odd_hatchの読書ノート

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イギリス文学_エンタメ

イーデン・フィルポッツ「闇からの声」(創元推理文庫)

引退した元判事ジョン・リングローズは、イギリス海峡に面したオールド・マナー・ハウスホテルで、深夜子供の叫び声を聴く。「そいつに僕を見させたりしないで、ビットンさん」。それが二回続き、隣室の老婆から一年前に少年が脳膜炎に似た症状で亡くなった…

エドワード・アタイヤ「細い線」(ハヤカワ文庫)

その夕方、ピーターは憔悴しきっていた。妻の眼をかいくぐって、不倫を楽しんでいた相手を絞殺してしまったのだ。疲れてはいるのに、心は無感動で無関心。呆然としているのみ。パブで強い酒を飲もうとしていると、殺した相手の夫ウォルター(四半世紀来の友…

ジョン・ル・カレ「寒い国から帰ってきたスパイ」(ハヤカワ文庫)

1961年に東ドイツが西ドイツとの国境線に沿ってベルリン市内に壁をつくる。建設途中から西ドイツに逃れようとする市民がいたが、国境を警備する軍隊は容赦なく射撃した。西側からは壁の向うの東側の様子はほとんどわからなくなり、漏れ伝えられる情報では、…

D・M・ディヴァイン「悪魔はすぐそこに」(創元推理文庫)

ハートゲート大学の無能と評されるハクストン博士が横領の疑いで教授会の審問を受けようとしている。失職を恐れた博士は友人の息子ピーターに仲裁を頼むがはぐらかられる。審問で博士は過去のスキャンダル(ピーターの父にかかわること)を暴露すると息巻き…

フレデリック・フォーサイス「ジャッカルの日」(角川書店)

第2次大戦前からアルジェリアはフランスの植民地だった(なのでアルジェリア出身のフランス人がいる。アルベール・カミュが有名。サッカー選手には多数)。戦後、独立運動が起きて、フランス軍と独立派の戦闘が起きた。フランスは最終的に撤退することを決め…

イアン・ワトソン「スローバード」(ハヤカワ文庫)

イアン・ワトソンは1943年生まれのイギリスの作家。1980年代には、このblogで取り上げた3冊だけ翻訳出版された。そのあと、「黒い流れ」シリーズがでた。他は「エンベディング」「オルガスマシン」がでているくらい。よく比較されるクリストファー・プリース…

イアン・ワトソン「マーシャン・インカ」(サンリオSF文庫)

タイトルの「The Martian Inca」を無理やりに邦訳すれば「火星(人)化されたインカ」とでもなる。キーワードは「火星」と「インカ」。 米ソ(書かれたのは1977年だからね)で惑星開発競争が盛んになり、アメリカは火星で「ウォーミング・パン(加熱装置)」…

イアン・ワトソン「ヨナ・キット」(サンリオSF文庫)

タイトルはいくつもの意味が隠されているとみえる。まず「ヨナ」は登場するクジラの名前であるし、ソ連の研究所が推進しているプロジェクトの名前であるし、もちろん聖書に登場するクジラに飲まれたヨナでもある。「キット」はそのまま部品とか一部を構成す…

ロバート・ホールドストック「アースウィンド」(サンリオSF文庫)

遠い未来でどうやら銀河連邦のような組織をつくっているらしい。読者であるわれわれの現実からずれているのは、未来予測に易経を使い、その卦をみて行動を決めているらしいこと。なので、他の惑星に交易などで駐留する宇宙線には「義理者」と呼ばれる易の担…

マイクル・コニイ「ブロントメク!」(サンリオSF文庫)

地球から移住可能な惑星アルカディア。ここに住むマインドというプランクトンは50年おきに大発生し、人間の脳波に影響を与えてうつ症状を引き起こし、集団で入水自殺する事態を起こしていた。それを抑えるのは自生している植物から抽出した イミュノールとい…

マイクル・コニイ「カリスマ」(サンリオSF文庫)

パラレルワールドないし並行世界論というのがあって、この物理現実の世界の<横>にほんのわずかだけ違った別の世界がある、その横にはその差異にほんのわずかの違いが加わった別の世界がある。すこしずつ差異を増やしながら無限の数の世界が連なっている。…

リチャード・カウパー「クローン」(サンリオSF文庫)

2072年(本書出版年の100年後)のイギリス。人口爆発のために3億5千万人が住み、ロンドンは5千万都市になっている。このころまでにチンパンジーの知能化に成功し、英語を喋り、人間の労働の一部を代行する。それもだいぶ時間がたち、チンパンジーの一部は労…

ジョン・ブラックバーン「小人たちがこわいので」(創元推理文庫)

ウェールズはキリスト教化される以前の文明が残る場所とされる。古代の巨石遺跡もあって、ファンタジーの舞台になることがある。現在でも、生粋のウェールズ語が残っていて、それをしゃべられるとロンドンのイングランド人には通じないくらい。 この小説でも…

コリン・ウィルソン「迷宮の神」(サンリオSF文庫)

作家ジェラード・ソームはある出版社から18世紀後半の貴族エズマンド・ダンリイについて書くように求められる。エズマンドは1748年生まれ1832年死去の放蕩者。性的遍歴をポルノチックにつづった日記によってのみ知られていたとされる。18世紀後半には無名氏…

ブライアン・オールディス「兵士は立てり」(サンリオSF文庫)

ニューウェーブの担い手としての作品ではなく、自伝的なホレイショ・スタブス3部作の第2作。第1作「手で育てられた少年」第3作「突然の目覚め」もサンリオSF文庫で出版されたが、そちらは未入手・未読。なのでこの一作だけを取り上げることになる。 1971年に…

ブライアン・オールディス「世界Aの報告書」(サンリオSF文庫)

