odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

西村京太郎

西村京太郎「天使の傷痕」(講談社文庫) 作者の実質的デビュー作品(乱歩賞受賞作)だがまだまだ技術は不足。

1965年の乱歩生受賞作。このとき作者西村京太郎は35歳。エンタメ作家としては遅いデビューだが、この15年後から屈指のベストセラー作家になって、毎年の高額納税者(文芸部門)で赤川次郎とトップを分け合っていた。すでに税務庁が発表しなくなったので…

西村京太郎「D機関情報」(講談社文庫) 1944年のスイスを舞台にしたスパイ小説。右翼がリベラルに目覚めるというとても珍しいテーマ。

西村京太郎デビュー直後の1966年に発表した長編。時代は1944年で、舞台はスイスの有名都市。日本人が主人公だが、ほとんどのキャラは現地及び周辺国の人たちだ。高度経済成長中、日本人が海外出張しているのと同期した小説として読んでみたい。 第二次大戦末…

西村京太郎「太陽と砂」(講談社文庫) 総務省がイメージする「二十一世紀の日本」に沿うようにこしらえた迎合と翼賛の小説。

この小説の来歴は少し変わっている。1967年に総務省が「二十一世紀の日本」をテーマにした懸賞小説を募集した。これに当時新進作家だった西村京太郎が応募して、賞金500万円を手に入れた。すでに乱歩賞も受賞していたが、ヒットに恵まれていたわけではない作…

西村京太郎「殺しの双曲線」(講談社文庫) 雪の閉ざされた山荘テーマに気を取られると冒頭の「双生児トリック」宣言を忘れる

冒頭で作者はこの推理小説は双生児トリックを使っていると明記している。奇術ではよくある趣向(入れ替わりや瞬間移動など)だが、ノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則でも、双生児を登場してはならないという一項があった。19世紀末の短編探偵小説全盛…

西村京太郎「発信人は死者」(光文社文庫) 敗戦から30年たっても消えない戦争責任の追及。団塊世代はインターナショナルをめざす。

1960-70年代のこの作家の仕事はとても力が入っている。ミステリや推理小説には入らない作品だし、サスペンスというにはいささか浮世離れした荒唐無稽さがあるのだが、それでもこの作品を書きたいという意欲がとても強く伝わってくる。 1977年、アマ無線のマ…

西村京太郎「七人の証人」(講談社文庫) 全財産をはたいて無人島に事件現場を再現し、七人の証人を集め過去の事件の証人尋問をやり直す。コスパがあうのかと突っ込むのはなし。

西村京太郎は「名探偵」シリーズをかいたように、ミステリマニアなのであって、1970年代の長編には「本格推理」を少しひねった趣向で書いたものがあるのだ。この「七人の証人」はノーマークだったが、カバー裏表紙のサマリーを見て読むことを決めた。 十津川…

西村京太郎「名探偵に乾杯」(講談社文庫) 名探偵は死なず、ただ消えゆくのみ。探偵小説は名探偵と一緒に消えるか

1976年の初出の名探偵シリーズ第4作。 名探偵はいかに老後を過ごすべきかに悩む明智小五郎。小林少年も腹の出た中年になり、美泳子という20歳過ぎの娘がいるくらい。おりしもポアロ死去の報がとどき(「カーテン」1975年)、憂鬱は深まる。そこで、ポアロ招…

西村京太郎「名探偵も楽じゃない」(講談社文庫) 社会派推理小説全盛期に書かれた名探偵待望論。古い名探偵たちの王位継承の物語。

1973年初出の名探偵シリーズ第3作。 冒頭に名探偵待望論というのが書かれていて、実際に当時の探偵小説作家の間で論争があったのではなかったかな。都筑道夫のエッセイでその模様を書いていたのがあるが、どの本にあったのかもタイトルもわからない。まあ、…

西村京太郎「名探偵が多すぎる」(講談社文庫) パロディ尽くしの探偵vs怪盗。知的挑戦という以外なんのインセンティブもない怪盗一座の奮励努力。

明智小五郎が世界の名探偵(クイーン、ポアロ、メグレ夫妻)を別府温泉に招待した。神戸から別府に行く夜間フェリーに乗っていると、アルセーヌ・ルパンが乗船しているのがわかる。彼は世界の名探偵に挑戦するというのだ。運の悪いことに宝石商が時価一億円…

西村京太郎「名探偵なんか怖くない」(講談社文庫) マニアが書いた世界4大名探偵の競演。これを受け入れる読者のすそ野も広がっていた。

1971年初出の名探偵シリーズ第1作。 大富豪の佐藤大造氏が、世界の名探偵4名を自宅に招待した。アメリカのエラリー・クイーン、イギリスのエルキュール・ポアロ、フランスのメグレ警部、日本の明智小五郎(当時、江戸川乱歩以外は存命)。府中で起きた三億円…