odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

音楽

キャサリン・トムソン「モーツァルトとフリーメーソン」(法政大学出版局) 「魔笛」は「存在の大いなる連鎖」を舞台化していて、ストーリーは首尾一貫している。

すでに手元にないので、30年以上前に読んだときの記憶で書く。今でこそモーツァルトとフリーメーソンの関りはCDの解説にもあるくらいに人口に膾炙している。本書はその嚆矢になった初期の研究(原本の初出は1950年代だったはず)。主にはオペラを対象にして…

パウル・ベッカー「西洋音楽史」(河出文庫)-2 西洋美学を「存在の大いなる連鎖」の派生概念としてみて、音楽史を再構築してみる。

再読した。前回の感想。 odd-hatch.hatenablog.jp もともとのタイトルを直訳すると「形式変遷史として見たる音楽史」(訳者河上徹太郎による)。文中では「人間感受性の変遷の歴史」と説明する。これを「西洋音楽史」としてしまうと、ドイツ音楽が西洋音楽の…

パウル・ベッカー「西洋音楽史」(河出文庫)-3 ロマン主義は英雄・超人の崇拝を経て、スピリチュアリズムに至る。WW1はロマン主義の願望を吹っ飛ばした。

2025/12/25 パウル・ベッカー「西洋音楽史」(河出文庫)-2 西洋美学を「存在の大いなる連鎖」の派生概念としてみて、音楽史を再構築してみる。 1924年の続き ベッカーの方法は、音楽史の記述をドイツ美学の歴史にのっとり、「存在の大いなる連鎖」で説明す…

岡田暁生「西洋音楽史」(中公新書)-2 優秀な学生のレポートを読んでいるようで参考になるのだが、時代や歴史を生きた感じに欠ける。

片山杜秀「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」(文春新書)をものすごい勢いで再読した。2025/07/25 片山杜秀「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」(文春新書)-2 参政権のある市民の社会から根無し草の大衆社会になると音楽も変わる。 2018年 そ…

笠原潔「改訂版 西洋音楽の歴史」(放送大学教材) 本書にでてこない社会学や歴史学などと突き合わせて音楽作品や作曲家をみるほうがよい。

radikoで放送大学が聞けるので、2023年秋から翌年にかけて「西洋音楽の歴史」講座を聞いていた。正式受講を申し込んでいないので、俺はニセ学生。耳できいているだけでは理解が不足するので、古い放送教材(2001年初版、2005年改訂)を購入。上の講義内容と…

高橋浩子/中村孝義編「西洋音楽の歴史」(東京書籍) この教科書で教育されたものが次世代に暗記の苦痛を与えるかと思うと暗涙を禁じ得ない。

笠原潔「改訂版 西洋音楽の歴史」(放送大学教材)に続いて、大学生向けの「西洋音楽の歴史」を読む。こちらは複数の編者が構想をたて、編者以外の研究者に原稿を依頼するというやりかた。中世からルネサンス、バロック、古典派、19世紀市民社会、20世紀とい…

岡田暁生「オペラの運命」(中公新書)-2 ドイツ中心ではない西洋音楽の歴史はオペラを語ることでわかる。

笠原潔「改訂版 西洋音楽の歴史」(放送大学教材)のように、音楽の歴史を表現の形式でみていくと、どうしてもJ.S.バッハ以降はドイツの作曲家に系譜をみることになってしまう。でも、バロック時代以降のヨーロッパでは音楽が作られ聞かれる中心地はイタリア…

西原稔「バロック音楽と国際政治」(講談社学術文庫) 音楽が国際政治に直接かかわっていたのはバロック時代だけ。音楽家は意図的にあるいは無意識に政治的に動く。

16世紀から18世紀の西洋の歴史は把握が難しい。たくさんの参考書があるなかで、成瀬治「近代ヨーロッパへの道」講談社学術文庫の整理はとても便利。すなわち、この時代の大きな出来事はふたつ。ひとつはヨーロッパの中で主権国家ができて、対立と協調のダイ…

磯山雅「J.S.バッハ」(講談社現代新書) バッハは宗教と生活が一体にして、世俗と宗教を切り離せない人。近代の価値観ではバッハをとらえられない。

再読した。前回の感想。 2014/02/21 磯山雅「J.S.バッハ」(講談社現代新書) 今回の再読で気になったのはここ。 「罪」というキリスト教的な語葉には、抵抗を感じられる方もあろう。だが、心のうちに高みや理想を思い描くとき、自分の存在そのものに痛みを…

加藤浩子「バッハ」(平凡社新書) 宗教と生活を一体化していたバッハの音楽は近代以降の価値観では評価しきれない。

バッハを聞きだしたときの導きの糸にしたのは、吉田秀和「LP300選」や皆川達夫「バロック音楽」など。そこには勤勉で努力家が神に奉仕する精神性が高い音楽を作曲した人とあった。真面目に聞いて襟を正すような音楽である。彼らが推薦するのは受難曲とミサ曲…

