odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

トンデモ

渋澤龍彦「黒魔術の手帖」(河出文庫) 1960年代の悪魔学は神学論争を無視して、ミソジニーまみれ。

日本の悪魔学の始まりは本書をみると日夏耿之介。そのあと、入獄中か出獄後の埴谷雄高が独学で勉強したらしい。その次が、本書の著者になる。と見立ててみた。本書は1960-61年に連載されたエッセイを収録したもの。おりしも日米安保で世情騒然としているころ…

エマニュエル・スウェデンボルグ「霊界からの手記」(リュウ・ブックス) 現代のオカルトやスピリチュアリズムの源流は神なき18世紀思想のアマルガム。

幽霊やオーラを見ることができる知り合いが何人かいて、ときどき霊を見たという話をしてくれる。聞くと、彼ら、「見える」ひとたちは自分のような凡庸な人とは別の苦労をしょっているみたい。子供のころから霊的体験による恐怖に会うとか、メンターについて1…

中谷巌「資本主義はなぜ自壊したのか」(集英社) グローバル資本主義の克服のカギになるのは自然と文化一体の日本モデルと主張するトンデモ本。

新古典派経済学者で、レッセ=フェールの信奉者で、小泉内閣の構造改革推進論者で、いくつもの経済政策を提言してきた著者が、2006-2008年ころのさまざまなできごと(リーマン・ショック、格差社会、無差別殺人、医療の崩壊、食品偽装など)にショックを受け…

松本清張「日本の黒い霧」(文春文庫) GHQの内部資料がほとんど公開されていなかった時代の「権力は怖いがスパイに気をつけろ」というGHQ陰謀論。

1950年前後の占領統治下にあった日本の奇怪な事件をレポートした著作。下山事件、帝銀事件、伊藤律の除名、松山事件、朝鮮戦争の勃発など。多くの場合、GHQの陰謀があるのではないか、GHQ内のG2(参謀部)とGC(民政局)の確執に原因があるのではないか、と…

明石散人「七つの金印 」(講談社文庫) 「知の巨人」は陰謀論とアカデミズム批判が大好き。他人が誤っていることは自分が正しい理由にならない。

「志賀島の「漢委奴国王」の金印。福岡藩の学者亀井南冥は、明らかに異例な第二の藩校を金印発見と同じ月に開校する。発見に関わった人達が全て南冥と繋がりのある不思議。発見日の記載がない鑑定書。国宝金印は本物なのか?歴史をつくり出す者、謎を解き明か…

長山靖生「偽史冒険世界」(ちくま文庫) 21世紀の陰謀論や歴映捏造は20世紀前半からあった。

われわれの世界認識の方法はたいてい文書や文字によって作られて(なにしろ子供のころの体験だけでは世界の全体を把握することができず、そのような見取り図が簡単に手に入るのは書物なのだから)、たいてい理想主義的なエートスがあり、現実との葛藤におい…

高木彬光「邪馬台国の秘密」(角川文庫) 魏志倭人伝の記録と人の運動能力と若干の地図だけで「邪馬台国」問題を解いても、歴史理解には役に立たない。

「邪馬台国はどこにあったか?君臨した女王・卑弥呼とは何者か?この日本史最大の謎に、入院加療中の名探偵・神津恭介と友人の推理作家・松下研三が挑戦する。一切の詭弁、妥協を許さず、二人が辿りつく「真の邪馬台国」とは?発表当時、様々な論争を巻き起こし…

高木彬光「成吉思汗の秘密」(角川文庫) 源義経=ジンギスカン説は1920年代に唱えられたトンデモ歴史学。忘れられていたので本書はベストセラーになった。

高校生の時には感激して読んだ。 「昭和 32年、名探偵といわれた神津恭介が東大病院に入院し、探偵作家の松下研三と暇つぶしに義経=ジンギスカン説の推理を始める。奥州藤原氏三代の富貴栄華の源泉は北海道を越えて、樺太、シベリアの黄金入手にあり、これ…

