odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

日本文学_エンタメ推理小説

山本周五郎「寝ぼけ署長」(新潮文庫)

発表は、各短篇にあるように戦後すぐだが、舞台は戦前。wikiによると内務省時代の官職などがでるという。 五年の在任中、署でも官舎でもぐうぐう寝てばかり。転任が決るや、別れを悲しんで留任を求める市民が押し寄せ大騒ぎ。罪を憎んで人を憎まず、“寝ぼけ…

間羊太郎「ミステリ百科事典」(現代教養文庫)

1963年から雑誌「宝石」に連載されたエッセイ。当時は江戸川乱歩が編集長だった時代(の最後)。連載途中で、出版社が変わった。文庫になったのは1981年。 内容は乱歩の類別トリック集成をもとにして、トピック別に実例を挙げていくというもの。目次を引用す…

福永武彦/中村真一郎/丸谷才一「深夜の散歩」(講談社、創元推理文庫)

いくつかの本の情報を拾ってつないでみると、戦後の探偵小説史はこうなるか。1938年ころに洋書の輸入が禁止され、1941年以降に紙の配給体制が行われて、娯楽雑誌はほぼ廃刊。探偵小説の執筆は禁止され、捕り物帳かスパイ小説くらいしか発表できない。そのと…

日影丈吉「ミステリー食事学」(現代教養文庫)

1972年から74年までミステリー・マガジンに連載したエッセイを1974年に単行本化。そのあと1981年に現代教養文庫で再刊。読んだのはこれ。あいにく現代教養文庫は廃刊になってひさしく、ほかで再刊された様子もないので、入手は難しそう。 本書のはしばしから…

小泉喜美子「殺人はお好き?」(宝島社文庫)

1962年羽田空港。 「アメリカ人私立探偵のロガートはかつての上司の依頼で来日した。上司の妻ユキコが麻薬密売に関係しているらしいというのだ。だがロガートがユキコの尾行を始めた途端、彼女は誘拐されてしまう。ロガートも襲われ、現場には新聞記者の死体…

天藤真「遠きに目ありて」(創元推理文庫)

1976年に雑誌「幻影城」に連載。翌年、単行本で出版(1981年に改訂)。探偵は信一少年。脳性マヒをもっていて、自立運動ができるのは右手の一部。たまたま知り合った現職の刑事が少年に魅了され、毎日のように通う。事件の話を聞いた少年の慧眼が事件を解決…

貫井徳郎「プリズム」(創元推理文庫)

小学校の若い女性教師が自宅で死体で発見される。睡眠薬を飲まされ(ホワイトデーのお返しのチョコレートに混入)、思いアンティークの時計が凶器だった。部屋の窓はガラス切りで開けられていて、複数の人物が事件の前後に侵入したらしい。とりあえずの容疑…

二階堂黎人「名探偵の肖像」(講談社文庫)

1993年発売直後に「聖アウスラ修道院の惨劇」を読んだのだが、エーコ「薔薇の名前」を表層だけなぞると、こんなにうすっぺらになるかと怒って投げ捨て、ずっと読んでいなかった。それから四半世紀をへての再会。 ルパンの慈善 ・・・ ルパン物のパスティーシ…

森谷明子「千年の黙(しじま)」(創元推理文

この国の奈良から平安の王朝を舞台にするのがサブカルで行われるようになったのは、大和和紀「あさきゆめみし」や山岸凉子「日出処の天子」の1980年代初めのころであったか。この森谷明子「千年の黙」2003年は上にあげた漫画に触発されているのではないか、…

東川篤哉「館島」(創元推理文庫)

サマリーを書くのも面倒なので、版元の紹介文を使用。 「天才建築家・十文字和臣の突然の死から半年が過ぎ、未亡人の意向により死の舞台となった異形の別荘に再び事件関係者が集められたとき、新たに連続殺人が勃発する。嵐が警察の到着を阻むなか、館に滞在…

恩田陸「木漏れ日に泳ぐ魚」(文春文庫)

サマリーを書くのも面倒なので、出版社のものを引用。 舞台は、アパートの一室。登場人物は、一組の男女。あの男の最期の姿、子供の頃の思い出——夜を徹して語り合ううち、共有する過去の風景に違和感が混じり始める。2人の会話のみで展開する濃密な心理戦、…

柳広司「はじまりの島」(創元推理文庫)

一時期進化論の本をある程度読んだので、ダーウィンは気難しく偏屈で陰気な人物というイメージを持っている。なので、本書にでてくる20代前半のダーウィンの快活さや他者への配慮、なにより活動的な社交性には違和感があった。でも最終章で、引きこもりにな…

柳広司「吾輩はシャーロック・ホームズである」(角川文庫)

夏目漱石はロンドン留学中に「猛烈の神経衰弱」にかかり、友人・知人はとても心配していた。その時、夏目は心理療法として通俗文学を読みふけり、おりからの流行小説である「シャーローク・ホームズ」譚に入れ込んだ。日常のふるまいから言葉使いまでホーム…

柳広司「キング&クイーン」(講談社文庫)

版元の紹介文はざつなので、amazonのものを利用。 「「巨大な敵に狙われている」。元警視庁SPの冬木安奈は、チェスの世界王者アンディ・ウォーカーの護衛依頼を受けた。謎めいた任務に就いた安奈を次々と奇妙な「事故」が襲う。アンディを狙うのは一体誰なの…

周木律「五覚堂の殺人」(講談社文庫)

「堂」シリーズの第3作という。これを最初に読んだので、背景がよくわからない。たぶん沼四郎なる建築家がたてた奇妙な建物で独立した殺人事件がおきる。事件がおきると、善知鳥神(うとうかみ)という女性が十和田只人(ただひと)というエルデシュ(ポール…

