odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2018-01-01から1年間の記事一覧

柄谷行人 INDEX

2018/12/25 柄谷行人「意味という病」(講談社学術文庫) 1974年2014/11/18 柄谷行人「マルクス その可能性の中心」(講談社文庫)2018/12/24 柄谷行人「日本近代文学の起源」(講談社文芸文庫)-1 1980年2018/12/21 柄谷行人「日本近代文学の起源」(講談社…

柄谷行人「意味という病」(講談社学術文庫)

1974年刊行の第一評論集。著者30代前半の1972-73年に書かれたもの。たしか、初出時にはあまり注目を浴びず、80年代になって「構造と力」がベストセラーになってから注目されるようになった、と記憶。 マクベス論――意味に懸かれた人間 ・・・ ギリシャ悲劇と…

柄谷行人「日本近代文学の起源」(講談社文芸文庫)-1

初出は1980年。版を変えて何度か出た後、 「四年前に小社から「定本 柄谷行人集」が刊行されるに際して,著者は旧著を全面的に見直し,『定本 日本近代文学の起源』を完成させたのです.非常に多くの加筆がなされ,旧著とは一新された内容になっているのです…

柄谷行人「日本近代文学の起源」(講談社文芸文庫)-2

2018/12/24 柄谷行人「日本近代文学の起源」(講談社文芸文庫)-1 1980年の続き この本の方法からするとよくないことだろうが、1860年代の討幕運動、1870年代の維新勢力の内部抗争、1880年代の自由民権運動のあとの明治20年代(おおよそ1890年代)は、政治的…

柄谷行人「隠喩としての建築」(講談社学術文庫)

「日本近代文学の起源」のあと、問題意識が移動?拡散?変化?して、原理的なことを考えるようになった。その考察の途中をまとめたのが冒頭からの「隠喩としての建築」連載。あとがきによると「ゲーデル的問題」であって、所収のほかの文章にもゲーデルは何…

柄谷行人「内省と遡行」(講談社学術文庫)-1

講談社学術文庫には、「内省と遡行」と「言語・数・貨幣」のふたつの論文(および「探求」からの抜粋)が収録されている。それぞれを読むことにする。 内省と遡行 ・・・ 1980年「現代思想」連載。序説: 「ニーチェの戦略は、意識に問いながらそこから身を…

柄谷行人「内省と遡行」(講談社学術文庫)-2「言語・数・貨幣」

続けて「言語・数・貨幣」。この単位というか要素が主題になるのではなくて、これらを摘出する「形式化の徹底」十自己言及的なパラドックスを体系に見出すこと。それによって体系を支える思考を見出し、批判すること。いずれも、「内省と遡行」「隠喩として…

柄谷行人「批評とポスト・モダン」 (福武文庫)

あとがきによると、1977-84年に書いた短文を集めたもの。なるほど、ニューアカデミズムや反核運動やエイズ(この時期に興味を示していたのは早い。マスコミにでるようになったのは80年代後半)、パーソナルコンピューター(PCではない)など、当時のトピック…

柄谷行人「探求 I」(講談社)

雑誌「群像」に1985年1月から翌年6月頃まで連載された論文。同時期の講演集である「言葉と悲劇」は、同じ話題や主題を平易に語っているので、併せて読むとわかりやすい。 とはいえ、ぼんくらな自分にはサマリーなど作れないので、気になったところ、関心を持…

柄谷行人/蓮實重彦「闘争のエチカ」(河出文庫)

1988年にでた対談。著者らは当時40代のなかば。すでに複数冊の単行本を出していて、数年前の「ニューアカ」ブームで名が知れた存在になっていた。そのような二人の対談。 20年前、10年前、今と三回読んだ。まったくわからず圧倒、刺激的な指摘が多数という感…