津村喬「危ない食品から家族を守る法」(光文社) マクロビオティックと呼ばれるトンデモ食養療法が出たばかりの頃の礼賛本。

1983年初出。現在は絶版中。 第1部は現代(当時)の食に関連する社会の状況や企業活動がいかに問題があるかの指摘。肉に関しては薬漬け、密飼い、検査の不十分なままの食材提供。魚に関しては近海の汚染による漁獲量の低減、遠海におけるトロール漁法による…

今西錦司/柴谷篤弘「進化論も進化する」(リブロポート) 自然選択と適応が嫌いな今西進化論は五族協和八紘一宇の日本型共同体主義のいいかえ

この本は、1983年夏に、今西錦司と柴谷篤弘が「今西進化論」について談論した記録。米本昌平の発案をリブロポートという出版社が企画して実現した。その背景になったのは、柴谷篤弘が「今西進化論批判試論」という本を出版していたから。もう少し背景を説明す…

今西錦司「進化とはなにか」(講談社学術文庫) 格段に情報量が増えた時代から今西進化論を見直すと誤解と牽強付会ばかりのトンデモ学説。

2008年11月5日に、大分市と別府市の境にある高崎山モンキーセンターを観光した。昭和30年代初期に、ニホンザルの被害にあっていたころ、当時の大分市の市長の発案で山中の寺でニホンザルの餌付けを行う。数年したら複数のグループが毎日定期的に通うようにな…

ライアル・ワトソン「生命潮流」(工作舎) この本にでてくる「百匹目のサル」「グリセリンの同時結晶化」は作者の作り話。

ここでの主題は、生命探究の還元主義批判で、すべてをDNAとその発現機構だけで説明するのはおかしいというもの。こういう機械論の考えでは説明つかないものがたくさんあるよ、そして科学のもっている手段では発見することのできないシステムが生物にはあ…

ローレンス・D・クシュ「魔の三角海域」(角川文庫) 日本近海はバミューダ・トライアングル同等の危険地帯。な、なんだって!

バミューダ・トライアングルについての与太話を楽しもうと思ったら、これは個々の事例についての調査報告。およそ100例の事件について当時の新聞記事にあたるなどして、ほとんど疑問のない事故なんだよ、真相は不明とはいえ理由は推測可能な範囲(ハリケーン…

アンドルー・トマス「太古史の謎」(角川文庫) 太古の叡智を復活せよというが、本書は知的レベルが低くてつきあっていられない。

中身は新たな「ヘルメス学」。ヘルメス・トリメギウスの書いた古い書物に世界の謎が記載されていたが、それは失われてしまった。だから、現在の問題(なぞ)の答えは古代に埋もれている、ということらしい。 十字軍遠征のあと、アラビア語に翻訳されていたプ…

フランク・エドワーズ「世にも不思議な物語」(角川文庫) オカルトはできごと以外のメッセージを隠し、否定された情報を再発信する不誠実な運動

1970年代のユリ・ゲラーと映画「エクソシスト」に代表される一連のオカルト・ブームに合わせて角川文庫が大量に「超自然の謎」シリーズを出版した。1978年の「スター・ウォーズ」上映で一気にブームが去り、その後再販されていない(一部は別の文庫で再刊さ…

コナン・ドイル「霧の国」(創元推理文庫) 妖精写真を本物と信じ込んだ作者のスピリチュアリズム宣伝本。心霊術は陰謀論と秘密結社と紙一重。

コナン・ドイルが晩年に心霊術に凝ったことは有名。少女が撮影した妖精写真を見て、妖精実在を論証したという論文を書いたり(1980年代になってから本人が偽造であることを証言したので、ドイルには気の毒)、西洋・アメリカで心霊術に関する講演旅行を行っ…

バーバラ・スィーリング「イエスのミステリー」(NHK出版) 史的イエスの謎解き本。最大のトリックは本書を宗教書や歴史書にカテゴライズしたこと。

歴史ミステリーという分野は特殊で、作るほうとしては敷居が高いと思うが、これは成功した事例だ。しかも、歴史ミステリーとしては新しい試みをしている。1.現在をさかのぼること約2000年昔の事件を題材にしている。創作ミステリーでは古代エジプトを舞台…