トーマス・マン
トーマス・マン(1875年6月6日 - 1955年8月12日)の短編集。短編は若いころに書かれたものが多い。1915年以降の短編で読んだのは、「混乱と雅な悩み(1925)」「マリオと魔術師(1930)」「掟(1944)」くらい。どれも長編の準備のためのもの、あるいは長編…
トーマス・マン(1875-1955)はフーゴ・フォン・ホーフマンスタール(1874年2月1日 - 1929年7月15日)と同時代人。マンが持っている保守性はホーフマンスタールによく似ているなあと読んでいたが、二人の生きた時代が重なっているところに理由がありそう。ふ…
18世紀末、北ドイツの都市にある商会が生まれる。海外貿易と国内問屋業と運送業を兼ねたような企業だ。貨幣経済が浸透し、イギリスの産業革命と植民地支配が成功して大量の商品が生産されているときに、後発の資本主義社会はまずこのような流通と販売業が要…
2023/05/25 トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第1部・第2部 ドイツ19世紀半ば、成り上がり企業の三代目が後を継ぐ 1901年の続き ここから話が動き出す。19世紀の半ば、ブッデンブローグ家の第三世代が資本主義とグローバル化の進行で社…
2023/05/24 トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第3部第4部 家が決める結婚が奔放な女性を苦しめる 1901年の続き 第4部と第5部で第二世代のほとんどが亡くなってしまった。奇妙なのは、残された第三世代の若者がほとんど親に生前から関心…
2023/05/23 トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第5部第6部 三代目トーマスはシトワヤンに加わって「ひとかどの男」になりたい 1901年の続き 物語の折り返し点。第三世代のブッデンブローク家の人々は30代になった。時代は1860年代。この…
2023/05/22 トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第7部第8部第9部 普仏戦争勝利、でもブッデンブローク商会は経済成長に乗り遅れる 1901年の続き 第三世代ブッデンブローク家の面々は40代。すでに人生に疲れ、仕事に飽き(ほとんどはほぼ…
詩人トニオ・クレーゲル の半生と詩作に対する疑惑。1903年発表の中編に、行が開けられているところに勝手に数字を振って、サマリーをつくる。 1.トニオ14歳。学校の優等生ハンス・ハンゼンといっしょに帰る。トニオはシラー「ドン・カルロス」の話をし、…
2023/05/19 トーマス・マン「トニオ・クレーゲル」(岩波文庫)-1 ドイツの教養主義者は実業が嫌い、庶民のたくましい肉体がうとましい 1903年の続き トニオの不幸は、ゲーテやシラーやベートーヴェンの時代はとうに過ぎ、ワーグナー(1813-1883)やブラーム…
2023/05/26 トーマス・マン「短編集」(岩波文庫)-2 20代なかばの短編 1900年の続き トーマス・マンの主人公たちは芸術家であるより、故郷喪失者と言ったほうがよさそう。帰る家はなく、今いるところにもしっくりいっているわけではない。「別の世界から来…
前回から15年ぶりの再読。 odd-hatch.hatenablog.jp 1913年発表なので、トーマス・マン38歳の作。作家は若いが、主人公は初期老年だ。トーマス・マンが年齢よりも老けているのではなく、ドイツやヨーロッパが年老いて衰弱しているのだとみなす。実際、翌年に…
2023/05/16 トーマス・マン「ベニスに死す」(岩波文庫)-2 老人と少年がアッシェンバッハを天国のような地獄に誘う 1913年の続き 第4章 ・・・ 滞留を決めてから天気はよくなり、アッシェンバッハの気分も華やぐ。南国の水浴生活を楽しむ(20世紀になってか…
ゲーテはスゴイ、でもゲーテその人だけで語ろうとするとスゴさはわからない。彼と同じような「神」にあたる文学者はいないだろうか。いた、トルストイだ。この一人では不足なので、ゲーテに対するシラー、トルストイに対するドストエフスキーと比較してみよ…
ここではゲーテのナショナリズムに関する説明が興味深かった。ゲーテはアジア人蔑視の持ち主で、そこかしこで書いている(すでに18世紀後半にはレイシズムがあった、というのが発見。ハンナ・アーレントの「全体主義の起源」ではレイシズムは植民地経営にお…
ハンブルグに生まれたハンス・カストルプ(1880年代前半の生まれ)は、企業の就職を控えまた一年志願兵になるまえに、いとこがいるスイスのサナトリウムを訪問した。とくに体調不良には見えないが、貧血もちなのを心配しての配慮だった。ハンスとしては3週間…
