odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧

伊藤計劃「ハーモニー」(ハヤカワ文庫) 未来を苦慮することのない社会に異端児が生まれたら。ディストピアにいながらそれが天国であると思う大衆・民衆・個々人があることに驚く。

この世界は核による「大災禍(メイルストロム)」によって破壊されてしまった。というのは、1970年代からよくあるエコロジーSFの定番の設定。ちょっとちがうのは、このあと少数になった人類は安定して調和ある社会を作り上げた。成人になるとWatchMeなるアプ…

伊藤計劃「虐殺器官」(ハヤカワ文庫) 20世紀の戦争は総力戦と絶滅収容所、21世紀の戦争はテロリズムと大量虐殺

アメリカの情報軍特殊検索群i分遣隊所属のクラヴィス・シェパードは、軍の指令を受けてテロリストや敵対国家の要人を暗殺する職務についている。ロシアと隣接する中央アジアで、プラハで、ヴィクトリア湖周辺で、彼はさまざまな作戦にかかわってきた。その背…

北村薫「ニッポン硬貨の謎」(創元推理文庫) 名探偵クイーンが異国の土地ジャパンで論理を天空に飛翔させる。

副題は「エラリー・クイーン最後の事件」(2005年初出)。 1977年に日本の出版社がエラリー・クイーンを招待した。そのときのことをのちにクイーンは小説にする。ただ一編だけ未訳だったのが発見されたので、「北村薫」が邦訳することになった。この設定がミ…

深水黎一郎「最後のトリック」(河出文庫) 「読者が犯人」という不可能トリックに〈この私〉である読者はどうかかわれるか。

「読者が犯人」というアイデアは昔からあって、この国の作でも自分が収集した中では2例ある・・・と書こうともくろんでいたら、作中でちゃんと紹介されていた。それくらいに、著者はきちんと探偵小説の歴史と作例に造詣が深い。なまはんかな知識で読んでい…

山田正紀「僧正の積木唄」(文春文庫) 1930年代の移民排斥運動時代のロスで起きた日系人殺害事件。人種差別や日本軍の残虐事件が言及されないのでリアリティを損なっている。

193*年。長年の不況と日本による中国侵略戦争は、アメリカに反日感情を強くもたらした。ドイツやイタリアのファシズムに影響を受けてファシスト政党ができるなど、排外主義と人種や民族の差別が多くの人をとらえる。彼らの不満(失業や低賃金、貧困、セイフ…

デイル・フルタニ「ミステリー・クラブ事件簿」(集英社文庫) アメリカ社会でマイノリティである日系はアメリカの因習や差別の壁に煩悶する。

1990年ころのロサンジェルス。プログラマーを解雇されて閑を持て余した日系の中年男の下に白人女性が訪れ、ある書類の受け渡しを代わってほしいと依頼される。ミステリー・クラブの例会準備のために、オフィスに「探偵」の看板を掲げていたので、勘違いされ…

岡嶋二人「そして扉が閉ざされた」(講談社文庫) 昔からある「吹雪の山荘」「嵐の孤島」テーマに脱出ゲームを加えてひとひねり

4人が目覚めたとき、閉ざされた部屋にいた。この半年ほど疎遠になっていた4人は、トイレの壁に貼られた事故写真と「お前らが殺した」という赤い文字に戦慄する。閉じ込められたのは地下の核シェルター(市販の核シェルターがブームになったのは1950年代と1…

赤川次郎「マリオネットの罠」(文春文庫)

1977年初出の、著者の実質的第一長編。 フランス留学から帰ってきた研究生が、指導教授の紹介で別荘地にある大邸宅でフランス語の家庭教師をすることになる。そこに住むのは20代後半と30代前半の姉妹と運転手、家政婦のみ。最近飛行機事故で亡くなった美術商…

飯野文彦「オネアミスの翼 王立宇宙軍I・II」(ソノラマ文庫) ここまで細かく設定したプロットを削りまくり説明不足になったので、アニメは謎めいた魅力を持った。

今から振り返ると、1980年代にはアニメ映画があった。まあ、それ以前からあったし、それ以後もあったのだけど、自分がそれに熱中したのは、子どもはみるものの、大人になると鑑賞に堪えられないのがアニメだったのに(たとえば「宇宙戦艦ヤマト」シリーズね…

