日本文学_エンタメ推理小説
1949年2月10日、汐留駅の小口貨物受取所で異臭のするトランクが見つかった。警官立ち合いのもとに開封すると、中から藁にまみれた中年男の死体が見つかった。荷札に書かれた受取人と差出人から直ぐに事件は解決するかと思われた。しかし、捜査は行き詰まる。…
書肆がややこしい。1957~58年に雑誌連載したときは「りら(ひらがな)荘事件」。出版社を変えて何度か再販されたときに著者の意向とは無関係に「リラ(カタカナ)荘殺人事件」と改題された。さらに1968年の再刊にあわせて著者は改訂した。その結果、タイト…
昭和50年代、青山霊園付近で起きた幼女殺害事件。行きずりの仕業と思えたが、丹念な聞き込みによって、犯人の一人暮らしの初老男性を逮捕することができた。彼は古いマイセルのドイツ人形を大切にしていて、陽にあたることを嫌う不思議な男だった。そのう…
聞いたことのない作家。第8回鮎川哲也賞最終候補作に手を入れて、この文庫版で1998年に出版されたらしい。そのときに作者は25歳だったようで、さまざまな設定は作者の身近からの発想なのだろう。語り手は大学院生で、名探偵は学生。中小企業の社長は高価な輸…
21世紀に「本格ミステリ作家クラブ」が組織され、講談社文庫でいくつかのアンソロジーが編まれた。そのうちの一冊。自分の趣味にはどんぴしゃなので、でている分を追いかけてみよう。これは2007年にでたもの。初出一覧をみると、各短編が書かれたのは2002年…
珍しい職業の探偵。ここで登場するのは「ホペイロ(ポルトガル語とのこと)」。自分はたまたまTV番組で知っていたが、多くの人にはなじみのない職業だろう。プロサッカーチームで、スパイクのメンテを担当する人だ。練習や試合で激しい運動をするので、スパ…
1985年生まれの新人第1作(「処女作」という言葉は使わない)。2017年にでたときSNSで話題になっていたのは知っていた。天邪鬼なので時間がたってから読む。 神紅大学ミステリ愛好会会長であり『名探偵』の明智恭介とその助手、葉村譲は、同じ大学に通うもう…
2013年に20代半ばの作家が出した長編第2作。 夏休み真っ直中の8月4日、風ヶ丘高校新聞部の面々は、取材先の丸美水族館で驚愕のシーンを目撃。サメが飼育員の男性に食いついている! 警察の捜査で浮かんだ容疑者は11人、しかもそれぞれに強固なアリバイが。袴…
2013年に単行本がでて、2019年に文庫化。今回は文庫版で読む。まずは版元の紹介文から。 最近、不思議の国に迷い込んだアリスという少女の夢ばかり見る栗栖川亜理(くりすがわあり)。ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見たある日、亜理の通う…
これはある本に関するミステリーである、と書いた後に困るのは、その本の名前を挙げることができないから。その本自体を読んだことはなくても、どこかに引用されたり通俗化されたりしているので、なんとなくの見当がつく人はいるだろう。ことにキャラの名前…
2025/03/18 小林泰三「クララ殺し」(創元推理文庫) その名を上げるとネタバレになりかねないという本に関するミステリー。 2016年の続き 前作「クララ殺し」を読んだら、すぐあとに本書「ドロシイ殺し」を発見。本はリンクのある別の本を呼び寄せるのです…
将棋も囲碁もチェスも麻雀もやらないが、竹本健治のゲーム三部作と「涙香迷宮」を読んだので、将棋が登場する探偵小説のアンソロジーを読む。ときに棋譜がでてくるが、自分にとっては電車の時刻表とおなじくらいに意味を見出せない図形、記号にしかみえない…
ああ、やられてしまった。そりゃ俺も「カラマーゾフの兄弟」の続編をこんな感じになるのかなと妄想したりしたものだが、もっとすごいのがここにあった。脱帽。 1874年(というのは著者が推定した事件の年代)にロシア帝国を震撼させた「カラマーゾフ家の父殺…
1901年、ロンドンの下宿屋で奇妙な事件が起こる。ある婦人が生き別れの弟を見つけ出し、同居を始めたが弟は変人で奇人になっていた。東洋から持ち帰った仏像や甲冑を室内に入れているが、決して他人に触れさせない。その上部屋の暖炉に火を入れないし、食事…
ちょっとハードな読書をしていたので(ジェイムズ・ジョイスを集中的に読んでいる)、息抜きに「孤島もの」の探偵小説に手を出す。ストーリーは常に一緒で、しかし無数のバリエーションがあるので、気楽に読めるのだ。 犯罪社会学者の火村英生は、友人の有栖…
