odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

宇井純「公害原論 III」(亜紀書房)-2 国家・企業・大学の無責任に対抗するには縦割り組織や権力集中型組織は無力。システム的な対応をしない個人のゆるい連帯のほうが強い。

2019/10/01 宇井純「公害原論 III」(亜紀書房)-1 1971年の続き 第2巻の「技術的対策」の続き。 運動論・組織論 ・・・ 公害に対してなぜころほど無策、無力であったか。公害の無視が高度経済成長の要因であったし、大学も生産力(廃棄物の生産向上)をあ…

宇井純「現代社会と公害」(勁草書房) 研究者・法律家が講演する自主講座の2学期。荒幡寒村の回は全体の白眉。

自主講座の2学期はさまざまな現場のひとたち(現在に限らない)の話を聞く。宇井純による1学期の話を実地でどう使うかを検討する機会になる。当初100人教室で行っていたが、このころには400人を超える。荒畑寒村の回には屋内に収容できなくなり、途中から…

宇井純「現代科学と公害」(勁草書房) 科学者・研究者の講演。現場の記録と見せ方が関心を広げるために重要。

イタイイタイ病(萩野昇) 1971.5.10 ・・・ 萩野医師は敗戦直後にイタイイタイ病を発見し、治療にあたってきた。あわせて、鉱毒説を1957年に発表する。その結果、県、鉱山会社、東京大学その他から研究の妨害や恫喝を受けてきた。風向きが変わったのは、医…

宇井純「続・現代科学と公害」(勁草書房) 技術者・医師による実践運動の記録。市民・住民・大衆の関心や応援のあるなしが成否をわける。

「民衆のための科学」という考えがでてくる。大学などの研究者・専門家が体制の側に立って代弁者になる状況で、科学者はどういう研究をするべきか。それにこたえようという考え。本書収録の講演のうち最初のみっつは、そういう実践をしてきた人の報告。成功…

宇井純「公害被害者の論理」(勁草書房) 被害当事者の発言。現場から遠くなるほど彼らの声はかぼそくなるので、聞いたら広めることが大事。

このシリーズ(剄草書房版)は公害研究者による講演だったが、この巻では被害当事者の発言を収録する。被害者の声は、企業や権力の大声にかき消され、メディアにのりにくい。現場から遠くなるほどか細い声になる。それを聞き、「誰にでもできる寄与が手の届…

宇井純「公害原論 補巻I(公害と行政)」(亜紀書房) 自主講座第2期の記録。学者や専門家は役に立たない。物わかりの悪い素人の粘り強い抗議だけが、公害を止めることができる

サブタイトルは「公害と行政」。 初出は1974年。 公害を制度と技術は解決しない。むしろ公害を悪化させるように制度と技術は働く。学者や専門家は役に立たない。物わかりの悪い素人の粘り強い抗議だけが、公害を止めることができる。すでに過去の講義で繰り…

宇井純「公害原論 補巻II(公害住民運動)」(亜紀書房) 希望は個々人が行う住民運動のネットワーク。組織のない運動は長期に継続するのが難しい。

サブタイトルは「公害住民運動」。ここまで(初出1974年)15年続けてきた活動をまとめる。 「住民運動は、何の手引もなく未踏の分野を進まなければならない。そこには多くの困難があり、しかも自分たちの生活を守ることだけが成功の報酬という無償の行動であ…

宇井純「公害原論 補巻III(公害自主講座運動)」(亜紀書房) 著者が現場にいって被害者や支援者を前にした出張講座の記録。

サブタイトルは公害自主講座運動。もともとは東大の開いている教室を使って始めた自主講座。お代は200円。つまらないと思った人には返す。その結果、講師も聴衆も緊張感が出て、長続きする運動になった。そこから各地の公害運動の支援や情報交換役や記録係に…

ラフカディオ・ハーン「怪談・奇談」(講談社学術文庫)-1 日本を舞台にしたゴシックロマンス

ラフカディオ・ハーンは1890年に来日。英語教師をしながら、日本文化を紹介する著作を多数執筆。その中には、日本の民話や怪談などを採集し、英語に書き換えたものがある。本書は、その一部を翻訳したもの。 ★印をつけたのは、1965年公開の小林正樹監督の映…

