odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

アーシュラ・ル・グィン

ドリス・レッシング「生存者の回想」(サンリオSF文庫) 終末に向かう世界に住む老人は他人に無関心で、世界の向こうを幻視する。

「それ」が起きて世界は破滅に向かっている。イギリス郊外に一人アパートに住む老女「私」は、国や自治体が仕事を放棄し、人々は食料のある田舎に疎開しているのを見守っている。彼女は意思をもってそうしているのではなく、たんに生活や習慣を変えるエネル…

ヴォンダ・マッキンタイア「夢の蛇」(サンリオSF文庫) 「大壊滅」後の地球。人を救う女性治療師は畏怖と差別を同時に受ける。

「脱出を待つ者」と同じころか数百年あと。<中央>はあいかわらずシステムの外の人たちを排除して、科学その他の知識を独占して生存。それ以外の荒地に住む人たちは、小さなコミューンをつくって、地球の中世時代のような自給自足の生活をしている。医療は…

ヴォンダ・マッキンタイア「脱出を待つ者」(サンリオSF文庫) 「大壊滅」後の地球を支配する〈中央〉〈ファミリー〉に属さないはぐれものが宇宙船に乗って脱出しようとする。

過去に大壊滅があって、地上は生存できない環境になっている。そこで、残された人類は地下に洞窟都市をつくっている。<中央>というのがあって、それをいくつかの<ファミリー>が支えている。<中心>は動力源を保有し、いくつかの<ファミリー>が保全事…

ケイト・ウィルヘルム「杜松の時」(サンリオSF文庫) 男性原理とそれで構成された社会は、攻撃的で支配的で破壊的。失意から回復する過程にある女性に近寄る男は鈍感で女性の要求を理解できない。

アメリカでは干ばつが急速に進み、ほとんどの産業が壊滅した(それ以外の地では大雨や寒冷など世界的な異常気象)。国家の支援は用をなさなくなり、人々はパニックになるか、茫然自失しているか。各地で暴動が起き、人々の放浪が始まり、世界に破滅が訪れて…

ケイト・ウィルヘルム「鳥の歌いまは絶え」(サンリオSF文庫) 「大壊滅」後の不妊で縮小する社会をクローン技術で解決しようとする全体主義社会の恐怖。

<大壊滅>が起きて数十年。文明と文化と国家は破壊され、放射能で汚染された土地で、人々は100人くらいの共同体で暮らしている。今では、長雨に洪水で農業生産が激減、都市に残された遺産も収奪され枯渇しようとしている。しかも不妊と死産が起きて、人口も…

ケイト・ウィルヘルム「クルーイストン実験」(サンリオSF文庫) 男性優位社会で抑圧される天才女性科学者のたった一人の反乱。

「アーシュラ・ル・グィン」のタグをつけたのは、彼女とほぼ同時代(1970年代)に、フェミニズムSFを書いたアメリカ作家であるということから。 大手製薬メーカー・プレイザー製薬は、新しい痛みどめの開発を行っている。臨床治験のフェーズの最初の方でよい…

アーシュラ・ル・グィンINDEX

2011/08/31 アーシュラ・ル・グィン「ロカノンの世界」(ハヤカワ文庫) 1966年 2011/09/01 アーシュラ・ル・グィン「辺境の惑星」(ハヤカワ文庫) 1967年 2011/09/02 アーシュラ・ル・グィン「幻影の都市」(ハヤカワ文庫) 1968年 2011/09/03 アーシュラ…

アーシュラ・ル・グィン「コンパス・ローズ」(サンリオSF文庫) 男性よりもディーセンシーな女性は近代社会や権威主義組織の息苦しさや堅苦しさから解放する力になる。

「風の十二方位」に続く短編集は1974-82年に書かれた短編を収録。タイトルの由来は著者によると、 「”風のバラ”、つまり羅針盤(コンパス)が示す四つの方位、東西南北は、いまだだれの口にものぼったことのない五つ目の方位、つまり中心、コンパス面(ロー…

アーシュラ・ル・グィン「オルシニア物語」(ハヤカワ文庫) 東欧のどこかにある国のできごとを書きつづった短編。どこかすっきりした気持ちになるのは挫折や諦念の向こうにある「生」のため。

オルシニアは東欧のどこかにある国。それは数百年の歴史を持っている。そのような架空の国オルシニアのできごとを書きつづった短編。タイトルのあとの年号は、その小説の時間を表している(発表年代ではない、念のため)。 噴水 The Fountains 1960年 ・・・…

