odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ジョン・リード「世界をゆるがした十日間 下」(岩波文庫) 10月革命時のボリシェヴィキの暴力はのちの共産党政権の問題を予感させる。

2014/11/27 ジョン・リード「世界をゆるがした十日間 上」(岩波文庫) の続き。 ロシア革命といっても10月革命の「十日間」ですべてが決したわけではない。その前後にも、さまざまな重要な出来事があり、人々が右往左往しながら物事を決めていった。その期間…

ジョン・リード「世界をゆるがした十日間 上」(岩波文庫) 1917年10月のペトログラードにいたアメリカ人ジャーナリストの記録。一次資料が豊富に掲載。

ジョン・リードは1887年生まれのアメリカ人。1917年の2月革命の報を聞き、ロシアに向けて8月に出発。彼はアメリカの社会党員でジャーナリストの実績を持っていたので、ボリシェヴィキに受け入れられる。ここでは、10月革命の現場であるペトログラードにいて…

レーニン「国家と革命」(国民文庫) 抑圧体制を打倒するには、「武装した労働者」が蜂起し、国家の搾取構造に寄生する搾取者を一掃しなければならない、のだそう。

19世紀後半、工業化によって資本主義がヨーロッパを覆う。機械の導入は生産性を向上し、賃金を上げるはずであったが、資本家や経営者は労働者の要求を拒んだ。労働環境は劣悪で病気にかかりやすく、事故が多発する危険な場所である。そのうえ政府は住宅問題…

松田道雄「世界の歴史22 ロシアの革命」(河出文庫) ロシア帝室の政治・経済政策にほとんど触れないロシアの革命家と党派の歴史。

もとは1974年初出で、1990年に文庫化された。著者は小児科医で、育児の本で有名。彼の原作をもとに商業映画もつくられたくらい。一方、ロシア革命の研究家でもあるらしく、いくつか著作があるようだ。このあとがきによると、書き手がほかにいなくてお鉢が回…

ウィリアム・モリス「ユートピアだより」(岩波文庫) 西洋の近代がもたらしたもの(資本主義、貨幣経済、民族国家、科学技術、民主主義など)をすべて廃棄した活動と生活の芸術化、信義と友愛の疑似家族の世界。

188X年、社会主義者の会合で疲れて帰宅した「私」は夢を見た。それは200年後の社会で、共産主義社会が実現していた。その話をぜひ書けとすすめられたので、ここにまとめてみた。というわけで、19世紀の詩人で工芸家ウィリアム・モリスの構想したユートピアが…

ジュール・ヴァレース「パリ・コミューン」(中央公論社)-2 1871年普仏戦争の敗北とパリコミューンの記録。出来が悪いので好事家向け。

2014/11/19 ジュール・ヴァレース「パリ・コミューン」(中央公論社)-1 後半の150ページが1871年の「パリ・コミューン」のドキュメント。小説を見る前に、このできごとをまとめておこう。 遡ると1789年のフランス革命まで行ってしまうが、そこまで行くのは…

ジュール・ヴァレース「パリ・コミューン」(中央公論社)-1 不格好な生き方をしたジャーナリスト。DVを受けたので、親と学校は嫌い。

そういえば19世紀後半のフランスを知らないなあ、大仏次郎の「パリ燃ゆ」も読んでいねえなあ、ということでタイトル買いした一冊。1965年初版の中央公論社版「世界の文学」の第25巻。その後、この小説は復刻された様子がないので、読むにはこの本を入手しな…

柄谷行人「マルクス その可能性の中心」(講談社文庫)

タイトルの論文は1974年に雑誌連載。そのあと改訂されて1978年に単行本化。自分の初読の1980年代半ばには「差異」「テキスト」「貨幣と言語」というのは人気のあるタームになっていて珍しくもなかったが、雑誌初出のころを考えると先進性がすさまじい。なに…

吉本隆明「マルクス」(光文社文庫) 「経哲草稿」から見るマルクスの可能性。国家が幻想であるように「労働者」「資本家」も社会的な実在ではない。

1964年に出版されたものを2006年に文庫化。著者は1924年生まれなので、40歳のときのものか。 マルクス紀行1964 ・・・ マルクスの思想は、3つのカテゴリがあってそれぞれが連関している。ひとつは、現実的なものとしての<自然>哲学。エピクロスから始まる…