前回の初読で大感激した。それから14年。もういちど同じ気分を味わおうと、再読した。サマリーは前回の感想を参照。 odd-hatch.hatenablog.jp 幻滅、失望。 理由はふたつある。 ひとつは漱石の小説を全部読み直したこと。その結果、夏目漱石も坊ちゃんもこの…
イタロ・カルヴィーノ「マルコ・ポーロの見えない都市」(河出書房新社)の語り手がヴェネチアの牢に入っていると思いなせえ。そこには身代金を払えずに期限のない収容に退屈しているものらがいる。ある時、最も汚いぼろを着たマルコが不思議な話をする。それ…
ときには、古めかしい謎解きものを読みたいと思って(形式がはっきりしているから読んでいて筋に混乱することがないのだ)、アンソロジーを手にする。2002年初出、2014年文庫化。 金田一耕助のパスティーシュ。都築道夫によると、「名探偵のパスティーシュの…
日本のホームズパロディは1980年までは低調だったが、その後急速に増えた。一度1980年代に河出文庫でアンソロジーをつくったときは2巻でほぼ全作を網羅できたが、その後多数でてきたので2010年に再度編み直した。本書の続巻「2」も出ている。とのこと(編者…
ふいに世界に投げ入れらた女性がいる。見知らぬ部屋、見知らぬ人、なによりも恐ろしいのは鏡に映る顔が見知らぬ人であること。 わたしは誰──? 6月12日の交通事故で記憶を失った千尋。思い出したのは、一週間後の19日が自分の結婚式ということだけだ。相手は…
著者の第一長編で、1989年にでた。 元警察犬のマサは、蓮見家の一員となり、長女で探偵事務所調査員・加代ちゃんのお供役の用心犬を務めている。ある晩、高校野球界のスーパースター・諸岡克彦が殺害された。その遺体を発見した加代ちゃん、克彦の弟である進…
もしも江戸川コナンや金田一一のような未成年が犯罪捜査にしゃしゃりでて、いろいろとでしゃばってきたら? 勝手に動いて捜査をかく乱するのに、説明はろくすっぽせず、説教するとふてくされていなくなってしまう。ときどき鋭いことを指摘するのは波乱が起き…
登場人物はみな固有名をもっているのに、それが個人を識別する記号にならない。むしろ行動や発話の違いで個人を見分けることになるのだが、その違いもとてもあいまいで誰が誰なのかを区別することができないという不思議な小説空間。でも、そこには解かれる…
1996年に出た著者の第4作。それまでは連作短編集だったが、これは独立した中編二編が収められている。 いちばん初めにあった海 ・・・ ある若い女性がアパートで一人暮らし。周囲の傍若無人な人たちの喧騒で生活のリズムはすっかり狂っている。耐えがたい環…
2006年に出た短編集。ミステリーというよりは「ふしぎ小説@都築道夫」の味わい。 モノレールねこ ・・・ 小学校5年生のサトルのところにふとったものぐさな猫がやってくる。あるとき首輪にメモを挟んでみたら、返事が届いた。そこからタカキとモノレールねこ…
鳥取県の山間部にある紅緑町。ふるくから製鉄をするたたら場があったが、恐らく20世紀初頭に赤朽葉家がドイツから製鉄プラントを輸入して大きな事業にすることに成功した。町の高台に巨大な屋敷をつくり、一族が住まっている。その下には工場の従業員家族が…
これまでフィクションで探偵をしてきたのは、職業探偵か素人のディレッタントだった。そこに警察官が加わり、以後さまざまな職業が探偵になる。シリーズ探偵になるには時間に拘束されないことが大事なので、新聞記者やルポライターが多かったが、ここでは出…
花の都パリへの憧れというと、荷風の「ふらんす物語」に始まり、久生十蘭に金子光晴が集い、笠井潔が駈込むという具合に繰り返し書かれてきた。ここにタイトルの最新作(2014年刊)があり、日本人はどのようにパリを観るのか、そこの興味を持って読むことに…
弁護士事務所が舞台になる探偵小説は久しぶりだなあ。古いのは浜尾四郎や大阪圭吉が書いていたし、昭和では和久俊三などが法曹ものを書いていた。弁護士や検事の出身者が探偵小説作家になることは珍しくはなかった。それが平成以降になると激減。本書は久し…
もしかしたら漱石の「吾輩は猫である」は探偵小説として読めるのではないか、という試み。ときに漱石の原文をそのまま引用(「天璋院様のご祐筆・・・」のくだりなど)したり、原作のシーンを別視点で書き直したりしているので、原本を読んだうえで本書に取…