イギリスとおぼしき国の郊外に館がある。マリイ氏とその妻が住んでいるらしい。その周囲にはバンガロー、煉瓦の納屋、馬車格納庫などがあり、G(元庭師)、S(元秘書)、C(元運転手)がこもっている。彼らの目的はマリイ氏を監視すること。望遠鏡や双眼鏡を使…

C.H.B.キッチン「伯母の死」(ハヤカワポケットミステリ)

本を開くと、登場人物表はなくて、かわりにカートライトとデニスの一家の家系図が乗っている。総数30人くらいで、こんなにたくさんの人物を読み分けないといけないのかと重い気持ちになったが、会話のある人物はほんの数人。肩透かしをくらったけど、こうい…

マージェリー・アリンガム「判事への花束」(ハヤカワポケットミステリ)

故ジャコビイ・バーナビスの創立したロンドンの出版社は老舗で、(書いていないけど)大戦の影響も受けずに安定していた。この会社はジャコビイの親族(いとこばっかり)で経営されている。本来は、トムという甥が後を継ぐべきだったのに、なぜか20年ほど前に…

ボブ・ショウ「見知らぬ者たちの船」(サンリオSF文庫)

測量調査船サラフォード号は、辺境の惑星をめぐって地図を作る仕事。開発予定もない異境の地であっても地図は必要だというのでひどい条件で仕事をしている。そのため、短期間で金を稼ぐ目的の連中しか来ない。タイトル「見知らぬ者たち」というのはすぐにメ…

ボブ・ショウ「おれは誰だ」(サンリオSF文庫)

2386年では徴兵に応じたものは過去一年間の記憶を消されることになっていた。しかし、今回応募したウォーレン・ピース(この名前の由来は笑える)は施術に失敗したのか、過去すべての記憶を失ってしまった。まっさらのタブラ・ラサの状態でいきなり兵士にな…

イアン・バンクス「蜂工場」(集英社文庫)

いやあ、怖かった。ここには超常現象もおきないし、怪物も悪魔もUMAも宇宙人も現れない。ほとんどリアリズムの小説なのに、そこらの凡百のホラーにはない恐怖が満ち溢れている。 さて、表紙カバーには「結末は、誰にも話さないでください」と念押ししているの…

ピーター・ディキンスン「緑色遺伝子」(サンリオSF文庫)

時代はわからないがたぶん1973年ごろ(小説の初出時の年)。100年ほど前から遺伝子の突然変化が形質化したのか、肌の色が緑色の子供が生まれるようになった(肌の色が白・黒・赤・黄のいずれでもないことに注意)。アングロサクソン系の人たち(もちろんイン…

ピーター・ディキンスン「キングとジョーカー」(扶桑社文庫)

現在の並行世界にあるイギリス。1977年当時のイギリス国王とその一家(架空の家族)。国王ビクター(医師の免許を持っているというのがおもしろい)に王妃イザベラに、皇太子アルバート(高校生)に、王女ルイーズ(14歳)。そこに国王の秘書ナニー(国王の愛…

P・D・ジェイムズ「黒い塔」(ハヤカワポケットミステリ)

「ドーセットにある障害者用の療養所で教師をしていたバドリイ神父が急死した。長年の知人であるダルグリッシュ警視が、折り入って相談があるという手紙を受け取った直後のことだった。はたして神父の相談ごととは何だったのか。休暇を利用して調べをはじめ…

ジェセフィン・テイ「時の娘」(ハヤカワポケットミステリ)

高校時代を思いだすと、世界史授業の中で英国が出てくるのは、12世紀のマグナ・カルタと17世紀の名誉革命と19世紀の産業革命と20世紀の2つの大戦。途中に大航海時代と東インド株式会社がはいるか。たぶんそれくらい。「時の娘」がテーマにしている薔薇戦争(…

ウィリアム・モール「ハマースミスのうじ虫」(創元推理文庫)

マンハント(人間狩り)の物語。前半はピーピングと尾行が語られるが、そこに背徳とか罪悪感はない。バルビュス「地獄」との差異は作者の国籍の違いによるのか(実務家のロックと理想家のルソーの違いとか)。主人公が上記のような負の感情を持たないのは、…

マイケル・ギルバート「捕虜収容所の死」(創元推理文庫)

「第二次世界大戦下、イタリアの第一二七捕虜収容所でもくろまれた大脱走劇。ところが、密かに掘り進められていたトンネル内で、スパイ疑惑の渦中にあった捕虜が落命、紆余曲折をへて、英国陸軍大尉による時ならぬ殺害犯捜しが始まる。新たな密告者の存在ま…

ジェイムズ・M・スコット「人魚とビスケット」(創元推理文庫)

「1951年3月7日から2カ月間、新聞に続けて掲載され、ロンドンじゅうの話題になった奇妙な個人広告。広告主の「ビスケット」とは、そして相手の「人魚」とは誰か?それを機に明かされていく、第二次大戦中のある漂流事件と、その意外な顛末。事実と虚構、海洋…

エリザベス・フェラーズ「私が見たと蠅は言う」(ハヤカワ文庫)

「ロンドンの安アパートは、女流画家のケイ、評論家のテッドとその愛人メリッサ、建築家のチャーリーに、作家志望のナオミなど一癖も二癖もある住人揃い。ある日、フランスへ行くとアパートを出たナオミの部屋からピストルが発見された。みんなが不安を煽ら…

マイケル・イネス「ある詩人への挽歌」(現代教養文庫)

「ラナルド・ガスリーはものすごく変わっていたが、どれほど変わっていたかは、キンケイグ村の住人にもよく分かっていなかった……狂気に近いさもしさの持ち主、エルカニー城主ガスリーが胸壁から墜死した事件の顛末を荒涼とした冬のスコットランドを背景に描…