odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

柄谷行人「終焉をめぐって」(講談社学術文庫)-2

2018/12/03 柄谷行人「終焉をめぐって」(講談社学術文庫)-1 1990年の続き 続けて具体的な問題を読み取る。 第二部 終駕をめぐって同一性の円環 大江健三郎と三島由紀夫 1988.04 ・・・ 大江の出たばかりの「懐かしい時への手紙」はヘーゲル的構成(自然的…

柄谷行人「ヒューモアとしての唯物論」(講談社学術文庫)-1

英語による講演草稿などを集めた前半と、それまで単行本に収録されていなかった論文を集める。1993年初出。「探求 II」や「戦前の思考」と同じ時期に書かれたもの。そちらを先に読んでいたので、似たような難解な話を繰り返すことになったので、とても散漫な…

柄谷行人「ヒューモアとしての唯物論」(講談社学術文庫)-2

2018/11/29 柄谷行人「ヒューモアとしての唯物論」(講談社学術文庫)-1 1993年の続き 続いて後半。こちらも散漫な読みになったので、サマリーは手抜きです。 ライプニッツ症候群――吉本隆明と西田幾多郎 1988.10 1989.01 ・・・ 吉本隆明と西田幾多郎をライ…

柄谷行人「戦前の思考」(講談社学術文庫)-1

1990年前後の、東西冷戦構造の解体によって、資本主義もナショナリズムも議会制民主主義もむき出しになり、それ自体が問われるようになった。当時は「終わり」が語られたが、むしろなにかの「事前」なのである。なにかとは戦争であり、戦前を反復しないため…

柄谷行人「戦前の思考」(講談社学術文庫)-2

2018/11/26 柄谷行人「戦前の思考」(講談社学術文庫)-1 1994年の続き 1990年ころの状況をみて、そのあとを予測している。四半世紀立って読み直すと、2010年代の不況や極右の台頭などで、予想がいろいろと当たっている。予言者とみるのではなく、このころ台…

柄谷行人「倫理21」(平凡社)-1

1995年以降に行われた複数の講演を再構成したもの。当時のできごとが取り上げられているので、註などで補完しておくこと。 責任や倫理を考えるにあたってカントの読み直しを行う。「批判」三書や「啓蒙について」「永久平和論(邦訳タイトルはさまざま)」を…

柄谷行人「倫理21」(平凡社)-2

本書に書かれる倫理(社会的)は、野間易通「実録・レイシストをしばき隊」(河出書房新社)の「正義」にとても良く似ている。後者の実践の根拠を与えるのが本書であると思えるくらい。ただし後者は賃労働の廃棄とかアソシエーショナリズムの実践とかの本書…

柄谷行人「可能なるコミュニズム」(太田出版)

タイトルの「可能なるコミュニズム」はマルクス「フランスの内乱」1871年から。晩年のマルクスは生産-消費協同組合にコミュニズムの可能性をみていた。その構想はかかれなかった。ここではカントの道徳論(「倫理21@柄谷行人」に詳細説明)から可能性を探…

柄谷行人「NAM原理」(太田出版)

2000年6月、大阪で、NAM(New Associationist Movement)を結成。そのマニフェストにあたる文書。 第一部 NAMの原理 ・・・ 原理は「倫理21」「可能なるコミュニズム」で書かれているので繰り返さない。およそ70ページの「原理」でその大半が歴史の…

柄谷行人「NAM生成」(太田出版)

NAM原理のあと、2000年の夏から秋に行われた講演を収録。 『倫理21と『可能なるコミュニズム』(浅田彰、柄谷行人、坂本龍一、山城むつみ) ・・・ 「カントを通じてマルクスを読み、マルクスを通じてカントを読む」。いくつか抜粋。 「政治化する以上、ど…

柄谷行人「世界共和国へ」(岩波新書)-1

岩波新書が装丁を変えて、数十年ぶりに「赤」にしたときの最初の刊本のひとつだった。2006年に出版されたときに、これはよく売れたのではなかったかな。著者が過去四半世紀かけて書いてきたこと(なかでも、国家・貨幣・交通・倫理・アソシエーションなど)…

柄谷行人「世界共和国へ」(岩波新書)-2

2018/11/13 柄谷行人「世界共和国へ」(岩波新書)-1 2006年の続き ここからは近世の話。事前に「世界の歴史」河出文庫を通読して、世界史を読んでおいたのはよかった。 こうやって資本=国家=ネーションの「ボロメオの環」として世界史を見た方がみとおし…

フレドゥン・キアンプール「幽霊ピアニスト事件」(創元推理文庫)-2 ドイツはロシア革命とナチス体験とグローバル化に翻弄され、失地を挽回しなければならない。

2018/11/08 フレドゥン・キアンプール「幽霊ピアニスト事件」(創元推理文庫)-1 2008年の続き 1949年の物語も同時に語られる。1940年、ポーランド出身の青年(主人公)たちがナチス隆盛期のドイツを逃れて。パリの社交界に入り込む。サロンがまだ残っていて…

フレドゥン・キアンプール「幽霊ピアニスト事件」(創元推理文庫)-1 1949年に死んだ青年が1999年に覚醒。学生寮に潜り込んで、自分の存在理由を徴させうる。

1999年、ある青年がドイツ・ハノーファーのカフェで目覚める。自分は1949年に死んだはずなのに。金は持っているので安心したが、50年で起きたインフレは途方もない。自分のできることであるピアノを弾くと、古めかしいテクニックと解釈(コルトーに似ている…

川村元気「億男」(文春文庫) 生活と労働から解放されたら社会から疎外された孤独な人間に「お金と幸せの答え」は与えられるのか。

図書館勤務の一男君。災厄が訪れる。弟が3000万円の借金を残して失踪したので、肩代わりを引き受ける。夜間のアルバイトをするようになったら、妻と娘が家を出て行ってしまう。でも、宝くじで3億円を当ててしまう。高額当選者が悲惨な人生を送るようになる…

板倉俊之「蟻地獄」(新潮文庫) 21世紀の若者のリアルは殺伐としていて殺気立っていて暴力的。数百万円の身代金の工面に四苦八苦するというのは日本の窮乏化の象徴。

19歳の「俺」は数か月の特訓の成果を見せるために、闇カジノにはいる。純正のブラックジャックをだすと、ボーナスがついて大金を手に似れることができるのだ。数時間かけて素人であり、かつ負けが込んでいるという演技をして、その瞬間を迎える。成功したが…

伊藤計劃×円城塔「屍者の帝国」(河出文庫)-2 生と死の境目があいまいなのに区分をつけることは共同体の内と外を分けること。外を排除する理屈の始まり。

2018/11/01 伊藤計劃×円城塔「屍者の帝国」(河出文庫)-1 2012年の続き この作品のみそは、生者と屍者と死者がいて、生者は死ぬことができるが、霊素をインストール(舞台は1880年前後というのに、21世紀の意味を持つ言葉が説明抜きで登場するのは疑問)す…

伊藤計劃×円城塔「屍者の帝国」(河出文庫)-1 19世紀のエンタメを総動員した聖杯伝説の物語。

著者名がふつうと異なるのは、伊藤計劃がプロローグを書いたところで亡くなり、そのあとを円城塔が続けたため。書いた分量は円城塔の方が多いが、クレジットとおり、二人の「合作」とみるべきだろう。 この作品はさまざまな先行作品を利用していて、もちろん…