odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

音楽

岡田暁生「オペラの運命」(中公新書) オペラの成り立つ「場」を共有しない日本ではオペラに熱狂できない「夾雑物」。

オペラはこの国ではなかなか理解がむずかしいところがあって、聴衆にも演奏家にも評論でも、どこか手の届かないいらだたしさを感じていた。交響曲や弦楽四重奏曲やピアノ曲などを主に演奏・鑑賞する教養主義では扱いかねる「夾雑物」みたいなものがあるのだ…

石井宏「反音楽史 さらば、ベートーヴェン」(新潮社)-1 18世紀はイタリア音楽の時代。J.S.バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンは人気がない田舎の音楽家。

「反音楽史」とは面妖な。何に対する「反」であるのか、それとも「反音楽」なるジャンルの歴史であるか。その疑問はすぐに解氷するのであって、すなわち日本の音楽の授業でならう音楽の歴史(J.S.バッハが音楽の父でそのあとハイドン-モーツァルト-ベートー…

石井宏「反音楽史 さらば、ベートーヴェン」(新潮社)-2 19世紀のドイツ教養主義がドイツ中心の音楽美学を作った。各国のインテリが受入れてドイツ音楽至上の考えが普及した。

2023/03/24 石井宏「反音楽史 さらば、ベートーヴェン」(新潮社)-1 2004年の続き 交響曲の由来が書いてある。18世紀、教会や宮廷は楽士(無教養なものの集まり)を雇っていたが、教会や宮廷が休暇に入ると彼らの仕事はない。そこで宗教曲を演奏する催しを…

片山杜秀「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」(文春新書) 発注者・買い手・消費者・観客などのステークホルダーが作曲家と作品を変えていく。

煽情的なタイトルだが、漫然とベートーヴェンを聴くだけでは世界史はわからない。ベートーヴェンが作品を書くに至った背景を知らないと、世界史は見えてこない。ことに彼の作品を価値あるものと認めた「受け取り手」の存在が重要なのだ。すなわち、発注者・…

小沼ますみ「ショパン 失意と孤独の最晩年」(音楽之友社) サンドと別れた後。ショパンが活躍する場所が消え、繊細な演奏技法は継承されなかった。

ショパンの本は以下の二冊しか読んだことがない。2014/02/25 遠山一行「ショパン」(講談社学術文庫)2014/02/24 アルフレッド・コルトオ「ショパン」(新潮文庫) 作者には「ショパン 若き日の肖像」「ショパンとサンド 愛の軌跡」の2冊が先にある。生涯を…

小宮正安「モーツァルトを『造った』男」(講談社現代新書) 批判ばかりのケッヘル番号を作った凡庸なディレッタントの生涯。市民社会が大衆社会になるまで。

ルートヴィヒ・ケッヘル(1800-1877)は19世紀ハプスブルグ帝国の地に生まれる。ルートヴッヒは高等教育を受けたのち、貴族の家庭教師となり、のちに貴族に列せられた。そのために無税になり、年金をうけとることができる。鉱物のコレクションを続けていた(…

樋口裕一「音楽で人は輝く」(集英社新書) ドイツ音楽優位の考えで19世紀音楽の変化を語る。政治や経済、社会思想の影響を考慮していないから各自補完しないといけない。

NHK-FMの片山杜秀「クラシックの迷宮」はクラシック音楽のDJとしてユニーク。エアチェックを繰り返し聞いているが、19世紀フランス音楽の回がおもしろい。ベルリオーズ、グノー、デュカスなどの作曲家特集を聞いてわかるのは、当時のフランス音楽が政治と経…

岡田暁生「音楽の聴き方」(中公新書)

音楽を聴くとその時の感情の動きを誰かに話したくなる。でも、同じ音楽を聴く場にいても、必ずしも同じ感情を共有できるわけではない。同じ音楽を録音で聴いても、同じ感情が再現するわけではない。それでも、音楽を聴いた時の感情や知的関心などは語りたい…

岡田暁生「西洋音楽史」(中公新書)

西洋の音楽の通史を新書200ページ強で説明しようとする野心的な試み。専門家向けには数巻に及ぶような微に入り細を穿つ「音楽史」の叢書があるが、素人が通読するのは困難。そのうえ、「西洋」や「西洋音楽」をどこまで取るかで、範囲は膨大になる。ここでは…

金聖響「ロマン派の交響曲」(講談社現代新書) ベートーヴェンのあとに交響曲を書くことがいかに困難だったか。19世紀の音楽先進国では交響曲は書かれない。

玉木正之(1952年生)が指揮者・金聖響(1970年生)にインタビューして交響曲の魅力を語るという企画第2弾。 指揮者が自分の仕事を語るというのは、朝比奈隆「交響楽の世界」(早稲田出版)や岩城宏之「楽譜の風景」(岩波新書)があるが、ここでは彼らの2…

