odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

鶴見俊輔「語りつぐ戦後史 I」(思想の科学社) 1967年、リベラル派が戦争体験を語る。第1巻は戦前に就職していた戦前派。

雑誌「思想の科学」が創刊されて20年くらいたつ1967年に、多田道太郎の企画で雑誌に関係の深い人との対談をすることになった。聞き手は鶴見俊輔で、3年ほどで30人以上の対談が集まった。この第1巻では、「思想の科学」創刊に関わったひとたちを集めた。あと民科…

藤本隆志「ウィトゲンシュタイン」(講談社学術文庫) 憂鬱症の持ち主で、癇癪持ちで、潔癖で、奇行の連続の持主が書いたテキストに不意に感動する。

哲学素人の自分が、「論理実証主義」が云々、「言語ゲーム」が云々、「日常言語」が云々をいっても間違いだらけになるので、その種のことは書かない。1970年代の高校倫理の教科書や参考書にはウィトゲンシュタインは載っていなかった。でも1980年代には大学…

書類を楽に並べ替える「基数ソート」法

黒木玄先生のツィートを引用。これは便利だ。 黒木玄 Gen Kuroki on Twitter: "提出物を学籍番号順に並べるときに、紙束の山を10個作るスペースがあるなら基数ソート http://t.co/f5evnpC3 が便利。全学授業の教員控室に行くと大抵の場合誰かが紙束のソート…

生松敬三「二十世紀思想渉猟」(岩波現代文庫) ワイマール文化を起点にした書物と人物にリンクを張って網状集合体にする。

「1920年代ドイツのワイマル文化は短くも閃光のように輝き,今日もその残像は消えない.その瞠目すべき思想・芸術の多産性は,20世紀の問題のほとんどを提起し,「現代思想のるつぼ」となって沸騰した.そこに行き交うさまざまな人間像を具体的なエピソード…

和辻哲郎「風土」(岩波書店) 単純で粗雑だから役に立たない書物だが、それなりに評判になったのは渡航できない時代に旅行番組のように受け取られたのだろう。

高校の春休みに購入したのだが、どういうきっかけだったのか思い出せない。直前に三木清「読書と人生」を購入・読了しているので、この本か国語の教科書に載っている文学史あたりをみて興味をもったのだろう。しかし当時は現象学のことをぜんぜん知らなかった…

マルティン・ハイデッガー「言葉についての対話」(平凡社ライブラリ) 本人と思しき「問う人」が「日本人」と対話する。なにか重要なことが語られているようだがぼんくらな自分にはわかりませんでした。

本人と思しき「問う人」が「日本人」と対話するという形式の本。この「日本人」のモデルは手塚富雄である、九鬼周造である、などなどいろいろ言われている。1920年代のドイツのハイパーインフレ時期には、おおくの学生がドイツに留学し、何人かの学生がハイ…

木田元「現象学」(岩波新書) 実存主義ブームが終わって構造主義が紹介された1960年代の解説書。情報は古くなったがまだ需要があるみたい。

当時(20代前半)、哲学に興味を持ちだして、このような概観書をいろいろ読んだ。この新書もそのひとつだが、なかなか理解できなかった。たぶん別冊宝島の現代思想入門(1984年)をてがかりにして読んだのだろう。 さて、四半世紀振りに読み直して、自分の興…

上田閑照「西田幾多郎」(岩波同時代ライブラリ) 「伝統」「民族」「慣習」「義務」、このあたりを強調する共同体主義には気を付けたほうがよい。

2003年に増補改訂して岩波現代文庫で再販された。自分が読んだのは古いほう。 西田幾多郎の本は高校生のときに「善の研究」岩波文庫を購入したが、旧字旧かなであることもあって挫折。今は新かなに変わっていて、もう少し読みやすくなっているのかな。彼の弟…

西尾幹二「ニーチェ」(ちくま学芸文庫) 生誕から問題作「悲劇の誕生」を書くまでで、実に1000ページになった大部な評伝。

ニーチェという人は、著書は読まれるのであるが、その割りに人生についてはあまり知られていないのではないか。古い映画に「ルー・サロメ」(タイトルはうろ覚え)があって、ドミニク・サンダ演じるルー・サロメが一時期の愛人としてニーチェと同棲しているとこ…

