戦前探偵小説
岡本綺堂の幻想・伝奇・怪異小説。ほかにも大量の長編、短編を書いているのみならず、翻訳をしたり、アンソロジーを編んだりと八面六臂の大活躍。1980年代にモダンホラーが上陸してから、あまり読まれなくなったようだが、21世紀になってたくさん本が出るよ…
中・長編のあとは、戯曲に短編に随筆。 まずは戯曲から。 平家蟹 1912 ・・・ 木下順二「子午線の祀り」の後日談、というのは、双方の作者に失礼か。壇ノ浦の戦のあと、落ち延びた官女あり。身を隠すに暮らしは立たず、なさけを売る上臈。何の因果か那須与一…
浜尾四郎は1897年生まれ。東大法学部卒業後、東京地検の検事になり、1928年に辞職して、翌年に「彼が殺したか」でデビュー。4つの長編と15の短編(解説による)を残して、1937年に没。40歳という若さ。 彼が殺したか 1929.01.~02 ・・・ 中島河太郎編「君…
東京地検の元検事でいまは私立探偵の藤枝真太郎のオフィスに、家が不穏であるので調査と警備をお願いしたいという若い女性がやってきた。聞けば秋川製紙株式会社の社長の娘。この絶世の美人に、藤枝の親友・小川雅夫は一目ぼれ。藤枝に依頼を受けるように薦…
浜尾四郎「鉄鎖殺人事件」が2017年11月に河出文庫に収録された。四半世紀ぶりくらいに入手が容易になった。そこでもう一度読み直した。前回の感想( 浜尾四郎「鉄鎖殺人事件」(春陽文庫)では、サマリーにふれなかったので、あらためて。 前の「殺人鬼」事…
角田喜久雄の作品。1906年生まれで 1994年没の長命な作家。作家の活動期間は長い。この全集では戦後の作品が多く収録されていて、戦前は探偵小説よりも伝奇小説(「風雲将棋谷」「髑髏銭」など)を書いていたからだろう。 発狂 1926 ・・・ 悪辣な資本家によ…
大下宇陀児の作品。九鬼紫郎「探偵小説百科」(金園社)によると、1898年生まれ1966年没。デビューは1925年というからかなり早い。雑誌「新青年」では乱歩、不木に続く人気作家だったという。この二人がトリックや奇妙な味などの技法にこだわったのに対し、…
発表されたのは戦後ではあるが、大下宇陀児は戦前から活躍している作家なので、戦前探偵小説に含めることにした。 大下宇陀児:自殺を売った男(1958)・・・ 愚連隊でクスリが手放せない俺は人生に飽きて自殺することにした。しかし未遂になり発見者の縁で…
本名・林操(1898-1969)は慶応大学医学部の教授。本名で講談社現代新書に著作がある。デビューは1934年で、ペンネームは海野十三がつけた。戦前に甲賀三郎と探偵小説は芸術か否かの論争があり、木々は芸術派だった。その主張の実践が「人生の阿呆」や「折萱…
2019/08/29 木々高太郎「日本探偵小説全集 7」(創元推理文庫)-1 の続き。後半はおもに戦後作品。 永遠の女囚 1938.11 ・・・ モガ(モダン・ガール)が奔放な暮らしの後に家に戻ってきたが、小作人争議が起きたときに父を殺した。そういう娘には見えなか…
この巻と次の巻は、一人では一冊になるほどの作品を書いていない人たちの作品を集めた名作集。それぞれ多作であるのだが、「探偵小説」には入れない小説のほうが多い作家たち。 岡本縞堂 話もうまいが、何より目の詰まったコクのある文章。よい文章を読む快…
2019/08/26 名作集 1「日本探偵小説全集 11」(創元推理文庫)-1 の続き 後半は昭和にはいってから。探偵小説(推理小説よりずっと広いジャンルをカバー)の書き手が増えて、主に雑誌に小品を書いていた。さまざまな理由で長編を書かなかった人たちを集め…
名作集2は昭和の探偵小説。職業探偵作家も複数人でて、「新青年」他の探偵小説雑誌が毎月刊行されていて、アメリカの長編・短編の探偵小説がおおよそリアルタイムで紹介されている。ジャンルが成立し、作家も読者も育ったころ。乱歩からすると、次世代の作…
初出(1955年)はこのタイトル。のちに「源氏物語殺人事件」に変更されて出版されたこともある。 自分が読んだのは1978年1月の別冊幻影城で。同時収録は「樹海の殺人」。別冊幻影城は一冊に探偵作家ひとりを割り当て、代表作を掲載した。戦前から昭和30年代…
別冊幻影城「岡田鯱彦」特集の続きを読む。 富士山麓の樹海に近い村に構えた私設の物理学研究所。もと神職の中年男性・坂巻久が3年前に設立した。一人娘の久美子に、研究員である須藤と玉川、中学を卒業したばかりの書生・渋谷に小山田爺やが住み込んでいる…
