odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

フランス文学

メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-2 第1幕第2幕 異教の少女が無理やり結婚させられ、危篤の親友に会いたい少年は城からでられない。

「まいにちフランス語 応用編 オペラで学ぶ「ペレアスとメリザンド」を読む」が2021~22年にNHKで放送された。講師は川竹英克さんとジョジアーヌ・ピノンさんの二人のフランス文学者。講師によるとメーテルランクの原文はわかりやすい簡単なフランス語で書か…

メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-3 第3幕第4幕(続く) 父親不明で懐妊させられたメリザンドと城から出たいのに許されないペレアスは分裂にさいなまれ、大人にいじめられる

2023/09/05 メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-2 第1幕第2幕 異教の少女が無理やり結婚させら、危篤の親友に会いたい少年は城からでられない。 1893年の続き どうしてもワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を想起してしまうので、気づか…

メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-4 第4幕(承前)第5幕 大人に反抗しないように躾けられた少女と少年はいないものにさせられる。

2023/09/04 メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-3 第3幕第4幕(続く) 父親不明で懐妊させられたメリザンドと城から出たいのに許されないペレアスは分裂にさいなまれ、大人にいじめられる 1893年の続き メリザンドは少女であるが肉体の存在…

村山則子「メーテルランクとドビュッシー」(作品社) 戯曲とオペラのリブレットの違いを検証。ここに書かれなかったミソジニーやフェミニン視点が大事。

最近(2023年)、ドビュッシー唯一のオペラ「ペレアスとメリザンド」が大好きになってしまった。ドビュッシーの最高傑作の音楽は、毎日数回聴いても飽きない。ようやく音楽は耳になじんできたとはいえ、テキストの理解が危ういので、本書で勉強する。あと2…

アルベール・カミュ「異邦人」(新潮文庫)-1 植民地で起きたヘイトクライム事件の概要。ムルソーにとって太陽はフランス国家の象徴。

この高名な小説に関する言説で奇妙なのは、語り手の「私」はなぜ「異邦人」なのか、どこに対して異邦であるのかが問われていないことだ。語り手の「私」は裁判官にも陪審員にも弁護士にも司祭にも愛されていない、共感を得られていない。その理由は、「私」…

アルベール・カミュ「異邦人」(新潮文庫)-2 植民地で起きたヘイトクライム事件の背景。無神論者は地獄行きになる。

2023/08/29 アルベール・カミュ「異邦人」(新潮文庫)-1 植民地で起きたヘイトクライム事件の概要。ムルソーにとって太陽はフランス国家の象徴。 1942年の続き このように事件の構造は、フランス人による植民地先住民へのヘイト殺人だ。そのように解釈する…

アルベール・カミュ「シーシュポスの神話」(新潮文庫)-1 自意識過剰でフラフラしている青年が不満をぶちまけた哲学風な独り言

アルベール・カミュくん(1913年生まれ)が20代の後半に書いた哲学風エッセイ。同じ年齢で読んだら感動しただろうが、初老で読むとその稚気がほほえましく、性急さに落ち着けよと言いたくなり、「ぼくが、ぼくは、ぼくの、ぼくを」が頻出する語り口にそうい…

アルベール・カミュ「シーシュポスの神話」(新潮文庫)-2 近代ヨーロッパに現れたある種の人たちが感じる自己肯定感の欠如

2023/08/25 アルベール・カミュ「シーシュポスの神話」(新潮文庫)-1 自意識過剰でフラフラしている青年が不満をぶちまけた哲学風な独り言 1942年の続き アルベールくんの「不条理」に関する饒舌は、人間の普遍的な性格を分析したのではなく、近代ヨーロッ…

アルベール・カミュ「ペスト」(新潮文庫)-2 ペスト禍が発見した政治参加による自由

2023/03/08 アルベール・カミュ「ペスト」(新潮文庫)-1 1947年の続き 感染症が起きたとき、どのような対策をとるかは政治の仕事になる。なので、統計や対策、声明は市が出すものになる。医師や技術者、科学者は政治のサポートにまわる。2020年のグローバル…

ガボリオ「ルコック探偵」(旺文社文庫)-3  二世代にわたるロマンス。親の世代の恨みつらみとこの世代の愛憎関係は正反対。頑張るほどに生きにくくなる。

2022/05/11 ガボリオ「ルコック探偵」(旺文社文庫)-2 1869年の続き 1815年の「ワーテルローの戦い」でナポレオンが失脚。すると、王党派が権力の奪還に来るのである。フランス革命以来、四半世紀近く放逐されていたセルムーズ侯爵領はラシュメール一家が管…

