odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

湊かなえ「ポイズンドーター・ホーリーマザー」(光文社文庫) 事件に巻き込まれたり、事件の当事者を知っている女性のナラティブ。

事件に巻き込まれたり、事件の当事者を知っている女性のナラティブ。 マイディアレスト ・・・ 妊婦殺害事件の調査聞き取りの記録。父の存在が薄く、独占欲の強い母にネグレクトされ、勘気の強い妹にバカにされている、空想癖のある女性。疎外が強まるにつれ…

村田沙耶香「コンビニ人間」(文春文庫) ドスト氏「地下室の手記」第2部の思想性のない女性版。

感想が書きにくいなあ。悪口をいいだしたらとめどなくなりそうだけど、そうすると自分の社会や他人に対する偏見をあらわにすることになりそう。なので、ブッキッシュな話題で韜晦することにしよう。 他人と道徳や規範を共有していなくて、他者危害をしてしま…

池井戸潤「アキラとあきら」(徳間文庫) 21世紀のゼロ年代にはうまくいきそうな経営判断は10年代の低成長と諸外国の伸長では成功するかなあ。

零細工場の息子・山崎瑛と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向…

佐伯泰英「万両ノ雪 居眠り磐音(二十三)決定版」(文春文庫) 時代小説は日本的な英雄を主人公にしたホームドラマ。テーマは現状維持で政権擁護。

新聞広告でこのシリーズの宣伝が派手に行われているのを見てきたが、興味をひかれたことはない。なぜか手元に回ってきたので、読んでみた。このシリーズの23巻ということだが、その前がどうなっているかは知らない。 「磐音不在の江戸を島抜け一味が狙う!/…

東野圭吾「虚ろな十字架」(光文社) 犯罪者を更生できない司法制度を「虚ろな十字架」と呼ぶのだが、俺に言わせれば虚ろなのは本書のほう

サマリーをしっかり書く気にならないので、wikiを参照。あいにく出版社の紹介ページに書かれたものは雑すぎて引用に堪えない。 「11年前、娘を強盗に殺害された中原道正は、当時の担当刑事だった佐山の訪問を受け、今度は離婚した元妻の小夜子までも刺殺され…

東野圭吾「人魚の眠る家」(幻冬舎文庫) 身体に対する決定権をだれが持つかというテーマがありそうだが、そこまで到達しないまま事件は終わった

医療用機械を製造しているメーカーの社長一家。円満な夫婦に見えたが、亀裂がある。離婚しようかという話のさなか、娘4歳がプールでおぼれ脳死と判定された。脳死を認められない妻は、娘を引き取って介護をし、社長は自社の開発チームの一部を娘の機能回復を…

エルンスト・F・シューマッハー「スモール イズ  ビューティフル」(講談社学術文庫) 経済学にしては内容が薄く、哲学にしては粗雑だが、不安を持っている人々の気分と行くべき方向を示してベストセラーになった警世の署。

10年前の初読では経済学にしては分析が甘いし、哲学にしては考えが粗雑で保守的だし、どこがベストセラーになったのか不思議に思ったものだ。今回の再読では、ある程度理由が分かった。 シューマッハは1911年ドイツのボン生まれ。経済学を学び、のちにケイン…

ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上」(日経ビジネス文庫)-1 20世紀初めの市場の失敗、後半の政府の失敗の経験を通じて、市場と国家の線引きや関係を考え直す。

スミスやマルクスの経済学には国家が(ほとんど)登場しないが、20世紀以降、国家は市場に介入するようになる。1930年代の世界不況で市場が失敗してから。市場では利益のでない事業を国家が行うようになり、国家は福祉サービスを提供した。これは自由主義経…

ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上」(日経ビジネス文庫)-2 アメリカと西ヨーロッパ以外の国。戦争による荒廃と不況から脱出するには、国家の指導と支援が必要だった

2020/11/17 ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上」(日経ビジネス文庫)-1 1998年続き 上巻の後半は、アメリカと西ヨーロッパ以外の国々をみる。WW2以前から資本に乏しく、金融制度が不十分で、自国内の技術革新が見込めない国々は、戦争による荒廃と不況…

ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 下」(日経ビジネス文庫)-1 計画経済から市場経済に移行するにあたって、政治体制の変化が起きた国を概観する。

2020/11/16 ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上」(日経ビジネス文庫)-2 1998年の続き 下巻の前半の章は、計画経済から市場経済に移行するにあたって、政治体制の変化が起きた国を概観する。変革、改革、革命などさまざまな手法によって政治体制が変化し…

ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 下」(日経ビジネス文庫)-2 福祉国家や社会民主主義、あるいは資本主義は、国家によって形態が様々。21世紀に経済はグローバル化し、国家は閉鎖的になる。

2020/11/13 ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 下」(日経ビジネス文庫)-1 1998年の続き 福祉国家や社会民主主義、あるいは資本主義は、国家によって形態が様々。本書だけをみても、どの産業を国家が所有するかはとても違いがある。イギリスでは炭鉱が、フ…

ティム・ハーフォード「まっとうな経済学」(ランダムハウス講談社)-1 「覆面経済学者」が市場で人々が行う行動を観察して、経済学の知識で解釈する。

原題は「Undercover Economist」で作中では「覆面経済学者」と訳される。市場(マーケットだけではなく金融市場も)を訪れて、人々が行う行動をみて、それを経済学者の知識で解釈する。もちろん個々人の行動や選択は千差万別でランダムであるが、ある程度の…

ティム・ハーフォード「まっとうな経済学」(ランダムハウス講談社)-2 先進国の豊かな社会で成功した人なので、論調も市場経済を擁護する保守的なもの。

2020/11/10 ティム・ハーフォード「まっとうな経済学」(ランダムハウス講談社)-1 2006年の続き 後半は雑多なテーマ。大きくみると、市場の失敗の克服というところか。 第6章 合理的な狂気 ・・・ 予測可能な情報を収集して合理的に思考すると、予測不可能…

橋本努「経済倫理 あなたは、なに主義?」(講談社選書メチエ) 経済倫理のイデオロギー8つを比較検討。著者の作った48の質問に答えて、政治的自由度と経済的自由度の評点を作ろう。

自分の主義主張を言語化して、一貫した形式(イデオロギー)にしてみよう。首尾が一貫していると他人への説得力が増す。とはいえ、イデオロギーは環境に規定されていて、考えるたびに変化する。首尾一貫そのものには価値がないので注意。判断や是非をつけら…

北山俊哉/真渕勝/久米郁男「はじめて出会う政治学 -- フリー・ライダーを超えて 新版」(有斐閣アルマ)-1 大学の新入生向けテキスト。前半は政治と経済と社会について。

大学の新入生向けテキスト。高校までの覚える授業から考える講義になるにあたって、大学生が自発的・積極的に政治をみられるようにする。そのために卑近な日常のできごとがイントロになり、そのあとに考える枠組みを提示するという仕掛けになっている。もと…

北山俊哉/真渕勝/久米郁男「はじめて出会う政治学 -- フリー・ライダーを超えて 新版」(有斐閣アルマ)-2 大学の新入生向けテキスト。後半は政治のしくみと世界とのかかわりについて。

2020/11/05 北山俊哉/真渕勝/久米郁男「はじめて出会う政治学 -- フリー・ライダーを超えて 新版」(有斐閣アルマ)-1 2003年の続き 2020年にこれを読むと腹が立つねえ。20年前(手持ちの「新版」は2003年改訂)の著者が能天気におもえるのと、現実の政治が…

加茂利男/大西仁/石田徹/伊藤恭彦「現代政治学 新版」(有斐閣アルマ)-1 2012年版。できるだけ新しい版で読むことを推奨。

初版が1998年で、新版が2003年。改定が繰り返され、最新版は2012年の第4版。章立てはほぼ同じ(一部差し換え)だが、事例が変わったと思う。できるだけ新しい版で読むことを推奨。 はじめに―政治学との「出会い」序 章 政治学のアイデンティティー ・・・ 政…