イギリス文学_エンタメ
作者はアイルランド系アメリカ人。そういえば19世紀半ばの飢饉からアイルランド人の多くがアメリカに移住した。20世紀も半ばになると、移民が数世代の代替わりをすると、なかから知識人が生まれたのだろう。著者は修士卒業後に作家になった人。本書のマッガ…
1920年代の長編探偵小説黄金時代の劈頭を飾る大作(1922年)。1970年代までミステリ初心者の必読作品とされた名品。初読の高校生(記憶は中学生だが、記録は高校生。うーん俺の記憶はどうなっている)の時は、もちろんびっくりしましたよ。それからだいぶた…
小説家のロジャー・シェリンガム氏は犯罪学に興味をもっている著名人(貴族の弁護士に、劇作家に、探偵小説家に……)を集めて「犯罪研究会」を主宰していた。きわめて厳格なメンバーシップを決めていたので、定員13人のところ6人しかいない。このメンツでいつ…
文庫のサマリーから。 「<ピカデリー・パレス・ホテル>のラウンジで休んでいたチタウィック氏は、目の前で話し合っている二人連れにいつとはなしに注目していた。年配の女性と若い赤毛の男。とそのうちに、男の手が老婦人のカップの上で妙な動きをするのが目…
「スティーブンソンが『カトリアナ』のなかで、こういった縛り首の死体をジャンピング・ジャックと呼んでいなかったか。ということは、女性ならジャンピング・ジェニィだろう(P17)」 1920-30年代に地方の閑なアッパークラスの人たちは、互いに招待しあって…
劇作家シェルダン・ギャレットは自作の劇上演でイギリスに呼ばれた。お茶が好きなので(アメリカ人にしては珍しい)、喫茶店に入る。ふと隣の客の会話を盗み聞きしてしまった。女二人の声で、なにごとか犯罪を計画しているらしい。首謀者は「エヴァンス」と…
評論家でオカルト研究者のコリン・ウィルソンが1975年になぜ警察小説を書いたのか、といぶかったが、思い返せば著者は殺人事件情報のコレクターでもあった。自分が読んだのは「現代殺人百科」「殺人ケースブック」の二つだが、ほかにもたくさん出ていた。 警…
1915年、大西洋航行中のルシタニア号がドイツ潜水艦の攻撃を受けて沈没。1200名の死者を出し、700名あまりの生存者がいた。沈没に際し、人格の高潔さと低劣さを示すさまざまな出来事があったらしい。本書にでてくるのは架空の事件だが、グラナドスが似たよう…
初出の1986年はまだソ連があって、西側と対立。イデオロギーの対立は外交や軍事の対立にもなり、互いの秘密暴きにやっきになっていた。ときに敵対国を支持することに熱心なあまり、極秘情報を敵対国に流すことも起こる。そういう人が見つかると当然収監され…
時は1792年。フランス革命は恐怖政治に転化し、毎日貴族が処刑されていた。そこに、イギリスの義賊団現る。「紅はこべ Scarlet Piempernel」を名乗る一団が、処刑される貴族を次々とイギリスに亡命させたのである。フランス当局の厳重な警戒も国境封鎖も役に…
引退した元判事ジョン・リングローズは、イギリス海峡に面したオールド・マナー・ハウスホテルで、深夜子供の叫び声を聴く。「そいつに僕を見させたりしないで、ビットンさん」。それが二回続き、隣室の老婆から一年前に少年が脳膜炎に似た症状で亡くなった…
その夕方、ピーターは憔悴しきっていた。妻の眼をかいくぐって、不倫を楽しんでいた相手を絞殺してしまったのだ。疲れてはいるのに、心は無感動で無関心。呆然としているのみ。パブで強い酒を飲もうとしていると、殺した相手の夫ウォルター(四半世紀来の友…
1961年に東ドイツが西ドイツとの国境線に沿ってベルリン市内に壁をつくる。建設途中から西ドイツに逃れようとする市民がいたが、国境を警備する軍隊は容赦なく射撃した。西側からは壁の向うの東側の様子はほとんどわからなくなり、漏れ伝えられる情報では、…
ハートゲート大学の無能と評されるハクストン博士が横領の疑いで教授会の審問を受けようとしている。失職を恐れた博士は友人の息子ピーターに仲裁を頼むがはぐらかられる。審問で博士は過去のスキャンダル(ピーターの父にかかわること)を暴露すると息巻き…
第2次大戦前からアルジェリアはフランスの植民地だった(なのでアルジェリア出身のフランス人がいる。アルベール・カミュが有名。サッカー選手には多数)。戦後、独立運動が起きて、フランス軍と独立派の戦闘が起きた。フランスは最終的に撤退することを決め…
