odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

広瀬正

広瀬正「タイムマシンのつくり方」(集英社文庫) 48歳で夭逝した日本SF黎明期の作家。文学の貧困さとミソジニーを克服する時間は作家になかった。

解説の筒井康隆によると、広瀬正は同人誌「宇宙塵」のメンバー。初期作はここに載り、早川書房の目に留まっていくつかを「SFマガジン」に載せた。でも編集長・福島正美のお眼鏡にはかなわず、しばらく沈黙する。1970年の「マイナス・ゼロ」が直木賞になって…

広瀬正「マイナス・ゼロ」(集英社文庫) タイムマシーンテーマで、ハインライン「時の門」への挑戦。もっとも力が入っているのは、昭和7年の東京の風俗描写。

昭和20年5月。電気に詳しい14歳の少年は隣りの家にいるお姉さんにあこがれている。空襲のさなか、少年は偏屈な老人科学者と同居するお姉さんを助けに行くと、老人は倒れメモを残す。お姉さんはどこにもいない。それから18年後の1963年、32歳になった男はメモ…

広瀬正「ツィス」(集英社文庫) ツィス(嬰ハ音、ドのシャープ)の騒音で日本が終末を迎えるまで。

神奈川県C市で突然ツィス(嬰ハ音、ドのシャープ、A=440Hzのときの557Hzの音)が聞こえだした。最初はかすかだった音は次第に大きくなっていった。発見者の精神科医はツィス分析器を作って、町中を計測し、世の中に警告する。騒音がひどくなると、人は精神失…

広瀬正「エロス」(集英社文庫) 老年を迎えた歌手に現れる「もうひとつの過去」。個人は変わらないのに状況がどんどん変わるというのは日本の庶民の現実認識パターン。

昭和46年(1971年)、歌手生活37周年を記念して橘百合子がリサイタルを開くことになった。夕食を終えて自宅に帰る途中、盲目の高齢者と接触事故を起こしてしまう。片桐となのる老人は、橘百合子を名乗る前の赤井ゆり子のころからファンだった、盲目になる前…

広瀬正「鏡の国のアリス」(集英社文庫) 現実に対する「鏡の国」はジェンダー抑圧の強い昭和の男社会。

いつ書かれたか解説には書いていないし、wikiでもはっきりしないが、1970-72年にかけての作品。1972年に作者急逝(享年48歳)ののちに単行本化された。 鏡の国のアリス ・・・ 左利きのテナーサックスプレーヤーが銭湯でくつろいでいたら、女湯…

広瀬正「T型フォード殺人事件」(集英社文庫) モデル製作で生計を立てていた作家のクラシックカー偏愛ぶりがわかる古典的なミステリー。

日本のSFを立ち上げたうちの一人。残念ながら1972年に急逝。享年42歳(だったかな)。存命であれば、小松・星・筒井・光瀬などと並べられたはずの作家、との由。この人の得意な時間パラドックスSFは厚いのでパスすることにし、晩年の表題作を読む。き…