odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2016-04-01から1ヶ月間の記事一覧

武田泰淳「快楽 上」(新潮文庫)-1

加行僧の生活を終え、穴山との決闘(@「異形の者」)もどうにかすました柳、当年19歳は、父が住職である浄土宗の大寺に戻る。かような経験をしたからといって、柳はなにかを得たわけでも悟ったわけでもなく、もちろん仏教の教義には背を向け、社会主義に興…

武田泰淳「快楽 上」(新潮文庫)-2

2016/04/29 武田泰淳「快楽 上」(新潮文庫)-1 1972年 の続き。 前のエントリーで見たように、複数のストーリーが同時に進行するのである。この小説の書き方で面白かったのは、それぞれのストーリーにおいて考え方や行動が対になるような人物が配置されてい…

武田泰淳「快楽 下」(新潮文庫)-1

2016/04/29 武田泰淳「快楽 上」(新潮文庫)-1 1972年 2016/04/28 武田泰淳「快楽 上」(新潮文庫)-2 1972年 の続き。 では大状況とか形而上的な世界は何かというと、ふたつ。これは柳の思考ないし内面に現れる。 ひとつは、仏教の快楽(けらく)について…

武田泰淳「快楽 下」(新潮文庫)-2

2016/04/29 武田泰淳「快楽 上」(新潮文庫)-1 1972年 2016/04/28 武田泰淳「快楽 上」(新潮文庫)-2 1972年 2016/04/27 武田泰淳「快楽 下」(新潮文庫)-1 1972年 の続き。 この大長編は1960年から1964年まで5年間連載して、未完のまま中断した。作者は…

堀田善衛 INDEX

2016/04/23 堀田善衛「インドで考えたこと」(岩波新書) 1957年 2016/04/22 堀田善衛「上海にて」(筑摩書房) 1959年 2016/04/21 堀田善衛「キューバ紀行」(集英社文庫) 1966年 2016/04/20 堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-1 1969年 2016/04…

堀田善衛「インドで考えたこと」(岩波新書)

1957年9月の第1回アジア作家会議が開かれることになり、作家が事務局員として選ばれた。渡航費は自腹であり、いくつかの団体の支援をえてようやく出国することができた。開催地はインド。ここにエジプトから北朝鮮、日本までの40国近い作家が集まる。背景に…

堀田善衛「上海にて」(筑摩書房)

作家は1945年3月の東京大空襲(と直後の天皇行幸)のあと(ここは「方丈記私記」に詳しい)、上海に移動する。あわよくば欧州に行ければという無謀な妄想を持って。現地の文化協会だかの嘱託みたいなことをして、武田泰淳らと上海を歩き回る。8月10日、上海…

堀田善衛「キューバ紀行」(集英社文庫)

キューバ(地元の人はクーバと呼ぶらしい)は突然視界に入ってきた。1959年カストロがバチスタ軍事政権をおいだし(このときには共産主義革命とはいっていない)、1962年に米ソの間に「キューバ危機」が生じる。そして、1965年、作家はキューバに招かれる。そ…

堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-1

ヨーロッパの美に近づこうとするには、「ギリシャ・キリスト教・科学精神」を我々のものにしないといけないが、自然に入ってきてくれるものではない。なので無理と努力がいることになるが、それが精神のどの部分かをねじまげることになる。でもここではなる…

堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-2

2016/04/20 堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-1 の続き。 「愛するものについて語り出せば、やはり尽きせぬ思いがある(P224)」という作家が古今東西の芸術作品を眺め歩き、語る随筆。その後半。 海老原喜之助の作品を見て、「手応えのある人生を…

堀田善衛「方丈記私記」(新潮文庫、ちくま文庫)

作家が学生時代(戦時中)から読み続けてきた「方丈記」。戦後25年目に、中世の勉強の成果を含めて読み直す。長明の時代は平安末期から鎌倉幕府成立ごろで、住んでいた京都は荒れに荒れていた。政治と経済がだめになって末世を肌で感じている。戦争末期も同…

堀田善衛「定家明月記私抄」(ちくま学芸文庫)

