2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧
1920年代の長編探偵小説黄金時代の劈頭を飾る大作(1922年)。1970年代までミステリ初心者の必読作品とされた名品。初読の高校生(記憶は中学生だが、記録は高校生。うーん俺の記憶はどうなっている)の時は、もちろんびっくりしましたよ。それからだいぶた…
小説家のロジャー・シェリンガム氏は犯罪学に興味をもっている著名人(貴族の弁護士に、劇作家に、探偵小説家に……)を集めて「犯罪研究会」を主宰していた。きわめて厳格なメンバーシップを決めていたので、定員13人のところ6人しかいない。このメンツでいつ…
文庫のサマリーから。 「<ピカデリー・パレス・ホテル>のラウンジで休んでいたチタウィック氏は、目の前で話し合っている二人連れにいつとはなしに注目していた。年配の女性と若い赤毛の男。とそのうちに、男の手が老婦人のカップの上で妙な動きをするのが目…
「スティーブンソンが『カトリアナ』のなかで、こういった縛り首の死体をジャンピング・ジャックと呼んでいなかったか。ということは、女性ならジャンピング・ジェニィだろう(P17)」 1920-30年代に地方の閑なアッパークラスの人たちは、互いに招待しあって…
劇作家シェルダン・ギャレットは自作の劇上演でイギリスに呼ばれた。お茶が好きなので(アメリカ人にしては珍しい)、喫茶店に入る。ふと隣の客の会話を盗み聞きしてしまった。女二人の声で、なにごとか犯罪を計画しているらしい。首謀者は「エヴァンス」と…
評論家でオカルト研究者のコリン・ウィルソンが1975年になぜ警察小説を書いたのか、といぶかったが、思い返せば著者は殺人事件情報のコレクターでもあった。自分が読んだのは「現代殺人百科」「殺人ケースブック」の二つだが、ほかにもたくさん出ていた。 警…
1915年、大西洋航行中のルシタニア号がドイツ潜水艦の攻撃を受けて沈没。1200名の死者を出し、700名あまりの生存者がいた。沈没に際し、人格の高潔さと低劣さを示すさまざまな出来事があったらしい。本書にでてくるのは架空の事件だが、グラナドスが似たよう…
初出の1986年はまだソ連があって、西側と対立。イデオロギーの対立は外交や軍事の対立にもなり、互いの秘密暴きにやっきになっていた。ときに敵対国を支持することに熱心なあまり、極秘情報を敵対国に流すことも起こる。そういう人が見つかると当然収監され…
個人的な思い出から。敗戦後すぐ(1947年)に出版された本は、伯父が買ったものだ。後に大学教授になった伯父は独身時代に集めた本を兄の家に大量に残していた。自分が子供のころに手元に移動したのか(処分したのか)、ほとんどの本はなくなったが、数冊が…
2023/02/18 野口米次郎「野口米次郎定本詩集 第3巻」(友文社)「印度詩集」-1 1947年の続き ではテキストを読んでいこう。参考にできるのは本書のみ。他の資料は一切見ないで、書かれていることだけで感想を書いていく(専門家ではないので、そこまでの手間…
ベンガル美人 一度彼女を見た、しばしば彼女を見た。彼女は消えたが、わが夕の空に残した輝きの一つ星・・・その額に印さる小さき紅の符号。黄金の縁取れる水色のサリー身に纏い、椅子に横たわる彼女をわれは見た、恋を夢見る一匹の蛇。微笑む彼女を見た・・…
野口米次郎定本詩集第3巻 印度詩集 01の続き アジャンダ壁画題賛 何と言う気違いじみた生の追求だ、幸福の世界を称える飾りなき歌、彼らは今日の法悦に全身を供える、自分共は人間の歴史から分離して、花や鳥の生活に帰へる。直截に、衝動的に、自由に、彼ら…