アーサー・クラーク「都市と星」(ハヤカワ文庫) 〈この私〉が永遠にあることの恐怖。意識を保ったまま熱的死を迎えることは幸せか。

19歳のときに読んだはずで、あまりに鮮烈な印象を残しているので、思わず取り上げた。 舞台は、未来の地球(?)。自然は荒廃し、人類はドーム型の都市を作ってこもっている。機械が人生のすべてを管理する世界。安定しているが停滞から退廃に向かおうとして…

高野悦子「二十歳の原点」(新潮文庫)

1971年に出版された。自殺した大学生の日記をあとでまとめたもの。 この年齢になるともう読めないなあ。もともと公開を前提にかかれたものではないので、若い女性の心を覗きをしているみたい。さらに、この年齢のころにある潔癖主義とか理想主義と、その一方…

沢木耕太郎「テロルの決算」(文春文庫) 日本のテロリストの動機は「不気味」。〈私〉がいないノンフィクション。

感想を書く気が重い。この時期(2008年)では、イスラム過激派のテロに重ねて考えることになるだろうし、ドスト氏の「悪霊」に重ねた政治テロの系譜も興味深いし、なにより自分の命を捨てて他数の命を救うために権力者を殺害することの是非(ないし自分の態…

遠藤周作「海と毒薬」(新潮文庫) 日本人エリートの〈凡庸な悪〉が起こした米軍捕虜虐待事件。

「戦争末期の恐るべき出来事――九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化、著者の念頭から絶えて離れることのない問い「日本人とはいかなる人間か」を追究する。解剖に参加した者は単なる異常者だったのか? どんな倫理的真空がこのような残…

峠三吉「原爆詩集」(青木文庫) ここに書かれた事実は、ダンテの想像する地獄よりもさらに陰惨で凶悪で悲惨な世界。目を背けたいが読まなければならない。

たしかにその日に何が起きたのか、その後の世界をどのように生きたのか、町がどのように復興したかは知識として知っている。それでも、その場所にいた人の体験を聞かされるとなると、そのすさまじさに圧倒され、頭を下げることになってしまう。 ここに書かれ…

早乙女勝元「東京大空襲」(岩波新書) 行政が空襲記録をつくらないので、民間が聞き取り調査する。無差別空襲を立案指揮したルメイに日本国は勲章を贈った。

サイパン島などを陥落したのち、アメリカ海軍は空爆の指揮官をルメイ将軍に変えた。その結果、軍事施設をピンポイントで狙う作戦が変更され、無差別爆撃になった。東京への昭和20年1月と2月のテスト空襲で十分な成果を得られると判断したため、3月10日、14日…

荒俣宏「知識人99人の死に方」(角川文庫) そう簡単に老衰で眠るように死ぬというわけにはいかない。長生きであっても、痴呆や老衰で家族の介護が必要になる。うまく死ぬのは難しい。

知名人がどのように亡くなったかをまとめた本としては、山田風太郎の作(「人間臨終図鑑」)のほうが有名だろうか。彼は数歳で亡くなった人から、90歳を越える高齢の人まで1000人近くの事例を集めたのではなかったか。あいにくあまりに大きな本だったので、…

田崎晴明「やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識」(web) 想定されている読み手は中学生。でも、論理と倫理は高度。理解できるようになりましょう。

学習院大学理学部の著者がwebで公開した「本」。まだ出版されてもいない*1。しかも公開されて2日目くらいかな。通常、このblogでは古本ばかりを扱うのだが、今回は取り上げることにする。というのは、福島原子力発電所の事故と放射線漏れについて、たくさん…

山田風太郎「神曲崩壊」(朝日文庫) 地獄めぐりで見た日本の著名人ののたうちまわり。彼らが史実通りに行動するほど読者は哄笑する。

1988年ころに本屋で「人間臨終図鑑」という大部の本を見た。上下2巻で、一歳から90歳くらいまでの有名人の死にざまを書いたもの。国籍、性別、職業に関係なくともあれ有名人であれば、とにかく死にざまを収録しようとするもの。配列の基準は単純に死亡時の年…

