odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

堀田善衛「審判 上」(集英社文庫)第一部

雑誌「世界」に1960年から1962年にかけて連載された。 第一部 全体のイントロダクションと登場人物紹介。 寒冷地研究をしている出(いで)信也東大教授。戦前は陸軍の協力があり、戦後はアメリカ軍の協力があって、学究生活をしているインテリ。過去の経歴か…

堀田善衛「審判 上」(集英社文庫)第二部

2022/09/30 堀田善衛「審判 上」(集英社文庫)第一部 1963年の続き 長い序章をうけての第二部はワルツ。氷川丸に乗ってやってきたポール・リボートのために出(いで)家は歓迎パーティをすることになった。その準備から顛末から後始末までの2日間を書く。そ…

堀田善衛「審判 下」(集英社文庫)第三部

2022/09/29 堀田善衛「審判 上」(集英社文庫)第二部 1963年の続き 第3部になると、前の部で歓迎パーティのために集まった人々はばらばらになる。うわべでは幸福な家族であるような出家の人々は変化をみせて、それぞれがもつ敬意や敵意があらわになるようで…

堀田善衛「審判 下」(集英社文庫)第四部

2022/09/27 堀田善衛「審判 下」(集英社文庫)第三部 1963年の続き 「阿保天使、バカ天使」のポールの存在は出家の人々の紐帯を切りほどいてしまったかのよう。自分の目の前でポールが唐見子に乗り換え、拒絶されたのを見た雪見子は神経症(ママ)を病む(…

堀田善衛「スフィンクス」(集英社文庫)-1

登場人物の誰も観光に出かけていないのにタイトルが「スフィンクス」であるとははて面妖な。そこで本文の中に登場する「スフィンクス」をみることにする。 スフィンクスが、昼はあまりにも青過ぎる、そうして夜は職あまりにも澄明にすぎる砂漠の地平と天涯に…

堀田善衛「スフィンクス」(集英社文庫)-2

2022/09/23 堀田善衛「スフィンクス」(集英社文庫)-1 1965年の続き 実は主人公の二人は様々な人やグループに目をつけられて、つかず離れずの監視を受けながら、利用されていたのであった。というのも、1962年のヨーロッパと北アフリカ、アラブの情勢をみる…

堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 上」(集英社文庫)

個人的なことから。高校二年の冬に手に取り、熱中して読んだ。そのあと繰り返し読んだ。そしてこのような学生生活を送りたいものだと熱望した。あいにく、主人公とは逆に田舎の大学にいったために、小説のような学生生活にはならなかった。 さて、作者は50歳…

堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 上」(集英社文庫)-2

2022/09/20 堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 上」(集英社文庫) 1968年の続き 第2部はモラトリアムの時期。主に内面のことを指して言うのであるが、同時に語り手「若者」の境遇にある。なんとなれば、1936年に入学したのち、第2部が終わる1941年冬になっ…

堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 下」(集英社文庫)-1

2022/09/19 堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 上」(集英社文庫)-2 1968年の続き 高校2年時の読書の記憶を紐解けば、語り手は読書会をしたり宴会をしたりバーや料亭での酒盛りなどをさかんにしていたはずである。しかし、再読すると、それはわずかでたいて…

堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 下」(集英社文庫)-2

第4部にはいり、繰り上げられた卒業式が行われると、徴兵検査に合格したものはすぐに赤紙が届く。男(若者から呼称変更)の友人たちの間では壮行式や激励会をしないことにしていた。街頭や駅前で行われる万歳を含む儀式に耐えられなかったから。その結果、男…

堀田善衛「橋上幻像」(集英社文庫)

1970年の小説。いきなり単行本ででた。登場人物に固有名を持たせない、詩的イメージを喚起させる文章など作家の小説の中では異色な実験作。しかし、現実(1970年当時の)と歴史を強く意識しているのはこれまでの小説と同じ。 橋へ ・・・ イントロダクション…

堀田善衛「19階日本横町」(集英社文庫)

海外にでて小説を書く日本人作家は珍しくないけど(そうか?)、作者はそのはしりのひとり。1972年のこの小説もあとがきを書いたのはパリだった。海外に住むことによって、日本人の常識やあたりまえが海外では通用しないし、日本にいては気づかないような欠…

堀田善衛「ゴヤ 1」(朝日学芸文庫)-1

堀田善衛は絵を見る人。本作の前に、古今東西の絵を見た感想を描いている。堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-1堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-2 ただ、この評論集にはゴヤがはいっていない。 作家は多読であり、対象になった事件・…

堀田善衛「ゴヤ 1」(朝日学芸文庫)-2

絵師は、画布に向かってだけではなく、建物の壁面に直接描く場合があった。その建物が他人の手に渡ったり、政府組織(端的には軍隊)が使ったり、外国の集団が接収して使ったりすると、絵の価値がわからずに、ずさんな使い方をする。建物の修復のさいに、勝…

堀田善衛「ゴヤ 2」(朝日学芸文庫)-1

2022/09/08 堀田善衛「ゴヤ 1」(朝日学芸文庫)-2 1973年の続き 作家はいう。 「ヨーロッパ文明の受容についての、少くとも従来の受容の仕方についての、われわれの側の不備、不幸の一つは、主として一九世紀以降のそれを、あたかも折れた矢を一本の完全な…

堀田善衛「ゴヤ 2」(朝日学芸文庫)-2

1792年。失聴。右腕や足の麻痺(のちに回復)、その他の苦痛。「聾者であるゴヤに見える、またゴヤが意志的に見る現実世界には、しかし、音がない。それが純音響を伴わぬ現実である(P235)」ことを片時も忘れてはならない。 一七九二~九三年・悪夢 ・・・ …

堀田善衛「ゴヤ 3」(朝日学芸文庫)-1

2022/09/05 堀田善衛「ゴヤ 2」(朝日学芸文庫)-2 1974年の続き 有力な支援者(であり愛人)を失い、聾疾ははかばかしくない。老いもやってきて憂愁にふける。 作者の目によると、ヨーロッパの肖像画、とくに貴族の女性のそれ、は見合い写真であった。なん…

堀田善衛「ゴヤ 3」(朝日学芸文庫)-2

2022/09/02 堀田善衛「ゴヤ 3」(朝日学芸文庫)-1 1975年の続き 堀田善衛の「ゴヤ」は全4巻なのだが、最初の二巻でゴヤは60歳の老人になる。そのあとの20年を描くのに、それまでの60年と同じ量の文章を使わねばならない。 思い返せば、作者が「ゴヤ」を連…