odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2014-04-01から1ヶ月間の記事一覧

江戸川乱歩「うつし世は夢」(講談社文庫) 戦後に書かれた随筆集。戦後創刊された探偵小説雑誌「宝石」の編集に熱心に取り組んでいたころ。

戦後に書かれた随筆を集めたもの。生前には単行本に収録されなくて、没後の全集でまとられた。地方紙、業界紙、雑誌のコラムなどの小さいものがほとんど。まあ、どうしても読まなければならないというものではないですね。研究家、愛好家でないと手に取るこ…

江戸川乱歩「続・幻影城」(光文社文庫) 乱歩は探偵小説の博物学者。大量のカードを作成して収集した個体の分類と体系化をもくろむ。

「続・幻影城」は「幻影城」の3年後、昭和29年の発行。 解説にあるように、「幻影城」は総論で、「続」は各論という趣き。前者は新しい作家や作品の紹介に力を入れて、後者では小説のテクニックや歴史についての話題が多い。注目するのは、こちらには渾身の…

江戸川乱歩「幻影城」(光文社文庫) 乱歩は探偵小説の博物学者。戦中20年のブランクを埋めるために大量の情報を読者に提供する。

探偵小説から見ると、15年戦争の敗戦によって起きたことは、1)戦争動員体制で書けなくなったジャンル小説を書けるようになった、2)弱小出版社が林立し、雑誌がたくさん発行された、3)洋書輸入禁止で読めなかった本が入手できるようになった(その結果、…

レックス・スタウト INDEX

2013/06/27 レックス・スタウト「毒蛇」(ハヤカワ文庫) 2013/06/26 レックス・スタウト「腰抜け連盟」(ハヤカワ文庫) 2013/06/25 レックス・スタウト「ラバー・バンド」(ハヤカワ文庫) 2013/06/24 レックス・スタウト「赤い箱」(ハヤカワ文庫) 2013/…

アーシュラ・ル・グィンINDEX

2011/08/31 アーシュラ・ル・グィン「ロカノンの世界」(ハヤカワ文庫) 1966年 2011/09/01 アーシュラ・ル・グィン「辺境の惑星」(ハヤカワ文庫) 1967年 2011/09/02 アーシュラ・ル・グィン「幻影の都市」(ハヤカワ文庫) 1968年 2011/09/03 アーシュラ…

江戸川乱歩「悪人志願」(光文社文庫) 戦前、戦後すぐの随筆集集成。乱歩の関心分野が網羅。

「悪人志願(昭和4年)」「探偵小説十年(昭和7年)」「幻影の城主(昭和22年)」「乱歩断章(単行本未収録)」の随筆集が入っている。随筆だけで700ページあって、なかなか読むのが大変。よほどの愛好家か研究者でないと、興味が持続しないのではないかなあ…

荒俣宏「稀書自慢、紙の極楽」(中央公論社) ビブリオマニアがものとしての本に向けるフェティシズムの狂気と修羅

本を集めるとき、あるいは保管しようとするとき、注目するのは内容や書かれていること。夏目漱石「坊っちゃん」に熱烈な愛着を持ち、座右の書として永久保管を決めたとする。その時に保管する一冊は自分の読んだ本であって、新潮文庫・岩波文庫・角川文庫・…

荒俣宏「帯をとくフクスケ」(中公文庫) 美術やアートに分類されない絵「図像」を見ることに徹底的にこだわろう。作家性や交換価値は無視!

美術でもアートでもなくて、「画像」を読みましょう、というのが主題。美術やアートだと、(1)作家性がまとわりついて作者の生涯や思想が図を見る楽しみを奪う、(2)交換価値(端的には販売価格だ)が図の価値になってしまい図を見る楽しみを奪う、あた…

E・L・ドクトロウ「ダニエル書」(サンリオSF文庫)-3

2014/04/18 E・L・ドクトロウ「ダニエル書」(サンリオSF文庫)-1 2014/04/21 E・L・ドクトロウ「ダニエル書」(サンリオSF文庫)-2 ダニエルの不安定さは、小説の書き方に表れている。表向きの話は、博士号を取得した25歳の若者が就職先を探してニュー…

E・L・ドクトロウ「ダニエル書」(サンリオSF文庫)-2

2014/04/18 E・L・ドクトロウ「ダニエル書」(サンリオSF文庫)-1 1は息子の話だったが、こちらは父の話。 アイザックソン事件はローゼンバーグ事件を模しているのはあきらか。 ローゼンバーグ事件 - Wikipedia ローゼンバーグの獄中書簡は山田晃訳「愛は…

E・L・ドクトロウ「ダニエル書」(サンリオSF文庫)-1

自分の知り合いだった人に、大正生まれで共産党員の父を持つ昭和30年代生まれの人がいた。都内の高校から大学に進学するにつれ、1970年代のこととして新左翼の運動に共感をもっていく。その結果、家族内では当時の左翼運動を巡る議論が白熱したという。とき…

トマス・ピンチョン「競売ナンバー49の叫び」(サンリオSF文庫) 陰謀論風味の巻き込まれ型サスペンス。趣向や仕掛けをいろいろ解釈できるが全部小説内に書かれていたorz

ある夏の日の午後、エディパ(オイディプスの女性名とのこと)・マース夫人(夫はラティーノのDJ)はカリフォルニア州の不動産業者大立者であるピアス・インヴェラリティ(これもなにかのもじりらしい)の遺言執行人に指名された。かつて付き合ったことがあ…