カール・マルクス「ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日」(岩波文庫) 代表するもの(党)は代表されるものの関係は固定的ではなく、代表されるものは代表するものを見捨てて扇動政治家を選んだ

1848年2月のフランス革命から51年12月のルイ・ナポレオンのクーデターまでをレポート。この時代、マルクスはパリの現場を見ているわけではない(4月上旬にケルンに移動。翌年のドレスドン蜂起のあとプロイセン政府の追放令がでて、フランスにもドイツにもベ…

マリオ・バルガス=リョサ「継母礼賛」(中公文庫) 行為そのものの快楽ではなくて、現実の関係や妄想の中から浮かびあがる官能性。

実業家リゴベルトは先妻をなくし、後妻ルクレシアをめとう。リゴベルトは尻の大きなルクレシアを女神のように崇拝し、ほとんど儀式のように愛撫する。家には先妻の息子アルフォンソ(フォンチート)がいて、継母ルクレシアの周囲をつきまとう。彼女の入浴を…

マリオ・バルガス=リョサ「都会と犬ども」(新潮社)-2 現在を語る3つの文体と過去を語るナラティブ。文体に仕掛けられたトリックに気づけるか。

マリオ・バルガス=リョサ「都会と犬ども」(新潮社)-1 の続き。 今度は書かれている内容ではなく、書き方について。 ドストエフスキーの小説をポリフォニックというけど、バルガス・リョサの小説もポリフォニック。すなわち、複数の語り手と文体があり、時…

マリオ・バルガス=リョサ「都会と犬ども」(新潮社)-1 1945年。ペルーの士官学校。軍隊生活は少年たちを鬱屈と暴力的なはけ口にむかわせる。

ころは1945年。ペルーの士官学校。どうやら5年制で13歳から18歳前の少年が集まっている。日中は教育と訓練。それ以外の時間も厳しい生活を強いられる。ベッドメイキングに、歩哨に、朝夜の行進に、模擬戦闘に、武器や軍装の手入れに、と息つく暇がない。と…

アレッホ・カルペンティエール「失われた足跡」(集英社文庫)

1953年作。物語の進行は単純なのにとても読みずらかったのは、時間がさまざまに入り乱れているところ。とりあえず、場所を手掛かりにストーリーを見てみよう。情報を詰め込んだ圧縮された文章で書かれていて、読むのに時間がかかった。細部を忘れているので…

アレッホ・カルペンティエール「時とのたたかい」「種への旅」「夜のごとくに」(集英社) 循環する時間、複層する時間、神話と現実のあいまいな境。

このエントリでは短編集「時とのたたかい」について。併録の「失われた足跡」は別エントリーで取り上げる。 聖ヤコブへの道 ・・・ 時は16世紀の宗教戦争時代か。元学生でいまは巡礼のフアンはインディオス帰りの男の話をきき、ペストで死にかけた運命の贖罪…

アレッホ・カルペンティエール「バロック協奏曲」(サンリオSF文庫) メキシコの新大陸の歴史と西洋の歴史が交錯する幻想交響曲でジャムセッション。

18世紀前半と思しきころのメキシコ。巨富を得た鉱山主が、思い立ってマドリッド詣でに出ることになった。先祖をたどればスペインの生まれであろうが、メキシコ生まれメキシコ育ちの鉱山主にとっては故郷に錦を飾るくらいの意であったのだろう。大量の荷物に…

アレッホ・カルペンティエール「この世の王国」(サンリオSF文庫) 史上初の黒人国家「ハイチ共和国」成立までを無学な奴隷視点で描いた。

この世の王国1947 ・・・ 18世紀半ばから19世紀初頭までのハイチの歴史を語る。視点は奴隷ティ・ノエルにある。この志摩は、アフリカ奴隷貿易の中継基地で、フランスの植民地になっていた。ルノルマン・ド・メジーというフランス人の大農園があり、ティ・ノ…

アドルフォ・ビオイ=カサーレス「豚の戦記」(集英社文庫) ブエノスアイレスで突如起きた青年たちが老人を襲い始める「対豚戦争」の顛末。

1960年代末と思しき。ブエノスアイレス、アルゼンチン。この国を簡単に振り返ると、1900年代初頭から移民を受け入れてきた。主に、スペイン、イタリアから。というのも、欧米企業がプランテーション型農園の経営に投資していたから。一時期は好景気。フリッ…