odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

荒俣宏

藤森照信/荒俣宏「東京路上博物誌」(鹿島出版会) TOKYOが世界の最先端にあった時代に、江戸と明治と戦前の物件や商売を探す。当時の都市論記号論のアンチテーゼ。

1986年に雑誌に連載したものを1987年に出版した。このころは景気がよくて、おしゃれな店ができて、新しい家電製品を買おうとし、テレビ番組が刺激的で、雑誌の新刊が楽しみだった時代だ。まあ、TOKYOが世界の最先端にあるとされていて、輝かしい電飾の下で若…

荒俣宏「大博物学時代」(工作舎) 18世紀は科学と大航海の時代。神がいないと想定すると、人間が観察するものには変化が起きている。では変化の原因と機構はどのようなものか。

生物学はむかしから生物学であったわけではなく、それ以前はいくつかの分野に分化していて統合されていなかった。解剖学と分類学と生理学が別々にあったような具合。19世紀に統合されるようになったらしいが、18世紀では博物学という採集と観察と分類の学が…

荒俣宏「図鑑の博物誌」(工作舎) 18世紀博物学最盛期に作られた図鑑を楽しむ。芸術画とは異なる価値が博物画にはある。図鑑作成に命を懸けて極貧に陥った人々に涙。

著者は、1960年代後半に本郷の古本屋で18世紀の博物学図鑑を入手する(なんと6000円という破格の安値!)。200年を経ても色あせない図版であることにおどろき、以来さまざまな博物学図鑑を手に入れる。その悪戦苦闘ぶりは「稀書自慢、紙の極楽」(中央公論社…

荒俣宏「決戦下のユートピア」(文春文庫) 政府や軍部は戦時に食糧に衣料に消耗品を取り上げ、ヒステリックで非合理的な思考とアジテーションを与える。

目の付け所が違うなあ。「あの戦争」を語るとなると、切り口はいろいろあれど、被害者か兵士であった日本人というところに落ち着く。空襲や機銃射撃、空腹、いじめ、買い出し、インフレ、物資不足、教練の記憶か、新兵訓練に外地派遣、死地、飢餓、収容所体…

荒俣宏「稀書自慢、紙の極楽」(中央公論社) ビブリオマニアがものとしての本に向けるフェティシズムの狂気と修羅

本を集めるとき、あるいは保管しようとするとき、注目するのは内容や書かれていること。夏目漱石「坊っちゃん」に熱烈な愛着を持ち、座右の書として永久保管を決めたとする。その時に保管する一冊は自分の読んだ本であって、新潮文庫・岩波文庫・角川文庫・…

荒俣宏「帯をとくフクスケ」(中公文庫) 美術やアートに分類されない絵「図像」を見ることに徹底的にこだわろう。作家性や交換価値は無視!

美術でもアートでもなくて、「画像」を読みましょう、というのが主題。美術やアートだと、(1)作家性がまとわりついて作者の生涯や思想が図を見る楽しみを奪う、(2)交換価値(端的には販売価格だ)が図の価値になってしまい図を見る楽しみを奪う、あた…

荒俣宏「広告図像の伝説」(平凡社) 明治から昭和にかけてのこの国の起業家たちが商標に込めた機智や思い込み、不思議なイメージ。無機的なロゴやCIにはない味わいを楽しむ。

産業考古学シリーズともいうべき一冊。1987年に雑誌連載されて、1989年に単行本化。 ここでは、図案、商標に注目。すなわち、製造業と販売業の境がなく、消費者は「もの」を購入していた時代。企業は商品のイメージを的確に消費者に伝えるためにどのような工…

荒俣宏「開かずの間の冒険」(平凡社) 人生を棒に振る覚悟で収集することの熱意。相続税が個人や地方の文化資産を四散させる。

全国の蔵を開けて覗くという贅沢な冒険。当主自身ですら数十年足を踏み入れていないという場所をみるというのであるから。 訪れた場所をリストアップすると、 南方熊楠 ・・・ ブリタニア百科事典のそろいと、キャラメル箱やマッチ箱にはいった粘菌標本。 泉…