湊かなえ「ユートピア」(集英社文庫)

都会の人たちが田舎暮らしにあこがれる。その町のはずれには、芸術家が集まる一角があって、創作と販売の活動を行っていた。街の人々も緩く支援している。でも、何ごとかを起こすと波風がたつ。それも、かつて殺人事件が起こり、その犯人のひとりが逃亡して…

湊かなえ「ポイズンドーター・ホーリーマザー」(光文社文庫)

事件に巻き込まれたり、事件の当事者を知っている女性のナラティブ。 マイディアレスト ・・・ 妊婦殺害事件の調査聞き取りの記録。父の存在が薄く、独占欲の強い母にネグレクトされ、勘気の強い妹にバカにされている、空想癖のある女性。疎外が強まるにつれ…

柳広司「虎と月」(文春文庫)

中島敦「山月記」には後日談があった! 李徴が虎になったと袁(えん)さんが報告してから10年後、李徴の息子は疑う。失踪当時4歳で詳細は理解できなかったが、母が、世間がそのようにいう。父が虎になったというなら、自分もいずれ虎になるのではないか。事…

北村薫「ニッポン硬貨の謎」(創元推理文庫)

副題は「エラリー・クイーン最後の事件」(2005年初出)。 1977年に日本の出版社がエラリー・クイーンを招待した。そのときのことをのちにクイーンは小説にする。ただ一編だけ未訳だったのが発見されたので、「北村薫」が邦訳することになった。この設定がミ…

深水黎一郎「最後のトリック」(河出文庫)

「読者が犯人」というアイデアは昔からあって、この国の作でも自分が収集した中では2例ある・・・と書こうともくろんでいたら、作中でちゃんと紹介されていた。それくらいに、著者はきちんと探偵小説の歴史と作例に造詣が深い。なまはんかな知識で読んでい…

山田正紀「僧正の積木唄」(文春文庫)

193*年。長年の不況と日本による中国侵略戦争は、アメリカに反日感情を強くもたらした。ドイツやイタリアのファシズムに影響を受けてファシスト政党ができるなど、排外主義と人種や民族の差別が多くの人をとらえる。彼らの不満(失業や低賃金、貧困、セイフ…

岡嶋二人「そして扉が閉ざされた」(講談社文庫)

4人が目覚めたとき、閉ざされた部屋にいた。この半年ほど疎遠になっていた4人は、トイレの壁に貼られた事故写真と「お前らが殺した」という赤い文字に戦慄する。閉じ込められたのは地下の核シェルター(市販の核シェルターがブームになったのは1950年代と1…

赤川次郎「マリオネットの罠」(文春文庫)

1977年初出の、著者の実質的第一長編。 フランス留学から帰ってきた研究生が、指導教授の紹介で別荘地にある大邸宅でフランス語の家庭教師をすることになる。そこに住むのは20代後半と30代前半の姉妹と運転手、家政婦のみ。最近飛行機事故で亡くなった美術商…

小峰元「アルキメデスは手を汚さない」(講談社文庫)

1973年初出で、当時の高校生がよく読んでいた(と記憶)。「ソクラテスの弁明」を読めと倫理社会(当時)の教師に言われて、この作者の「ソクラテス最後の弁明」を買ってしまったという笑い話があったと思う。 さて、高校生が主人公格のミステリはこの時代に…

中町信「天啓の殺意」(創元推理文庫)

ある売れない推理小説家が犯人当てのリレー小説の企画を売り込みにきた。問題編はできているので、解決編をタレントでもある女性小説家にしてくれという依頼だった。女性小説家は問題編の作者の名を聞いて、眉をしかめたが、承諾した。その第一回に目を通す…

中町信「空白の殺意」(創元推理文庫)

群馬県(読者の物理現実にある県とはちょっと違う)のある高校で、女子生徒が扼殺された。その直後に、同校の女性教師が自殺を遂げる。傍らには謎めいた遺書がある。そして同校の野球部監督が失踪していたが、毒殺されているのが見つかる。調査を進めると、…

中町信「模倣の殺意」(創元推理文庫)

ちょっと酒が入っているので、冒頭は出版社サイトの紹介文を引用することにする。 7月7日午後7時、服毒死を遂げた新進作家、坂井正夫。その死は自殺として処理されるが、親しかった編集者の中田秋子は、彼の部屋で行きあわせた女性の存在が気になり、独自に…

小林泰三「大きな森の小さな密室」(創元推理文庫)

もともとは「モザイク事件帳」のタイトルで出版され、2008年に文庫化される時に冒頭の短編を全体の名前にした。副題のように、ミステリのサブジャンルの趣向を凝らす。 大きな森の小さな密室―犯人当て ・・・ 「会社の書類を届けにきただけなのに。森の奥深…

柳広司「トーキョー・プリズン」(角川文庫)

1946年の東京巣鴨。ニュージーランドの私立探偵が大戦中に日本近海で行方不明になった爆撃機乗りの行方を調査したいと収容所にやってきた。所長のアメリカ人大佐は、自由な行き来を承認するかわりに、収監されているBC級戦犯容疑者の記憶を取り戻せと要求す…

高木彬光「刺青殺人事件」(角川文庫)

明治政府の刺青禁止令によって、負のスティグマになったものの職人気質の江戸っ子と愛好家と学者によって、その命脈は保たれていた。ここに彫安(ほりやす)なる昭和の名人が息子娘の3人に、児雷也(蛙)・綱手姫(蛞蝓)・大蛇丸(蛇)の柄を彫ったのが奇縁…