片山杜秀「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」(文春新書)-2 参政権のある市民の社会から根無し草の大衆社会になると音楽も変わる。

初読の一年後に再読。 odd-hatch.hatenablog.jp テーマは「市民」。俺の理解では「市民citzen」は参政権を持っている人のことをいう。20世紀になってから参政権は成人した男女が平等にもつものとされた。でも、19世紀では政治参加できるのは、男性で、一定以…

片山杜秀「革命と戦争のクラシック音楽史」(NHK出版新書) フランス革命の「自由・平等・友愛」のスローガンは市民と作曲家の大変貌を促す。

同じ著者の「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」は中世からWW1までを一気に通観したが、本書では近世から近代までをみる。その歴史のメルクマールになるのは、フランス革命。この時代を音楽家を通してみるので、フランスやプロシャのような一国内の歴史…

原田光子「クララ・シューマン、真実なる女性」(古典教養文庫) ロベルトと結婚しブラームスと深い親交もった女性。家父長制に耐えた厳しい生涯。

クララ・シューマン(1819~1896)は19世紀ドイツのピアニストで作曲家。それよりも作曲家ロベルト・シューマンと結婚したことで知られている。彼女の波乱の人生。 ・ライプツィヒの音楽教師で楽譜商の家に生まれる。出産後両親は離婚し、クララは父に育てら…

清水多吉「ヴァーグナー家の人々」(中公新書)-2 精神の王国だったバイロイト音楽祭はナチスに簒奪されたあと、大衆化国際化を進める。ディレッタントは消え、スノッブが集まる。

フランクフルト学派の研究者によるヴァーグナー家の歴史。1980年の初出からそろそろ半世紀もたつとなると(俺が買って読んだのは同年11月の三刷り)、いろいろと書き換えなければならないだろう。何より本書はバイロイトのヴァーンフリート館と歌劇場から同…

石川栄作「ジークフリート伝説」(講談社学術文庫) 5世紀から20世紀までのさまざまなジークフリート伝説をそうまとめ。

俺もそうだったが、ワーグナーの音楽にはまることによって、もとになった伝説のあれこれを読み漁ることになる。すると、「トリスタンとイゾルデ」でも「パルジファル」でも無数のバリアントがでてきて、困惑することになる。すなわち、物語は似通っているが…

柴田南雄「グスタフ・マーラー」(岩波新書)-2 マーラーは普遍的な人間の物語として英雄の死と新しい人間の再生を交響曲で描く。

とうにマーラーの没年齢を超えた年齢になった。マーラーの音楽は老年で聞くにはきついものになったが、彼の音楽は気になる。そこで10年ぶりに再読。前回の感想はリンク。 odd-hatch.hatenablog.jp 作曲家で音楽学者である柴田は本書の副題に「現代音楽への…

金聖響「マーラーの交響曲」(講談社現代新書) 音楽への強い一体化を求めながら、パロディ・諧謔・冷笑で突き放す語るにめんどくさい〈現代音楽家〉。

玉木正之(1952年生)が指揮者・金聖響(1970年生)にインタビューして交響曲の魅力を語るという企画第3弾。真打はマーラー。指揮者は神奈川フィルの常任指揮者だったころに、マーラーの作品を積極的に取り上げていたという。 戦前のマーラー演奏を知ってい…

笠原潔「西洋音楽の諸問題」(放送大学教材)-2 マニアには面白いテーマが並ぶが、大学講義となるとトリビアにすぎるのじゃない?

2025/07/23 笠原潔「西洋音楽の諸問題」(放送大学教材)-1 ベートーヴェンの交響曲は性格交響曲。英雄のテーマを完結させるためにくどいほどに繰り返される。 の続き ベートーヴェンの交響曲のことで熱くなりすぎたので、エントリーを分割することにする。 …

岡田暁生「オペラの運命」(中公新書) オペラの成り立つ「場」を共有しない日本ではオペラは熱狂できない「夾雑物」。

オペラはこの国ではなかなか理解がむずかしいところがあって、聴衆にも演奏家にも評論でも、どこか手の届かないいらだたしさを感じていた。交響曲や弦楽四重奏曲やピアノ曲などを主に演奏・鑑賞する教養主義では扱いかねる「夾雑物」みたいなものがあるのだ…

石井宏「反音楽史 さらば、ベートーヴェン」(新潮社)-1 18世紀はイタリア音楽の時代。J.S.バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンは人気がない田舎の音楽家。

「反音楽史」とは面妖な。何に対する「反」であるのか、それとも「反音楽」なるジャンルの歴史であるか。その疑問はすぐに解氷するのであって、すなわち日本の音楽の授業でならう音楽の歴史(J.S.バッハが音楽の父でそのあとハイドン-モーツァルト-ベートー…