アレクサンドル・デュマ「仮面の男」(角川文庫) ダルタニャン物語の最後。19世紀のソープオペラ的な描写は冗長すぎた。

ボアゴベ-黒岩涙香の「鉄仮面」を読んだので、その勢いでデュマの「鉄仮面」を読む。面食らったのは「三銃士」のダルタニャンが出てくること。あとがきによると、「三銃士(1844)」の続編の「二十年後(1845)」のさらに続編「ブラジュロンヌ子爵(1848)」…

佐藤賢一「ダルタニャンの生涯」(岩波新書) 当時としては珍しく王への忠誠を全うしたダルタニャンのような忠誠と奉仕をしろと現代のサラリーマンにいっているよう。

大デュマ「仮面の男」がなかなか読み進まないので、こちらに手を伸ばした。デュマを読む参考にはなったと思うが、フランス史の勉強になったかというと、うーん。 デュマの小説「三銃士」「二十年後」「ブラジュロンヌ子爵(後半が「仮面の男)」で世界中にし…

奥平堯訳編「フランス笑話集」(現代教養文庫) 1881年に出版された中世後期から近世初期の民話集の翻訳。

あとがきによると、「Les litteratures populaires de toutes les nations」から笑話を選んで訳したもの。元本の情報があとがきにないので、ネットで検索するとあった。 Catégorie:Les Littératures populaires de toutes les nations - Wikisource Les litt…

ヴォルテール「カンディード」(岩波文庫) 世界はとてつもなく厳しいけど、「なにはともあれわたしたちの畑を耕さなければなりません」

フランス啓蒙主義の立役者ヴォルテールが1759年に書いた小説(現代のそれとはちょっと違うけど)。ちなみに、この小説を翻案したバーンスタインのミュージカルは「キャンディード」。とても似ていてちょっと違うのでご注意あれ。 さて、ウェストフェリアの太…

ミラボー伯「肉体の扉」(富士見ロマン文庫) 梅毒がまだ蔓延していない18世紀末の性の啓蒙と解放のすすめ。

ミラボー伯はフランス革命初期の指導者。生涯はこちらを参照。 オノーレ・ミラボー - Wikipedia 大政治家である人も、若い時にはやんちゃであったらしく、ときに監獄に入れられた。ヴァンセンヌ獄中にあるときに、「肉体の扉」なる性愛小説を書き(たぶん1776…

ギョーム・ド・アポリネール「若きドン・ジュアンの冒険」(角川文庫) 才人が書いた13歳の性豪のかぐわしい匂いが横溢する遍歴物語。

アポリネールが匿名で書いたポルノグラフィー。 高校生のときに、堀口大學訳でアポリネールの詩集を読んだなあ。「ミラボー橋」を暗唱できたときもあった。自分の勝手な感想でいうと、アポリネールはボードレール、ヴェルレーヌ、ランボー、マラルメと続くフ…

ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル 上」(角川文庫) 長大な新聞小説を40%に圧縮した縮約版。第2帝政期フランスの貧困と政治の未対応を告発。

19世紀の小説の中ではとりわけ有名。いくつかのエピソードは小学生のころから知ってはいても、全体を読むことはめったにない。なにしろ新潮文庫(全5冊)や岩波文庫(全4冊)などの分厚い全訳を読み通すのはきわめて困難。そこで、角川文庫の縮約版を読む。1…

ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル 下」(角川文庫)-1 社会の矛盾、父と子の葛藤が1832年のパリ暴動に向けて収斂していく。

2017/03/01 ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル 上」(角川文庫) 1862年の続き。 さてジャン・バルジャン、コゼット、マリウス、テナルディエ、ジャベール警部の因縁の深まりは、偶然の出会いと必然の衝突を繰り返し、次第に沸騰していく。それは、1832年6…

ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル 下」(角川文庫)-2 バリケードの中のユートピア。権力の支配、侵略戦争、国家間の対立が解消される共和政が実現する。

2017/03/01 ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル 上」(角川文庫) 1862年 2017/02/28 ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル 下」(角川文庫)-1 1862年 の続き。 バリケード蜂起の時、人々は日常を越えた祝祭と緊張の瞬間を生きる。平穏であるが変化の乏しい…

アンドレ・ジイド「背徳者」(新潮文庫) 主人公は家族・宗教・国家から疎外された余所者だが、植民地主義や性差別から抜け出せない

ギムナジウムで優秀な成績をとったミシェル君は教師の勧めで、古典学・文献学の研究を続ける。実家は南フランスの大地主で、そこの上りで十分に暮らしていけたのだ。25歳の時、20歳のマルスリイヌと結婚。式のあと、ミシェルは妻を愛していないことに気付く…

