odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

反差別

原田伴彦「被差別部落の歴史」(朝日選書) 移民・外国人がほとんど存在しない江戸時代に作られた差別。明治以降、より悪質な差別が制度化された。

1975年に出版された被差別部落の歴史を概説したもの。以下の本を補完することを目的として読む。組坂繁之/高山文彦「対論 部落問題」(平凡社新書)角岡伸彦「被差別部落の青春」(講談社文庫) 1999年 これまで歴史学があまり取り上げてこなかったし、文書…

組坂繁之/高山文彦「対論 部落問題」(平凡社新書) 明治維新後の水平社運動や敗戦後の部落解放運動は行政を変える運動。

部落差別はまず角岡伸彦「被差別部落の青春」(講談社文庫)を取り掛かりにした。つぎに、本書で歴史を学ぶ。組坂繁之は部落解放同盟の重鎮、高山文彦は作家で水平社運動を担った松本治一郎の評伝「水平記」を書いた。高山が質問し組坂が答える形で対論とな…

野中広務/辛淑玉「差別と日本人」(角川oneテーマ21) 京都の被差別部落の出身の自民党政治家の述懐。

野中広務は日本の政治家(1925.10.20 - 2018.1.26)。自民党に所属して、官房長官などを歴任した。この人が独特なのは、京都の被差別部落の出身で、若いころの差別体験から政治家を志した。 所属ゆえに彼の政策は必ずしもリベラルの支持を受けなかったが、彼…

神谷悠一「差別は思いやりでは解決しない」(集英社新書) 差別は個人が起こすのではなく、社会や文化のせいで動かされる。差別禁止の法や規範が必要。

著者はジェンダーワークやLGBTQ差別の研究者で、政策提言者。なので本書でも、ジェンダー差別とLGBTQ差別を扱っている。自分の知識が不足しているので、差別一般に関する議論として抽象化、形式化してメモを取ります。 社会のマジョリティが差別禁止や撤廃の…

上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-1 家父長制と資本制は市場とそれ以外の空間を支配する構造としてできている

これまでの経済学では市場・企業・家庭を一人格に扱い、中にいる個人を取りあげることはなかった。また自然を無限とみなして収奪してきたが(同時に農村の「余剰」人口を労働者に吸収し続けてきた)、再生産も無限とみなして対価をはらわずに再生産の場であ…

上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-2 を変えないと、女性問題は解決しないし、男も資本制や家父長制から解放されない。

2024/04/19 上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-1 家父長制と資本制は市場とそれ以外の空間を支配する構造としてできている 1990年の続き 1の理論編は家父長制と資本制の二元論を共時的にみた。2の分析篇は二元論を通時的にみる。大賞は日本…

伊藤公雄「ジェンダーの社会学〔新訂〕」(放送大学教材)-1 「社会的に作られた性別」であるジェンダーの刷り込みは個人の生きにくさになり、差別や貧困などの原因になる。

自分が感じる生きにくさは、不安定で暴力的な社会に理由はあるが、同時に「男らしく」を深く内面化している自分自身にあるのではないか。そういう問いが老年になって生まれたので、勉強する。まず「ジェンダー」を理解することから。 ジェンダーは「社会的に…

伊藤公雄「ジェンダーの社会学〔新訂〕」(放送大学教材)-2 男性優位社会のジェンダー観は社会のしくみの隅々まで浸透している。転換が必要。

2024/04/16 伊藤公雄「ジェンダーの社会学〔新訂〕」(放送大学教材)-1 「社会的に作られた性別」であるジェンダーの刷り込みは個人の生きにくさになり、差別や貧困などの原因になる。 2008年の続き 個人の問題からシーン別のジェンダーや「女性問題」につ…

田中克彦「ことばと国家」(岩波新書) 国家は言葉を管理し同化と民族差別を助長する

ナショナリズムと言語についての解説書。35年前に読んだときはさっぱりだったが、ナショナリズムと差別のことを勉強するようになると本書はがぜんとして精彩を放つ。40年前(1981年刊)の本だが、今でも新しい。とはいえ、多くは常識になった(ということは…

ハロルド・ウィンター「人でなしの経済理論」(バジリコ) 「正義の対立」はトレードオフで解決可能(でも功利主義は万能ではない)

