odd_hatchの読書ノート

エントリーは2800を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2022/10/06

日本文学_エンタメ推理小説

乃南アサ「6月19日の花嫁」(新潮文庫) 記憶喪失者はダンジョンから抜け出せるか

ふいに世界に投げ入れらた女性がいる。見知らぬ部屋、見知らぬ人、なによりも恐ろしいのは鏡に映る顔が見知らぬ人であること。 わたしは誰──? 6月12日の交通事故で記憶を失った千尋。思い出したのは、一週間後の19日が自分の結婚式ということだけだ。相手は…

宮部みゆき「パーフェクト・ブルー」(創元推理文庫)

著者の第一長編で、1989年にでた。 元警察犬のマサは、蓮見家の一員となり、長女で探偵事務所調査員・加代ちゃんのお供役の用心犬を務めている。ある晩、高校野球界のスーパースター・諸岡克彦が殺害された。その遺体を発見した加代ちゃん、克彦の弟である進…

宮部みゆき「龍は眠る」(新潮文庫) 未成年の探偵は犯罪捜査にかかわってよいのか

もしも江戸川コナンや金田一一のような未成年が犯罪捜査にしゃしゃりでて、いろいろとでしゃばってきたら? 勝手に動いて捜査をかく乱するのに、説明はろくすっぽせず、説教するとふてくされていなくなってしまう。ときどき鋭いことを指摘するのは波乱が起き…

加納朋子「掌の中の小鳥」(創元推理文庫) 男の「悪気のない」行為があるから女は「掌の中の小鳥」をいとおしむ

登場人物はみな固有名をもっているのに、それが個人を識別する記号にならない。むしろ行動や発話の違いで個人を見分けることになるのだが、その違いもとてもあいまいで誰が誰なのかを区別することができないという不思議な小説空間。でも、そこには解かれる…

加納朋子「いちばん初めにあった海」(角川文庫) 記憶の曖昧な女性のモノローグは夢野久作「ドグラ・マグラ」の変奏

1996年に出た著者の第4作。それまでは連作短編集だったが、これは独立した中編二編が収められている。 いちばん初めにあった海 ・・・ ある若い女性がアパートで一人暮らし。周囲の傍若無人な人たちの喧騒で生活のリズムはすっかり狂っている。耐えがたい環…

加納朋子「モノレールねこ」(文春文庫) 「大切な人との絆」を大事にしすぎると現状維持がよいことになってしまう

2006年に出た短編集。ミステリーというよりは「ふしぎ小説@都築道夫」の味わい。 モノレールねこ ・・・ 小学校5年生のサトルのところにふとったものぐさな猫がやってくる。あるとき首輪にメモを挟んでみたら、返事が届いた。そこからタカキとモノレールねこ…

桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」(創元推理文庫)

鳥取県の山間部にある紅緑町。ふるくから製鉄をするたたら場があったが、恐らく20世紀初頭に赤朽葉家がドイツから製鉄プラントを輸入して大きな事業にすることに成功した。町の高台に巨大な屋敷をつくり、一族が住まっている。その下には工場の従業員家族が…

大崎梢「平台がおまちかね」(創元推理文庫)

これまでフィクションで探偵をしてきたのは、職業探偵か素人のディレッタントだった。そこに警察官が加わり、以後さまざまな職業が探偵になる。シリーズ探偵になるには時間に拘束されないことが大事なので、新聞記者やルポライターが多かったが、ここでは出…

三木笙子「クラーク巴里探偵録」(幻冬舎文庫)

花の都パリへの憧れというと、荷風の「ふらんす物語」に始まり、久生十蘭に金子光晴が集い、笠井潔が駈込むという具合に繰り返し書かれてきた。ここにタイトルの最新作(2014年刊)があり、日本人はどのようにパリを観るのか、そこの興味を持って読むことに…

深木章子「猫には推理がよく似合う」(角川文庫)

弁護士事務所が舞台になる探偵小説は久しぶりだなあ。古いのは浜尾四郎や大阪圭吉が書いていたし、昭和では和久俊三などが法曹ものを書いていた。弁護士や検事の出身者が探偵小説作家になることは珍しくはなかった。それが平成以降になると激減。本書は久し…

