odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

著作権切れテキスト起こし

著作権が切れた文章をテキスト起こししました。 江戸川乱歩 江戸川乱歩「探偵作家としてのエドガー・ポオ」(1949)(エドガー・A・ポー「ポー全集 4」(創元推理文庫)から全文採録) 江戸川乱歩「カー問答」(1950)(ミステリマガジンNo255,1977年7月号…

フョードル・ドストエフスキー「ボボーク」(米川正夫訳)

ボボーク 今度は『ある男の手紀』を掲戦することにしよう。それはわたしではない。まったく別な人なのである。これ以上の前置きは不必要と思う。 『ある男の手記』 セミョーン・アルダリオーノヴィチが、おとといわたしをつかまえてだしぬけに、 「ねえ、イ…

フョードル・ドストエフスキー「作家の日記 上」(河出書房)-1(1873年)「ボボーク」 ロシアは「ヨーロッパの強国にならなければならない」という主張。

「作家の日記」は「本来の日記ではなく、雑誌『市民』でドストエフスキーが担当した文芸欄(のちに個人雑誌として独立)であり、文芸時評(トルストイ『アンナ・カレーニナ』を絶賛)、政治・社会評論、エッセイ、短編小説、講演原稿(プーシキン論)、宗教…

フョードル・ドストエフスキー「キリストのヨルカに召されし少年」(米川正夫訳)

キリストのヨルカに召されし少年 けれど、わたしは小説家であるから、どうやら自分でも一つの「物語」を創作したようだ。なぜ「ようだ」などと書くのかといえば、なにしろわたしは創作したことは自分でもたしかに知っていながら、それでもこれはどこかで、ほ…

フョードル・ドストエフスキー「百姓マレイ」(米川正夫訳)

百姓マレイ しかし、こんなprofessions de foi(信条声明)を読むのは、退屈至極なことと思うから、わたしはある一つのアネクドートを語ろうと思う。もっとも、アネクドートというのはあたらない。要するに、一つの遠い昔の思い出にすぎないのだが、わたしは…

フョードル・ドストエフスキー「百歳の老婆」(米川正夫訳)

百歳の老婆 その朝、わたしは大へん遅くなりました。――この間ある婦人がわたしにこんな話をした。――で、家を出たのは、もうかれこれ午ごろでした。しかも、その時にかぎって、まるでわざと狙ったように、用事がたくさんたまっていました。ちょうどニコラエフ…

フョードル・ドストエフスキー「作家の日記 上」(河出書房)-2(1876年上半期)「キリストのヨルカに召されし少年」 ドスト氏の中年以降の主張は汎ロシア主義。

しばらく休止していて、再開は1876年から。すでに「未成年」を上梓している。ここからしばらくは「作家の日記」に注力していて、「カラマーゾフの兄弟」の取材を始めていたころかしら。というのも、出てくるトピックに子供の虐待(および男性農民による女性…

フェードル・ドストエフスキー「宣告」(米川正夫訳)

4 宣告 ここでついでに、退屈のために自殺したある男、もちろん、唯物論者のある考察をお目にかけよう。 「……まったくのところ、いったい自然はどういう権利があって、何かえたいの知れない永遠の法則のために、このおれを世の中へ生み出したのだろう?おれ…

フョードル・ドストエフスキー「おとなしい女」第1章(米川正夫訳)

おとなしい女――空想的な物語―― 著者より わたしはまずもって読者諸君に、今度、いつもの形式をとった『日記』の代わりに、一編の小説のみを供することについて、お許しを願わねばならぬこととなった。しかしながら、事実一か月の大部分、わたしはこの小説に…

フョードル・ドストエフスキー「おとなしい女」第2章(米川正夫訳)

フョードル・ドストエフスキー「おとなしい女」第1章(米川正夫訳)の続き。 第2章 1 傲慢の夢 ルケリヤはたった今、このままわたしのところに住みつこうと思わない、奥さんの葬式がすんだら、早速お暇をいただくと言明した。わたしは五分ばかりひざまつい…

フョードル・ドストエフスキー「作家の日記 上」(河出書房)-3(1876年下半期)「宣告」「おとなしい女」 露土戦争(1877-78年)を控えてドスト氏は「近東問題」を語る。

上半期から「近東問題」が話題になっているが、これは露土戦争(1877-78年)を控えてのロシアとトルコの緊張を指してのこと。調べないで、記述から推測されることを書くと(ドスト氏がちゃんとレポートしないので)、オスマン・トルコが勢力拡張をめざしてバ…

フョードル・ドストエフスキー「3 ロシヤの誕刺文学 処女地 終焉の歌 古い思い出」(米川正夫訳)

3 ロシヤの誕刺文学 処女地 終焉の歌 古い思い出 わたしは今月文学、つまり美文学、「純文学」にも精進した。そして、なにやかや夢中になって読破した。ついでながら、わたしはさきごろロシヤの調刺文学、――といって、現代の、今日のわが調刺文学なのである…

フョードル・ドストエフスキー「おかしな人間の夢」(米川正夫訳)

おかしな人間の夢 ――空想的な物語―― おれはおかしな人間だ。やつらはおれをいま気ちがいだといっている。もしおれが依然として旧のごとく、やつらにとっておかしな人間でなくなったとすれば、これは、位があがったというものだ。だが、もうおれは今さら怒ら…

フョードル・ドストエフスキー「作家の日記 下」(河出書房)-1(1877年上半期)「おかしな人間の夢」 露土戦争の開始にいたり、ドスト氏は、汎スラブ主義と反ユダヤ主義を強く主張する。

下巻は1877年から。近東問題は急を呼び、ついには露土戦争の開始にいたる。 そこでドスト氏は、汎スラブ主義と反ユダヤ主義を強く主張するようになる。ことに3月号は前編が愛国主義的な論。すなわち、この戦争は政党であり、コンスタンチノーブルはロシア領…

フョードル・ドストエフスキー「作家の日記 下」(河出書房)-2(1877年下半期) 大長編の連載を開始したので、個人雑誌は終刊する。

個人雑誌としての「作家の日記」。1877年夏ごろに、ドスト氏は体調不良を覚え、同年内の中止を決める。最終号では翌年から長編の連載を開始すると予告していたが、実際は1879年から開始された(「カラマーゾフの兄弟」)。 「作家の日記」を発行するにあたっ…

フョードル・ドストエフスキー「プーシキン論」(米川正夫訳)

第2章 プーシキン論 六月八日、ロシヤ文学愛好者協会の大会においてなされたる演説 プーシキンはなみなみならぬ現象である、おそらくロシヤ精神の唯一の現われであろう、とゴーゴリはいった。わたしはそれに加えて、予言的現象であるといおう。しかり、彼の…