odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

音楽_演奏家

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ「フルトヴェングラーと私」(音楽之友社) 指揮もする作曲家になれなかった政治音痴のカリスマ指揮者の思い出。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ (長いのでDFDと略すのが慣例。ここでもそうします)は一度聞いた。 odd-hatch.hatenablog.jp 彼を通じてフルトヴェングラーを見た思いがしたが、本書はDFDによるフルトヴェングラーの思い出。自身のキャリアアッ…

中川右介「戦争交響楽」(朝日新書) 1933年から1945年までの欧米のクラシック音楽関係者の動向、ヒトラーとスターリンに芸術家は翻弄される。

1933年から1945年までの欧米のクラシック音楽関係者の動向を描く。思入れはなく、淡々と事実を記すだけ。スター総出演の観がする記述であるが、そのなかではトスカニーニ、ワルター、フルトヴェングラー、カラヤン(生年順)が主役になる。脇を固めるのはシ…

中川右介「カラヤン帝国興亡史」(幻冬舎新書) カラヤンは強いナルシストで、自分の権力を家や家族に残さなかったニヒリスト。

先にでている中川右介「カラヤンとフルトヴェングラー」(幻冬舎新書)の続きとみなせるが、著者によると独立して読めるという。 odd-hatch.hatenablog.jp 本書ではヘルベルト・フォン・カラヤンの演奏や録音について一切批評しない。その種の論評はたくさん…

中川右介「冷戦とクラシック」(NHK出版新書) WW2の終わりからソ連の崩壊までの欧米のクラシック音楽関係者の動向。政治の独裁者が消えた後にマネをしたエピゴーネンたち。

中川右介「カラヤンとフルトヴェングラー」(幻冬舎新書)では、1930-55年までのヨーロッパを描いた。その時のテーマはナチズムとの関わりを軸にしたカリスマ指揮者たちの暗闘。 本書はWW2の終わりからソ連の崩壊まで。ここではソ連型監視統制社会における…

青柳いづみこ 「ピアニストが見たピアニスト」(中公文庫) ステージと録音媒体だけからでは見えてこないスターピアニストの困難や不安や恐怖

聴衆である自分は、ピアニストをステージか録音メディアでしか知らない。そうすると、ピアニストから見えてくるものはそのときどきの演奏とそこに込めたイメージ。では、ピアニストがどのような準備をし、どのような葛藤をへてステージや録音スタジオに来た…

カール・ベーム「回想のロンド」(白水ブックス) 形而上学やロマン主義に興味がない職人指揮者の「私は正確に思い起こすのだが・・・」

カール・ベームは1894年オーストリアのグラーツに生まれた指揮者。この国には、1963、1975、1977、1980年に来て、ベルリン・ドイツ・オペラやウィーン・フィルと演奏し、いくつも名演を残した。CDやDVDで確認できる。自分は完全出遅れで、1980年の演奏をTVで…

ジャック・ティボー「ヴァイオリンは語る」(新潮社) 大バイオリニストがエスプリで書いたファンタジックな自伝。

ジャック・ティボー(Jacques Thibaud, 1880年9月27日 - 1953年9月1日)はこの国の西洋音楽愛好家に愛された。クライスラー、フーベルマンが巨匠とすると、この人は洒脱なエスプリ。近代フランスの作品、それにカザルス、コルトーと組んだトリオによる三重奏…

シュテファン・シュトンポア「オットー・クレンペラー 指揮者の本懐」(春秋社) 音楽に神秘(ミステリ)を見出さない奇人指揮者は70歳まで不遇、そのあと尊敬されるようになった。

生松敬三「二十世紀思想渉猟」(岩波現代文庫)ではジンメル経由で触れられる指揮者オットー・クレンペラーの証言をこちらで読む。 生涯を略述すると、1885年ドイツ生まれのユダヤ人オットー・クレンペラーは歌劇場の手伝いからキャリアを開始。マーラー、シ…

アルフレッド・コルトオ「ショパン」(新潮文庫) 19世紀のディレッタントの仰々しい文章を若き堀田善衛が苦心惨憺して下訳をつくった。

アルフレッド・ドニ・コルトー(1877年9月26日〜1962年6月15日)の書いたショパンの論集。7つの小論がまとめられていて、それぞれがいつ書かれたものかは不明。コルトーは、ショパンの録音(前奏曲と練習曲の全曲が有名)を残している。戦前のショパン弾きの…

