odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

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PKD フィリップ・K・ディック INDEX

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<短編> 2018/10/04 フィリップ・K・ディック「地図にない町」(ハヤカワ文庫) 2018/10/02 フィリップ・K・ディック「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック I」(サンリオSF文庫) 2018/10/01 フィリップ・K・ディック「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディッ…

フィリップ・K・ディック「地図にない町」(ハヤカワ文庫)「薄明の朝食」「輪廻の豚」 1976年にでた本邦初の短編集。ファンタジー多めの選択。

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フィリップ・キンドレッド・ディック(PKD)は1927年生まれ。職業を転々と変えながら(ときにレコード店員も。なので作品中にレコードや音楽の話がよく登場する)、短編を書いていた。デビュー作は1952年の「輪廻の豚」 Beyond Lies the Wub。以後1959年まで…

フィリップ・K・ディック「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック I」(サンリオSF文庫)「変種第二号」「報酬」「パーキイ・パットの日」

ジョン・ブラナー編「 The Best of Philip K. Dick (1977)」 の邦訳。二分冊の第一巻。一時期「パーキー・パットの日々 /ディック傑作集 (1)」のタイトルでハヤカワ文庫にでていた(一部新訳)。ハヤカワ文庫はPKDの短編集を再編集して6分冊にし、巻ごとの…

フィリップ・K・ディック「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック II」(サンリオSF文庫)「おとうさんみたいなもの」「父祖の信仰」「時間飛行士へのささやかな贈物」

ジョン・ブラナー編「 The Best of Philip K. Dick (1977)」 の邦訳。二分冊の第二巻。一時期「時間飛行士へのささやかな贈物 /ディック傑作集 (2)」のタイトルでハヤカワ文庫にでていた(一部新訳)。ハヤカワ文庫はPKDの短編集を再編集して6分冊にし、巻…

フィリップ・K・ディック「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック III」(サンリオSF文庫)「ゴールデン・マン」「ヤンシーにならえ」「小さな黒い箱」「融通のきかない機械」

マーク・ハースト編、『 The Golden Man (1980) 』 の邦訳。二分冊の第一巻。 「はじめに」 Foreword /マーク・ハースト 「まえがき」 Introduction ・・・ 記載からすると「暗闇のスキャナー」と「ヴァリス」の間に書かれた。散漫な内容ではあるが、気にな…

フィリップ・K・ディック「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック IV」(サンリオSF文庫)「マスターの最期」「CM地獄」「まだ人間じゃない」

マーク・ハースト編、『 The Golden Man (1980) 』 の邦訳。二分冊の第二巻。 「フヌールとの戦い」 The War with the Fnools 1969.02 ・・・ 間抜けな侵略者。身長二フィートで全員同じ格好と姿。でも、人類はずっとしてやられて、絶滅寸前。最前線ではうん…

フィリップ・K・ディック「ウォー・ゲーム」(朝日ソノラマ文庫)「ハンギング・ストレンジャー」「根気のよい蛙」「展示品」世界も自分も信用ならないものになるという恐怖。

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「顔のない博物館 (1983) 」北宋社のうち3編を入れ替えた文庫本。のちに同じタイトルでちくま文庫から短編集がでていて、「ウォー・ゲーム」「ドアの向うで」「萎びたリンゴ」が重複。 2018/09/18 フィリップ・K・ディック「ウォー・ゲーム」(ちくま文庫)…

フィリップ・K・ディック「悪夢機械」(新潮文庫)「訪問者」 「超能力世界」「少数報告」

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1987年に訳者の朝倉久志が編集した短編集。それまでにでていた8冊の短編集と重複しない作品を選んだという。 「訪問者」 Planet for Transients 1953.10-11 ・・・ 核戦争から300年。地球は放射能に汚染され、ミュータントが生きている。地下に逃れた人間の…

フィリップ・K・ディック「模造記憶」(新潮文庫)「この卑しい地上に」「ぶざまなオルフェウス」「追憶売ります」

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1989年に訳者の朝倉久志が編集した短編集。それまでにでていた8冊の短編集と重複しない作品を選んだという。 「想起装置」 Recall Mechanism 1959.07 ・・・ 戦災救済課という役人が精神分析医に相談。高いところから落ちる夢を見て怖いと思う。トラウマのせ…