大阪圭吉の創造した名探偵は、「青山喬介」「大月弁護士」「水産試験所所長・東屋三郎」の三人。どれもみな同じ。性格がいっしょで、事件のかかわり方も型通り。東屋氏が担当するのは職業がら海に関係したものになるのが特徴になるくらい。まあ、20代の仕事…
大阪圭吉は1912年生まれで、20歳のときに「デパートの絞刑吏」でデビュー。愛知県新城市で役場勤めを続けながら1940年ごろまでは探偵小説を発表したが、対米戦開始後はユーモア小説からやがては時局に乗じた通俗スパイ小説に転向。1945年にルソン島で戦死し…
甲賀三郎(1893-1945)は戦前の探偵小説作家。技手になった公務員時代に大下宇陀児や江戸川乱歩との付き合いがあり、30歳のときに「真珠塔の秘密」でデビュー。人気作家になる。享年51歳という若さで死去。 琉璃のパイプ 1924 ・・・ 台風の夜、ある家で火災…
1978年3月刊行の「別冊幻影城3」小酒井不木集から長編を読む。記憶ではその後文庫化されていないので、読むのは困難かと思ったが、有志によるテキスト化が行われていた。どうやら、初出の雑誌「新青年」を稿本にしたらしく、本文の他に編集者がつけたと思わ…
1978年3月刊行の「別冊幻影城3」小酒井不木集から短編を読む。 「恋愛曲線」(ちくま文庫)には収録されていない短編もある。タイトルの前に★をつけたもの。 痴人の復讐 (1925) ・・・ これは別冊幻影城にはないので、「日本探偵小説全集 1」(創元推理文…
1970年から雑誌「幻影城」に連載された論文に、書下ろしを加えて1975年に出版。その年の「日本推理作家協会賞」の評論部門を受賞。講談社文庫にはいったのは1977年。 取り上げられた作家は以下の通り。 小酒井不木、江戸川乱歩、甲賀三郎、大下宇陀児、横溝…
自分の持っているCDには、1900年に録音された川上音二郎一座とか、1904-5年に録音された歌入りの「軍艦行進曲」などがある。そこに収録されたこの国の人たちの発声とかイントネーションとか抑揚などは、もう21世紀とは全く異なってしまった。たぶん、昭和初…
戦前の探偵小説は目に付く限り集めようという気持ちはある(2004年当時。今はもうない)。1970年代には、江戸川乱歩と横溝精史をのぞくと、現代教養文庫と角川文庫の小栗虫太郎、夢野久作、久生十蘭くらいしかなかった。それがいまではちくま文庫と光文社文…
「永遠の女囚」新青年 1938.11.木々高太郎 ・・・ 田舎の素封家・雲井家。久衛門には別腹の姉妹がいる。姉が婿を取ってあとを継ぐところを、妹の婿に継がせることにした。この妹、たいしたモガで、結婚式を逃げ出すわ、駆け落ちして一週間でかえるわとやり立…
1977年に角川文庫で雑誌「新青年」で発表された短編を集めたアンソロジーが5巻発行された。赤い背表紙で5冊並んでいる姿にあこがれたなあ。すぐさま絶版になり、1990年以降は古本屋で高値をつけていた。そのうちの3冊が2000年に復刻された。しかしすでにこ…
清風荘事件 ・・・ 牛込の「清風荘」と名づけられたアパート(今でこそ安い共同住宅の意味になっているが、当時は欧米風の最先端モードだった)。そこに住むK大学出身の若い男性二人。一人は志操堅固な堅物で、もう一人は青春を謳歌するモボ。女性をめぐる…
この人の小説を読むのは、別冊幻影城の特集(高校生)と創元推理文庫の日本探偵小説集第1巻(20代)に続いて、3回目。代表作の「恋愛曲線」は何度読んだことか。 ぼくがはじめてよんだ「小酒井不木」。 この作者は、日本の探偵小説、ミステリーの最初期…
いまでこそサイコ・サスペンス、サイコ・ホラーというくくりで、異常犯罪者を題材にする小説がたくさんあり、書店の一角にはこの種のものに加え犯罪実録ものが多数置かれている。ブームの走りはトマス・ハリス「レッド・ドラゴン」とスティーヴン・キング「…
1933(昭和8)年作。浜尾四郎の長編は「殺人鬼」がハヤカワポケットミステリーや創元推理文庫で入手可能であるが、「鉄鎖殺人事件」は品切れになって久しい。調べてみたら1978年に購入したものだった。 たしかに「殺人鬼」の創元推理文庫版の解説にあるよう…
「旅行帰りの加賀美捜査一課長は、乗船中の汽船「伊勢丸」で楽団「新太陽」のメンバーたちと出会う。楽団長の三田村の話によれば、楽団の広告が新聞を飾るたび、その横に黒枠広告で「楽団の死」を案内する広告が出るという。「なにか不吉なことが怒るのでは…