金聖響「ベートーヴェンの交響曲」(講談社現代新書) 21世紀になって刷新されたベートーヴェン像に基づく解説。指揮者も暴君や巨匠からファシリテーターやプロジェクトマネージャーに変わる。

玉木正之(1952年生)が指揮者・金聖響(1970年生)にインタビューして交響曲の魅力を語るという企画第1弾。 ベートーヴェンの交響曲はクラシック音楽のアルファであり、オメガ。なので、個々の曲ごとに傾聴することにする。以下では気になる言葉をメモした…

芥川也寸志「音楽の基礎」(岩波新書) 西洋古典音楽のスコアを読めるようになるための基礎知識の紹介。

「音楽の基礎」というタイトルで、内容は西洋古典音楽のスコアを読めるようになるための基礎知識の紹介。初版の1971年はニクソンショックやオイルショックの前で、高度経済成長の最後の年。このころにオーディオとピアノのブームがあって、多くの人がこぞっ…

T・G・ゲオルギアーデス「音楽と言語」(講談社学術文庫)-1 西洋古典音楽のミサ曲の歴史。中世以来の音楽と言語の研究はパレストリーナとラッススで完成。

ゲオルギアーデス(1907〜1977)はギリシャ出身のドイツ音楽学者。本にもネットにも情報がほとんどない。 テオドール・アドルノ「ベートーヴェン 音楽の哲学」(作品社)にゲオルギアーデスの名前が出ていたので、高名な学者であったらしい。 この本で、音楽…

T・G・ゲオルギアーデス「音楽と言語」(講談社学術文庫)-2 教会の機能と社会的な役割が変わり市民社会・資本主義が定着して以降は教会音楽が世俗化する。

2017/04/18 T・G・ゲオルギアーデス「音楽と言語」(講談社学術文庫)-1 1954年の続き。 12 音楽的現実の諸段階 ・・・ ルネサンス(パレストリーナ)、バロック(J.S.バッハ)、ウィーン古典派(ロココ)のの特長と発展史を図式的にまとめる。パレストリー…

田村和紀夫「交響曲入門」(講談社選書メチエ) 古典派交響曲の主題は劇の主人公であり、交響曲は全体として人間を表現している。音楽の形式化とそれからの逸脱を探求する交響曲の二世紀。

クラシック音楽を聴くようになったのは20歳に近くなってからだから、聞きとおすことに困難があったのをよく覚えている。友人と酒を飲みながら、ブラームスの交響曲全4曲をいっきに聞いた。友人が「ここすごいだろ」といっても、初めて聞く音楽だったので、…

ルートヴィッヒ・ベートーヴェン「音楽ノート」(岩波文庫) 「苦悩する天才」像でまとめられているが、ユーモア好きで小言ばかりの人間臭いところも散見。

ベートーヴェンは、当時の人と同じく手紙をたくさん出していて、それだけで一冊の本になるくらいの量になる。それとは別に、手帳や楽譜などの書き込みなどがたくさん残っている。というのも、耳疾疾患のために難聴になり、晩年は筆談になった。そこに書いて…

アラン「音楽家訪問」(岩波文庫) ベートーヴェンのヴァイオリンソナタをサンプルにして調性の形而上学を語る。

パリの郊外でもあるような一軒家に住むミッシェルのところに、「わたし(アラン)」は16歳のピアニストであるクリスチーヌとともに赴く。ミッシェルはピアノの調律をすると、ヴァイオリンを手にし、クリスチーヌとベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを順…

テオドール・アドルノ「ベートーヴェン 音楽の哲学」(作品社) 「ベートーヴェンに関する哲学的仕事」のための断片集。素人にはアドルノの論を抽出・再構築するのは無理だった。

編者解説によると、アドルノには「ベートーヴェンに関する哲学的仕事」をまとめる構想があったらしい。大量のメモが書かれた。いくつかは短い文章になったものがあり、「美の理論」「楽興の時」などに収録された。それらは「哲学的仕事」を網羅するまでに至…

グロウヴ「フランツ シュウベルト」(岩波文庫)グロウヴ「フランツ シュウベルト」(岩波文庫) 1881年に出版されたたぶんシューベルトの評伝としては最初期のもの

フランツ・シューベルトは1797年生1827年没、享年31歳。ほぼ全分野(協奏曲がないくらい)にわたって作曲した。生前はほとんど売れず、貧困のうちに死亡。極端な内気(ベートーヴェンに二度会うも一言も口をきけず)もあるけど、チビ(5フィートちょっと)…

浅井香織「音楽の〈現代〉が始まったとき」(中公新書) 1848~1871年の第二帝政時代フランスの音楽事情。王宮、貴族の占有・ブルジョアの簒奪から大衆と労働者の消費へ。