石津嵐/豊田有恒「宇宙戦艦ヤマト」(ソノラマ文庫) アニメとも映画とも異なるもうひとつの暗い暗い「宇宙戦艦ヤマト」

「宇宙戦艦ヤマト」は1974年にテレビアニメで放映。そのときは人気がなかったが、1977年夏に総集編の映画が大ヒット(おれも映画館に並んだ)。翌年にアニメ映画「さらば宇宙戦艦ヤマト」がでて、テレビアニメ「宇宙戦艦ヤマト2」が放映されて大人気に。そこ…

小峰元「アルキメデスは手を汚さない」(講談社文庫) 高校生が主人公格のミステリの嚆矢だが、高校生はほとんど描かれないけど、大人びていた。

1973年初出で、当時の高校生がよく読んでいた(と記憶)。「ソクラテスの弁明」を読めと倫理社会(当時)の教師に言われて、この作者の「ソクラテス最後の弁明」を買ってしまったという笑い話があったと思う。 さて、高校生が主人公格のミステリはこの時代に…

中町信「天啓の殺意」(創元推理文庫)

ある売れない推理小説家が犯人当てのリレー小説の企画を売り込みにきた。問題編はできているので、解決編をタレントでもある女性小説家にしてくれという依頼だった。女性小説家は問題編の作者の名を聞いて、眉をしかめたが、承諾した。その第一回に目を通す…

中町信「空白の殺意」(創元推理文庫)

群馬県(読者の物理現実にある県とはちょっと違う)のある高校で、女子生徒が扼殺された。その直後に、同校の女性教師が自殺を遂げる。傍らには謎めいた遺書がある。そして同校の野球部監督が失踪していたが、毒殺されているのが見つかる。調査を進めると、…

中町信「模倣の殺意」(創元推理文庫)

ちょっと酒が入っているので、冒頭は出版社サイトの紹介文を引用することにする。 7月7日午後7時、服毒死を遂げた新進作家、坂井正夫。その死は自殺として処理されるが、親しかった編集者の中田秋子は、彼の部屋で行きあわせた女性の存在が気になり、独自に…

PKD フィリップ・K・ディック INDEX

PKD

<短編> 2018/10/04 フィリップ・K・ディック「地図にない町」(ハヤカワ文庫) 2018/10/02 フィリップ・K・ディック「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック I」(サンリオSF文庫) 2018/10/01 フィリップ・K・ディック「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディッ…

フィリップ・K・ディック「地図にない町」(ハヤカワ文庫)「薄明の朝食」「輪廻の豚」 1976年にでた本邦初の短編集。ファンタジー多めの選択。

PKD

フィリップ・キンドレッド・ディック(PKD)は1927年生まれ。職業を転々と変えながら(ときにレコード店員も。なので作品中にレコードや音楽の話がよく登場する)、短編を書いていた。デビュー作は1952年の「輪廻の豚」 Beyond Lies the Wub。以後1959年まで…

フィリップ・K・ディック「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック I」(サンリオSF文庫)「変種第二号」「報酬」「パーキイ・パットの日」

ジョン・ブラナー編「 The Best of Philip K. Dick (1977)」 の邦訳。二分冊の第一巻。一時期「パーキー・パットの日々 /ディック傑作集 (1)」のタイトルでハヤカワ文庫にでていた(一部新訳)。ハヤカワ文庫はPKDの短編集を再編集して6分冊にし、巻ごとの…

フィリップ・K・ディック「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック II」(サンリオSF文庫)「おとうさんみたいなもの」「父祖の信仰」「時間飛行士へのささやかな贈物」

ジョン・ブラナー編「 The Best of Philip K. Dick (1977)」 の邦訳。二分冊の第二巻。一時期「時間飛行士へのささやかな贈物 /ディック傑作集 (2)」のタイトルでハヤカワ文庫にでていた(一部新訳)。ハヤカワ文庫はPKDの短編集を再編集して6分冊にし、巻…