odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2011-01-01から1年間の記事一覧

リヒャルト・ワーグナー「ベエトオヴェンまいり」(岩波文庫) 借金でドイツにいられなくなり、パリその他を放浪しながら、金のために書いた20代の小説(のごときもの)

1813年生まれのワーグナーが20代のときに書いた小説(のごときもの、といわざるをえないな)を収録。「妖精」「恋愛禁制」「リエンツィ」などのグランドオペラは書いたものの、売れ行きはさっぱり。借金でドイツにいられなくなり、パリその他を放浪しながら…

リヒャルト・ワーグナー「さすらいのオランダ人・タンホイザー」(岩波文庫) 女性が死ぬことで男性の英雄が浄化される手前勝手なスクリプト(1)

今度は初期の歌劇のスクリプト。 さすらいのオランダ人 ・・・ その昔(いったいいつのことか、帆船航海で喜望峰を目指していたとされるから1400年以降か)、オランダ人の船長が嵐にあい呪いの言葉を口にしたら天罰覿面、7年に一度しか陸地に上陸できず(そ…

リヒャルト・ワーグナー「ロオエングリイン・トリスタンとイゾルデ」(岩波文庫) 女性が死ぬことで男性の英雄が浄化される手前勝手なスクリプト(2)

「トリスタンとイゾルデ」の異本3冊を読んだ後に、ワーグナー自身のものを読むことにする。 2011/12/26 ドイツ民衆本の世界6「トリストラントとイザルデ」(国書刊行会) 2011/12/27 フランス古典「トリスタン・イズー物語」(岩波文庫) 1984年秋にワーグナ…

ブルフィンチ「中世騎士物語」(岩波文庫) 19世紀の前半にアメリカで書かれたアーサー王伝説のダイジェスト。「トリストラムとイザーデ」「聖杯伝説」が収録。

「トリスタンとイゾルデ」のバリアント。今度はイギリスの場合(著者はアメリカ人だけど、この本のもとにした伝承や中世文学はイギリスのもの)。 最初に中世物語の起源が書かれる。きわめて簡略化したまとめをすると、もともとは口承であったのが、11世紀く…

フランス古典「トリスタン・イズー物語」(岩波文庫) 中世最大の悲恋物語を19世紀詩人が復刻すると独り言と内話をする近代人の不倫物語になる。

「トリスタンとイゾルデ」のバリアント。今度はフランスの場合。 「愛の媚薬を誤って飲み交わしてしまった王妃イズーと王の甥トリスタン。このときから二人は死に至るまで止むことのない永遠の愛に結び付けられる。ヨーロッパ中世最大のこの恋物語は、世の掟…

ドイツ民衆本の世界6「トリストラントとイザルデ」(国書刊行会) 中世の文学としては、聖杯伝説と並ぶ最高傑作。ワーグナーの楽劇とは細部が異なる。

「偶然の悪戯から媚薬を飲んでしまった若きトリストラントとイザルデは、道ならぬ恋に陥り、あらゆる制約を超越して、日夜愛の饗宴に酔いしれる。ケルト起源の伝承がフランスを経てドイツ語に移され、ワーグナーのオペラでも知られるこの物語は、中世キリス…

ドイツ民衆本の世界」(国書刊行会) 14世紀に活版印刷が発明されてから、上流階級のとくに女性が読書を嗜み、出版事業が成立するようになった。

馴染みの古本屋にいったところ、この全集がおいてあったので、即座に購入。きちんとした記録を取らない時期の読書なので、内容紹介は簡単でごめんなさい。 民衆本を非常に簡単に説明すると、14世紀に活版印刷が発明されて、最初は聖書や教義文書が作られてい…

イギリス古典「ベーオウルフ」(岩波文庫) 聡明で勇敢な若い英雄も老いると暗愚な王になる。古英語で書かれたもっとも古い文書のひとつ。

1960年代に小学館がカラー版名作全集「少年少女 世界の文学 1〜30巻」を出していた。そのうち2冊を親が買い、小学生の時に繰り返し読んだ。一つは日本のもので、宮沢賢治「風の又三郎」に黒岩涙香「死美人」があり、イギリス編にはスティーブンソン「宝島」…

パイソンズ「モンティ・パイソン正伝」(白夜書房) 20代で成功したコメディアンのスノッブな回想本。

モンティ・パイソンの全番組をそれこそ暗記するくらいに繰り返し見ると、ものたりなくなって(DVD7枚で28時間分くらいか)、それ以外のスケッチもみたくなる。そうすると、4つの映画にドイツ語版、アメリカ公演、結成30周年記念番組まであつめることになり…