フランスの音楽史を作曲や作品からみると、19世紀は妙に空白なのだ。18世紀には、ジル、カンプラから始まってラモー、リュリ、クープランなどの名が綺羅星のように現れるのに、19世紀ではベルリオーズとショパンを除くといきなり、サン=サーンス、フランク、…

エドゥアルド・ハンスリック「音楽美論」(岩波文庫)

本書の議論にはいるまえに、ヘルムート・プレスナー「ドイツロマン主義とナチズム」(講談社学術文庫)で当時の状況を確認していおこう。図式化すると、ドイツは西洋諸国に比べ遅れていて、民主主義の未成立と宗教の世俗化によって情熱の持っていき場が哲学…

小宮正安「ヨハン・シュトラウス」(中公新書) ハプスブルク帝国はワルツの人気上昇とともに隆盛し、ワルツが飽きられると没落する。

タイトルこそヨハン・シュトラウス(息子)個人であるが、主人公はハプスブルク帝国そのもの。なるほどこの帝国の栄光と没落はこのワルツ音楽の大家に具現しているわけか。 この本の記述にそうと、19世紀のハプスブルク帝国の歴史はこんな感じになる。前の世…

イーアン・ホースブルグ「ヤナーチェク」(泰流社) 60歳を過ぎてからの恋愛が爆発的な創作意欲になった稀有な大器晩成の作曲家

ヤン・ヴェーニグ「プラハ音楽散歩」(晶文社)を読んだときに驚いたのは、チェコスロヴァキア(初出は1960年代)という国が3つの地方に分かれていて、それぞれ反目と友愛によってつながっているということ。すなわち、チェコ・モラヴィア・スロヴァキア。…

間宮芳生「現代音楽の冒険」(岩波新書) 昭和一桁生まれの音楽家は西洋へのあこがれはあっても、東洋のコンプレックスはなかった。

1929年生まれの作曲家。この本は1990年に岩波新書ででた。おおよそ自身の半生の振り返りと、時代ごとの音楽状況のまとめ、それに触発された自身の思考と作品を述べる。 親が中学校の音楽教師で、子供のころから自発的にピアノを弾き、作曲を行い、SPを聞いて…

小倉朗「現代音楽を語る」(岩波新書) 大正生まれの作曲家は戦時の洋楽禁止のために「保守的」な作風と音楽観になった。

この本が出たのは1970年。 15年戦争の後半、西洋の文化財を輸入しなくなってから、この国には西洋の情報が入らなくなった。それが敗戦のあと、アメリカ経由で情報が大量に入ってくる。レコードや楽譜や演奏家でなのだけれど、どうやらそれらにまして米軍向け…

ウラジミール・ジャンケレヴィッチ「音楽と筆舌に尽くせないもの」(国文社) 音楽は言葉という不変・普遍な記号に移そうとするととたんに逃げ出してしまう。それを語ることに成功した数少ない例。

たんに「言葉に言い表しがたい」というのではなく、「筆舌に尽くせない」というので、そこには積極的な評価があることになる。しかし、言葉という不変・普遍な記号に移そうとするととたんに逃げ出してしまうのであって、ひとところに捉えておくことができな…

大森壮蔵+坂本龍一「音を視る、時を聴く」(朝日出版社) 厳密に語ろうとするほど、言葉の使い方が常識というか生活から離れていってとまどう。

朝日出版社は、いろいろな学問の著名学者と文筆業者と対談させるというシリーズを1980年代に出していて、たぶん20冊強までいったのではなかったかな。数冊は読みました。その中でも印象的な一冊。版元を変えていまでも入手可能なのはこの一冊くらい。 大森哲…

ロベルト・シューマン「音楽と音楽家」(岩波文庫) 19世紀のドイツの音楽趣味に方向付けをした評論集。

ロベルト・シューマンは1810年生まれで、1856年に若くして亡くなった。彼の作品だと、ピアノソロの曲と歌曲が代表になるのかな。「クライスレリアーナ」とか「幻想曲」、「詩人の恋」あたり。人によっては大規模作品の「楽園とペリ」を推すこともある。自分…

伊東信宏「バルトーク」(中公新書) ドイツの辺境であり、エキゾティズムと差別の対象であるハンガリーの民謡研究家としてのバルトーク。

ハンガリーという場所を現在の国境線で考えるとおかしな認識になりそうだ。第1次大戦の敗戦まではトランシルヴァニアやスロヴァキア、トルコの一部がハンガリーであったし、それ以前となるとまたハンガリーの指すものはあいまいになってくる(オーストリア=…

シェーンベルク/カンディンスキー「出会い」(みすず書房) ユダヤ人芸術家の出会いとすれ違い。カンディンスキーはよく我慢できたなあ。

シェーンベルク1874-1951、カンディンスキー1866-1944。彼らの仕事を紹介するときに、それぞれ互いの名前が出ることはまずない。しかし、この本によると、1910-30年代にかけて彼らは文通をして、深い交友があり、ロシア革命で決裂した。その関係と対立(とい…