odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

科学を考えるときに考えておくとよいこと

カテゴリー「科学史」をクリックすると、このエントリーを最初にして、科学史に関する本が並ぶ。カテゴリーで表示された順番に読むと、科学の歴史を概観することができる。 で、その前に「科学」を考えるときに考慮したほうがよいことをいくつか述べてみる。…

吉田光邦「日本科学史」(講談社学術文庫) 日本の科学とタイトルにあるが、中身は文学史。明治以降の記述は雑。

厳密に言えば、「科学」の方法と思想はヨーロッパ由来のものなので、日本の科学史は幕末から明治にかけて洋書を購入したりお雇い教師を招いたりしたところから始まる。そうすると日本の「科学」はたかだか200年にも満たないような歴史しか持っていない。われ…

村上陽一郎「ペスト大流行」(岩波新書) 1337年からのパンデミック。人口の大減少は封建社会を終わらせ、民族・人種差別を助長した。

エーコ「薔薇の名前」の舞台は北イタリアの修道院。時は1327年。この数年後の1337年に中央アジアあたりから蔓延してきたペストが、南ヨーロッパ(ギリシャとかトルコあたり)に上陸した。約7年間、ヨーロッパ全域で猛威をふるった。当時のヨーロッパの人口は…

小田垣雅也「キリスト教の歴史」(講談社学術文庫) 西のキリスト教会が世俗化していった千年の歴史は裏西洋哲学史。

「旧約聖書を生んだユダヤの歴史から説き起こし、真のイエス像と使徒たちの布教活動を考察。その後の迫害や教義の確立、正統と異端との論争、教会の堕落と改革運動など、古代から中世を経て近代、現代に至るキリスト教の歴史を、各時代の思想、政治・社会情…

生松敬三/木田元「現代哲学の岐路」(講談社学術文庫) 近代批判、合理主義批判、科学批判としての現代哲学の源流を探る。西洋哲学初心者向けの簡便な見取り図。

1976年に中公新書ででたものを1996年に文庫化したもの。1930年前後に生まれた二人の対談で、19世紀から現在までの思想を概括したもの。哲学書を読み始めたものにとっては、それまでの読書の結果を位置づけていくいい指導書になるのではないかしら。デカル…

村上陽一郎「科学史の逆遠近法」(講談社学術文庫) 初期の「自然科学」は科学と神秘思想のアマルガム。啓蒙主義時代に神秘思想と縁を切った。

読了2回目。前回は非常に興奮したのだが、今回は冷静に。 主題は、16世紀の科学革命(コペルニクス、ケプラー、ガリレオなど)が中世の混迷した非合理的思考を批判、排除するなかから生まれたというこれまでの科学の発達史の説明は不十分。むしろ、彼らはプ…

レオナルド・ダ・ヴィンチ「手記 1」(岩波文庫) 15世紀のヨーロッパは博物学と科学と芸術に区別がなかった。

「近代」というのもなかなかあいまいな言葉で、科学や哲学で見れば、ガリレオやデカルトに始まるということになっているみたい。その前には、占星術師で天文学者であるようなティコ・ブラーエ、コペルニクスという人たちもいることになる。そのような系譜の…

デカルト「方法序説」(岩波文庫) 根無し草の生活をする亡命者が〈この私〉を語ると哲学そのものになる。

最初に読んだのは、落合太郎訳の岩波文庫だった(本文より訳注のページ数が多いというのに驚愕。これが学問なのかとその高さに呆然とした)。あとで小場瀬卓三訳角川文庫も読んだ。今調べると、 谷川多佳子訳岩波文庫、 山田弘明訳ちくま学芸文庫、野田又夫…

デカルト「哲学原理」(岩波文庫) スコラ哲学風に書かれていて「方法序説」より後退したようにみえるが、林達夫によると教会の弾劾を避ける戦略だとのこと。

「哲学原理」は「方法序説」第4部以降にデカルトがこれは確実な知識あるいは原理だと「証明」したものを箇条書きにまとめたもの(原本からそうであったかは不明。もう少しあとに編集された本によるのではないかな)とされる。前半第1部には「我思う故に我あ…

ブレーズ・パスカル「科学論文集」(岩波文庫) 「真空」が地上に存在することを実験と観察で証明する。パスカルの「科学的方法」は彼の哲学を構成する重要な一部。

「パンセ」を読んだことはないので、「考える葦」にも「賭け」にも何かいうことはない。そのかわりに、このような「科学」論文は楽しんで読む。科学に括弧を添えたのは、まだこの時期の一部の科学は哲学の一分野であったから(このように限定するのはたとえ…

