odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

東野圭吾

東野圭吾「超・殺人事件 推理作家の苦悩」(新潮文庫) 作者と読者が小説内存在にされると可能になる「トリック」集成

2001年の作。推理作家が推理小説を書いている、あるいは読者が推理小説を読んでいると、さまざまなトラブルと誘惑とアドバイスがやってくる。その先にある売れ行きと賞賛の期待ないし落胆。推理作家はほんと、つらいよ。 超税金対策殺人事件 ・・・ 大いに売…

東野圭吾「虚ろな十字架」(光文社) 犯罪者を更生できない司法制度を「虚ろな十字架」と呼ぶのだが、俺に言わせれば虚ろなのは本書のほう

サマリーをしっかり書く気にならないので、wikiを参照。あいにく出版社の紹介ページに書かれたものは雑すぎて引用に堪えない。 「11年前、娘を強盗に殺害された中原道正は、当時の担当刑事だった佐山の訪問を受け、今度は離婚した元妻の小夜子までも刺殺され…

東野圭吾「人魚の眠る家」(幻冬舎文庫) 身体に対する決定権をだれが持つかというテーマがありそうだが、そこまで到達しないまま事件は終わった

医療用機械を製造しているメーカーの社長一家。円満な夫婦に見えたが、亀裂がある。離婚しようかという話のさなか、娘4歳がプールでおぼれ脳死と判定された。脳死を認められない妻は、娘を引き取って介護をし、社長は自社の開発チームの一部を娘の機能回復を…

東野圭吾「名探偵の掟」「名探偵の呪縛」(講談社文庫) 「本格探偵小説」の啓蒙と小説の構造の意図的な破壊。長編はたいしたことない。

サマリーを書くのは面倒なので、このサイトを紹介して終了。 higashinokeigo.net ステロタイプなキャラクターがステロタイプな登場人物を相手にステロタイプな「本格探偵小説」向きに設定された事件をステロタイプな謎解きをする。この国ではミステリーが大…

東野圭吾「ダイイング・アイ」(光文社文庫) バブル崩壊後の20世紀末日本はまだ浪費が可能なほど「豊か」だったのだなあ(嘆息)

「雨村慎介は何者かに襲われ、頭に重傷を負う。犯人の人形職人は、慎介が交通事故で死なせた女性の夫だった。怪我の影響で記憶を失った慎介が事故について調べ始めると、周囲の人間たちは不穏な動きを見せ始める。誰が嘘をつき、誰を陥れようとしているのか…

東野圭吾「夢幻花」(PHP文芸文庫) クライムストーリーをつまにした若者二人の恋の物語

「花を愛でながら余生を送っていた老人・秋山周治が殺された。遺体の第一発見者である孫娘・梨乃は、祖父の庭から消えた黄色い花の鉢植えが気になり、ブログにアップする。 それを見て身分を隠して近づいてきたのが、警察庁に勤務するエリート・蒲生要介。ふ…

東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(角川文庫) 道徳の規範である「神」を持たないこの国では、告解や懺悔の仕組みはないので、「世間」を相談先にする。

2012年、悪事を働いた若者3人組が、廃屋に逃げ込む。そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨屋。廃業して無人の店内に、郵便口から手紙が投函される。その手紙は悩み相談だったが、どうも昔の時代のものらしい。なにしろインターネットもケータイも知らな…

東野圭吾「禁断の魔術」(文春文庫) 「科学者が責任を取る」という主人公のことばはうすっぺらかった。

湯川とかいう物理学の准教授のもとに、高校生がやってきて、部員獲得のためのデモンストレーションのアイデアを相談する。数回打ち合わせをしたあと、連絡はなくなったが、突然刑事がやってきて、高校生のことを教えろという。聞くと、高校生は行方不明、そ…

東野圭吾「マスカレード・イブ」(集英社文庫) 「マスカレード・ホテル」の前日譚。紋切型と古いジェンダー観。

2014年8月に刊行された。この年の夏には、「マスカレード・ホテル」と本作「マスカレード・イブ」の大々的なキャンペーンがうたれ、どうやら売れているよう。販促や宣伝の事情はよく知らないが、入手したので読んでみた。 「マスカレード・ホテル」の主人公…

東野圭吾「マスカレード・ホテル」(集英社文庫) ホテル専属探偵がいない日本では警察がホテルに乗り込む。クライムミステリーと同時進行するハーレクインロマンス。

ホテルの主要スタッフが呼び出され、警察が内密に潜入捜査をすることになった、ついては各部署に数名の警官が配置されるから、君たちはホテルマンとしての教育をするようにと命じられる。このとたんに、筒井康隆「富豪刑事」連作の「ホテルの富豪刑事」、都…

東野圭吾「パラドックス13」(講談社文庫) 極限状態は法を書き換えるが、男は性差別を乗り越えられない

ある日あるとき、上から13時ちょうどから20分まで行動を控えろという指示が下りてきた。おりから暴力団だかやくざの一斉検挙の突入時刻。躊躇する警視庁グループの前で、所轄の巡査が突入してしまった。追いかけて止めようとしたところ、相手は発砲。その直…

東野圭吾「プラチナデータ」(幻冬舎文庫) アイデアやテーマを持っていながら、どれも深めることなく放りっぱなし。ベストセラーはそうしたもの。

何度も自分に「考えるな、感じろ」と言い聞かせながら読んだ。 DNA解析技術が大進歩し、遺留品からDNAを採取すれば人の形質(外見、身体的特徴、遺伝的疾患など)がプロファイリングできる(すごく強い遺伝子決定論だな、おっと考えるな、感じろ)。そのうえ…

東野圭吾「虚像の道化師 ガリレオ7」(文芸春秋社) 大仰な言葉のわりに、内容が追いついていないけど、ベストセラーはそうしたもの。

帯には「ガリレオシリーズ最新刊」と書いてあるが、いったいなんのこっちゃ。そんなタイトルのTVドラマがあるらしいのを新聞のTV欄でみたことがあるから、たぶんそれなのだろう。不可解な事件があって、捜査に行き詰まった警察官が大学の物理学教授の助けを…