odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

反差別

石井正己「NHK こころをよむ 文豪たちが書いた関東大震災」(NHK出版 日本放送協会) 文豪たちの生き生きとした文章で100年以上たった災害を自分事としてとらえる。

1923年9月1日に発生した関東大震災。東京や横浜、鎌倉などの被災地には文士、芸術家が多数すみ、遠方から見舞いに来た者がいて、当時は未成年であったものがいた。彼らの文章は全集を参照しないことにはなかなかめにつかない。著者は長年、関東大震災…

森島恒雄「魔女狩り」(岩波新書) マイノリティと女性を嫌悪するプロパガンダが起こした大殺戮

魔女という概念は古代からあったが、中世のキリスト教社会では寛容だった。懺悔を白という命令だけでおしまいになることが多かったという。それが転換するのは、13世紀の南フランスやカタルーニアなどで異端(アルビ派、ヴィルドー派、カタリ派など)が活動…

上杉忍「アメリカ黒人の歴史」(中公新書) 黒人奴隷制に支えられた白人の国アメリカはいかにして世界システムの覇権を取ったか。

20世紀後半に書かれた「アメリカ黒人の歴史」を先に読んだ。感想は以下。2022/03/22 本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-1 1990年2022/03/19 本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-2 1990年 本書は2013年に書かれた。21世紀になっ…

ジェームス・M・バーグマン「黒人差別とアメリカ公民権運動」(集英社新書) 1950-60年代の公民権運動。白人レイシストと行政・司法が結託して黒人に暴力・リンチを行い、どう対抗するかが重要課題。

アメリカ黒人の歴史のうち、1950-60年代の公民権運動を描く。黒人の歴史(アメリカでは大学の授業がある)の通史は以下を参照。 odd-hatch.hatenablog.jp odd-hatch.hatenablog.jp 上杉忍「アメリカ黒人の歴史」(中公新書) 本書を呼んだ限りでは、「公民権…

渡辺靖「白人ナショナリズム」(中公新書) 日本をうらやむアメリカのネトウヨのいま。自国第一主義団体はグローバルな連帯をめざす!?

アメリカの白人ナショナリズムの動向を2020年にレポートする。重要なできごとは、911事件とその後のヘイトクライム、2017年10月シャーロッツビルで起きた白人ナショナリストによる襲撃事件(一人死亡)。本書刊行後では、Qアノン、2021年1月のアメリカ議会襲…

平野千果子「人種主義の歴史」(岩波新書) 16世紀のアフリカ黒人奴隷制から始まる差別目的の人種主義(racism)が存在しない「人種」を作ってきた。

本書で人種主義としているのはレイシズム(racism)の日本語訳。この言葉が使われるようになったのは19世紀末からだが、差別の意味をもつraceは古くから使われてきた。「人種」は存在しないが、差別目的の人種主義が人種をつくってきた。それぞれの時代の思…

趙景達「近代朝鮮と日本」(岩波新書)-1 朝鮮に視点を定め、日本が「異人」であるかのように朝鮮と日本の近代史を見直す。

これまで全く無知だったので、朝鮮の近代史と日本の植民地政策を勉強するために、以下を読んできた。2017/05/25 海野福寿「韓国併合」(岩波新書) 1995年2017/05/24 高崎宗司「植民地朝鮮の日本」(岩波新書) 2002年 また同じ時代の日本の近代史はさまざま…

趙景達「近代朝鮮と日本」(岩波新書)-2 日本史を外国の目から見るとき、列島の住民の「常識」(例えば司馬遼太郎「坂の上の雲」)が覆される。

2024/05/14 趙景達「近代朝鮮と日本」(岩波新書)-1 朝鮮に視点を定め、日本が「異人」であるかのように朝鮮と日本の近代史を見直す。 2012年の続き 日本史を外国の目から見るとき、列島の住民の「常識」が覆される。ことにこの時代の朝鮮半島のできごとを…

杉原達「中国人強制連行」(岩波新書) 大日本帝国は占領地の中国人を拉致して日本その他で危険な労働を強制し多数を殺した。

1946年に外務省が調査したら、約4万人の中国人が戦争末期の1944~45年に強制連行された。連行先では強制労働が行われ、24時間の監視、生存ラインぎりぎりの食糧、悪質な労働環境と住環境、医療なし、監視員他による暴行や拷問の頻発などにより、多数の中国…

