odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

岡倉覚三「茶の本」(岩波文庫) 茶道(や日本の精神)を説明するのに欧米の思想やことばを使わなければならないのが物悲しい。

著者が1906年に英語で書いた。没後の1929年に村岡博が翻訳して岩波文庫に入り今に至る。勝手に背景を考えれば、日露戦争の「勝利」によって欧米で日本への注目が集まった。軍事的には注目されるが、経済と文化ではほぼ存在感のない国の文化を紹介する目的が…

新渡戸稲造「武士道」(ハルキ文庫) キリスト者が妄想した架空の武士道は、皇国イデオロギーを補完する。「武士道」は日本人の非道の言い訳と、国内の住民の統制に使われた

新渡戸稲造は、1862年生まれで、物心ついたときには明治政府が樹立していた。東京女子大学の総長になったり、国際連盟の事務局次長のひとりになったり、ユネスコのもとになる機関の設立に尽力したりの活動を行う。1932年は軍部批判を発表してさまざまな圧力…

加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-1 教科書の図式的な説明を止め、同時代の文書を読み直してなぜ国と国民は戦争を選んできたのかを明らかにする。

井上勝生「幕末・維新」(岩波新書)で1840-70年ころまでの日本をみてきた。このときに攘夷運動に基づく帝国主義国家が成立した、というのが自分の見立て。その後、この国はほぼ10年おきに対外戦争を繰り返した。兵員と軍事費の増加は国の経済を成長するおお…

加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-2 日露戦争とWW1の「勝利」。世界史に登場した日本は挫折し、世界情勢と戦略の見直しを迫られる。

2023/01/27 加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-1 2009年の続き 日本の「国防」思想は、恐らく孝明天皇の攘夷と焦土を辞さない戦争の意志から始まる。外国からの危機が迫っているという恐怖がもとにあるのだ。なので、政策は彼ら…

加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-3 昭和の戦争。列強は植民地支配を不効率なので止めようとするが、日本だけは安全保障戦略に固執して直接統治の植民地を持とうとする。

2023/01/27 加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-1 2009年2023/01/26 加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-2 2009年の続き 20世紀前半の朝鮮と満蒙をめぐる国際関係が奇々怪々なのは、同盟と敵の関係が…

金原左門「昭和への胎動 昭和の歴史1」(小学館文庫)-1 昭和の歴史を振り返る1980年代の企画。第1巻は昭和の前の1918-1925年。日本は形式的には法治主義だが、皇国イデオロギーで動いているので、列強の要求が不当であるとしか見えない。

昭和の歴史を振り返る1980年代の企画。第1巻は昭和の前の1918-1925年。今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-1今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-2 「改造」の時代 ・・・ WW1の終了後。西洋の貿易が止まったので、…

金原左門「昭和への胎動 昭和の歴史1」(小学館文庫)-2 WW1後の不況と関東大震災と過大な軍事費の日本の経済発展を妨げる。

2023/01/23 金原左門「昭和への胎動 昭和の歴史1」(小学館文庫)-1 1988年の続き 大きなトピックは関東大震災。日本の流れをかえた。 関東大震災と天譴(てんけん)論 ・・・ 1922年9月1日の関東大震災と朝鮮人虐殺はリンク先を参照。社会主義者のリンチ虐…

中村政則「昭和の恐慌 昭和の歴史2」(小学館文庫)-1 1927年から1931年にかけての時代。テーマは大不況・軍縮・金解禁。右翼や右派宗教の大衆運動が世論形成に大きく働いた

1927年から1931年にかけての時代。テーマは大不況・軍縮・金解禁。不況に対して国債発行で乗り切ろうとしたが、赤字財政が増大することを恐れ公債発行を漸減しようとする。これが軍事費削減になる軍部が反発する。 昭和の開幕~はじめに~ ・・・ 大正天皇の…

中村政則「昭和の恐慌 昭和の歴史2」(小学館文庫)-2 日本の金解禁とアメリカのニューディールを比較。満州事変からの戦争状態が日本をファシズムを伸長する。

2023/01/19 中村政則「昭和の恐慌 昭和の歴史2」(小学館文庫)-1 1988年の続き 1920年からの日本の不況をいかにして克服するか。他国の不況対策と比較すると日本の対策の特長はどういうものか。その問いに答えるために、金解禁とアメリカのニューディール…

大江志乃夫「天皇の軍隊 昭和の歴史3」(小学館文庫) 軍隊の中から昭和史を見る。日本の将校団は「世界中で最も専門職業的精神に欠けた主要な軍人集団」。

著者は陸軍士官学校第60期生。最後の士官候補生で敗戦時の肩書もそうだった。なので、知り合いのなかには8/14のクーデターに参加したものがいる。そのような経歴があるためか、本書の記述は軍隊の中から昭和史を見たものになっている。軍事史研究としては重…

江口圭一「十五年戦争の開幕 昭和の歴史4」(小学館文庫)-1 1931年の柳条湖事件から1936年の226事件までの5年間。国民は軍縮を否定し、海外の市場を失って困窮する。

1931年の柳条湖事件から1936年の226事件までの5年間を扱う。1920年代の不況が慢性化し、さまざまな政策が打ち出されるが、はかばかしくない。後付けでいえば、多額の軍事費と植民地経営が負担になっていた。しかし軍を縮小する政府の運動は、軍ととりわけ国…

江口圭一「十五年戦争の開幕 昭和の歴史4」(小学館文庫)-2 農村問題と不況に手をつけず「自己責任」のように放置している議会と政党に国民は愛想をつかし、軍の横暴に目をつぶり支持する。

2023/01/13 江口圭一「十五年戦争の開幕 昭和の歴史4」(小学館文庫)-1 1988年の続き 加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-3を意識して読む。軍は政治的に先走っていく。戦略的な動きをするが、軍の思惑とは別に世界の列強は日…

莫言「赤い高粱」(岩波現代文庫)-1

中国との15年戦争はおもに日本人側の記録を読むことになるのであるが、そうすると被害者がどのような人であり、どのような生活を送り、どのような生涯であったのかがすっぽりと抜けてしまう。兵士や記者、あるいは一旗揚げようといった者たちは中国の生活…

莫言「赤い高粱」(岩波現代文庫)-2

2023/01/10 莫言「赤い高粱」(岩波現代文庫)-1 1987年の続き 第2部 高粱の酒 1939年8月10日の鬼子待ち伏せは凄惨な結果になる。祖父と父だけが生き残り、ほかのパルチザンは全員が死亡した。呆然とする祖父を励まし、村に帰る。 途中で思い出すのは、祖母…