原著は2005年で邦訳は2009年。複数のステークホルダーがいて、解決の調停や交渉が難しい時、それぞれの費用と便益を数値化して(下にあるようにデータにバイアスがあるとか、統計がとりにくいとか問題はあるが)、トレードオフを考慮することを推奨する。な…

熊谷奈緒子「慰安婦問題」(ちくま新書)

2014年初出。慰安婦問題は解決されていない戦争責任と戦後補償の問題。問題の社会化、日韓の補償事業の挫折などを経て2010年代の状況をまとめる。 序章 いまなぜ慰安婦問題なのか ・・・ 占領地の女性をターゲットにした慰安婦問題が社会問題になったのは199…

池明観「韓国 民主化への道」(岩波新書)

韓国の1945年の日本からの解放後を、民主化という視点で歴史をみる。1980年以降の韓国の民主化運動は、とても参考になる。どころか、日本は学ばなければならない。ことに、不正をする大統領を辞任に追い込み、逮捕させた2016年のろうそく革命(100万人でもが…

鄭大均「日本のイメージ 韓国人の日本観」(中公新書) 1945~2000年の韓国ナショナリズムのあらまし。21世紀に韓国人の日本観は劇的に変化している。

日本に住む朝鮮にルーツを持つ人たちが日本をどう見ているかは、たとえばこれらが参考になった。そこからわかるのは、数十万人数百万人もいるグループだから、考え方は多種多様。ルーツが同じという属性だけで均質な集団になっていると思い込んだら大間違い…

田中宏「在日外国人(第3版)」(岩波新書)-1

2013年にでた第三版を読む。前の「新版」が出たのは1995年。およそ20年後との大きな違いは、日本社会に排外主義やレイシズムが蔓延するようになり、路上やネットでヘイトスピーチがおおっぴらに発せられるようになったこと。アジア諸国が経済発展する…

田中宏「在日外国人(第3版)」(岩波新書)-2

2022/05/23 田中宏「在日外国人(第3版)」(岩波新書)-1 2003年の続き 前回は1エントリーで終わった感想が今回の再読では2エントリーに増えた。最近の動向をすこしは知るようになったので、メモしておくべき事柄が増えたのだ。 差別撤廃への挑戦 ・・・…

文京洙/水野直樹「在日朝鮮人」(岩波新書)-1

在日朝鮮人の問題を歴史的にみる。明治政府以降の日本がどのような政策を朝鮮に取ってきたかは以下のエントリーを参考。これらには日本国内の事情はほとんど書かれていないので、本書で補完することになる。2017/05/25 海野福寿「韓国併合」(岩波新書) 199…

文京洙/水野直樹「在日朝鮮人」(岩波新書)-2

2022/05/19 文京洙/水野直樹「在日朝鮮人」(岩波新書)-1 2015年の続き 後半は日本の敗戦後。日本にいることを選択した/余儀なくされた在日朝鮮人の歴史や記録は多数でている。自分が読んだのは以下の数冊だけ。勉強不足です。2019/4/26 福岡安則「在日韓国…

角南圭佑「ヘイトスピーチと対抗報道」(集英社新書) 2016年のヘイトスピーチ解消法施行以後の状況。在特会の活動は激減したが、無名の人々がカジュアルに「悪意なく」差別するようになった。

このブログで取り上げてきたヘイトスピーチの記録には以下のようなものがある。2019/04/22 有田芳生「ヘイトスピーチとたたかう!――日本版排外主義批判」(岩波書店) 2013年2019/04/19 神原元「ヘイト・スピーチに抗する人びと」(新日本出版社) 2014年2017…

本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-1 15世紀から19世紀末まで。黒人奴隷制、奴隷解放後の差別制度のあらまし。

本書旧版(1964年)は高校生の時に知っていた。その時は「黒人」の歴史に意味があると思わなかった。とんだマジョリティしぐさで、ぼんくらだった。21世紀のBLM運動を見るうちに、タイトルの歴史が重要であることがわかり、勉強することにする。 今ならアフ…

本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-2 20世紀の黒人差別と公民権運動。差別撤廃の法ができても、ヘイトクライムの標的になっている。

2022/03/22 本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-1 1990年の続き 後半は20世紀。白人側から見たアメリカの近代史と重ねることが必要。参考エントリーは以下。2020/10/12 有賀夏紀「アメリカの20世紀 上」(中公新書) 2002年2020/10/09 有賀夏…