アーシュラ・ル・グィン「風の十二方位」(ハヤカワ文庫)「帝国よりも大きくゆるやかに」「オメラスから歩み去る人々」 ドストエフスキーの主題による変奏。

作者の1961年のデビューから1974年までの短編を収録したもの。これに「オルシニア国物語」を加えると、初期のほぼすべての短編を読むことができる。70年代後半−80年代の短編は「コンパス・ローズ」で読める。 タイトルの「風の十二方位 The Wind's Twelve Qu…

アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-3 貨幣経済と資本主義の民族主義国家は格差を生み、女性を抑圧する。強い自由主義はどちらの社会にも幻滅する。

2014/04/02 アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-1 1974年 2014/04/03 アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-2 1974年 そこで、シェヴェックはウラスに政治亡命する。アナレスの独立から170年たって最初の政治亡命者。そ…

アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-2 社会主義のユートピアは官僚主義と教条主義が蔓延して停滞し、科学や芸術の自発的運動をする個人を抑圧する。

2014/04/02 アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-1 1974年 貧困において平等になり、国家と家族と労働と貨幣を廃絶するオドー主義が徹底された社会。それは近代から構想されてきた社会主義のユートピアを実現した、と一応いえるだろう。し…

アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-1 貧困において平等になり、国家と家族と労働と貨幣を廃絶するオドー主義が徹底された社会。

テラから11光年離れた二重惑星アナレスとウラス。ウラスは水を多く持つ生物にあふれた惑星で、人類に似た知的生命が開発している。アナレスは砂漠ばかりの荒れた惑星で、170年前にウラスの入植者が開拓をしたばかり。アナレスの入植には因縁がある。ウラスで…

アーシュラ・ル・グィン「世界の合言葉は森」(ハヤカワ文庫) 「男の人の弱いというか危なかっしい点は、虚栄心が強いこと。女には中心がある。女は中心そのものなの。」

1970年代に書かれた中編2作品を収録。「アオサギの眼」は「女の千年王国」サンリオSF文庫にも収録されたとのこと。 世界の合言葉は森 The Word for World Is Forest 1972 ・・・ 地球人が銀河系に進出し、植民地惑星を開拓している時代。ニュータヒチと名付…

アーシュラ・ル・グィン「天のろくろ」(サンリオSF文庫) 世界を創造管理している超越的な存在に直接つながる男が見た夢。世界をよりよくしたいという個人の野望は全体主義的になってしまう。

タイトルの「天のろくろ」は、まあ運命みたいな、あるいは世界を創造管理している超越的な存在のいいかな。解説によると、作者はこのことば(「The Lathe of Heaven」)を荘子に見つけた(第二十三)というが、あいにく英訳した訳者の誤訳であるとこのこと。…

アーシュラ・ル・グィン「闇の左手」(ハヤカワ文庫) ファンタジーの文体、人物を一掃して、優れた「文学」として屹立した。力押しで他者排除をする男の論理を批判するほかの性の倫理。

「〔ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞〕両性具有人の惑星、雪と氷に閉ざされたゲセンとの外交関係を結ぶべく派遣されたゲンリー・アイは、理解を絶する住民の心理、風俗、習慣等様々な困難にぶつかる。やがて彼は奇怪な陰謀の渦中へと……エキゾチックで豊かなイ…

アーシュラ・ル・グィン「辺境の惑星」(ハヤカワ文庫) 歴史や文化、民族というか生まれも異なる異質なものたちの間のコミュニケーションの可能性を探る。異端者のロマンスは孤独。

「長老ソブの館を取り巻く森のはずれに見知らぬ青年が現われた。自分についての記憶をすっかり失くしている。館の住人たちは猫のような不思議な目から黄色を意味するフォークと名づけ5年のあいだ庇護するが、記憶は戻らぬままだった。ゾブは彼の正体に頭を悩…

アーシュラ・ル・グィン「幻影の都市」(ハヤカワ文庫) 未来のオッデュセイアは旅で得た知識や真実を持ち帰ることはできない。故郷に帰ることが幸福なのかもわからない。

「五千日も続く冬の到来を前に、竜座の第三惑星では大混乱が生じていた。原住種族ヒルフのなかでも蛮族として知られるガールが、他部族の食糧を略奪しに北から移動してこようとしていたのだ。この惑星に移住して、何世代もたつ異星人ファーボーンは、ガール…

アーシュラ・ル・グィン「ロカノンの世界」(ハヤカワ文庫) 惑星に取り残された中年男の聖杯探索物語。調査する相手は教育や啓発する相手であるのかという深刻な懐疑が生まれる。

「全世界連盟から派遣されたフォーマルハウト第2惑星調査隊は、隊長のロカノンを残して全滅した。この惑星にひそむ連盟への反逆者が、調査隊を襲ったのだ。なんとかこの事実を母星に知らせようとするロカノンだったが、通信装置を破壊されてしまっていた。使…