イアン・ワトソンは1943年生まれのイギリスの作家。1980年代には、このblogで取り上げた3冊だけ翻訳出版された。そのあと、「黒い流れ」シリーズがでた。他は「エンベディング」「オルガスマシン」がでているくらい。よく比較されるクリストファー・プリース…
タイトルの「The Martian Inca」を無理やりに邦訳すれば「火星(人)化されたインカ」とでもなる。キーワードは「火星」と「インカ」。 米ソ(書かれたのは1977年だからね)で惑星開発競争が盛んになり、アメリカは火星で「ウォーミング・パン(加熱装置)」…
タイトルはいくつもの意味が隠されているとみえる。まず「ヨナ」は登場するクジラの名前であるし、ソ連の研究所が推進しているプロジェクトの名前であるし、もちろん聖書に登場するクジラに飲まれたヨナでもある。「キット」はそのまま部品とか一部を構成す…
遠い未来でどうやら銀河連邦のような組織をつくっているらしい。読者であるわれわれの現実からずれているのは、未来予測に易経を使い、その卦をみて行動を決めているらしいこと。なので、他の惑星に交易などで駐留する宇宙線には「義理者」と呼ばれる易の担…
地球から移住可能な惑星アルカディア。ここに住むマインドというプランクトンは50年おきに大発生し、人間の脳波に影響を与えてうつ症状を引き起こし、集団で入水自殺する事態を起こしていた。それを抑えるのは自生している植物から抽出した イミュノールとい…
パラレルワールドないし並行世界論というのがあって、この物理現実の世界の<横>にほんのわずかだけ違った別の世界がある、その横にはその差異にほんのわずかの違いが加わった別の世界がある。すこしずつ差異を増やしながら無限の数の世界が連なっている。…
2072年(本書出版年の100年後)のイギリス。人口爆発のために3億5千万人が住み、ロンドンは5千万都市になっている。このころまでにチンパンジーの知能化に成功し、英語を喋り、人間の労働の一部を代行する。それもだいぶ時間がたち、チンパンジーの一部は労…
ウェールズはキリスト教化される以前の文明が残る場所とされる。古代の巨石遺跡もあって、ファンタジーの舞台になることがある。現在でも、生粋のウェールズ語が残っていて、それをしゃべられるとロンドンのイングランド人には通じないくらい。 この小説でも…
作家ジェラード・ソームはある出版社から18世紀後半の貴族エズマンド・ダンリイについて書くように求められる。エズマンドは1748年生まれ1832年死去の放蕩者。性的遍歴をポルノチックにつづった日記によってのみ知られていたとされる。18世紀後半には無名氏…
ニューウェーブの担い手としての作品ではなく、自伝的なホレイショ・スタブス3部作の第2作。第1作「手で育てられた少年」第3作「突然の目覚め」もサンリオSF文庫で出版されたが、そちらは未入手・未読。なのでこの一作だけを取り上げることになる。 1971年に…
イギリスとおぼしき国の郊外に館がある。マリイ氏とその妻が住んでいるらしい。その周囲にはバンガロー、煉瓦の納屋、馬車格納庫などがあり、G(元庭師)、S(元秘書)、C(元運転手)がこもっている。彼らの目的はマリイ氏を監視すること。望遠鏡や双眼鏡を使…
本を開くと、登場人物表はなくて、かわりにカートライトとデニスの一家の家系図が乗っている。総数30人くらいで、こんなにたくさんの人物を読み分けないといけないのかと重い気持ちになったが、会話のある人物はほんの数人。肩透かしをくらったけど、こうい…
故ジャコビイ・バーナビスの創立したロンドンの出版社は老舗で、(書いていないけど)大戦の影響も受けずに安定していた。この会社はジャコビイの親族(いとこばっかり)で経営されている。本来は、トムという甥が後を継ぐべきだったのに、なぜか20年ほど前に…
測量調査船サラフォード号は、辺境の惑星をめぐって地図を作る仕事。開発予定もない異境の地であっても地図は必要だというのでひどい条件で仕事をしている。そのため、短期間で金を稼ぐ目的の連中しか来ない。タイトル「見知らぬ者たち」というのはすぐにメ…
2386年では徴兵に応じたものは過去一年間の記憶を消されることになっていた。しかし、今回応募したウォーレン・ピース(この名前の由来は笑える)は施術に失敗したのか、過去すべての記憶を失ってしまった。まっさらのタブラ・ラサの状態でいきなり兵士にな…