須田泰成「モンティ・パイソン大全」(洋泉社) スケッチのセリフを丸暗記するマニアのための番組情報百科。

1975年あたりから親の目を盗んで、深夜にテレビを見ていた。それは「11PM」とか「独占!男の時間」とか、つまりはヌードを見るためだった。裸が出ていない時にはチャンネルを回して(リモコンのないころ)、裏番組を探す。そのときに「モンティ・パイソン…

ポケットジョーク「1.禁断のユーモア」(角川文庫)

落語に興味を覚えることはなかったが、この種の小話は大好きだ。たぶん、短時間で一気にオチをつけるそのスピード感と知的インスピレーションに惹かれるからだろう。長時間のコメディよりも連続するコントのほうが好きなのだ。長尺のコメディ映画はあんまり…

いかりや長介「だめだこりゃ」(新潮文庫)

餓鬼のころに「八時だよ!全員集合」を欠かさず見ていたのだよなあ。最近のバラエティ番組でドリフターズのメンバーが結成当時から上記の番組制作の裏話を話すようになったなあ。wikipedhiaの「ドリフターズ」とメンバーのページは充実していて、読むだけでも…

クラシック・セサミ・ストリート

PDFの自炊を進めることによって、面白いものを発見することがある。その面白さは自分だけのものなのだが、その当時の気分を含めて記憶を掘り起こしてみよう。とはいえ、倉のあるような旧家ではないし、両親は本とは無縁の生活(なにしろ父は斜陽産業の一サラ…

ジョン・ガルブレイス「満足の文化」(新潮文庫)

著者の言によると、20世紀後半になると、19世紀に想定されていたような階級は姿を消した。ブルジョアとプロレタリアという階級の二分はありえない(あれ、ここには農・魚民などの1次産業の従事者と官僚の存在が無視されている)。 かわりに生まれたのが、個…

ヘンリー・クーパーjr「アポロ13号奇跡の生還」(新潮文庫) 大失敗を若い人たちが創意とマネジメントを発揮して運用と説明の責任。こんな事例は日本にあった?

2009年2月8日に「ザ・ムーン」という映画を見た。原題はThe Shadows of the Moonで、月着陸計画のドキュメンタリー。NASAの秘蔵フィルムとこれまで月の地に落りたった12人のインタビューを合わせたもの。これまで見たことのない映像もあれば、30数年前のライ…

バックミンスト・フラー「宇宙船「地球」号」(ダイヤモンド社) 議論は粗雑であって、ほとんどを直観に依拠しているとはいえ、非常に長い射程で物事を見通す眼をもっている。

原著は1969年刊行、邦訳は1972年。入手したのは1988/11/12なので、17年ほど放置していたことになる。しかし、この時期に読んだというのは正解だった。入手した1988年のバブル経済当時においては、自分はその恩恵をこうむることはなかったにしろ、あの浮かれ…

越智道雄「アメリカ「60年代」への旅」(朝日選書)

初出の前年1987年は、サマー・オブ・ラブの20周年記念ということで、アメリカのいろいろな都市で回顧イベントがあったという。この国でも、大学闘争の象徴である東大安田講堂攻防戦から20年がたつころであったが、あいにく昭和天皇の体調不良の自粛騒ぎでな…

ウィリアム・ブラッティ「エクソシスト」(新潮社) 〈悪魔〉のやることはちゃちだが、悪魔を見た人は自分のトラウマ・孤独・暴力性を暴かれてひどく傷つく。

「女優クリスの娘リーガンを突如襲う異変。教会で発見された黒ミサの痕跡。映画監督の惨殺。一連の異常事は次第に《悪魔憑き》の様相を見せはじめた。神父カラスに助けを求めるクリス。が、ここから善と悪との闘争が始まろうとは知るよしもなかった! 壮絶な…

フィリップ・K・ディック「我が生涯の弁明」(アスペクト)

PKD

フィリップ・K・ディック(PKD)が、神秘体験を行い、そのことを考察するノートを書き続けた。初期キリスト教、グノーシス主義、その他をないまぜにした独自の神学を構築し、「VALIS」三部作などにまとめられたことは知っている。1980年代初頭に刊行され…

チャールズ・ライク「緑色革命」(ハヤカワ文庫) サマー・オブ・ラブ時代に先進国で起こった若者・学生の変化を認識しようとする試み。意識の革命が国家を廃絶する。

原著1970年。すぐに邦訳されて当時の学生たちに多く読まれたらしい。真崎守「共犯幻想」で主人公の一人がガサ入れされる直前に、資料を整理するという場面で、彼女の所有する本にスーザン・ソンタグ、吉本隆明といっしょにこの本があった。文庫化は1983年。…