ジョン・バース「旅路の果て」(白水ブックス) オデュッセイの仮面をかぶれないジェイコブくんは世界を混沌と不浄にすることしかできない。

「ある意味で、ぼく、ジェイコブ・ホーナーだ」で始まるのは、メルヴィル「白鯨」を意識しているのかな。異なるのは、バースの主人公は、強い主張で自分の名を言上げするのではなく、とりあえずの記号の意味しかないということ。読み進むにつれて、この30歳…

ウラジミール・ナボコフ「ナボコフの一ダース」(サンリオSF文庫) ロシア語とフランス語と英語を自在に操る文章の魔術師の短編集。

タイトルは「一ダース」だけど、収録されているのは13編。なんてサービスのよいナボコフさんなんでしょう。ロシア貴族でロシア革命で西洋に亡命。ロシア語とフランス語と英語を自在に操る文章の魔術師。その短編集を読んでみた。 フィアルタの春 1938 ・・・…

ウラジミール・ナボコフ「ベンドシニスター」(サンリオSF文庫) 〈凡庸な悪〉が能力と機能の平等を達成しようとする独裁国家。国家に不要とされたインテリの滑稽な抵抗と悲惨。

ドイツとロシアに隣接としているその架空の国は、パドゥクという独裁者が指導する普通人党が支配している。独裁者の主張は「均等主義(イクォーリズム)」というもので、共産主義は経済の平等の達成を目指したが、ここでは能力と権能についての平等を達成し…

ウラジミール・ナボコフ「賜物 下」(福武文庫) 賜物は、亡命者として資産・家柄・家族・コミュニティを失った作者に与えられた言語と、彼の理想的なパートナーを指す、であっているかな。

2014/04/10 ウラジミール・ナボコフ「賜物 上」(福武文庫) の続き。 1920年代のベルリンにおける亡命ロシア人コミュニティが舞台である、というのは読み進むにつれて、ほのめかしや断片的な情報を組み合わせてわかること。実際には、どの都市のどの時代な…

ウラジミール・ナボコフ「賜物 上」(福武文庫) ロシア革命でドイツに亡命した貴族の息子が詩人で立とうとする。

1917年10月の革命はロシアの貴族に大打撃になる。ケレンスキーの臨時政府にしろ、社会党・共産党の支持団体にしろ、貴族の財産没収を積極的に進めていたから。屋敷は取り上げられ、家財道具他が略奪されたり。そこで多くの貴族はロシアを離れることにしたが…

アーシュラ・ル・グィン「コンパス・ローズ」(サンリオSF文庫) 男性よりもディーセンシーな女性は近代社会や権威主義組織の息苦しさや堅苦しさから解放する力になる。

「風の十二方位」に続く短編集は1974-82年に書かれた短編を収録。タイトルの由来は著者によると、 「”風のバラ”、つまり羅針盤(コンパス)が示す四つの方位、東西南北は、いまだだれの口にものぼったことのない五つ目の方位、つまり中心、コンパス面(ロー…

アーシュラ・ル・グィン「オルシニア物語」(ハヤカワ文庫) 東欧のどこかにある国のできごとを書きつづった短編。どこかすっきりした気持ちになるのは挫折や諦念の向こうにある「生」のため。

オルシニアは東欧のどこかにある国。それは数百年の歴史を持っている。そのような架空の国オルシニアのできごとを書きつづった短編。タイトルのあとの年号は、その小説の時間を表している(発表年代ではない、念のため)。 噴水 The Fountains 1960年 ・・・…

アーシュラ・ル・グィン「風の十二方位」(ハヤカワ文庫)「帝国よりも大きくゆるやかに」「オメラスから歩み去る人々」 ドストエフスキーの主題による変奏。

作者の1961年のデビューから1974年までの短編を収録したもの。これに「オルシニア国物語」を加えると、初期のほぼすべての短編を読むことができる。70年代後半−80年代の短編は「コンパス・ローズ」で読める。 タイトルの「風の十二方位 The Wind's Twelve Qu…

アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-3 貨幣経済と資本主義の民族主義国家は格差を生み、女性を抑圧する。強い自由主義はどちらの社会にも幻滅する。

2014/04/02 アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-1 1974年 2014/04/03 アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-2 1974年 そこで、シェヴェックはウラスに政治亡命する。アナレスの独立から170年たって最初の政治亡命者。そ…

アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-2 社会主義のユートピアは官僚主義と教条主義が蔓延して停滞し、科学や芸術の自発的運動をする個人を抑圧する。

2014/04/02 アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-1 1974年 貧困において平等になり、国家と家族と労働と貨幣を廃絶するオドー主義が徹底された社会。それは近代から構想されてきた社会主義のユートピアを実現した、と一応いえるだろう。し…

アーシュラ・ル・グィン「所有せざる人々」(早川書房)-1 貧困において平等になり、国家と家族と労働と貨幣を廃絶するオドー主義が徹底された社会。

テラから11光年離れた二重惑星アナレスとウラス。ウラスは水を多く持つ生物にあふれた惑星で、人類に似た知的生命が開発している。アナレスは砂漠ばかりの荒れた惑星で、170年前にウラスの入植者が開拓をしたばかり。アナレスの入植には因縁がある。ウラスで…

アーシュラ・ル・グィン「世界の合言葉は森」(ハヤカワ文庫) 「男の人の弱いというか危なかっしい点は、虚栄心が強いこと。女には中心がある。女は中心そのものなの。」

1970年代に書かれた中編2作品を収録。「アオサギの眼」は「女の千年王国」サンリオSF文庫にも収録されたとのこと。 世界の合言葉は森 The Word for World Is Forest 1972 ・・・ 地球人が銀河系に進出し、植民地惑星を開拓している時代。ニュータヒチと名付…