安田浩一「「右翼」の戦後史」(講談社現代新書) 右翼の歴史は保守政党による支援の歴史。大日本帝国憲法・軍人勅諭・教育勅語が右翼の聖典。

ヘイト団体や差別団体の活動を監視していると、どうしても右翼団体が視野に入ってくる。ときに差別団体(在特会とか日本第一党とか)よりも悪質なヘイトスピーチを,ヘイトスピーチ解消法施行後にも行っている。なぜ右翼は外国人排斥を主張するのか、なぜ右翼…

渡辺延志「関東大震災「虐殺否定」の真相 ハーバード大学教授の論拠を検証する」(ちくま新書) ラムザイヤー論文を検証。執筆者も、当時の政府も軍も警察もフェイクニュースを流していた。

2019年にハーバード大学のラムザイヤー教授(専門は法学らしい)が関東大震災の朝鮮人虐殺を否定する論文を発表した。第1章に論文のサマリーが載っているが、内容は日本のネトウヨがいっている否定論と同じだ。関東大震災の朝鮮人虐殺のことを「朝鮮人…

斎藤洋一/大石慎三郎「身分差別社会の真実」(講談社現代新書) 江戸時代の身分制は、士農工商ではなく、公家・武士-平民(農工商が含まれる)-被差別者(えた・ひにん)の三層構造。

歴史学者・大石慎三郎監修による「新書・江戸時代」の一冊。江戸時代の身分制は時代劇などで牧歌的に描かれているが、そうではない。たとえば「士農工商」が江戸時代の身分制の序列とされているが、この言葉ができたのは明治時代で、昭和の義務教育で定着し…

原田伴彦「被差別部落の歴史」(朝日選書) 移民・外国人がほとんど存在しない江戸時代に作られた差別。明治以降、より悪質な差別が制度化された。

1975年に出版された被差別部落の歴史を概説したもの。以下の本を補完することを目的として読む。組坂繁之/高山文彦「対論 部落問題」(平凡社新書)角岡伸彦「被差別部落の青春」(講談社文庫) 1999年 これまで歴史学があまり取り上げてこなかったし、文書…

組坂繁之/高山文彦「対論 部落問題」(平凡社新書) 明治維新後の水平社運動や敗戦後の部落解放運動は行政を変える運動。

部落差別はまず角岡伸彦「被差別部落の青春」(講談社文庫)を取り掛かりにした。つぎに、本書で歴史を学ぶ。組坂繁之は部落解放同盟の重鎮、高山文彦は作家で水平社運動を担った松本治一郎の評伝「水平記」を書いた。高山が質問し組坂が答える形で対論とな…

野中広務/辛淑玉「差別と日本人」(角川oneテーマ21) 京都の被差別部落の出身の自民党政治家の述懐。

野中広務は日本の政治家(1925.10.20 - 2018.1.26)。自民党に所属して、官房長官などを歴任した。この人が独特なのは、京都の被差別部落の出身で、若いころの差別体験から政治家を志した。 所属ゆえに彼の政策は必ずしもリベラルの支持を受けなかったが、彼…

神谷悠一「差別は思いやりでは解決しない」(集英社新書) 差別は個人が起こすのではなく、社会や文化のせいで動かされる。差別禁止の法や規範が必要。

著者はジェンダーワークやLGBTQ差別の研究者で、政策提言者。なので本書でも、ジェンダー差別とLGBTQ差別を扱っている。自分の知識が不足しているので、差別一般に関する議論として抽象化、形式化してメモを取ります。 社会のマジョリティが差別禁止や撤廃の…

上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-1 家父長制と資本制は市場とそれ以外の空間を支配する構造としてできている

これまでの経済学では市場・企業・家庭を一人格に扱い、中にいる個人を取りあげることはなかった。また自然を無限とみなして収奪してきたが(同時に農村の「余剰」人口を労働者に吸収し続けてきた)、再生産も無限とみなして対価をはらわずに再生産の場であ…

上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-2 を変えないと、女性問題は解決しないし、男も資本制や家父長制から解放されない。

2024/04/19 上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-1 家父長制と資本制は市場とそれ以外の空間を支配する構造としてできている 1990年の続き 1の理論編は家父長制と資本制の二元論を共時的にみた。2の分析篇は二元論を通時的にみる。大賞は日本…

伊藤公雄「ジェンダーの社会学〔新訂〕」(放送大学教材)-1 「社会的に作られた性別」であるジェンダーの刷り込みは個人の生きにくさになり、差別や貧困などの原因になる。

自分が感じる生きにくさは、不安定で暴力的な社会に理由はあるが、同時に「男らしく」を深く内面化している自分自身にあるのではないか。そういう問いが老年になって生まれたので、勉強する。まず「ジェンダー」を理解することから。 ジェンダーは「社会的に…