ラフカディオ・ハーン「怪談・奇談」(講談社学術文庫)-2  日本を舞台にしたゴシックロマンス(2)

2019/09/16 ラフカディオ・ハーン「怪談・奇談」(講談社学術文庫)-1 1900年の続き。 引き続き小説。本書にはハーンの話のもとになった原典も収録されている。解説によるとハーンは日本語を読めなかったので、節子夫人や友人などの語りを聞いて、それを英語…

岡本綺堂「妖術伝奇集」(学研M文庫)-1 「玉藻の前」「小坂部姫」は日本怪奇小説のレジェンド

岡本綺堂の幻想・伝奇・怪異小説。ほかにも大量の長編、短編を書いているのみならず、翻訳をしたり、アンソロジーを編んだりと八面六臂の大活躍。1980年代にモダンホラーが上陸してから、あまり読まれなくなったようだが、21世紀になってたくさん本が出るよ…

岡本綺堂「妖術伝奇集」(学研M文庫)-2 「わが国在来の怪談は辻褄があいすぎる」という苦言

中・長編のあとは、戯曲に短編に随筆。 まずは戯曲から。 平家蟹 1912 ・・・ 木下順二「子午線の祀り」の後日談、というのは、双方の作者に失礼か。壇ノ浦の戦のあと、落ち延びた官女あり。身を隠すに暮らしは立たず、なさけを売る上臈。何の因果か那須与一…

浜尾四郎「日本探偵小説全集 5」(創元推理文庫)-1短編 弁護士が書くと、探偵小説は犯人の自白になる。自発的な告白は正しいのだという暗黙の前提がある。

浜尾四郎は1897年生まれ。東大法学部卒業後、東京地検の検事になり、1928年に辞職して、翌年に「彼が殺したか」でデビュー。4つの長編と15の短編(解説による)を残して、1937年に没。40歳という若さ。 彼が殺したか 1929.01.~02 ・・・ 中島河太郎編「君…

浜尾四郎「日本探偵小説全集 5」(創元推理文庫)-2「殺人鬼」 「グリーン家」の強い影響は受けていても、完全な模倣にはなっていない犯人当て小説。

東京地検の元検事でいまは私立探偵の藤枝真太郎のオフィスに、家が不穏であるので調査と警備をお願いしたいという若い女性がやってきた。聞けば秋川製紙株式会社の社長の娘。この絶世の美人に、藤枝の親友・小川雅夫は一目ぼれ。藤枝に依頼を受けるように薦…

浜尾四郎「鉄鎖殺人事件」(春陽文庫) 3つの物語が同時進行する複雑なプロットも、軽薄なワトソン役のためにユーモア小説になってしまった。

浜尾四郎「鉄鎖殺人事件」が2017年11月に河出文庫に収録された。四半世紀ぶりくらいに入手が容易になった。そこでもう一度読み直した。前回の感想( 浜尾四郎「鉄鎖殺人事件」(春陽文庫)では、サマリーにふれなかったので、あらためて。 前の「殺人鬼」事…

角田喜久雄「日本探偵小説全集 3」(創元推理文庫)-2「怪奇を抱く壁」「高木家の惨劇」 占領期時代の混乱と汚濁を乾いた新しい文体で描く。

角田喜久雄の作品。1906年生まれで 1994年没の長命な作家。作家の活動期間は長い。この全集では戦後の作品が多く収録されていて、戦前は探偵小説よりも伝奇小説(「風雲将棋谷」「髑髏銭」など)を書いていたからだろう。 発狂 1926 ・・・ 悪辣な資本家によ…

大下宇陀児「日本探偵小説全集 3」(創元推理文庫)「凧」「虚像」 謎解きと犯人あてより、犯罪者と被害者の心理、事件に巻き込まれた者たちが演じるドラマがテーマ。 

大下宇陀児の作品。九鬼紫郎「探偵小説百科」(金園社)によると、1898年生まれ1966年没。デビューは1925年というからかなり早い。雑誌「新青年」では乱歩、不木に続く人気作家だったという。この二人がトリックや奇妙な味などの技法にこだわったのに対し、…