odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ハードボイルド

ジェイムズ・ケイン「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(新潮文庫) 相手を裏切ることも憎しみをむき出しにすることも愛の強度を高めるための手段。

24歳の若者フランクは、各地を渡り歩き、小銭を稼いだり、警察や土地の者に追い出されたりしながら暮らしていた(こういうのをホーボーというのだっけ。かつては1960年代のヒッピーと比較された)。ふらっと立ち寄った安レストランで亭主に声をかけられ、住…

ハドリー・チェイス「ある晴れた朝突然に」(創元推理文庫) 1950年代暴力描写を「快感」に感じる読者が生まれて、ハードコアなハードボイルドが書かれる。

ジャン・ポール・ベルモンド主演の映画も作られているのだね。本書は現在(2008/06/30)、絶賛絶版中。まあ、仕方がない。簡単に梗概を書くことにしよう。 引退した元ギャングのもとに、弁護士の自殺の連絡が入る。弁護士は元ギャングの資産管理をしていたが…

ジョナサン・ラティマー「処刑六日前」(創元推理文庫) タイムリミットテーマ+密室殺人の古典。でも記憶に残るのはへべれけな探偵たちのかけあいと美女のくどきのほう。

ラティ―マーの長編第1作。冬のシカゴを探偵たちが歩き回り、ジン、マティーニ、バーボンを飲みまくる。一度は飲みすぎで倒れているというのに、まったくタフな連中だ。 株式仲買人が死刑執行を待っている。別居して離婚する予定だった妻が、半年前のある深夜…

ジョナサン・ラティマー「モルグの女」(ハヤカワポケットミステリ) 「なぜ死体は盗まれたか」という魅力的な謎。記憶に残るのはへべれけ探偵たちの憂さ晴らしと上司の悪口。

「夜中の死体置場。卓上の寒暖計は既に91度に達している……。気狂いじみた暑さと死体の異臭に満ちたシカゴの死体置場には、安ホテルで自殺した若い女の死体が収容されていた。そして、この女の身許を確かめようと三人の男が押しかけていた。二人の新聞記者と…

ウィリアム・マッギヴァーン「ビッグ・ヒート」(創元推理文庫) マッカーシーズムの渦中のハードボイルド。大いなる怒りをもって腐敗した市政と警察と戦え。

原題を日本語訳すると「大いなる怒り」になる。1953年刊になる前にチャンドラーが「大いなる眠り」を出しているので、混同を避けたのだろう。1940−50年代は「big」が最大級の強調語だったのだ(のちには「great」「dynamites」などに変わる)。 警官を主…

ウィリアム・マッギヴァーン「悪徳警官」(創元推理文庫) 悪に加担したことを反省するなら、正義を実行して悪を排除せよ。

主人公は警官。長年、市を牛耳るギャングと関係を持ち、彼らから利権を得ていた。しかし、彼の弟がギャングの犯罪の現場に居合わせ、告発する。ギャングは主人公を通じて、弟を工作しようとするが、正義漢である弟は撤回しない。そのため弟は殺される。怒り…

ウィリアム・マッギヴァーン「緊急深夜版」(ハヤカワポケットミステリ) 市政の腐敗が発覚した、市民全員は緊急集合して対処せよ。

「緊急深夜版(Night Extra)」はたぶん朝刊の号外みたいなこと。朝刊の一面を作り終えたころに、事件が入ってくると至急作り返さないといけなくなって、新聞社の全員(記者から写真の現像担当から活字ひろいまで)を緊急招集してことに当たらないといけない…