フィリップ・K・ディック「人間狩り」(ちくま文庫)「ナニー」「火星探査班」  代表作を網羅した初心者向け短編集。

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早くからPKDを紹介してきた仁賀克雄さんが編集したPKDの短編集(1991年初出)。過去に訳出した短編集(「顔のない博物館」北宋社と「人間狩り」集英社 ワールドSFシリーズと「ウォー・ゲーム」朝日ソノラマ文庫から選択し、初紹介作品を一つ追加した。前二冊…

フィリップ・K・ディック「ウォー・ゲーム」(ちくま文庫)「ジョンの世界」「パットへの贈り物」テーマは非人間とのコミュニケーションの不全。

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早くからPKDを紹介してきた仁賀克雄さんが編集したPKDの短編集(1992年9月初出)。「ウォーゲーム」(朝日ソノラマ文庫)とは別に編集された短編集。「ウォー・ゲーム」「ドアの向うで」「萎びたリンゴ」が重複。 2018/09/25 フィリップ・K・ディック「ウォ…

フィリップ・K・ディック「ウォー・ベテラン」(現代教養文庫)「髑髏」「トニーとかぶと虫」戦争と差別煽動の危機を描いたものを集めた短編集。

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早くからPKDを紹介してきた仁賀克雄さんが編集したPKDの短編集(1992年12月初出)。「人間狩り」「ウォー・ゲーム」と続いた三冊目。これで編集はいったん区切りをつけるとのこと。収録短編はすべて本邦初訳。 「髑髏」 The Skull 1952 ・・・ 22世紀。ハン…

フィリップ・K・ディック「永久戦争」(新潮文庫)「地球防衛軍」「変数人間」 PKDの戦争はどこか奇妙。

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1993年に訳者の朝倉久志が編集した短編集。それまでにでていた8冊の短編集と重複しない作品を選んだという。新潮文庫のPKD短編集はこの三冊で打ち止め。 「地球防衛軍」 The Defenders 1953.01 ・・・ 米ソ間の冷戦は8年前に全面戦争になった。核兵器が使わ…

フィリップ・K・ディック「宇宙の操り人形」(朝日ソノラマ文庫/ちくま文庫)

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これからPKDの長編のレビューをするが、配列はポール・ウィリアムズ編「フィリップ・K・ディックの世界」(ペヨトル工房)の長編作品一覧に基づくことにした。すなわち、PKDの長編には死後出版されたものがあり、出版年と執筆順は一致しない。この「フィリッ…

フィリップ・K・ディック「偶然世界」(ハヤカワ文庫)

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「偶然世界(太陽パズル)」。1954年12月13日SMLA受理、1955年出版。PKDの出版された第一長編。すでに大量の短編を書いていて、その実績をもとにエースブックスから2長編を一冊にまとめたペーパーバックスとして出版された、のでよかったかな(このあたりの…

フィリップ・K・ディック「ジョーンズの世界」(創元推理文庫)

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PKDの長編は複数の主人公がいて、それぞれが物語をもっている。ここでもそう。なので、ストーリーに沿ったまとめにはしないで、主人公たちに注目するようにして。 大状況は、他惑星への移住や冒険宇宙船が飛んでいるころ(ただし社会のしくみや生活は1950年…

フィリップ・K・ディック「虚空の眼」(サンリオSF文庫)-1

1959年10月2日、カリフォルニアに建造された陽子ビーム偏向装置が、始動初日、暴走事故を起こした。居あわせた八人の男女は、陽子にさらされ、高みから投げ出される。サンリオSF文庫には登場人物票がないので、自分が補足。 ジャック・ハミルトン: ミサイ…

フィリップ・K・ディック「虚空の眼」(サンリオSF文庫)-2

2018/09/07 フィリップ・K・ディック「虚空の眼」(サンリオSF文庫)-1 1957年 多元宇宙とか平行世界などで語られることが多いようだが、そこは素通りすることにして。 陽子ビーム偏向装置の放出したエネルギーで吹き飛ばされた先の世界。読者の物理現実や執…

フィリップ・K・ディック「いたずらの問題」(創元推理文庫)

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20世紀半ばの「浪費の時代」は1980年代の戦争によって終わった。廃墟のなかからストレイターズ大佐の主導する道徳再生運動(モラル・レクラメーション:略称モレク)が起こり、以後世界はこの運動下に再編成される。人々は集合団地ごとのブロックにまとめら…