柄谷行人「言葉と悲劇」(講談社学術文庫)-1

1984年から1987年にかけての講演を収録。「内省と遡行」「隠喩としての建築」を踏まえて「探求」に行くまでの期間にあたり、これらの論文集と内容が重なるところがおおい。聴衆を前にして、彼らを「説得」するように語るので、論文よりもわかりやすいところ…

柄谷行人「言葉と悲劇」(講談社学術文庫)-2

2018/12/10 柄谷行人「言葉と悲劇」(講談社学術文庫)-1 1989年の続き 後半は「探求」の連載時期と重なる。 世界宗教について 1986.11 ・・・ 世界宗教は(外部のないような)世界を開示する宗教。教義は「神を怖れよ」すなわち共同体の神を退け共同体の外…

柄谷行人「探求 II」(講談社)-1

1986年から1988年までの連載をまとめて、1989年に上梓。 固有名をめぐって単独性と特殊性 ・・・ 「単独性と個別性について」@言葉と悲劇参照。 固有名と歴史 ・・・ 単独性は主観や内面のなかには見出されない、むしろ隠蔽する。単独性を意識するとき、固有…

柄谷行人「探求 II」(講談社)-2

2018/12/06 柄谷行人「探求 II」(講談社)-1 1989年の続き あとがきによると、「世界宗教をめぐって」が最初に書かれて、そのあと「超越論的動機をめぐって」、続いて「固有名をめぐって」がかかれたとのこと。なるほど具体から抽象にむかったわけだ。 世界…

柄谷行人「終焉をめぐって」(講談社学術文庫)-1

書かれた時期は「探求 II」の連載に重なる。そこで検討していた固有名や超越論的動機などを文学批評で実行する。二冊をあわせて読むと、この考えになじめるようになるのでは。あいかわらず難解で、自分には要約することすら困難なのだけど。 第一部 固有名を…

柄谷行人「終焉をめぐって」(講談社学術文庫)-2

2018/12/03 柄谷行人「終焉をめぐって」(講談社学術文庫)-1 1990年の続き 続けて具体的な問題を読み取る。 第二部 終駕をめぐって同一性の円環 大江健三郎と三島由紀夫 1988.04 ・・・ 大江の出たばかりの「懐かしい時への手紙」はヘーゲル的構成(自然的…

柄谷行人「ヒューモアとしての唯物論」(講談社学術文庫)-1

英語による講演草稿などを集めた前半と、それまで単行本に収録されていなかった論文を集める。1993年初出。「探求 II」や「戦前の思考」と同じ時期に書かれたもの。そちらを先に読んでいたので、似たような難解な話を繰り返すことになったので、とても散漫な…

柄谷行人「ヒューモアとしての唯物論」(講談社学術文庫)-2

2018/11/29 柄谷行人「ヒューモアとしての唯物論」(講談社学術文庫)-1 1993年の続き 続いて後半。こちらも散漫な読みになったので、サマリーは手抜きです。 ライプニッツ症候群――吉本隆明と西田幾多郎 1988.10 1989.01 ・・・ 吉本隆明と西田幾多郎をライ…

柄谷行人「戦前の思考」(講談社学術文庫)-1

1990年前後の、東西冷戦構造の解体によって、資本主義もナショナリズムも議会制民主主義もむき出しになり、それ自体が問われるようになった。当時は「終わり」が語られたが、むしろなにかの「事前」なのである。なにかとは戦争であり、戦前を反復しないため…

柄谷行人「戦前の思考」(講談社学術文庫)-2

2018/11/26 柄谷行人「戦前の思考」(講談社学術文庫)-1 1994年の続き 1990年ころの状況をみて、そのあとを予測している。四半世紀立って読み直すと、2010年代の不況や極右の台頭などで、予想がいろいろと当たっている。予言者とみるのではなく、このころ台…

