odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2014-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ジョン・ディクスン・カー「ハイチムニー荘の醜聞」(ハヤカワ文庫) 1865年倫敦の幽霊屋敷。黒づくめの誰かが深夜に屋敷を徘徊している。

時代は1865年。ディケンズやコリンズの同時代。この国に住むものでは、この年代は明治維新のころなので、時代小説や捕り物帳を読むようなものだが、イギリスではちょっとふるい現代小説という趣かな。テクノロジーはもちろんないに等しいにしても、社会の構…

東野圭吾「マスカレード・ホテル」(集英社文庫) ホテル専属探偵がいない日本では警察がホテルに乗り込む。クライムミステリーと同時進行するハーレクインロマンス。

ホテルの主要スタッフが呼び出され、警察が内密に潜入捜査をすることになった、ついては各部署に数名の警官が配置されるから、君たちはホテルマンとしての教育をするようにと命じられる。このとたんに、筒井康隆「富豪刑事」連作の「ホテルの富豪刑事」、都…

東野圭吾「パラドックス13」(講談社文庫) 極限状態は法を書き換えるが、男は性差別を乗り越えられない

ある日あるとき、上から13時ちょうどから20分まで行動を控えろという指示が下りてきた。おりから暴力団だかやくざの一斉検挙の突入時刻。躊躇する警視庁グループの前で、所轄の巡査が突入してしまった。追いかけて止めようとしたところ、相手は発砲。その直…

石川淳「普賢」(集英社文庫)

著者の昭和10年代の作品を収録。あまり作者の経歴は知らないのだが、最初はフランス文学の研究者として出たのではなかったかな。ジイドの翻訳一冊があって(新潮文庫に「背徳者」が収められていた)、翻訳はそれきりにした。で「佳人」が最初の作。「普賢」…

石川淳「白描」(集英社文庫)

昭和14年1939年に連載された。 物語のときは昭和11年夏。場所は東京。まず鼓金吾なる青年が登場する。木彫り職人の息子で無学な少年だ。父が彫った木彫りを納品する工芸品店の中条兵作の奸計で、田舎家の留守番に仕立て上げられる。そこにはアルダノフとリイ…

石川淳「癇癖談」(ちくま文庫)

江戸時代の古典の現代語訳。「宇比山踏」を除いて昭和17年に刊行された。どうしてこのような現代語訳をしたのか、なにかの雑誌に初出があるのかは不明。まあ、この時代、作家は自作の小説を発表することはほとんどかなわず、蟄居生活に入っていた。そのとき…

石川淳「焼跡のイエス・処女懐胎」(新潮文庫)

読み始めて異様に思うのはいつまでたっても読点を迎えない文章で、一文が40字詰めで3行4行続くのはあたりまえ、1ページに喃喃とする文章は珍しくもなく、途中で会話が加わってようやく読点を見出すという次第。そのうえ文節ごとに景色は変転し、人間の感…

石川淳「石川淳集」(新潮日本文学33)

「石川淳集」(新潮日本文学33)の収録のうち、「荒魂」以外の短編について。半分は他の文庫と重複している。 普賢 1937 ・・・ 「普賢」(集英社文庫)と重複。焼跡のイエス1946 ・・・ 「焼跡のイエス・処女懐胎」(新潮文庫)と重複。処女懐胎 1947 ・・…

石川淳「おとしばなし」(集英社文庫)

「おとしばなし」は昭和24年から昭和31年までのあいだに発表された。おとしはなしは歴史書の登場人物を肴におもしろき冒険をさせて、最後の一句で落ちをつけるとでも思いなせえ。 おとしばなし堯舜 1949.05 ・・・ 4000年もたって舜は豆腐専門店を作った…

石川淳「新釈古事記」(ちくま文庫)

関東生まれ関東育ちが、北九州地方に行くと、神社がたくさんあることに気付く。太宰府天満宮にいくと、社の後ろに小さな社殿(という呼び名で正しいのかしら)があって、そこに「大国主命」「天照大御神」などがあたりまえなように書いてあって、感動した。…

石川淳「荒魂」(新潮日本文学33)

まず「佐太」が物語に投げ込まれる。「うまれたときはすなわち殺されたときであった」とされる佐太は、長じても自我とか主体とかには無縁。喋る言葉も少しはもっていたが、両親と村を捨て、町の路地に行き着いた時には、喋る言葉も失う。それは彼が社会と絶…

石川淳「至福千年」(岩波文庫)

ころは安政二年(1858年)。6年前のペリー来航以来、幕府と首都の混乱が高まる。なにしろその後立て続けにイギリス、フランス、ロシア各国が来日し、開国と通商条約締結を要求するからだ。この変事にあたリ指導力を発揮する幕臣はまずでることがなく、ずるず…

石川淳「狂風記」(集英社文庫)-1

まず、裾野がある。 「なんという木か、途方もなく大きい木が一本、もろに横だおしに、地ひびき打って・・・…その木はだいぶまえから日でりにも風雨にもそこに野ざらしになっているようだから、たったいま落ちかかったわけではないが、それでもくるぐろとし…

石川淳「狂風記」(集英社文庫)-2

2014/08/11 石川淳「狂風記」(集英社文庫)-1 このように人々は現世の利得を図って物事を判断し、行動するのであるが、ごく少数が過去と歴史のうちにおのれを見出そうとする。すなわちマゴであり、ヒメである。マゴは流浪の身。誰を父とし、誰を母とするか…

石川淳「狂風記」(集英社文庫)-3

2014/08/11 石川淳「狂風記」(集英社文庫)-1 2014/08/08 石川淳「狂風記」(集英社文庫)-2 作家の小説では、ある人物Aが登場すると、関係者(親子、夫婦、部下上司、幼馴染など)であるBが現れる。二人の話のあとには、Bの関係者であるCが登場。Cの…

石川淳「六道遊行」(集英社文庫)

六道とは仏法で言う天上から地獄までの六つの世界のこと。たいていは死んでは別に生まれ変わり、前世の行いで持って次の道が定まるのであるが、ここに上総の小楯なる盗賊の頭は大杉の精・白鹿の導きによって、奈良の時代と昭和の時代を行き来することになっ…

石川淳「天門」(集英社)

「遠矢東吉」が物語の中に突然放り出される。彼は出生の親を知らない。誰かが引き取り、「祖母」と暮らしたのだが、5歳の時、盗癖の収まらない東吉をいさめた後、縊死をとげた。東吉は祖母の足に抱き着いたのが、それが死を早めたのではないかという負い目が…

金子光晴「マレー蘭印紀行」(中公文庫) 1930年前後のマレー半島、日本を背負えば文無し根無し草でも安全で傲慢な旅ができる。

これは昭和15年(1940年)に出版された紀行文。もとになった東南アジアの渡航体験は、「どくろ杯」「西ひがし」に書かれた1928-31年のときのこと。行きの話もあれば、帰りの話もあって、それはこの本だけではわからない。どの場所の話がいつごろのものかは、…

金子光晴「西ひがし」(中公文庫) 西洋では都市を歴史と知識で観察できるが、シンガポールやマレー半島ではエロスに誘惑される。

巴里について2年たち、根なし草の生活が板につくようになってきて、詩想も消えていく。それに若くない。妻・三千代は父に預けた子供のことが気になって仕方がない。それにかの国では日本の評判は下がる一方であり、不況はますます肩身を狭くする。ベルギーの…