ヴェルコール「海の沈黙・星への歩み」(岩波文庫) ナチスに対する非暴力不服従のレジスタンス。でも野蛮な権力には対抗できないので使い方に注意。

作者ヴェルコールについては、wiki記事(ヴェルコール - Wikipedia)を参照。この文庫の解説で補足すると、イラストレイターだったのが、1940年夏のナチスドイツによるフランス占領から抵抗(レジスタンス)の活動を行った。収録された短編はそのときに公開…

ジャック・プレヴェール「プレヴェール詩集」(マガジンハウス) レジスタンスと映画にかかわった20世紀前半のフランス詩人。ナンセンスと路上の人たちへのやさしい視線。

ジャック・プレヴェールは1900年生まれ。10代に第1次大戦で動員され、20代にシュールリアリズム運動にかかわり、30代に映画界にはいって脚本をかいたり挿入歌の歌詞を書いたり、40代にレジスタンスにかかわったり、そのあとも映画にかかわり詩を作った。マル…

ジュール・ルナール「博物誌」(旺文社文庫) 田舎に住んで野生の動植物と一緒に暮らした詩人が、彼らの「ありのまま」を描く。

解説を読んでなるほどと思ったのは、ルナールはビュフォンの「博物誌」を読んでいたのだったってこと。ビュフォンの博物誌L'Histoire Naturelleは当時の博物学研究の総覧(1749-1788ころまで)。数十巻に及ぶ大著で、世界の動物を枚挙しようとする大著。厳密…

ジュール・ヴァレース「パリ・コミューン」(中央公論社)-2 1871年普仏戦争の敗北とパリコミューンの記録。出来が悪いので好事家向け。

2014/11/19 ジュール・ヴァレース「パリ・コミューン」(中央公論社)-1 後半の150ページが1871年の「パリ・コミューン」のドキュメント。小説を見る前に、このできごとをまとめておこう。 遡ると1789年のフランス革命まで行ってしまうが、そこまで行くのは…

ジュール・ヴァレース「パリ・コミューン」(中央公論社)-1 不格好な生き方をしたジャーナリスト。DVを受けたので、親と学校は嫌い。

そういえば19世紀後半のフランスを知らないなあ、大仏次郎の「パリ燃ゆ」も読んでいねえなあ、ということでタイトル買いした一冊。1965年初版の中央公論社版「世界の文学」の第25巻。その後、この小説は復刻された様子がないので、読むにはこの本を入手しな…

メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫) 不毛な土地に押し込められたメリザンドは気軽に指輪を外し、他人との固定された関係を結ばない。

狩の途中、道に迷った王ゴローは泉のそばで泣いている美少女をみつけ、城に連れて帰る。ゴローは連れ帰ったメリザンドと名乗る少女と結婚し、古くから伝わる指輪を与える。ゴローには先に妻を亡くしていてイニョルドという子供がひとり。年の離れた弟ペレア…

フランス古典「聖杯の探索」(人文書院) 1220年代にフランスで成立した聖杯探索物語。ドイツ版と異なりパルジファルは副主人公。

最初のミレニアムの後半にケルトの伝承として語られていたものが西ヨーロッパの各地で流行した。それを文書にするようになったのが、12世紀あたり。同時多発的にまとめられたので、似たような話でも微妙に異なるヴァリアントになり、筆写生の誤記や改変で版…

アレクサンドル・デュマ「モンテ・クリスト伯 下」(講談社) ナポレオンの独裁→復古王政→七月王政という政治の変遷に翻弄された男の復讐譚。父と子の葛藤と和解、女性の自立もサブテーマ。

2013/12/03 アレクサンドル・デュマ「モンテ・クリスト伯 上」(講談社)の続き モレル海運会社の若い航海士エドモン・ダンテスは、アラビアへの貿易航海を成功させ、美しい娘メルセデスと結婚することになり、その暁には船長になることが内定していた。それ…

アレクサンドル・デュマ「モンテ・クリスト伯 上」(講談社) 大ヒットした長大な新聞小説を40%に圧縮した簡約版。現代の読者にはこのくらいのサイズがよい。

自分が読んだのは1960年代に発刊された講談社の世界文学全集33と34巻の2冊本。のちに同じ訳者(新庄嘉章)で講談社文庫に5分冊の完訳本がでているが、こちらはたぶんダイジェスト。上下2段組みで一冊480ページの大冊であるとはいえ、大雑把な計算では原稿用…

ヴィクトル・ユゴー「死刑囚最後の日」(岩波文庫) 「私」を語り手にすることによって内面が作られた。

1829年(著者27歳)に匿名で出版され、2年後の再販時にユゴー自身が序文を書いた。 ミステリでいうなら、事件は解決した。しかし関係者には重苦しいしこりが残った。なぜ犯人はあのような事件を起こしたのだろうと内省する。ここで「エンド」の文字がはいる。…