本多勝一「アメリカ合州国」(朝日新聞社) 差別を経験したいなら被差別者と行動すればよい。1960年代の命がけの取材まとめ。

1969年に著者が「アメリカ」という国を取材した時の模様。 1.ベトナム戦争から帰郷したブライ軍曹 ・・・ 1969年はベトナムに派遣された米軍兵士数が最大になった年。この時最初に兵士が撤退された。その黒人軍曹を取材する。白人カメラマンなどと同行した…

ネリン・ガン/グリフィン他「ダラスの赤いバラ・わたしのように黒く」(筑摩書房) 白人ジャーナリストが黒人に変装してもっとも人種差別の激しいディープ・サウスと呼ばれる地域をヒッチハイクした記録。

この国には8月15日や2月26日のように、その日付がある出来事というか感情というか国家と個人の両方の入り混じった記憶や感傷を喚起させる日付がある。アメリカにとっては7月4日と11月22日(あと9月11日)がそれになるだろう。前者は独立記念日、後者はケネデ…

アレックス・ヘイリー「マルコムX自伝」(河出書房新社) Xを名乗ることは差別する社会への闘争を続けるという決意。

革命家、しかも途中で挫折した革命家には、奇妙なことに人気があって、定期的にリバイバルされる。数年前(2000年)にはチェ・ゲバラの青春を描いた映画「「モーターサイクル・ダイアリーズ」が公開され、その10年前にはスパイク・リー監督による「マルコム・…

ジョン・サマヴィル「人類危機の十三日間」(岩波新書) 1962年10月キューバ危機に対応したアメリカ政府の対応をほぼそのまま収録した戯曲。

「ジョン・サマヴィル教授の戯曲『危機』The Crisis の訳である。主題は一見してわかるように、一九六二年のいわゆるキューバ危機を扱った半ドキュメンタリー・ドラマ。キューバ危機とは、一九六二年十月に突発した、文字通り世界が全面核戦争、一触即発の危…

小田実「何でも見てやろう」(河出書房新社) 1957年に、西洋、貧困、知識人を考えながら、一日一ドルで暮らす貧乏旅行を決行。

終わりのところに、この国のインテリが外国とどのように向き合ってきたのかのをある種世代論的に語っている。分かりやすい図式なので、それを書くと、大雑把に明治維新から現在(1960年)までを第1、2、3の3つの世代にわける。最初の世代は、まあ、明治生…

ジャック・ケルアック「路上」(河出文庫) アメリカ人のセルフイメージは20代のはつらつとした青年なんだろう。彼らの厚顔さを見出した感じ。

読んだタイミングが悪かったな。もしも自分が20代で、何をしていいのかわからず、あまりある時間を無為に過ごすことがちっとも惜しくない時代に出会っていたら、この本は聖典のようになっていただろう。さらには、60年代のアングラロックやヒッピームー…

トマス・ピンチョン「スロー・ラーナー」(ちくま文庫) 「少量の雨で」「エントロピー」「秘密のインテグレーション 」

きわめて寡作でありながら、どんな長編を書いてもそれが文学史的事件になるという稀有な作家、ピンチョンの若いころの短編集。「重力の虹」邦訳の出版直前にこの短編集がハードカバーで出版されたが、しばらくして絶版。このほど文庫に収録。とりあえず慶賀…

グレアム・グリーン「おとなしいアメリカ人」(早川書房) 1950年代前半、覇権国から没落したイギリスからみると新しい覇権国アメリカの言動はナイーブなのに厄介ごとばかり起こす青二才。

「ヴェトナム戦争直前のサイゴンで一人のアメリカ人青年が無惨な水死体となって発見された。引退間際のイギリス人記者ファウラーは青年と美しい地元娘を争っていたものの、アジアを救うという理想に燃えていた純真なライバルの死に心を痛める。しかし、ファ…

リリアン・ヘルマン「眠れない時代」(サンリオSF文庫) マッカーシズムの非米活動委員会で証言を拒否し、不幸になることを進んで選ぶ。

「未完の女」は戦争終了までのことがおもに書かれている。そして1976年に出版されたこちらの「眠れない時代」はまさに非米活動委員会の証言の模様が描かれる。 非常に単純化して、この時代とヘルマンのことを書いてみると、 ・非米活動委員会は1937年設立。…

リリアン・ヘルマン「未完の女」(平凡社ライブラリ) 20世紀前半のアメリカでリベラルを貫いた意志の強い女性の自伝。

リリアン・ヘルマンは1905年生、1984年没のアメリカの劇作家。代表作は「子供の時間(1934年)」。しかし彼女の名前は、ダシール・ハメット(ハードボイルド小説の創始者。「マルタの鷹」「血の収穫」など)との同棲生活と、1950年代のマーッカシー旋風時に…