柳広司「漱石先生の事件簿 猫の巻」(角川文庫)

もしかしたら漱石の「吾輩は猫である」は探偵小説として読めるのではないか、という試み。ときに漱石の原文をそのまま引用(「天璋院様のご祐筆・・・」のくだりなど)したり、原作のシーンを別視点で書き直したりしているので、原本を読んだうえで本書に取…

山本周五郎「寝ぼけ署長」(新潮文庫) 探偵小説にみせかけた「遠山の金さん」。上からの善政は民主主義を弱くする。

発表は、各短篇にあるように戦後すぐだが、舞台は戦前。wikiによると内務省時代の官職などがでるという。 五年の在任中、署でも官舎でもぐうぐう寝てばかり。転任が決るや、別れを悲しんで留任を求める市民が押し寄せ大騒ぎ。罪を憎んで人を憎まず、“寝ぼけ…

間羊太郎「ミステリ百科事典」(現代教養文庫) 昭和20~30年代の国産と翻訳探偵小説のデータベース

1963年から雑誌「宝石」に連載されたエッセイ。当時は江戸川乱歩が編集長だった時代(の最後)。連載途中で、出版社が変わった。文庫になったのは1981年。 内容は乱歩の類別トリック集成をもとにして、トピック別に実例を挙げていくというもの。目次を引用す…

福永武彦/中村真一郎/丸谷才一「深夜の散歩」(講談社、創元推理文庫) 戦中派の知的エリートはいかにミステリーを読んだか

いくつかの本の情報を拾ってつないでみると、戦後の探偵小説史はこうなるか。1938年ころに洋書の輸入が禁止され、1941年以降に紙の配給体制が行われて、娯楽雑誌はほぼ廃刊。探偵小説の執筆は禁止され、捕り物帳かスパイ小説くらいしか発表できない。そのと…

日影丈吉「ミステリー食事学」(現代教養文庫) ミステリー読みのために欧米の食事の基本やマナーを紹介した啓蒙書

1972年から74年までミステリー・マガジンに連載したエッセイを1974年に単行本化。そのあと1981年に現代教養文庫で再刊。読んだのはこれ。あいにく現代教養文庫は廃刊になってひさしく、ほかで再刊された様子もないので、入手は難しそう。 本書のはしばしから…

小泉喜美子「殺人はお好き?」(宝島社文庫)

1962年羽田空港。 「アメリカ人私立探偵のロガートはかつての上司の依頼で来日した。上司の妻ユキコが麻薬密売に関係しているらしいというのだ。だがロガートがユキコの尾行を始めた途端、彼女は誘拐されてしまう。ロガートも襲われ、現場には新聞記者の死体…

天藤真「遠きに目ありて」(創元推理文庫)

1976年に雑誌「幻影城」に連載。翌年、単行本で出版(1981年に改訂)。探偵は信一少年。脳性マヒをもっていて、自立運動ができるのは右手の一部。たまたま知り合った現職の刑事が少年に魅了され、毎日のように通う。事件の話を聞いた少年の慧眼が事件を解決…

貫井徳郎「プリズム」(創元推理文庫)

小学校の若い女性教師が自宅で死体で発見される。睡眠薬を飲まされ(ホワイトデーのお返しのチョコレートに混入)、思いアンティークの時計が凶器だった。部屋の窓はガラス切りで開けられていて、複数の人物が事件の前後に侵入したらしい。とりあえずの容疑…

二階堂黎人「名探偵の肖像」(講談社文庫)

1993年発売直後に「聖アウスラ修道院の惨劇」を読んだのだが、エーコ「薔薇の名前」を表層だけなぞると、こんなにうすっぺらになるかと怒って投げ捨て、ずっと読んでいなかった。それから四半世紀をへての再会。 ルパンの慈善 ・・・ ルパン物のパスティーシ…

森谷明子「千年の黙(しじま)」(創元推理文

この国の奈良から平安の王朝を舞台にするのがサブカルで行われるようになったのは、大和和紀「あさきゆめみし」や山岸凉子「日出処の天子」の1980年代初めのころであったか。この森谷明子「千年の黙」2003年は上にあげた漫画に触発されているのではないか、…