コペルニクス「天体の回転について」(岩波文庫) コペルニクス的転回の原著は占星術師でもあった学者が書いたピタゴラス幾何学を駆使した中世スコラ哲学的書物。

「天と地をひっくり返す」というのは驚愕を表す最上級の表現として、カント以来有名なのだが、その元になった「コペルニクス的転回」を記した書を読む。1543年刊行。 コペルニクスの業績については、トーマス・クーン「コペルニクス革命」(講談社学芸文庫)を…

トーマス・クーン「コペルニクス革命」(講談社学術文庫)-1 コペルニクスは占星術師で新プラトン主義者。プトレマイオス宇宙論を補強するために地動説を提案した。

ハーバード大学での講義録をまとめて1957年に発表。コペルニクスの「革命」とは何か?ということを考えた。重要なのは2点で、ひとつは現代の知識で彼とその知見を評価しないこと。現代の視点や価値が投影されて、遅れた彼ら-進んだ我々という偏見をもってし…

トーマス・クーン「コペルニクス革命」(講談社学術文庫)-2 コペルニクス自身は「革新」を主張しない。影響を受けた人たちがのちに新しい宇宙観をつくる。

続いて後半はコペルニクスの革新とその影響について。面白いのは、コペルニクスはのちの「革新」にあたることを一切主張していなかった。のちの人は、コペルニクスの宇宙観(地球を宇宙の中心から外し、球体であるとする)がもつ可能性に魅かれて、新しい発…

ハーバート・バターフィールド「近代科学の誕生 上」(講談社学術文庫) 古代から15世紀までのおもに力学と天文学の歴史。1949年の講義録なので他文明の影響は記述されない。

「世界中のあらゆる人が、地球は宇宙の不動の中心だと信じていたときに、地球は太陽のまわりを回る一天体にすぎないと主張し、説得するのはどんなに大変なことだったろう。近代科学の誕生までには、コペルニクス、ガリレオ、ケプラー、ニュートンをはじめと…

ハーバート・バターフィールド「近代科学の誕生 下」(講談社学術文庫) 16-17世紀に力学と天文学で起きた「科学革命(クーンの概念とは異なる)」。社会の変化と要請で科学は変わる。

上巻のエントリーは、 2013/02/11 ハーバート・バターフィールド「近代科学の誕生 上」(講談社学術文庫) 下巻は18世紀から19世紀まで。 近代化学のはじまり ・・・ 力学と天文学の空間は均一で、なにかで充満している必要はないことから、その中の物質は分…

荒俣宏「目玉と脳の冒険」(筑摩書房) 荒俣版「教科書が書かない生物学史」。「目玉」と「脳」を使う博物学は実験の生物学に変わる。

荒俣版「教科書が書かない生物学史」みたいなものかな。生物学史を教科書的に書くとすると、まずアリストテレスの動物誌があり、長期間をあけてハーヴェイの血液循環理論になり、レーヴェンフックの顕微鏡の発明と細胞の発見、リンネの近代分類学、パスツー…

杉田玄白「蘭学事始」(岩波文庫) 実証主義的・論理的な思考の持ち主が書けば、1811年の本も現代語同様に読める。蘭学は、天才がいない、共同研究グループが行った

蘭学創始期の記録であるこの書があることは知られていたが、原本の行方は要としてわからなかった。明治維新の直前、安政大地震で焼失したものと思われていたのだ。しかし、明治初年の前の年、神田の古本屋で発見された。それに喜んだ福沢諭吉が明治2年に復刻…

トマス・ハックスリー「科学談義」(岩波文庫) 個人の科学研究費調達のために開かれた科学の講演会に教養を求める大衆は熱中した。

著者は、ジュリアン(「進化とは何か」講談社ブルーバックス)とオルダス(「すばらしい新世界」講談社文庫)の祖父。若いときには、イギリス海軍の軍医として博物学旅行を行い、帰国後はロンドン大学の理学部教授として生理学を研究する。現在の生物学教科…

チャールズ・ダーウィン「チャールズ・ダーウィン」(岩波文庫) 孫による世界的博物学者の記録。伝記の元ネタ。

チャールズの第三子フランシスの記したチャールズの記録。初出は1892年。邦訳は1927年で、生物学者で進化論の紹介者である小泉丹が行った。自分のもっているのは1987年の第3刷。旧字旧かなで、活字はところどころつぶれているという状態。 ダーウィン家 ・・…

グレゴール・メンデル「雑種植物の研究」(岩波文庫) 実験デザインが重要、生命現象を個別から一般記述に変更、確率と統計を博物学に導入。結論よりもこの点を読み取りましょう。

グレゴール・メンデルは1822年生まれで1884年没。モラヴィア地方にいた。教職志望であったが検定試験に2度失敗し、僧職につく。29歳のとき、僧院の推薦でウィーン大学に留学し、主に物理学を研究。帰国後、僧院の教職につき、博物学・物理学全般を指導。あわ…