odd_hatchの読書ノート

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日本文学

石牟礼道子「苦海浄土」(講談社文庫)

断続的に発表されていたのを1968年にまとめ、出版された。水俣市に嫁いできた作者が奇病を知り、その被害者のところを訪問するうちに、さまざまなことばを聞く。そのことばが沈潜して、このような「小説」が生まれた。昭和の文学における奇蹟。(渡辺京二の…

石牟礼道子「天の魚」(講談社文庫)

タイトルは「天の魚」。サブタイトルは「続・苦海浄土」。 初出は1972年。 第一章 死都の雪 ・・・ 1971年から72年に代わる時間。水俣病患者たちは団体交渉に応じないチッソに抗議するために東京本社の前に座り込みを始める。 「大道に座りかつねむる、とい…

石川啄木「雲は天才である」(角川文庫)

石川啄木にはほとんど興味はないのだが(一握の砂などのエントリー参照)、角川文庫の小説集は高校時代に読んで、なんだこりゃと思っていた。青空文庫に入っているのが分かったので、読み直してみた。うーん、少し後悔。 石川啄木「一握の砂・悲しき玩具」(…

中島敦「李陵・山月記」(新潮文庫)-1

新潮文庫に収録されていたのは、表題作の他「弟子」と「名人伝」の計4編。ここではさらに青空文庫に収録された短編のいくつかを加える。 1909年生まれ、1942年気管支ぜんそくで33歳の若さで没した。 文字禍 1942.02 ・・・ 昔、アッシリアの博士、エジプト…

中島敦「李陵・山月記」(新潮文庫)-2

2019/01/21 中島敦「李陵・山月記」(新潮文庫)-1 1942年 盈虚 1942.07 ・・・ この難しい字は「盈虚(えいきょ)」と読み、 満ちることと空っぽのことから繁栄と衰退、また月の満ち欠けのことという。さて、紀元前5-6世紀の春秋か戦国の時代。親によって放…

中島敦「光と風と夢」(青空文庫)

「宝島」「ジキル博士とハイド氏」などで知られていたロバァト・ルゥイス・スティヴンスン(本書の表記)は、35歳(1884年)に肺結核で最初の吐血。以来、イギリスを離れて療養に努めてきたが、身体に合う土地は見つからず、1889年になってようやくサモア島…

森敦「意味の変容」(ちくま文庫)

「光学工場、ダム工事現場、印刷所、およそ「哲学」とは程遠い場所で積み重ねられた人生経験。本書は、著者がその経験の中から紡ぎ出した論理を軸に展開した、特異な小説的作品である。幽冥の論理やリアリズム1.25倍論など独自の世界観・文学観から宗教論・…

武者小路実篤「真理先生」(旺文社文庫)

1949-52年にかけて連載されて1952年に単行本にまとめられた著者の60代半ばの長編。個人的な体験を思い出すと、中学一年生の時に旺文社文庫版を購入して読んだ。11歳の早熟な生徒が背伸びして(あるいは早期に厨二病に罹患して)、「真理」の探究を目指したの…

道浦母都子「無援の抒情」(岩波同時代ライブラリ)

著者の大学生時代は全共闘運動と重なる。東京の大学で学生運動に参加し、デモか別の件かで逮捕された経験があり、紆余曲折があって、大学を離れた。その間、短歌を詠み、1980年にタイトルの歌集を出した。過去には学生運動の短歌を作ったものもいたが(岸上…

田村隆一「詩集」(現代詩文庫)

それは堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 上」(集英社文庫)を読んでいた時に不意打ちのように現れた。 「『欠けっぱしだよ……』/と言って、ノートか何からしい紙切れに書きつけたものを見せてくれたことがあった。 空は われわれの時代の漂流物でいっぱいだ…

高見順「死の淵より」(講談社文庫)

高校生の時に、だれもがそうするように、おれも詩を書いたり、読んだりした。自作のものはぜんぜんだめだったので、プロの詩人の作品をあれこれ読んだ。好みがはっきりしたときには、西脇順三郎と田村隆一の二人が気に入った。気に入ると、自作のはますます…

石川啄木「一握の砂・悲しき玩具」(青空文庫)

著者のことはほとんど知らない。高校生の時に唯一の小説「雲は天才である」を読んだが、ピンと来なかった。 石川啄木「雲は天才である」(角川文庫) それ以外は読んでこなかった。それは短歌をどのように読めばよいのかわからないから。もちろんいくつかの…

奥泉光「シューマンの指」(講談社文庫)

音楽好きの高校生たちが、シューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」をなぞって同じ名前のグループを結成し、シューマンが作った「新音楽雑誌」と同じタイトルの雑誌を発行しようとする。それくらいにシューマンへの愛情がある連中なのだ。というわけで、この小…

大西巨人「天路の奈落」(講談社)

1950年のこの国の共産主義運動を自分の知っている範囲で書き出すと、大きなのはレッドパージ。朝鮮戦争勃発後のGHQの指導方針変更(民主主義定着のために労働運動を隆盛にするから、反共へ)があって、公務員や企業労働者のうち党員が解雇された。内部では所…

大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-3

2015/04/07 大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-1 2015/04/08 大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-2 敗戦が決まり、山中などに潜伏していた日本軍兵士が俘虜になる。新旧の俘虜は微妙な違いを見せ、反目する。米軍は豊富な物資と給与を俘虜に与え、衣食住が提供さ…