東川篤哉「館島」(創元推理文庫)

サマリーを書くのも面倒なので、版元の紹介文を使用。 「天才建築家・十文字和臣の突然の死から半年が過ぎ、未亡人の意向により死の舞台となった異形の別荘に再び事件関係者が集められたとき、新たに連続殺人が勃発する。嵐が警察の到着を阻むなか、館に滞在…

恩田陸「木漏れ日に泳ぐ魚」(文春文庫)

サマリーを書くのも面倒なので、出版社のものを引用。 舞台は、アパートの一室。登場人物は、一組の男女。あの男の最期の姿、子供の頃の思い出——夜を徹して語り合ううち、共有する過去の風景に違和感が混じり始める。2人の会話のみで展開する濃密な心理戦、…

柳広司「はじまりの島」(創元推理文庫)

一時期進化論の本をある程度読んだので、ダーウィンは気難しく偏屈で陰気な人物というイメージを持っている。なので、本書にでてくる20代前半のダーウィンの快活さや他者への配慮、なにより活動的な社交性には違和感があった。でも最終章で、引きこもりにな…

柳広司「吾輩はシャーロック・ホームズである」(角川文庫)

夏目漱石はロンドン留学中に「猛烈の神経衰弱」にかかり、友人・知人はとても心配していた。その時、夏目は心理療法として通俗文学を読みふけり、おりからの流行小説である「シャーローク・ホームズ」譚に入れ込んだ。日常のふるまいから言葉使いまでホーム…

柳広司「キング&クイーン」(講談社文庫)

版元の紹介文はざつなので、amazonのものを利用。 「「巨大な敵に狙われている」。元警視庁SPの冬木安奈は、チェスの世界王者アンディ・ウォーカーの護衛依頼を受けた。謎めいた任務に就いた安奈を次々と奇妙な「事故」が襲う。アンディを狙うのは一体誰なの…

周木律「五覚堂の殺人」(講談社文庫) ホフスタッター「ゲーデル・エッシャー・バッハ」の完全ミステリー化、かな?

「堂」シリーズの第3作という。これを最初に読んだので、背景がよくわからない。たぶん沼四郎なる建築家がたてた奇妙な建物で独立した殺人事件がおきる。事件がおきると、善知鳥神(うとうかみ)という女性が十和田只人(ただひと)というエルデシュ(ポール…

湊かなえ「ユートピア」(集英社文庫) タイトルは夜郎自大で大げさ。男はうっとうしさと甘えと暴力性をもっていると女からみられている。それは正しい。

都会の人たちが田舎暮らしにあこがれる。その町のはずれには、芸術家が集まる一角があって、創作と販売の活動を行っていた。街の人々も緩く支援している。でも、何ごとかを起こすと波風がたつ。それも、かつて殺人事件が起こり、その犯人のひとりが逃亡して…

湊かなえ「ポイズンドーター・ホーリーマザー」(光文社文庫)

事件に巻き込まれたり、事件の当事者を知っている女性のナラティブ。 マイディアレスト ・・・ 妊婦殺害事件の調査聞き取りの記録。父の存在が薄く、独占欲の強い母にネグレクトされ、勘気の強い妹にバカにされている、空想癖のある女性。疎外が強まるにつれ…

柳広司「虎と月」(文春文庫)

中島敦「山月記」には後日談があった! 李徴が虎になったと袁(えん)さんが報告してから10年後、李徴の息子は疑う。失踪当時4歳で詳細は理解できなかったが、母が、世間がそのようにいう。父が虎になったというなら、自分もいずれ虎になるのではないか。事…

北村薫「ニッポン硬貨の謎」(創元推理文庫)

副題は「エラリー・クイーン最後の事件」(2005年初出)。 1977年に日本の出版社がエラリー・クイーンを招待した。そのときのことをのちにクイーンは小説にする。ただ一編だけ未訳だったのが発見されたので、「北村薫」が邦訳することになった。この設定がミ…