odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

フィリップ・K・ディック「最後から二番目の真実」(サンリオSF文庫)

この長編を読む前に短編「ヤンシーにならえ@(ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック III・サンリオSF文庫)」を読むことを推奨。短編はガニメデが舞台だが、長編では地球。ヤンシーの役割は同じ。 さて、1945年から歴史がずれている世界。米ソの対立は深…

フィリップ・K・ディック「テレポートされざる男」(サンリオSF文庫)

ポール・ウィリアムズ編「フィリップ・K・ディックの世界」(ペヨトル工房)とこの文庫の注によると、前半部が1964年8月26日SMLA受理、1966年出版。ただし商業的な理由で三万語を削除した版。後半部は1965年5月5日に日SMLA受理。脱落した部分を元に戻して再…

フィリップ・K・ディック「逆まわりの世界」(ハヤカワ文庫)

PKD

1986年6月ホバート位相が始まった。エントロピーが低いほうにながれ、生理的な時間が逆転する。毎朝、食事を吐き(なのでフードは四文字言葉)、吸殻が新品になり、それらをパッケージに詰め直す。電話にでるときは「さよなら」で、切るときは「ハロー」。死…

フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-1

PKD

映画「ブレードランナー」は初めて見たときに衝撃と感激のふたつの感情をもった。なので、ビデオにとった日本語吹替版を繰り返しみた。そこにある犯罪者の追跡、バウンティハンターの孤独、アンドロイド(映画ではレプリカント)の悲哀、経営者や警察官の傲…

フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-2

PKD

2018/07/26 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-1 1968年 人間とアンドロイド(映画ではレプリカント)の違いは、アンドロイドは工場で生産されるもので、人間はそうではないというところ。しかし製造にあたるロ…

フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-3

PKD

2018/07/26 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-1 1968年 2018/07/24 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-2 1968年 人間とアンドロイドの区別あるいは境界の消滅とい…

フィリップ・K・ディック「ユービック」(ハヤカワ文庫)

PKD

小説世界の在り方が異様なので、まず抑えておくことにしよう。生者と死者の間に半生者というカテゴリーがある。脳に損傷がなければ生命活動を停止しても、急速冷凍することで「意識」を保存することができる。通常は半生者同士の認識世界(夢ともいうか)に…

フィリップ・K・ディック「ニックとグリマング」(筑摩書房)

PKD

ディックの未来世界は近未来でいまだ訪れていないけれど、かつてあったことのあるレトロな場所でもあるんだなあ。この小説では、人口爆発で食料が枯渇気味。なのでペットはご法度。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を読んでおこう。なぜか猫を飼ってい…

フィリップ・K・ディック「銀河の壺直し」(サンリオSF文庫)

PKD本人は「やっつけ仕事だよ」「書きすすめながら、先がどうなるか、まるでわからなかった」というのだが(「ザップ・ガン(P366)」所収のインタビュー)、どうしてどうして、読みやすい。テーマもはっきり。この小説を気に入ってくれたという人もいたとPK…

フィリップ・K・ディック「死の迷宮」(サンリオSF文庫)

さまざまな技能士(言語学者、経済学者、神学者、医師、物理学者、写真家、心理学者、海洋生物学者、社会学者、コンピューター技師)たちが選ばれて植民惑星デルマクーO(オー)に派遣される。片道燃料だけを搭載した飛行機で到着した。技能士たちは全部で14…

フィリップ・K・ディック「フロリクス8からの友人」(創元推理文庫)

PKD

数十年前に「新人」が現れた。現生人類をはるかに上回る知性の「新人」は中立論理学という未来予測で、世界の支配者になる。一方、「異人」という超能力者(未来予知、テレパシーなど)も生まれる。現生人類は彼らの能力についていけず、60億人の「旧人」…

フィリップ・K・ディック「流れよ我が涙、と警官はいった」(サンリオSF文庫)-1

3000万人の視聴者のいる娯楽番組。その司会で歌手でもあるジェイスン・タヴァナー。仕事を順調で、人気は絶大で、女遍歴も優雅にこなしている。でも、その日若い歌手志望の娘がジェイスンを恨んで、カリスト海綿生物を投げつけた。昏睡状態の一夜のあと、安…

フィリップ・K・ディック「流れよ我が涙、と警官はいった」(サンリオSF文庫)-2

2018/07/12 フィリップ・K・ディック「流れよ我が涙、と警官はいった」(サンリオSF文庫)-1 1974年 女性たちにフォーカスすることになるのは、自分のIDが失われるという非常事態、不条理にみまわれながらも、渦中にあるジェイソンはのんきで傍観者でいられ…

ポール・ウィリアムズ編「フィリップ・K・ディックの世界 消える現実」(ペヨトル工房)

PKD

ポール・ウィリアムズはPKDより20歳くらい若い音楽評論家。1974年に「ローリング・ストーン」にPKDのインタビューを載せるために、長時間の話を録音した。その後も親交が続き、PKDの死後の1986年にインタビューと評論などを入れたこの本を出版。ほかにPKDの…

フィリップ・K・ディック「暗闇のスキャナー」(創元推理文庫)-1

邦訳タイトル、原題「A Scanner Darkly」の意味は小説の中の説明によるとこんな具合になる。脳は二つのコンピュータが連結したようなもの。左半球と右半球でそれぞれ異なる機能をもっているが、それぞれの情報が統合されて世界認識の同一性を保持している。…

フィリップ・K・ディック「暗闇のスキャナー」(創元推理文庫)-2

2018/07/06 フィリップ・K・ディック「暗闇のスキャナー」(創元推理文庫)-1 1977年 もうひとつのやるせなさは、ボブ・アークター=フレッドにおきたことが、これもまたやるせないほど読者の現実に続いている。ボブは覆面麻薬捜査官の仕事をしている。彼の…

フィリップ・K・ディック/ロジャー・ゼラズニイ「怒りの神」(サンリオSF文庫)

小説の背景は、文庫のサマリーに詳しいので、まず引用。メモしながら読んだが、地の文に断片的に語られるので詳細をつかめなかった。 「第三次大戦で地球は全滅した。人々が奇妙な逆説を信仰したためだった。エネルギー調査開発庁長官カールトン・ルフトオイ…

フィリップ・K・ディック「アルベマス」(サンリオSF文庫)-1

これまでの長編と色合いがずいぶん異なるのは、PKDの経歴や体験がほぼそのまま書かれているため。もちろん、この国の私小説や、自伝のように、正確な情報を提供しているわけではない。想像力をふくらませたり、存在しない人物に評価を語らせるなど、フィクシ…