odd_hatchの読書ノート

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上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-1 家父長制と資本制は市場とそれ以外の空間を支配する構造としてできている

 これまでの経済学では市場・企業・家庭を一人格に扱い、中にいる個人を取りあげることはなかった。また自然を無限とみなして収奪してきたが(同時に農村の「余剰」人口を労働者に吸収し続けてきた)、再生産も無限とみなして対価をはらわずに再生産の場である家庭を収奪してきた。市場そのものはある規模以上にならず好況と不況の循環をするが、外部にある自然と家庭を破壊することで市場を大きくしてきた。家庭は家長による権力は格差と差別の構造をもっているが、資本主義になると家庭は収奪されているにもかかわらず、家長は家庭の女と子供と老人を収奪する構造を残した。家父長制と資本制は市場とそれ以外の空間を支配する構造としてできている。以上俺のまとめ。

 

1 理論篇
マルクス主義フェミニズムの問題構制 ・・・ 近代資本主義は不経済を自然と家庭に押し付けてきた。家庭に労働力の再生産と労働できなくなったもの(老人、病人、障害者)の援助を押し付けコストを支払わない。それは家庭の女性に押し付けられた。市場でも女性は労働者として男性と対等な立場に立てなかった。この不利益と不合理から女性が解放されるには、家父長制と資本制を批判する理論と思想が必要。参照するのはフロイトマルクス
(市民革命は自由と平等を目指したが、ここでいう市民は参政権を持つ成人男性のことなので、女性は人権対象から排除された。女性は二流紙民。ブルジョア婦人解放論は男性優位を前提にしているので、ダメ。被害者救済に注力すると被害者を生む構造を批判しないので、女性解放には至らない。)

フェミニストマルクス主義批判 ・・・ マルクス主義の階級分析では女性は対象外になる。女・こども・老人は労働市場に現れないため。マルクスは家庭(性と生殖)を「自然過程」としたが、これは時代風潮の繁栄で限界。女性は労働市場で二流労働者であり、家庭で不均衡な権力関係の下位にいる。社会的経済的に支配されている。資本は労働の生産物に対する対価を支払ったのではなく、労働力の再生産に対する対価しか支払わなかった。

家事労働論争 ・・・ 家事労働は、市場が商品化しなかった労働で、おもに家庭内で行われ、女性が担当し、無権利で、無償の労働。GNPなどの経済指標に算入されない。利益を得るのは男と市場。家事労働は近代の資本主義と社会構成が産み、「主婦」に押し付けたもの(日本では戦後のようだ)。
(それ以前は家事使用人を雇える身分や立場があった。武士の「奥様」は労働しなくてよい身分で、家政をつかさどる権力を持っていた。結婚は女性が帰属関係を変えられるほとんど唯一の機会で、うまくいけば主婦になって家事労働から解放されることができた。)
(この読みでは、網野善彦「日本の歴史をよみなおす」(ちくま学芸文庫)の「女性をめぐって」も見直さないといけない。またドストエフスキーの女性が結婚にこだわるのも、この指摘から考えなおしたほうがよい。)

家父長制の物質的基礎 ・・・ 家父長制は、男性による女性支配で社会権力体制の総体。家庭で家父長制があるので、女性は父の権力、夫の権力に支配される。女性は賃労働から排除され、無償の家事労働を押し付けることで低い位置づけに封じ込める。家庭が神聖不可侵の私的領域化されると、DVと児童虐待の温床になる。
(経済学は、国家・企業・家庭を対象にしてきたが、個人を除外ないし無視してきた。家事労働がGDPに算入されない理由のひとつ。

再生産様式の理論 ・・・ 再生産には、1.生産システムそのものの再生産、2.労働力の再生産、3.人間の生物学的再生産があるが、生産至上主義では再生産の意義をとらえることに失敗している。民族学などの知見では、「未開社会」では生産と再生産はトレードオフにならない、女性は生産者であった。それが家父長制と資本制によって、女性は再生産しかできないという観念になった。

再生産の政治 ・・・ 再生産が女の無償労働で賄われることで、女性は性支配と世代間支配にさらされる。具体的な現れは、避妊と生殖の自己決定権を奪われる、再生産費用(と介護)の負担は不平等で女の負担が大きい、男性は費用負担が少なく女性は現物費用(手間)を支払いそれにより生産収入を減らさざるをえない、生まれた子供の帰属は父系集団に属しがち(最近の「共同親権」の主張がまさに父系を強めるためのもの)、親による子供の支配や経済的依存がありとくに娘と嫁に負担がいく。子供数は子供の経済的価値(プロフィット)とコストのバランスで決まるが、高学歴社会になるにつれて子供の経済的価値が低くなり、子供を産みたがらなくなる。性支配と世代間支配を強めると、少子化になり、子供は「ぜいたく品」になる。
(バイオポリティクスでも買い手は男、売り手は女という不均衡が生じる。)
(なるほど自民党日本会議統一教会が家族主義の政策を主張し政策に反映されるほど、少子化が進むのだし、DVや親族殺人が増えるのだ。)

家父長制と資本制の二元論 ・・・ 家父長制と資本制は相互に関係しながら別個であるというのが著者の考えだが、他の論者には統一理論(どっちかが別のどっちかの由来・起源である)と考える人もいる。そういう議論のまとめ。

 

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2024/04/18 上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-2 を変えないと、女性問題は解決しないし、男も資本制や家父長制から解放されない。 1990年に続く