odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

都筑道夫「びっくり博覧会」(集英社文庫) 1982年初版のショートショート集。小説を書く小説になっているのはすぐれた小説指南。

1982年初版のショートショート集。主には1979-80年にでたものを集めていて、ところどころにずっと古いのが載っている。読んでいる間は、古い時に書かれたもの(1965−75年の間)であるとは思わせない。そういう安定した力量の持ち主。ここらの書き方は、読者…

都筑道夫「暗殺心」(徳間文庫) 刺客に狙われる王女を守り悪の国王に復讐する。架空の、しかしよく知っている国を舞台にした伝奇SF忍術小説。「なめくじに聞いてみろ」と同等の傑作。

中世中国らしき地名と人名であり、いくらかアラビア風、日本風の風俗のある国ではあるが、読者の現実世界には存在しない国。夢迦(ムカ)国。その王女・真晝(マヒル)は簒奪者の手により親兄弟を殺され、ようようの思いで逃げ出してきた。そして当代随一の…

都筑道夫「くわえ煙草で死にたい」(新潮文庫)

私立探偵・西連寺剛を主人公とするシリーズ第一作。1978年刊行。西蓮寺は元プロボクサー。試合中のハードパンチで対戦相手を死なせてしまった経験を持つ。ボクサー廃業後は、知り合いのつてで私立探偵事務所の仕事を回してもらうフリーの私立探偵になった。…

都筑道夫「脅迫者によろしく」(新潮文庫)

私立探偵・西連寺剛を主人公とするシリーズ第二作。1979年刊行。前作から一年後にまとまったとなると、筆が乗っていたのだね。 表紙のとれた詩集 ・・・ 自費出版の詩集をみて、失踪した女性の行方を探すことになった。奇妙なのは詩集の表紙がちぎれているこ…

都筑道夫「ダウンタウンの通り雨」(角川文庫)

私立探偵・西連寺剛を主人公とするシリーズ第三作。1981年刊行。個々の作品がいつの発表かは書いていない。 ダウンタウンの通り雨 ・・・ ハワイを舞台にした中編。ハワイに語学留学中の娘が行方不明になった。自分で言ってもいいが専門家の方が早く解決する…

都筑道夫「苦くて甘い心臓」(角川文庫)

私立探偵・西連寺剛を主人公とするシリーズ第四作。1981年刊行。個々の作品がいつの発表かは書いていない。 苦くて甘い心臓 ・・・ 父違いの弟が「殺してやる」と言い捨てて出ていったきりもう3日、というので探してくれと、若い女に依頼される。教えられた…

都筑道夫「死体置場の舞踏会」(光文社文庫)

私立探偵・西連寺剛を主人公とするシリーズ第五作。1986年刊行。個々の作品がいつの発表かは書いていない。前作からしばらくたったので、西連寺の料金が1日2万円から3万円に増額。インフレ進行中の時代でした。 海猫千羽 ・・・ 兄を連れ戻してほしいと会社…

岩井克人「二十一世紀の資本主義論」(ちくま学芸文庫) グローバル市場経済はハイパーインフレによる市場経済と資本主義の危機を内包している。

初出は2000年。ただ、最初の論文を除くと、すでに雑誌や新聞などに掲載されたエッセー。過去の著作に「貨幣論」があって、その内容が前提になっているから(あるいは抽象的な内容を具体例で説明しているから)、「貨幣論」を読んでおいた方がよい。最初の論…

岩井克人「資本主義を語る」(ちくま学芸文庫) 西洋人には「ニッポン人」がどうみえているか。

著者は、「不均衡動学」の経済学で賞を取り、そこで有名になった。いい加減な記憶で書くと、古典派や新古典派の経済学では市場と労働は均衡する自動調節が働き、現実がそうならないのは別の問題があるからと説明されていたが、数理モデルを使って均衡するこ…

岩井克人「貨幣論」(ちくま学芸文庫) マルクスの価値形態論をベースにして、貨幣とは何かを説明しようとする試み。

マルクスの価値形態論をベースにして、貨幣とは何かを説明しようとする試み。すると、説明は「貨幣は貨幣として使われるものである」という身もふたもなくなってしまうが、これがトートロジーでもなく、こけおどしでもないことがわかる。()内は自分の勝手…

スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー「ヤバい経済学」(東洋経済新報社)

以前からネット情報で気になっていた上に、タイトルが素敵なので購入。「ヤバい経済学」の原題は「FreaKonomics」。FreakとEconomicsの合体語という、これもステキなネーミング。 序 章 あらゆるものの裏側 ・・・ ここでは経済学の定義をちょっと変える。世…

ポール・クルーグマン「クルーグマン教授の経済入門 」(日経ビジネス文庫)-2

2015/05/13 ポール・クルーグマン「クルーグマン教授の経済入門 」(日経ビジネス文庫)-1 後半は、1980-90年代のトピックをいくつか。金融規制の緩和で金融市場が大規模になり、ものを生産していないのにやたらと利益をだして高額の報酬ももらう連中が増え…

ポール・クルーグマン「クルーグマン教授の経済入門 」(日経ビジネス文庫)-1

1989年にでて1994年に改訂版のでた経済学書。もともとは当時失速中のアメリカ経済の説明をする目的のようだったが、経済学の基本を学ぶのにちょうどよい内容と判断したので、このタイトルに変更。現在はちくま文庫に版を変えた(収録文や解説が書きなおされ…

ジョン・ガルブレイス「ゆたかな社会」(岩波現代文庫)-2

2015/05/11 ジョン・ガルブレイス「ゆたかな社会」(岩波現代文庫)-1 タイトルの「ゆたかな社会」は明示されなかった。たぶんそれは1920年代と1950年代のアメリカを指すのだろう。高い成長率で経済が発展し、それに伴い賃金が上昇。工業・サービス部門では…

ジョン・ガルブレイス「ゆたかな社会」(岩波現代文庫)-1

ガルブレイス(1908-2006)の主著とされるもの。最初の版は1958年にでて、あと40年かけて5回の改訂版をだした。これは最終版を翻訳したもの。 背景にあるのは、1950年代のアメリカ。自助努力が必要不可欠とされる民主主義の独立心。公共性やセイフティネット…

エラリー・クイーン「ハートの4」(創元推理文庫) ハリウッドは映画の都・夢の工場ではなく、スキャンダルと死の土地。

1910年代にロス・アンジェルスに映画スタジオが大量にできた。フィルム感度の悪い時代にヌケのよい画面を撮影にするには、日射しが強く、日照時間が長く、雨の少ない気候で、平坦な広い土地を確保できる場所であることが重要だったのだ。人工的に作られたそ…