odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

雨宮昭一「占領と改革」(岩波新書) 敗戦と占領は政策の断絶ではない。戦争中から改革勢力があり、占領終了後も改革は継続された。

通常、1945年の敗戦で日本は占領された(間接統治だけと思われるが、沖縄諸島他はアメリカのと直接統治、北方四島他はソ連の直接統治)が、「占領政策ですべてが変わった」「日本の政党やリーダーは古くて何も変えようとしなかった」などと説明される。その…

佐藤卓己/孫安石 「東アジアの終戦記念日―敗北と勝利のあいだ」(ちくま新書) どの日付を終戦と解放の記念日にするかはアジア諸国でばらばら。敗戦から十数年の周辺諸国のできごとは「日本人の知らない歴史」。

「昭和20年8月15日正午、快晴酷暑のなか、玉音放送が流れ、日本人は一斉に頭を垂れた」というのが終戦や敗戦のイメージ。そこに皇居前の玉砂利で土下座する人々の写真(東京空襲や原爆のきのこ雲なども)を加えて、ビジュアルイメージが完成する。でも、それ…

蝋山政道「日本の歴史26 よみがえる日本」(中公文庫) 1945年の敗戦から1967年までの約20年間。明治維新からの独裁制官僚はそっくり温存され、尊皇と反共、そして大衆・民衆嫌悪は維持される

1945年の敗戦から1967年(おそらく執筆時)までの約20年間。現在進行中のできごと、存命中の人々を記述するので、これまでの歴史研究者ではなく政治学者が執筆する。戦前の昭和3年に東大法学部の教授になり、川合栄次郎といっしょに昭和14年辞任。その後、翼…

西井一夫/平嶋彰彦「新編 昭和二十年東京地図」(ちくま文庫) 高度経済成長時代に取り壊された敗戦後の東京を文学から掘り起こす。

昭和二十一年に出された戦災焼失地域表示の付いた「東京都三十五区区分地図帖」をもって、著者らは1985年の東京を歩き回る(初出は1986年)。当時の痕跡を見出そうとして。1985年は再開発の名のもとに、戦前からあったものや戦後急ごしらえでつくったものが…

桑原武夫「文学入門」(岩波新書) 抑圧から解放された時代に、海外直輸入の理論で文学の在り方を考える。「人生いかに生くべきか」にこたえる大衆小説に、答えを出せない文学はどう応じるか。

個人的なことから。高校3年の大晦日が初読。もうすぐ共通一次試験なのだが、一日くらいいいだろうと夜の受験勉強をやめて読んだのだった。暖房のない寒い部屋にひとり。 さて本書は1950年の出版。文化生活のために文学を読みましょうという呼びかけとその方…

柳澤健「1964年のジャイアント馬場」(二葉文庫)-1 バディ・ロジャースの全盛期にアメリカに渡った怪奇派「東洋の巨人」キャラレスラー

1964年が特異な年になる理由は、ジャイアント馬場が重大な決断を迫られていたから。日本人離れした肉体を持った若者はそれゆえに国内に居場所がなく、力道山の日本プロレスを経てアメリカに「武者修行」にでる。そこでは日本社会のような抑圧はなく、巨大な…

柳澤健「1964年のジャイアント馬場」(二葉文庫)-2 選手や団体の評価がダッチロールして再読に耐えない

2021/01/21 柳澤健「1964年のジャイアント馬場」(二葉文庫)-1 2019年の続き アメリカと日本のプロレスが比較される。大きな違いは、アメリカはレスラーと興行と宣伝は別の組織が行うが、日本では一社が全部行うところ。日本のプロレスは力道山が相撲協会の…

現代思想2002年2月増刊「プロレス」(青土社)-1 プロレス人気が凋落して関係者が自信喪失したから生まれた「プロレス問題」

2002年の雑誌「現代思想」の増刊。「現代思想」で「プロレス」とは面妖な。と、首をかしげる前にその前の10年の歴史を振り返る。転換期は1980年代なかばから。 それまで新日本と全日本と国際と全日本女子だけが国内のプロレス団体であった。プロレスを語るこ…

現代思想2002年2月増刊「プロレス」(青土社)-2 小人プロレス、女子プロレス、在日コリアンレスラーなど語られてこなかったプロレスの歴史を発掘。

2021/01/18 現代思想2002年2月増刊「プロレス」(青土社)-1 2002年の続き 抽象的な思考の論文のあとは、プロレスの現場からの発言や意見。 おおきく5つの問題領域が設定されている。便宜上ABCを俺がつける。A.プロレス空間への招待。B.プロレスの哲学的考…

現代思想2002年2月増刊「プロレス」(青土社)-3 日米プロレス史。昭和の馬場vs猪木論争はコップの中の嵐。

2021/01/18 現代思想2002年2月増刊「プロレス」(青土社)-1 2002年2021/01/15 現代思想2002年2月増刊「プロレス」(青土社)-2 2002年の続き プロレスの現場を見た後に、プロレスの歴史を語る。日本のプロレスができて50年(2002年当時)。それまでは当事者…

山本周五郎「寝ぼけ署長」(新潮文庫) 探偵小説にみせかけた「遠山の金さん」。上からの善政は民主主義を弱くする。

発表は、各短篇にあるように戦後すぐだが、舞台は戦前。wikiによると内務省時代の官職などがでるという。 五年の在任中、署でも官舎でもぐうぐう寝てばかり。転任が決るや、別れを悲しんで留任を求める市民が押し寄せ大騒ぎ。罪を憎んで人を憎まず、“寝ぼけ…

間羊太郎「ミステリ百科事典」(現代教養文庫) 昭和20~30年代の国産と翻訳探偵小説のデータベース

1963年から雑誌「宝石」に連載されたエッセイ。当時は江戸川乱歩が編集長だった時代(の最後)。連載途中で、出版社が変わった。文庫になったのは1981年。 内容は乱歩の類別トリック集成をもとにして、トピック別に実例を挙げていくというもの。目次を引用す…

福永武彦/中村真一郎/丸谷才一「深夜の散歩」(講談社、創元推理文庫) 戦中派の知的エリートはいかにミステリーを読んだか

いくつかの本の情報を拾ってつないでみると、戦後の探偵小説史はこうなるか。1938年ころに洋書の輸入が禁止され、1941年以降に紙の配給体制が行われて、娯楽雑誌はほぼ廃刊。探偵小説の執筆は禁止され、捕り物帳かスパイ小説くらいしか発表できない。そのと…

日影丈吉「ミステリー食事学」(現代教養文庫) ミステリー読みのために欧米の食事の基本やマナーを紹介した啓蒙書

1972年から74年までミステリー・マガジンに連載したエッセイを1974年に単行本化。そのあと1981年に現代教養文庫で再刊。読んだのはこれ。あいにく現代教養文庫は廃刊になってひさしく、ほかで再刊された様子もないので、入手は難しそう。 本書のはしばしから…