荒このみ「マルコムX」(岩波新書) 欠点が多い青年のアジテーションは被差別黒人の「教師」「鼓舞する人」「希望の象徴」。

以前にマルコムXの言葉を読んできたが、ピンとこなかった。そのあたりは、下記のエントリーで。アレックス・ヘイリー「マルコムX自伝」(河出書房新社)デビッド・ギャレン編「マルコムX最後の証言」(扶桑社文庫) そこで、第三者の視点による評伝を読む…

吉村昭「関東大震災」(文春文庫) 近代日本では未曽有のジェノサイドである朝鮮人等の大虐殺。

関東大震災の被害は、小沢健志「写真で見る関東大震災」(ちくま学芸文庫)で。odd-hatch.hatenablog.jp と言いながら、テキストでないと伝わらない情報もある。本書の指摘を抜き書きで。 ・震災による家屋の倒壊や火災(出火の原因は薬品由来という。学校、…

斉藤貴男「安心のファシズム」(岩波新書) 日本にファシズムが起こりつつあるとみた、2004年の論集。自己責任論と自由からの逃走をファシズム団体は利用する。

日本にファシズムが起こりつつあるとみた、2004年の論集。これを2020年から振り返るように読む。 第1章 イラク人質事件と銃後の思想 ・・・ イランで起きた日本人人質事件。このとき、政府は自己責任論で放置し、民衆は人質と被害者家族をバッシングした。…

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチとは何か」(日本評論社)

法学セミナーは過去に数回ヘイトスピーチを特集してきた。2016年のヘイトスピーチ解消法施行後、状況が変化したところがあるので、それらを反映してヘイトスピーチの概念と過去事案をまとめる「ヘイトスピーチとは何か」を編集した。本号で特集をつくるので…

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)-1

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチとは何か」(日本評論社)で実態と本質的な意味を勉強したあと、ヘイトスピーチに抗する具体的なツールである法や司法を検討する。「ヘイトスピーチに法や司法はどのように対応すべきなのか。憲法学、刑事法学、国際人権法…

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)-2

2020/03/12 別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)-1 2019年 続いて後半。論文の中で言及されている事案(デモや裁判など)について、別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)補注のページを作り、Togetterま…

前田朗「ヘイトスピーチと地方自治体」(三一書房) ヘイトスピーチ解消法を改定して罰則をつけるまでに、自治体に罰則付き差別撤廃条例を制定させよう。

2016年にヘイトスピーチ解消法が施行されてからの課題をまとめる。路上のヘイトは市民有志(カウンター、プロテスターと呼ばれる)の活動で減少してきたが、根絶にはいたらない。公的施設利用、選挙、インターネットではヘイトスピーチがいまだに多い。…

ジェレミー・ウォルドロン「ヘイト・スピーチという危害」(みすず書房) ヘイトスピーチ禁止法を持たないアメリカでの議論。法はなくても市民と企業と行政は既存法と行動で差別行為を規制している。

2012年にでたヘイトスピーチの法規制を主張する本。ヨーロッパ諸国はヘイトスピーチ禁止法をもっているのに対し、アメリカは法がない。法規制の反対論が強い。そのような状況での主張。この国の邦訳は2015年で、日本では法規制がなかった時代で、アメリカの…

徐京植(ソ・キョンシク)「在日朝鮮人ってどんなひと? (中学生の質問箱)」(平凡社)

日本は単一民族、一民族一国家と言われることが多いが、それは幻想。実際は、さまざまなマイノリティがいっしょに住んでいる場所。それを確認することから始めよう。突っ込みを入れれば、ネトウヨの大好きな「大日本帝国」は満州・朝鮮・台湾を併合して「五…

大澤武男「ヒトラーとユダヤ人」(講談社現代新書) 反ユダヤ主義がヒトラーの確信・核心であり、終生変わることなく維持し、多数の被害者をだしたことに反省することはなかった

ナチスを率いたヒトラーのユダヤ人虐殺は、政策遂行から派生したとか世論の後押しで行ったという議論があるが、そうではない、徹頭徹尾反ユダヤ主義がヒトラーの確信・核心であり、終生変わることなく維持し、多数の被害者をだしたことに反省することはなか…