フィリップ・K・ディック「小さな場所で大騒ぎ」(晶文社)

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まず前史に当たる話はこうだ。東海岸で勉学中のヴァージニアはナンパにあってロジャーという青年と懇意になる。彼は素朴な機械工。うだつをあげようとロスアンジェルスに行こうとする。というのは、ラジオの修理ができ、テレビが爆発的に普及するからチャン…

フィリップ・K・ディック「時は乱れて」(サンリオSF文庫)

1950年代のアメリカの田舎町。スーパーマーケットを開いている夫婦。そこに寄宿している独身の夫の弟。彼は仕事につかず、毎日新聞の懸賞クイズを解いている。「小さな緑の男」が次に行く先を1026のマス目の中から予測するのだ。この懸賞に独身男レイグル・…

フィリップ・K・ディック「戦争が終り、世界の終りが始まった(ジャック・イジドアの告白)」(晶文社)

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フィリップ・K・ディックの小説でも「普通小説」なのでと油断したのか、ひどく気分を滅入らせるなあ。なにしろ、登場人物の全員が愚かしく、人を傷つけてばかりなのに、俺自身とそっくりなところをもっていて、彼らが語ったり行動したりするたびに、苦笑しな…

フィリップ・K・ディック「高い城の男」(ハヤカワ文庫)-1

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PKDの小説では、しばしば社会はきわめて不合理でどのようなルールでうごいているのはまったくわからなかったり、理解不能・コミュニケーション不能な存在に支配されている。いわば「狂った世界」である。その狂った存在は不可視であることが多いのだが、この…

フィリップ・K・ディック「高い城の男」(ハヤカワ文庫)-2

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2018/08/28 フィリップ・K・ディック「高い城の男」(ハヤカワ文庫)-1 1962年 以上の大状況は正面きっては書かれず、この状況に翻弄される主人公たちの会話の端々で垣間見えるに過ぎない。なので、メモを取るなどして、把握しておくことが必要。 占領者の側…

フィリップ・K・ディック「高い城の男」(ハヤカワ文庫)-3

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2018/08/28 フィリップ・K・ディック「高い城の男」(ハヤカワ文庫)-1 1962年 2018/08/27 フィリップ・K・ディック「高い城の男」(ハヤカワ文庫)-2 1962年 人為的に狂った世界に置かれている作中人物は、不合理や不条理や暴力などを妄想であるとか、誰か…

フィリップ・K・ディック「あなたを合成します」(サンリオSF文庫)

通常は中期から後期をつなぐ作品とされている。ここではポール・ウィリアムズ編「フィリップ・K・ディックの世界 消える現実」(ペヨトル工房) の長編作品一覧に基づき、1962年10月4日SMLA受理の日付を優先する。刊行は1972年。SMLAの日付を優先すると、作…

フィリップ・K・ディック「火星のタイムスリップ」(ハヤカワ文庫)

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(以下の感想で「自閉症」「分裂症」などを使いますが、作中の用語として扱います。現実の症状とは一致しないことをご了解ください。) 火星の植民が開始されたが、あまりの不毛さに自給自足は遅々として進まない。脱出するものもおおい(なので映画「ブレー…

フィリップ・K・ディック「ブラッドマネー博士」(サンリオSF文庫)

西メイン州の田舎町。狭い町で、人々がうろちょろ。PKDの眼は、社会的な弱者に注がれる。たとえば、デレビ販売&修理店の店員でちょっと頭のあたたかい黒人スチュアートであり、1964年生まれの「海豹(ママ)」男の少年であるホッピィであり(同年におきたサ…

フィリップ・K・ディック「タイタンのゲームプレーヤー」(創元推理文庫)

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近未来。世界戦争が起きて、中国の兵器によって人口激減と出生率の極端な低下が起きている。老化除去手術で長命になったが、タイタンの知的生物であるヴァグによって緩やかに支配されている。このヴァグは人間と似た形態になることもできて、外見では見分け…

フィリップ・K・ディック「シミュラクラ」(サンリオSF文庫)

ともあれ大量のキャラクターが数ページごとにでてきて、それぞれのオブセッションにとらわれている悪夢や不安を語っている。失業、オーディション不合格、赤字続きの事業、特権階級からの蔑視、体臭恐怖症、政府に監視されている不安、不倫が発覚する恐れな…