odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

池井戸潤「七つの会議」(集英社文庫) 日本型経営システムは保身と現状維持と社内ライバルとの競争ばかりで、民主的な合意を形成できない。

年商1千億円の中小企業(おれにとっては「え、その売り上げで中小だって!!」)。そこで起きる7つの会議を詳細に描く。部内の営業会議、下請け企業の役員会、企画会議、計数会議(全社の営業会議の前の利益確認用)、連絡会議(複数部署の情報交換)、役員会…

宮部みゆき「荒神」(朝日新聞出版) ゴシックロマンスと怪獣特撮映画を合体してみたのだが...

朝日新聞夕刊に連載されたもの(そういえば載っていたなあ)を改稿して2014年に出版。タイトルは「こうじん」と読むのだそうだ。俺は石川淳「荒魂」が頭にあったので、「あらがみ」と読んでしまったよ。 俺のようにすれっからしになると、小説にノレないとき…

宮部みゆき「小暮写真館」(講談社文庫) 理想化された「ヨイコ」の高校生が問題解決をしても、彼らの行く先の社会には閉塞感が漂う。

目白に住んでいたサラリーマン一家が千川に引っ越す。引っ越し先は築数十年の元写真館で、この家には亡くなった店主の幽霊が出るといううわさがある。酔狂な父が面白がり、改装しないでそのまま使うことにしたのだ。写真館が営業を再会したと思い込んだ人が…

小林泰三「大きな森の小さな密室」(創元推理文庫)

もともとは「モザイク事件帳」のタイトルで出版され、2008年に文庫化される時に冒頭の短編を全体の名前にした。副題のように、ミステリのサブジャンルの趣向を凝らす。 大きな森の小さな密室―犯人当て ・・・ 「会社の書類を届けにきただけなのに。森の奥深…

伊坂幸太郎「残り全部バケーション」(集英社文庫)

5つの短編を収録した連作集。物語の中心にいるのは、溝口という始末屋。上からの命令で汚れ仕事、濡れ仕事を行う暴力的な男だ。岡田という若い男を助手にして、当たり屋をやったりゆすりをしたり。最初のうちは、内省的な助手の岡田の話が続くので、彼の物…

東野圭吾「夢幻花」(PHP文芸文庫) クライムストーリーをつまにした若者二人の恋の物語

「花を愛でながら余生を送っていた老人・秋山周治が殺された。遺体の第一発見者である孫娘・梨乃は、祖父の庭から消えた黄色い花の鉢植えが気になり、ブログにアップする。 それを見て身分を隠して近づいてきたのが、警察庁に勤務するエリート・蒲生要介。ふ…

東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(角川文庫) 道徳の規範である「神」を持たないこの国では、告解や懺悔の仕組みはないので、「世間」を相談先にする。

2012年、悪事を働いた若者3人組が、廃屋に逃げ込む。そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨屋。廃業して無人の店内に、郵便口から手紙が投函される。その手紙は悩み相談だったが、どうも昔の時代のものらしい。なにしろインターネットもケータイも知らな…

東野圭吾「禁断の魔術」(文春文庫) 「科学者が責任を取る」という主人公のことばはうすっぺらかった。

湯川とかいう物理学の准教授のもとに、高校生がやってきて、部員獲得のためのデモンストレーションのアイデアを相談する。数回打ち合わせをしたあと、連絡はなくなったが、突然刑事がやってきて、高校生のことを教えろという。聞くと、高校生は行方不明、そ…

江戸川乱歩 INDEX

2016/08/12 江戸川乱歩「江戸川乱歩集」(新潮文庫) 1920年 2016/08/10 江戸川乱歩「パノラマ島綺譚/一寸法師」(講談社文庫) 1925年 2016/08/11 江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」(講談社文庫) 1925年 2016/08/9 江戸川乱歩「陰獣」(講談社文庫) 1925年 2…

江戸川乱歩「江戸川乱歩集」(新潮文庫) 1920-30年代の短編代表作を網羅。最初に乱歩を読むならこれ。

現在は「江戸川乱歩傑作選」にタイトルを変更。例によって昔話をすると、1970年代、ポプラ社の少年向け小説を読んだあと(俺は小学時代の乱歩体験はなく、中学3年で「探偵小説の謎」現代教養文庫を読んでから)、本屋にいくとあるのは、角川文庫の選集(表紙…

江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」(講談社文庫) 1925年に書かれた短編を網羅。引きこもり体験者が夢想した奇妙な味や幻想譚。