荒俣宏「黄金伝説」(集英社) 江戸の終わりから明治・大正のころに起業した独立独歩の人たち。成金ゆえに豪華な建築物や収集品に惜しみなく金を費やす。

「異都発掘」「怪奇の国ニッポン」(集英社文庫)「東京妖怪地図」(祥伝社文庫)の方法を東京や京都のような大都市ではなく、地方都市で行うことはできないか。そのときに、地方都市のモニュメントは人と企業の活動の成果ないし道楽としてできたものが多い…

荒俣宏「異都発掘」(集英社文庫) テクノでポップなTOKYOの時代に「軍事」「風水」「地下」「南洋」「快楽」「怨霊」「幻想」な帝都を発掘する。

もとの記事が書かれた1985年というと、近年の好況を受けて、金の流動性が高まり、結果としてものの価値が高いとみなされるようになった。とくに土地の価値が高いことになり、企業・個人が競って土地と建物を投資目的で購入した。そのとき、古い建物でそれほ…

荒俣宏「奇想の20世紀」(NHKライブラリー) 著者の話題の広さには驚嘆。

クラシック音楽をよく聴くものにとっては19世紀はなじみのある時代ではある。ベートーヴェンの、ワーグナーの、マーラーの各時代のことを多少は知っているものだ。あるいは、ベルリオーズの、オッフェンバックの、ドビュッシーの各時代でもいい。しかし、そ…

荒俣宏「別世界通信」(ちくま文庫) イギリス幻想文学の膨大な書肆。西洋哲学と科学の歴史、神秘思想を渉猟する本書の詳細な注解が欲しい。

1977年に初出で、ちくま文庫に収録。まず、サマリーまで紹介されている幻想小説を順にリストアップ。 イギリス幻想文学をほぼ網羅。 マンディアルグ「ロドギュヌ」 トールキン「指輪物語」 E・R・エディスン「ウロボロス」 ラッセル=ホウバン「ボアズ=ヤ…

荒俣宏「目玉と脳の冒険」(筑摩書房) 荒俣版「教科書が書かない生物学史」。「目玉」と「脳」を使う博物学は実験の生物学に変わる。

荒俣版「教科書が書かない生物学史」みたいなものかな。生物学史を教科書的に書くとすると、まずアリストテレスの動物誌があり、長期間をあけてハーヴェイの血液循環理論になり、レーヴェンフックの顕微鏡の発明と細胞の発見、リンネの近代分類学、パスツー…

荒俣宏「知識人99人の死に方」(角川文庫) そう簡単に老衰で眠るように死ぬというわけにはいかない。長生きであっても、痴呆や老衰で家族の介護が必要になる。うまく死ぬのは難しい。

知名人がどのように亡くなったかをまとめた本としては、山田風太郎の作(「人間臨終図鑑」)のほうが有名だろうか。彼は数歳で亡くなった人から、90歳を越える高齢の人まで1000人近くの事例を集めたのではなかったか。あいにくあまりに大きな本だったので、…

荒俣宏/金子務「アインシュタインの天使」(哲学書房) 落下する人間と落ちない天上。イカルスからアインシュタインまでの「落下」をめぐる思想概観。

科学思想史研究者と稀代の好奇心の持ち主が、「落下」をテーマに語りつくそうという壮大なテーマに挑み、見事に成功。この長い対談を読むことによって、西洋の思想史および力学史を通覧できるというのだから、なんてお得なんでしょう。 章立ては以下のとおり…

荒俣宏「レックス・ムンディ」(集英社文庫) 世界を照らす光は古代財宝伝説と秘密結社を明るみにだす。

古代から中世にかけてのキリスト教史は非常に興味深い。ごたぶんにもれず教義の解釈の相違によって分派が起こり、相対立して党派闘争があり、次第に勢力が伝播していくということが起きているからだ。おそらくイエス自身の考えがしっかりと保持されていたの…