odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

椎名麟三

椎名麟三「懲役人の告発」(新潮社) 人生は「懲役」であると思う憂鬱で深刻癖のある人たちの悲惨と滑稽。日本のドストエフスキー小説。

ここに登場する人物はみながみな「自由」を求めている。その自由がどういうものなのかはしっかり把握できていない。そのために、イライラし、悶々とし、不満を述べ、ここから出たいといい、お前は馬鹿だと罵り、かみついたり、殴りつけたりする。そういう行…

椎名麟三「椎名麟三集」(新潮日本文学40)「自由の彼方に」「媒酌人」 日本人は降って下りてきた「自由」を持て余し無責任とわがままにしか使えない。

新潮社が1960年代に出版した日本文学全集の一冊。ときにコンディションの良い品が古本屋にでることがあり、一冊100円で文庫本4冊分の小説を読むことができる。全集の中身をみると1970年代の新潮文庫はこの全集に収録された長短編を並べていったものだと知れ…

椎名麟三「重き流れの中に」(新潮文庫)「深夜の酒宴」「深尾正治の手記」 戦時下占領下日本での知識人の受苦。

自分が読んだのは昭和55年(1980年)印刷の新潮文庫版。しばらく絶版ののち、同じ文庫で復刻され、いまはもしかしたら講談社学芸文庫で読める。なにしろ戦後文学はますます入手しにくくなっている(戦前の文学のほうがまだ入手しやすい)。 椎名麟三の小説で…

椎名麟三「永遠なる序章」(新潮文庫) 占領下日本の復員軍人たちのニヒリズムと「終戦」のトラウマ。

昭和23年のベストセラーとのこと。日本は占領下で、ドッジラインの財政均衡政策のおかげで景気は上向かず、農業の生産性もあがっていないので、誰もが貧しく空腹だったという時代。この小説の中でも、食料切符制とか頻発する停電とか、当時の状況が点描的に…