大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-2

2015/04/07 大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-1 アメリカ軍の捕虜となり、マラリアの治療が進むと、息切れと立ちくらみで動けない。診断は弁膜症。2か月の療養ののちに、病院棟をでて一般収容所に移動する。昔習った英語が、せっぱつまって口からほとばしる…

大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-1

1948年に発表した連作小説。断続的に発表されて、のちに一冊にまとめられた。 戦前に帝国大学仏文科を卒業した男がいる。翻訳の腕を買われていくつかの会社で棒給生活者をしながら、スタンダールの研究をしていた。状況が一変するのは、1944年3月に36歳の高…

竹山道雄「ビルマの竪琴」(新潮文庫)

昭和21から23年にかけて連載された「童話」。童話としてはもとより市川昆監督の映画でも有名。作者の童話/小説はこれだけで、むしろ社会評論で名が知られている。自分はニーチェの翻訳者として知っていた。 15年戦争末期のビルマ戦線。孤立した小隊は部隊長…

石野径一郎「ひめゆりの塔」(旺文社文庫)

昭和19年夏ごろから本土上陸阻止のために、周辺地域の軍配備を強化した。対象になったのは、フィリピン・台湾・沖縄。大本営などは沖縄上陸は当面あとと考えたので、沖縄駐留師団をフィリピンに移動する。本土からは、指揮官・参謀などの少数チームが派遣さ…

野間宏「真空地帯」(新潮文庫)-3

2015/03/27 野間宏「真空地帯」(新潮文庫)-1 2015/03/30 野間宏「真空地帯」(新潮文庫)-2 「暗い絵」「崩壊感覚」でみられた句読点のない長い文章、対象の執拗な描写、内面で噴き出す声、現在と過去のカットバック、生硬な思想を交わす会話、そういう「…

野間宏「真空地帯」(新潮文庫)-2

2015/03/27 野間宏「真空地帯」(新潮文庫)-1 木谷の過去の事件は、当時彼が勤務していた経理部でのできごと。新任の経理部担当尉官が赴任すると、それまでの尉官と対立が生じる。二人は派閥をそれぞれつくり、敵対する。前者がインテリ風で老獪であるとす…

野間宏「真空地帯」(新潮文庫)-1

あれから2年、木谷上等兵が原隊に復帰した。その空白の2年間を知るものは数少ない。時期は1944年1月。イタリアがファシスト政権を倒して連合軍に降伏し、バジリオ政権が樹立したころだ。この国の戦争は各所で膠着状態。その間、この国の戦力はどんどん消耗し…

遠藤周作「沈黙」(新潮社)

これも約30年ぶりの再読(2007年当時)。かつては、フェレーリに導かれて、踏絵を行うロドリゴに痛切なほどの感情移入があって、文字とおり体が震えるほどの感動を得たものだった。とりわけ、深夜の踏み絵のシーン。ロドリゴが「痛い」というとき、その痛みを…

金子光晴「マレー蘭印紀行」(中公文庫)

これは昭和15年(1940年)に出版された紀行文。もとになった東南アジアの渡航体験は、「どくろ杯」「西ひがし」に書かれた1928-31年のときのこと。行きの話もあれば、帰りの話もあって、それはこの本だけではわからない。どの場所の話がいつごろのものかは、…

金子光晴「西ひがし」(中公文庫)

巴里について2年たち、根なし草の生活が板につくようになってきて、詩想も消えていく。それに若くない。妻・三千代は父に預けた子供のことが気になって仕方がない。それにかの国では日本の評判は下がる一方であり、不況はますます肩身を狭くする。ベルギーの…

金子光晴「ねむれ巴里」(中公文庫)

前作「どくろ杯」では、森三千代と巴里に抜けようというところ、上海にカウランプールほかで道草を食うところまで書かれていた。ここでは、先に送り出した森三千代を追って、シンガポールからインド洋にでる貨物船に乗船するところから始まる。そして約2年間…

小川洋子「博士の愛した数式」(新潮文庫)

とても平明な小説であるが、ここにはいくつかの物語がある。大状況にあたるのが、数論とそこから見出される数への愛情と思想。これがミステリーの書き手であれば、数学史まで持ち出して、事件への伏線にするような、意図的で恣意的な博学を持ち出すのであろ…

山口瞳「居酒屋兆治」(新潮社)

プロ野球球団ロッテに村田兆治というピッチャーがいて、めっぽう速球が早かった。先発して9回になっても時速150kmの速球を投げられるのが自慢だった。彼とか、山田久志とか東尾修とか鈴木啓示とか1970年代のパシフィック・リーグにはよい投手がいてもTV放送…

渡辺淳一「白い宴」(角川文庫)

1968年8月8日にこの国の最初の心臓移植手術が行われた。その日は、東海村の実験用原子炉が稼働を開始した日だった。ガキだったので、これらの出来事は未来を明るくすると信じていた。のちに、いずれもそう単純ではない、多くの人の批判にさらされた忌まわし…

「立原道造詩集」(角川文庫)

これは学生時代に読んだな。記録を見ると、購入したのは1979年の学園祭の前日だ。うーん、何を感じて購入したのだろうか。個人的な追憶で甘さと苦さを感じてしまう。 それはさておき、なるほど25歳で亡くなったこともあり、詩作活動がごく若いうちに行われて…