レイ・ブラッドベリ「火星の笛吹き」(徳間文庫) 習作時代の短編集。異質なもの同士を組み合わせろ。

ブラッドベリ・ファンの仁賀克雄さんがパルプマガジンから集めた本邦未訳の短編を独自に編んだ。1920年生まれのブラッドベリ雌伏の時代で、片端から書き飛ばしたもの。 火星の足跡1949 ・・・ 火星で二人だけ取り残され、地球に帰るあてもない。あるとき女の…

レイ・ブラッドベリ「ハロウィーンがやって来た」(晶文社) 魔法使いじみた男が祭りの起源を見る冒険に少年たちを誘う。人は自分の一年を他人にあげることができるか。

ハロウィンの朝、12歳のトムは友人7人と連れ立って、もっとも少年らしい少年ピプキン(パンプキンなんだろうな)を迎えに行く。いつもは元気溌剌のピプキンは調子が悪い。後から来るというので、町外れの古めかしい館で肝試しをしようとする。「Trick or tre…

レイ・ブラッドベリ「たんぽぽのお酒」(晶文社) 1928年の特別な夏。事件や冒険は大人や老人に起こり、人格を形成している少年は冷静な観察者になる。

【ロサンゼルス=西島太郎】AP通信によると、米国を代表する作家、レイ・ブラッドベリさんが5日、カリフォルニア州ロサンゼルスで死去した。 91歳だった。死因は明らかにされていない。 1920年イリノイ州生まれ。SF、怪奇、幻想小説など幅広い作…

スーザン・ソンタグ「エイズとその隠喩」(みすず書房) 治癒できない病とされていた時代に、エイズに込められた隠喩と神話は人を殺す。

初版は1989年。日本版は1990年。今から思い返すと「エイズ」の危険性、破滅性が最も喧伝されている時期であった。毎月、エイズ感染者・発症者の推移が発表され、他の国との比較がなされてきた。この本にはアメリカでのエイズによる差別例(退職強制とか配置…

スーザン・ソンタグ「隠喩としての病」(みすず書房) 近代は病気を患者への懲罰とみなし、患者を排除しようとしてきた。

著者は1933年生まれで、1970年代前半にがん治療を行った。その体験から書いたものがこの本。たぶん相当に急いで書かれたものであり、同じ思考の繰り返し、同じ引用の再掲などが頻出する。その意味では整理は不十分であり、とりとめのないものではあるが、こ…

イヴァン・イリッチ「脱病院化社会」(晶文社) 資本主義批判を含んだ医療の社会学。興味深い指摘はあっても、21世紀の現状に合わない。

初出は1972年だったと記憶する。それから35年の時をへて、医療制度の変更が行われたのちとなると、この告発の対象がだれになるのかわからなくなる。当時の疫学その他の研究水準などもあって、主張の裏付けの信ぴょう性にも疑問があり、今回は文章を飛ばしな…

波平恵美子「病と死の文化」(朝日新聞社) 医療人類学がみた日本人の死生観。医療は伝統的な死生観に侵食する。

各論文のキーになるセンテンスを集めた。必ずしも原文とおりではない。ほとんどの論文は1980年代後半に書かれた。 1.日本人と死 ・・・ 日本人は儀式を通じて死を考える。思想的、観念的に死を考えることは少ない。日本人は遺体にこだわるが、死を確認する…

宮田登「神の民俗誌」(岩波新書) ハレとケ、ケガレは大体一年を通じて細かく設定されている。神道はケガレ落としやハレの儀式を執行する宗教。

「人の一生の折り目や自然とのかかわりの中で出会う種種の災厄に対応して、さまざまな神仏が生み出される。産神、山ノ神信仰、厄払いのお参り、さらには合格や商売繁盛の祈願、道祖神の祭り等等。日本人の日常生活の中で生きつづけてきた民俗信仰の多様な姿…

溝口千恵子/三宅玲子「定年前リフォーム」(文春新書) 子供が独立し、二人で老後を過すことになる夫婦を対象にしたリフォーム。資産を持っていないと実現は困難。それより独居老人はどうなる?

バブル経済の破綻によって、建築業界はダメージを受けたのか、現在ある家を作り直すリフォーム番組をたくさん作るようになった。たしかに一軒の家を作るよりは安上がりであり、最近の建築技法を駆使し、多くの建築家のデザインにより新築と見まがうばかりの…