伊藤公雄「ジェンダーの社会学〔新訂〕」(放送大学教材)-2 男性優位社会のジェンダー観は社会のしくみの隅々まで浸透している。転換が必要。

2024/04/16 伊藤公雄「ジェンダーの社会学〔新訂〕」(放送大学教材)-1 「社会的に作られた性別」であるジェンダーの刷り込みは個人の生きにくさになり、差別や貧困などの原因になる。 2008年の続き 個人の問題からシーン別のジェンダーや「女性問題」につ…

田中克彦「ことばと国家」(岩波新書) 国家は言葉を管理し同化と民族差別を助長する

ナショナリズムと言語についての解説書。35年前に読んだときはさっぱりだったが、ナショナリズムと差別のことを勉強するようになると本書はがぜんとして精彩を放つ。40年前(1981年刊)の本だが、今でも新しい。とはいえ、多くは常識になった(ということは…

ハロルド・ウィンター「人でなしの経済理論」(バジリコ) 「正義の対立」はトレードオフで解決可能(でも功利主義は万能ではない)

原著は2005年で邦訳は2009年。複数のステークホルダーがいて、解決の調停や交渉が難しい時、それぞれの費用と便益を数値化して(下にあるようにデータにバイアスがあるとか、統計がとりにくいとか問題はあるが)、トレードオフを考慮することを推奨する。な…

熊谷奈緒子「慰安婦問題」(ちくま新書)

2014年初出。慰安婦問題は解決されていない戦争責任と戦後補償の問題。問題の社会化、日韓の補償事業の挫折などを経て2010年代の状況をまとめる。 序章 いまなぜ慰安婦問題なのか ・・・ 占領地の女性をターゲットにした慰安婦問題が社会問題になったのは199…

池明観「韓国 民主化への道」(岩波新書)

韓国の1945年の日本からの解放後を、民主化という視点で歴史をみる。1980年以降の韓国の民主化運動は、とても参考になる。どころか、日本は学ばなければならない。ことに、不正をする大統領を辞任に追い込み、逮捕させた2016年のろうそく革命(100万人でもが…

鄭大均「日本のイメージ 韓国人の日本観」(中公新書) 1945~2000年の韓国ナショナリズムのあらまし。21世紀に韓国人の日本観は劇的に変化している。

日本に住む朝鮮にルーツを持つ人たちが日本をどう見ているかは、たとえばこれらが参考になった。そこからわかるのは、数十万人数百万人もいるグループだから、考え方は多種多様。ルーツが同じという属性だけで均質な集団になっていると思い込んだら大間違い…

田中宏「在日外国人(第3版)」(岩波新書)-1

2013年にでた第三版を読む。前の「新版」が出たのは1995年。およそ20年後との大きな違いは、日本社会に排外主義やレイシズムが蔓延するようになり、路上やネットでヘイトスピーチがおおっぴらに発せられるようになったこと。アジア諸国が経済発展する…

田中宏「在日外国人(第3版)」(岩波新書)-2

2022/05/23 田中宏「在日外国人(第3版)」(岩波新書)-1 2003年の続き 前回は1エントリーで終わった感想が今回の再読では2エントリーに増えた。最近の動向をすこしは知るようになったので、メモしておくべき事柄が増えたのだ。 差別撤廃への挑戦 ・・・…

文京洙/水野直樹「在日朝鮮人」(岩波新書)-1

在日朝鮮人の問題を歴史的にみる。明治政府以降の日本がどのような政策を朝鮮に取ってきたかは以下のエントリーを参考。これらには日本国内の事情はほとんど書かれていないので、本書で補完することになる。2017/05/25 海野福寿「韓国併合」(岩波新書) 199…

文京洙/水野直樹「在日朝鮮人」(岩波新書)-2

2022/05/19 文京洙/水野直樹「在日朝鮮人」(岩波新書)-1 2015年の続き 後半は日本の敗戦後。日本にいることを選択した/余儀なくされた在日朝鮮人の歴史や記録は多数でている。自分が読んだのは以下の数冊だけ。勉強不足です。2019/4/26 福岡安則「在日韓国…

角南圭佑「ヘイトスピーチと対抗報道」(集英社新書) 2016年のヘイトスピーチ解消法施行以後の状況。在特会の活動は激減したが、無名の人々がカジュアルに「悪意なく」差別するようになった。

このブログで取り上げてきたヘイトスピーチの記録には以下のようなものがある。2019/04/22 有田芳生「ヘイトスピーチとたたかう!――日本版排外主義批判」(岩波書店) 2013年2019/04/19 神原元「ヘイト・スピーチに抗する人びと」(新日本出版社) 2014年2017…