石井宏「反音楽史 さらば、ベートーヴェン」(新潮社)-2 19世紀のドイツ教養主義がドイツ中心の音楽美学を作った。各国のインテリが受入れてドイツ音楽至上の考えが普及した。

2023/03/24 石井宏「反音楽史 さらば、ベートーヴェン」(新潮社)-1 2004年の続き 交響曲の由来が書いてある。18世紀、教会や宮廷は楽士(無教養なものの集まり)を雇っていたが、教会や宮廷が休暇に入ると彼らの仕事はない。そこで宗教曲を演奏する催しを…

片山杜秀「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」(文春新書) 発注者・買い手・消費者・観客などのステークホルダーが作曲家と作品を変えていく。

煽情的なタイトルだが、漫然とベートーヴェンを聴くだけでは世界史はわからない。ベートーヴェンが作品を書くに至った背景を知らないと、世界史は見えてこない。ことに彼の作品を価値あるものと認めた「受け取り手」の存在が重要なのだ。すなわち、発注者・…

小沼ますみ「ショパン 失意と孤独の最晩年」(音楽之友社) サンドと別れた後。ショパンが活躍する場所が消え、繊細な演奏技法は継承されなかった。

ショパンの本は以下の二冊しか読んだことがない。2014/02/25 遠山一行「ショパン」(講談社学術文庫)2014/02/24 アルフレッド・コルトオ「ショパン」(新潮文庫) 作者には「ショパン 若き日の肖像」「ショパンとサンド 愛の軌跡」の2冊が先にある。生涯を…

小宮正安「モーツァルトを『造った』男」(講談社現代新書) 批判ばかりのケッヘル番号を作った凡庸なディレッタントの生涯。市民社会が大衆社会になるまで。

ルートヴィヒ・ケッヘル(1800-1877)は19世紀ハプスブルグ帝国の地に生まれる。ルートヴッヒは高等教育を受けたのち、貴族の家庭教師となり、のちに貴族に列せられた。そのために無税になり、年金をうけとることができる。鉱物のコレクションを続けていた(…

樋口裕一「音楽で人は輝く」(集英社新書) ドイツ音楽優位の考えで19世紀音楽の変化を語る。政治や経済、社会思想の影響を考慮していないから各自補完しないといけない。

NHK-FMの片山杜秀「クラシックの迷宮」はクラシック音楽のDJとしてユニーク。エアチェックを繰り返し聞いているが、19世紀フランス音楽の回がおもしろい。ベルリオーズ、グノー、デュカスなどの作曲家特集を聞いてわかるのは、当時のフランス音楽が政治と経…

岡田暁生「音楽の聴き方」(中公新書)

音楽を聴くとその時の感情の動きを誰かに話したくなる。でも、同じ音楽を聴く場にいても、必ずしも同じ感情を共有できるわけではない。同じ音楽を録音で聴いても、同じ感情が再現するわけではない。それでも、音楽を聴いた時の感情や知的関心などは語りたい…

岡田暁生「西洋音楽史」(中公新書)

西洋の音楽の通史を新書200ページ強で説明しようとする野心的な試み。専門家向けには数巻に及ぶような微に入り細を穿つ「音楽史」の叢書があるが、素人が通読するのは困難。そのうえ、「西洋」や「西洋音楽」をどこまで取るかで、範囲は膨大になる。ここでは…

金聖響「ロマン派の交響曲」(講談社現代新書) ベートーヴェンのあとに交響曲を書くことがいかに困難だったか。19世紀の音楽先進国では交響曲は書かれない。

玉木正之(1952年生)が指揮者・金聖響(1970年生)にインタビューして交響曲の魅力を語るという企画第2弾。 指揮者が自分の仕事を語るというのは、朝比奈隆「交響楽の世界」(早稲田出版)や岩城宏之「楽譜の風景」(岩波新書)があるが、ここでは彼らの2…

金聖響「ベートーヴェンの交響曲」(講談社現代新書) 21世紀になって刷新されたベートーヴェン像に基づく解説。指揮者も暴君や巨匠からファシリテーターやプロジェクトマネージャーに変わる。

玉木正之(1952年生)が指揮者・金聖響(1970年生)にインタビューして交響曲の魅力を語るという企画第1弾。 ベートーヴェンの交響曲はクラシック音楽のアルファであり、オメガ。なので、個々の曲ごとに傾聴することにする。以下では気になる言葉をメモした…

芥川也寸志「音楽の基礎」(岩波新書) 西洋古典音楽のスコアを読めるようになるための基礎知識の紹介。

「音楽の基礎」というタイトルで、内容は西洋古典音楽のスコアを読めるようになるための基礎知識の紹介。初版の1971年はニクソンショックやオイルショックの前で、高度経済成長の最後の年。このころにオーディオとピアノのブームがあって、多くの人がこぞっ…