野口米次郎定本詩集第3巻 印度詩集 02の続き 賢い人は語るらく 「存在」の戸は錆びたり、開け放ち、君の心に狂喜の風を吹き入れよ・・・風だ、風だ、風だ。風に時代の塵を一掃させ、風に吹き飛ばされて、人生を改まるという世界の涯へ。廃墟を見ること長きに…
雨のラクノウ 秋雨が降る、歌の遺産を心の酒杯にそそぐ、妖魔は器用で愛すべし、お前は糸を紡いで、銀針金の小さな籠を編む。猿はお尻と額を赤く塗る、樹下の聖者を気取るぶら提灯、或は枝から枝へと橋をかける虹。花は恋の格子戸により添って、恥ずかしそう…
野口米次郎定本詩集第3巻 印度詩集 04の続き 真夜中の散歩 甘い強い花の香気が鼻をつく。真暗でも何かしらない花が一面に咲いていることが知れる。道は広いか狭いか分らない・・・小さい柔軟でしかも粘り強い鳶のような雑草が、両側を覆っているらしい。私は…
野口米次郎定本詩集第3巻 印度詩集 05の続き そよ吹く四月よ漂泊ふ四月よ そよ吹く四月よ、漂泊ふ四月よ、 .お前の音楽の律動で私を揺さぶれ。甘い驚愕で私に触れ、お前の妖術で私の枝を慄かせよ。お前は路傍の眠りから私を驚かし、私は人生の夢から目覚めさ…
野口米次郎定本詩集第3巻 印度詩集 06 タゴール叙情詩 劇詩の続き アマとヴァナヤカ(劇詩) 戦場の一室、アマは父ヴァナヤカに出会う。 ヴァナヤカ回教徒の夫を恐れない無恥の浮気女め。お前が呼ぶお父さんは我でない。 アマあなたは不誠実にも私の夫をお殺し…
野口米次郎定本詩集第3巻 印度詩集 07 タゴール「アマとヴァナヤカ(劇詩)」の続き ソマカとリトヴィク(劇詩) ソマカ王は幽霊戦車に乗って天国へ急ぐ途中、路傍に他の幽霊団を見る。そのなかに嘗てリトヴィク王室の高僧であったリトヴィクがいる。 声王様、何…
野口米次郎定本詩集第3巻 印度詩集 08 タゴール「ソマカとリトヴィク(劇詩)」の続き 母の祈願(劇詩) カウラワの盲目王ドリタラシュトラと女王ガンダリの子ヅュチョダナは、従兄弟であるバンダバの諸王から領土をいかさま手段によって奪った。 ドリタラシュト…
自分が知っている日本の19世紀の歴史は1960年代の研究で止まっているので、比較的最近の研究をまとめたものを読む(初出は2006年)。これまでは「日本の歴史」として記述してきたが、当時の世界情勢(ウィーン体制、ルイ・ボナパルト即位、阿片戦争、クリミ…
2023/02/07 井上勝生「幕末・維新」(岩波新書)-1 2006年の続き 本書で気の付いたのは、江戸時代と明治時代の境界をひかないこと。大政奉還、江戸開城、天皇入城のようなあるできごとで区別されたとしない。次第に江戸幕府の権威が落ち、明治政府の命令に従…
初読は高校3年の春。大学受験が終わり、結果発表を待っている間だった。この本を読んだ理由は単純で、受験勉強中に司馬遼太郎「竜馬がゆく」を読んでいたから(中学1年以来2回目)。龍馬の生涯を別人による記述で確かめたかったのだ。司馬の小説は1964-67年…
「武士」とはどういう存在だったかは自明のように思えるが、そのような階級が無くなって150年もたつと、時代劇・小説や歌舞伎に描かれた武士が実在していたかのようにおもう。これが極右やネトウヨになると、日本人の精神を代表する存在に化けてしまう(江戸…
2023/02/02 高橋昌明「武士の日本史」(岩波新書)-1 2018年の続き 前2章で歴史的変遷をみてきたが、こんどは武芸や戦闘行為をあきらかにする。自民党、極右、神道系宗教、ネトウヨなどがいう「武士」「武士道」は胡散くさいものだという印象があったが、そ…