大正15年、1925年の短編を集めたもの。全集の一冊なので、アンソロジーには収録されない作品も含まれる。 算盤が恋を語る話 1925.04 ・・・ 内気なTくんは、S子に恋したが言い出せない。そこで算盤でデートの誘いをした。「ゆきます」の返事があったのだが………

江戸川乱歩「パノラマ島綺譚/一寸法師」(講談社文庫) プライド高い厭人癖の男が人間の掟を踏み越えた先に作った欲望の城。全編が引用できたパノラマ小説。

乱歩の本は編集を変えていろいろな出版社から出ているから、どれで読んだというのは意味がないかもなあ。これは1970年代の講談社文庫ででた全集の一冊。最初期の長編(中編)2本を収録。 パノラマ島綺譚 ・・・ 夢想癖の強い若者・人見広介。毎日、下宿に引…

江戸川乱歩「陰獣」(講談社文庫) 被虐嗜好者と加虐嗜好者の奇妙な依存関係は快楽の主導権をどちらが持っているかわからない

デビュー2年目、著者31歳のときの作品集。 踊る一寸法師 1925.01 ・・・ サーカス団の打ち上げで、女性軽業師が障害者をいたぶる。騒ぎものの楽器を持ち出してはやし立てる。次第にエスカレートしていって…。今読むにはちょっときついね。 ポオ「跳び蛙」と…

江戸川乱歩「孤島の鬼」(創元推理文庫) 自己を探究しみずから変革する成長物語には第三者の冷静で客観的な眼で眺める傍観者「探偵」がいる余地はない。

内気で女の子に話しかけられない蓑浦君(25歳)は、新人社員の木崎初代(18歳)にひとめぼれ。でも半年も声をかけられない。ようやく話ができてデートもするようになると、初代は家族親類のない淋しさをまぎらすためか、自分の身の上を語る。記憶にある海岸…

江戸川乱歩「蜘蛛男」(創元推理文庫) 無声連続活劇映画の系譜にあるチェイス・アンド・アドベンチャー小説。

美術商の稲垣兵造が開いたオフィスを借り、問屋に電話して什器他をそろえる。この急造の会社の募集広告に応募してきた18歳の女性を採用した。仕事を教えると都会に連れ出した。数日後、彼女は空き家の浴槽で惨殺される。死体は切断され、石膏でコーティング…

江戸川乱歩「黒蜥蜴」(角川文庫) 明智に一方的に恋心を抱くも、無関心のせいでひとり相撲をとるばかりの恋愛下手。それでもなお追いかけ、彼の腕に抱かれ接吻されることを求める黒蜥蜴こそ哀れ。

昭和8-9年に連載していた通俗長編2つが収録されている。 黒蜥蜴 1934 ・・・ ダークエンジェルとも呼ばれるその女の二の腕には黒蜥蜴の彫り物がある。男たちの前で全裸になって、ダンスを始めると、彫り物の蜥蜴は生きているようにうごめくのだ。この女盗賊…

江戸川乱歩「人間豹」(講談社文庫) 挑発して逃げる人間豹と笑顔で追いかける明智はライバルであるというより、むしろカップル。

昭和9年1934年に「講談倶楽部」に連載された長編。 いいとこのボンボンである神谷青年が銀座のカフェの女給弘子に恋したのがそもそもの始まり。カフェでいちゃいちゃしているところに、痩せ型の青年恩田が嫉妬し、弘子を付け狙う。その1年後に、弘子に生き写…

江戸川乱歩「緑衣の鬼」(角川文庫) フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」の翻案。事件が起こりすぎで意図がみえやすくなったかも。

いくつかの版があるが、ここでは角川文庫のもので読んだ。宮田雅之のカバーが素敵。 緑衣の鬼 ・・・ 夕刻の銀座で突如サーチライトが一人の若い女性に向けられる。そこには巨大な手の影が彼女を押しつぶそうとするかのように。それ以来、女性・笹崎芳枝に奇…

江戸川乱歩「大暗室」(講談社文庫) 「おそろしく大時代な善玉悪玉の冒険小説で、涙香の『巌窟王』にルパンの手法をまぜたようなもの」

自註で「おそろしく大時代な善玉悪玉の冒険小説で、涙香の『巌窟王』にルパンの手法をまぜたようなもの」といっていて、なるほどそのとおり。 漂流中に瀕死になった大富豪は遺言で同乗する親友に資産と妻を譲るという。しかし親友は富豪を裏切り、ただ一人救…