柄谷行人「倫理21」(平凡社)-1

1995年以降に行われた複数の講演を再構成したもの。当時のできごとが取り上げられているので、註などで補完しておくこと。 責任や倫理を考えるにあたってカントの読み直しを行う。「批判」三書や「啓蒙について」「永久平和論(邦訳タイトルはさまざま)」を…

柄谷行人「倫理21」(平凡社)-2

本書に書かれる倫理(社会的)は、野間易通「実録・レイシストをしばき隊」(河出書房新社)の「正義」にとても良く似ている。後者の実践の根拠を与えるのが本書であると思えるくらい。ただし後者は賃労働の廃棄とかアソシエーショナリズムの実践とかの本書…

柄谷行人「可能なるコミュニズム」(太田出版)

タイトルの「可能なるコミュニズム」はマルクス「フランスの内乱」1871年から。晩年のマルクスは生産-消費協同組合にコミュニズムの可能性をみていた。その構想はかかれなかった。ここではカントの道徳論(「倫理21@柄谷行人」に詳細説明)から可能性を探…

柄谷行人「NAM原理」(太田出版)

2000年6月、大阪で、NAM(New Associationist Movement)を結成。そのマニフェストにあたる文書。 第一部 NAMの原理 ・・・ 原理は「倫理21」「可能なるコミュニズム」で書かれているので繰り返さない。およそ70ページの「原理」でその大半が歴史の…

柄谷行人「NAM生成」(太田出版)

NAM原理のあと、2000年の夏から秋に行われた講演を収録。 『倫理21と『可能なるコミュニズム』(浅田彰、柄谷行人、坂本龍一、山城むつみ) ・・・ 「カントを通じてマルクスを読み、マルクスを通じてカントを読む」。いくつか抜粋。 「政治化する以上、ど…

柄谷行人「世界共和国へ」(岩波新書)-1

岩波新書が装丁を変えて、数十年ぶりに「赤」にしたときの最初の刊本のひとつだった。2006年に出版されたときに、これはよく売れたのではなかったかな。著者が過去四半世紀かけて書いてきたこと(なかでも、国家・貨幣・交通・倫理・アソシエーションなど)…

柄谷行人「世界共和国へ」(岩波新書)-2

2018/11/13 柄谷行人「世界共和国へ」(岩波新書)-1 2006年の続き ここからは近世の話。事前に「世界の歴史」河出文庫を通読して、世界史を読んでおいたのはよかった。 こうやって資本=国家=ネーションの「ボロメオの環」として世界史を見た方がみとおし…

フレドゥン・キアンプール「幽霊ピアニスト事件」(創元推理文庫)-2 ドイツはロシア革命とナチス体験とグローバル化に翻弄され、失地を挽回しなければならない。

2018/11/08 フレドゥン・キアンプール「幽霊ピアニスト事件」(創元推理文庫)-1 2008年の続き 1949年の物語も同時に語られる。1940年、ポーランド出身の青年(主人公)たちがナチス隆盛期のドイツを逃れて。パリの社交界に入り込む。サロンがまだ残っていて…

フレドゥン・キアンプール「幽霊ピアニスト事件」(創元推理文庫)-1 1949年に死んだ青年が1999年に覚醒。学生寮に潜り込んで、自分の存在理由を徴させうる。

1999年、ある青年がドイツ・ハノーファーのカフェで目覚める。自分は1949年に死んだはずなのに。金は持っているので安心したが、50年で起きたインフレは途方もない。自分のできることであるピアノを弾くと、古めかしいテクニックと解釈(コルトーに似ている…

川村元気「億男」(文春文庫) 生活と労働から解放されたら社会から疎外された孤独な人間に「お金と幸せの答え」は与えられるのか。

図書館勤務の一男君。災厄が訪れる。弟が3000万円の借金を残して失踪したので、肩代わりを引き受ける。夜間のアルバイトをするようになったら、妻と娘が家を出て行ってしまう。でも、宝くじで3億円を当ててしまう。高額当選者が悲惨な人生を送るようになる…