2023/05/11 トーマス・マン「魔の山」(岩波文庫)第1・2章 なんでもないただの人(ダス・マン)がヨーロッパの縮図社会に闖入する 1924年の続き トーマス・マンの小説で最も人口に膾炙したもの。発表は1924年だが、執筆に12年をかけたという。 この療養所が…
2023/05/10 トーマス・マン「魔の山」(岩波文庫)第3章 肺病は情熱不足と性欲抑圧を暗喩する病 1924年の続き 20世紀初頭なので、結核のメカニズムは知られていた(結核菌は同定済)が、よい治療法はない。抗生物質はみつかっていないし、レントゲンも普及し…
2023/05/09 トーマス・マン「魔の山」(岩波文庫)第4章 ただの人ハンスが入会儀式を完了する 1924年の続き ハンスの行動性向が次第に明らかになる。彼は規則や制度に必ず敬意を払い、ルーティンな生活を送る。年上の男性のいうことはよく聞き、かわりに、女…
2023/05/08 トーマス・マン「魔の山」(岩波文庫)第5章-1 セテムブリーニは陰謀論者 1924年の続き 発表は1924年だが、書かれたのは1910年代。WW1が起きる前の「幸福な」暮らしが反映している。ホーフマンスタールなどは回顧にふけるだけだが、トーマス・マン…
2023/04/29 トーマス・マン「魔の山」(岩波文庫)第5章-2 「若きハンスの悩み」はゲーテのパロディ 1924年の続き ドストエフスキーの小説ではたくさんのキャラクターが出てきて、それぞれが雄弁(ないし饒舌)に会話し、複数の物語が進行するものだった。ト…
2023/04/28 トーマス・マン「魔の山」(岩波文庫)第6章-1 ナフタはキリスト教共産主義を目指す宗教的情熱家 1924年の続き 全体のタイトル「魔の山」は日本語でしか知らなかったが、ようやく「zauberberg」であると知る。何が「魔」であるかはたくさんの解釈…
2023/04/27 トーマス・マン「魔の山」(岩波文庫)第6章-2 「zauberberg」は「奇人変人たちの山」 1924年の続き 「魔の山」の饗宴が続き、ついに時間感覚は失われる。第7章になると、ハンス到着以後の年数は記載されなくなり、月の名前とおおよその時刻だけが…
2023/04/26 トーマス・マン「魔の山」(岩波文庫)第7章-1 ペーペルコルン氏はカリスマ独裁者のカリカチュア 1924年の続き 療養所の時間は「低地」とはことなるゆっくりした流れであるのだが、「低地」の時間はもっと早く流れる。その影響は次第に療養所にま…
「ワイマールのロッテ(岩波文庫では「ワイマルのロッテ」)は1939年に発表。年譜を見ると、あのぶっとい「ヨセフとその兄弟(1933-1943)」の第3部を発表した後なので、ちょっとしたきばらしの作品だったらしい。マンの長編にしては短い。とはいえ上下二巻…
2023/04/24 トーマス・マン「ワイマルのロッテ 上」(岩波文庫)-1 「不滅の愛人」にさせられたシャルロッテ、ゲーテに真意を問いただすことにする 1939年の続き 第4章 ・・・ はいってきたのはアデーレ・ショウペンハウアー令嬢(兄アルトゥールは1818年に「…
2023/04/22 トーマス・マン「ワイマルのロッテ 上」(岩波文庫)-2 1816年ナポレオンを支持する老ゲーテはドイツ精神の裏切り者と目される 1939年の続き シャルロッテはゲーテが離れ結婚したあとの44年間に十数度(!)の妊娠出産と子育てを経て、夫にも十数…
2023/04/21 トーマス・マン「ワイマルのロッテ 下」(岩波文庫)-1 大ゲーテは過去にうぬぼれ他人を嫌う俗物になっていた 1939年の続き 前の第7章はシャルロッテの想像であるかのようにメモを書いたのだが、どうやら誤っていた。第7章はゲーテその人の内話で…
発表は1940年。とすると、「ワイマルのゲーテ」1939年のあと「ファウスト博士」1947年(執筆は1943-45年)を書き出す前になる。「ヨセフとその兄弟」第4部の完成を目しているころに、インド思想の研究をしていて、この小品がスピンアウトしたのだという。以…
トーマス・マンがアメリカ亡命中の1943-45年にかけて書き、1947年に出版された。執筆中はWW2が進行していて、予断は許さないもののドイツは次第に劣勢になっている。ナチスドイツの全体主義国家の横暴が止まるのは喜ばしいことではあるが、故郷で祖国のドイ…
2023/04/18 トーマス・マン「ファウスト博士 上」(岩波文庫)-1 全体主義ドイツの告発とドイツ精神の擁護 1947年の続き 一友人の物語る、ドイツの作曲家アドリアン・レーヴェルキューンの生涯(1885-1940) 第1章 はじめに。自己紹介とアドリアンについて。…