藤原定家が19歳から晩年まで書いた日記「明月記」。漢文で書かれた日記を研究書や注釈書を頼りに読み進める。宮廷貴族であり歌人であることから、日記のほとんどは宮廷のできごと、儀式の備忘録。そこから荘園制から地頭制に移る権力の動きやほぼ400年続いた…

堀田善衛「定家明月記私抄 続編」(ちくま学芸文庫)

続編再開。中断の間は、「路上の人」を書いていたとの由。13世紀初頭の西洋と日本の中世におおよそのところで相似、共通性を感じる。宗教、政治、文芸など。 さて、定家の時代には、平家滅亡、鎌倉幕府成立、承久の乱が立て続けに起きた。そのうえ飢饉、自然…

ウンベルト・エーコ「前日島」(文芸春秋社) 西欧17世紀の思想と学芸を一冊に圧縮。ラストシーンは小説の誕生か自我の誕生を示唆する。

「薔薇の名前」で14世紀中欧の異端と修道院を描き、「フーコーの振り子」でテンプル十字団以来の西欧秘密結社の歴史を描いたエーコ、今度は17世紀を描くことになった。この直前には、コペルニクス、ガリレイの天文学革命が起きていて、デカルトとパスカルら…

会田雄次「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-2 聖俗革命により西欧域内で異端審問で虐殺し、植民地先で虐殺と収奪を行う。不寛容の時代。

2016/04/11 会田雄二「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-1 の続き。 今度はルネサンスのネガティブな面。 ・アヴィニョンの捕囚のあと、法王権は再び強くなる。地方教会ができて、農民他の平信徒を教会に組織化する。目覚めてから寝るまで、生まれて…

会田雄二「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-1 ルネサンスは地域によって時代が異なる。イタリアとビザンツが地中海貿易を独占していたので、西欧は大航海に乗り出した。

鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)に続けて「世界の歴史12 ルネサンス」。ここでは1300年から1600年までのヨーロッパを扱う。われわれは世界史の教科書で「暗黒の中世」から「ヒューマニズムのルネサンス」に転換したと習った。 前掲書を…

ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 下」(東京創元社)-3 十字軍によってビザンツ帝国からもたらされたアリストテレスに西欧中世知識人は熱中し、キリスト教教義を書き換えようとした。

2016/04/04 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-1 2016/04/05 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-2 2016/04/06 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-3 2016/04/07 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 下」(東…

ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 下」(東京創元社)-2 中世修道院の文書館で起きた事件の関係者は書物に関係するものだけ。犯人捜しは秘匿された文書の行方探しである。だれもが本を読みたがる。

2016/04/04 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-1 2016/04/05 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-2 2016/04/06 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-3 2016/04/07 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 下」(東…

ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 下」(東京創元社)-1 殺人事件と清貧論争は修道院内部の秩序を揺さぶり、院長の権力と権威を失墜させ、疎外されたグループによる権力闘争を引き起こす。

2016/04/04 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-1 2016/04/05 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-2 2016/04/06 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-3 の続き。 表層の物語は探偵小説の枠組みを借りている…

ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-3 教会が貧困と格差と差別を放置するので、不満な平信徒は特権をなくす運動を起こし、教会はそれを「異端」として弾圧する。

2016/04/04 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-1 2016/04/05 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-2 の続き。 聖職者と知識人は文化的に統合し、各地を移動する権利を得ていたが、ほとんどすべての農民は移動の自由がなく、…

ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-2 西洋中世ではラテン語という共通言語が聖職者と知識人を文化的に統合していた。

2016/04/04 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-1 の続き。 この時代には文化的な統合が聖職者と知識人において果たされていた。その象徴がこの修道院で、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、北アフリカなど出世地と母語を異にする修道…

ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-1 13-14世紀のキリスト教宗教改革運動は教権と俗権の確執を産む。

ヨーロッパ中世のことを書いているので、事前に、 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)の以下のエントリーを読んでください。 2016/03/29 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-1 2016/03/30 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨー…

鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-4 宗教的熱情の果てに起きた数次の十字軍。内部に向けられた異端排斥(魔女狩り、異端審問を含む)と外国人排外(反ユダヤ主義)

2016/03/29 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-1 2016/03/30 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-2 2016/03/31 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-3 の続き。 キリスト教は3世紀ごろにローマ帝国の…