ムスチスラフ・ロストロポーヴィチ「ロシア・音楽・自由」(みすず書房) 全体主義の不正と監視に怒る自由主義者がソ連の市民権を剥奪されアメリカに亡命するまで。

ロストロポーヴィチとヴィシネフスカヤの夫妻のインタビュー。はっきりかいていないが、1978-81年にかけて行われた複数のインタビュ―のまとめと思う。1983年初出で、翻訳は1987年。これらの年は重要なので、あとで振り返る。 ロストロポーヴィチは1927年アゼ…

アルバート・E・カーン「パブロ・カザルス 喜びと悲しみ」(朝日新聞社) 二重に疎外されたカタルーニャ人の数奇な半生。

神田にカザルス・ホールと呼ばれる演奏会場ができたほど人気のあるチェロ奏者。今はどれほどの人気になっているのかしら。この人は1877年(明治だと10年になるのかな)の生まれ。1970年にも存命で、プエルト・リコに住んでいるところに(孫ほどの年齢の女性と…

ホセ・マリア・コレドール「カザルスとの対話」(白水社)-2 音楽は、身体を通じて「理解」するもの。自然でない二十世紀音楽は退廃している。

一時期絶版だったけれども、新装版にかえて流通しているらしい。慶賀のいたり。感想をエントリーにしたことがあるけど、再読したので、もう一度感想をまとめておく。 ・フランコ政権樹立後、スペイン国境に近いプラドの村にカザルスは隠遁していた。そこにア…

エドウィン・フィッシャー「音楽を愛する友へ」(新潮文庫) 「精神」がキーワードになるドイツ教養主義を体現したドイツのピアニスト。

作者は1886年生まれのドイツのピアニスト。主要レパートリーは、ドイツの作曲家。戦中はドイツに在住し、フルトヴェングラーと共演している。1960年に死去。多くの録音が残っていて、下記のサイトでダウンロードできる。 クラシック音楽mp3無料ダウンロード …

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー「音と言葉」(新潮文庫) 「芸術」こそが世界統一(あるいは民族統一)の中心になる信念は全体主義運動に敗北する。

クラシック音楽を聴き始めたのが1979年5月。何も知らないままに聞き出し、半年後にはフルトヴェングラーの名を知っていた。その演奏を聴く機会はほとんどなかったが。そして突発的にこの文庫が発売された。さっそく読んでみたが、当時の学力では無理だった。…

山崎浩太郎「クライバーが讃え、ショルティが恐れた男 指揮者グッドオールの生涯」(洋泉社) 定年退職間近になってからようやく大衆的な人気がでるようになった不遇で幸運な大器晩成の指揮者。

クラシックの世界にもヒエラルキーがある。大きな歌劇場やオーケストラの責任ある地位についていたり、メジャーレーベルのレコード会社から定期的にCDや映像を販売できるような人たちがヒエラルキーの最上位にいることになる。これらの人はメディアでよく…

諏訪内晶子「ヴァイオリンと翔る」(NHKライブラリ) 演奏家になるためのレールはほとんどしかれている時代のサクセスストーリー

世界をステージに駈ける諏訪内晶子は3歳からヴァイオリンを始めた。18歳のとき、最年少でチャイコフスキー国際コンクールで優勝、さらなるヴァイオリンの音を求めて、ニューヨークへ留学。ジュリアード音楽院本科・修士課程卒業、コロンビア大学、国立ベ…

ピエール・ジャン・レミ「マリア・カラス」(みすず書房) 声で人を圧倒したディーヴァの劇的な自己破壊型生涯。

まだクラシック音楽に興味のなかった1977年にマリア・カラスが亡くなったというニュースを聞いた(没したのは9月16日とのこと)。その直後に、彼女の歌う映像が流され、そのカルメンのパフォーマンス(たぶんハンブルグコンサートにおける「ハバネラ」)に圧…

ホセ・マリア・コレドール「カザルスとの対話」(白水社) 芸術家は国境を越えられる、芸術は国境を意識する。

カザルスというチェロの大家には面白い逸話がたくさんある。生まれたのはカタルニア地方の貧しい家。音楽に理解のある両親(特に母親)に支援されて、若いときから高名なチェリストについて研鑽する。そのときの練習の激しさというのはたいしたものだったら…

ケネス・S・ホイットン「フィッシャー=ディースカウ」(東京創元社) 20世紀後半のリートをリードした不世出のバリトン。書かれていない彼のわがままは不愉快。

ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(DFD)を実演で聞いたのは一度だけ。NHK定期公演に指揮者サバリッシュとともに現れ、ブラームス「ドイツ・レクイエム」を歌った。いつかその感想をエントリにアップするかもしれない。 若いときからの才人…