「資本家」も社会的な実在ではない。

1964年に出版されたものを2006年に文庫化。著者は1924年生まれなので、40歳のときのものか。 マルクス紀行1964 ・・・ マルクスの思想は、3つのカテゴリがあってそれぞれが連関している。ひとつは、現実的なものとしての<自然>哲学。エピクロスから始まる…

カール・マルクス「ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日」(岩波文庫) 代表するもの(党)は代表されるものの関係は固定的ではなく、代表されるものは代表するものを見捨てて扇動政治家を選んだ

1848年2月のフランス革命から51年12月のルイ・ナポレオンのクーデターまでをレポート。この時代、マルクスはパリの現場を見ているわけではない(4月上旬にケルンに移動。翌年のドレスドン蜂起のあとプロイセン政府の追放令がでて、フランスにもドイツにもベ…

マリオ・バルガス=リョサ「継母礼賛」(中公文庫) 行為そのものの快楽ではなくて、現実の関係や妄想の中から浮かびあがる官能性。

実業家リゴベルトは先妻をなくし、後妻ルクレシアをめとう。リゴベルトは尻の大きなルクレシアを女神のように崇拝し、ほとんど儀式のように愛撫する。家には先妻の息子アルフォンソ(フォンチート)がいて、継母ルクレシアの周囲をつきまとう。彼女の入浴を…