自分が感じる生きにくさは、不安定で暴力的な社会に理由はあるが、同時に「男らしく」を深く内面化している自分自身にあるのではないか。そういう問いが老年になって生まれたので、勉強する。まず「ジェンダー」を理解することから。
ジェンダーは「社会的に作られた性別」で、生物学的性差とは異なる性別とされる。これは社会や家庭の影響を受けて形成され変わりにくい。それは差別や排除の理由になったり、社会進出の疎外になったり、歴史文学などの学術分野での思い込みや偏見の原因になっている。
1.ジェンダーと社会学の視点 ・・・ 社会学は個人から社会を見たり、社会を個人を超えた存在を見たり、相互作用の網の目とみたりする。自由と平等の原理はエゴイズムや欲望の無規制状態とバッティングする。どのような社会が良いかを社会学から考える。
2.生物学的性差(セックス)とジェンダー ・・・ 性器、性染色体、性ホルモン、性自認、性的指向性、性表現で多様で、オス・メスの二分類にはおさまらない。しかしこの二分類が強固なので、差別や偏見の口実に生物学的性差が利用される。
3.文化の中のジェンダー ・・・ 文化によって男女の役割は異なる。文化人類学などの研究成果。
4.歴史の中のジェンダー ・・・ 歴史によって男女の役割は異なる。しかし資本主義と近代化は生産工場のために、男女の役割を変えた。再生産とリタイアしたもののケアを女性に押し付け、子供を教育制度に組み込んだ。近代化と資本制生産によってたとえば母性愛、ファッションの差異などが生まれた。世界像が変わり個人が孤立化してアイデンティティを自己証明することになり、男女の役割が内面化され固定化していった。
上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)
5.性差別とジェンダー ・・・ 性差別を告発するようになったのはフランス革命のころ(人権宣言などを作ったが、そこにある「人間」は資産持ちの男性だけという批判がある)。以後、立場と要求の異なるフェミニズムがいろいろあった。
(エンゲルスは男女のジェンダーや社会の役割に言及した早い人。
2022/06/17 フリードリヒ・エンゲルス「イギリスにおける労働階級の状態」(山形浩生訳)-1 1845年
2022/06/16 フリードリヒ・エンゲルス「イギリスにおける労働階級の状態」(山形浩生訳)-2 1845年
2016/03/24 フリードリヒ・エンゲルス「家族・私有財産・国家の起源」(岩波文庫)
6.性暴力とジェンダー ・・・ 性暴力の例は、レイプ、強制わいせつ、DV、セクハラ、強制労働や売買春などの人身売買。これらの概念は最近だが、新しい言葉ができたことで気づきになる。性暴力の特長は、顕在化しにくい、被害者が責められる、暴力に慣らされる/加害者が慣れるなど。これは男性問題。男性の、1.優越、所有、権力の欲望。2.女性依存(威張りながら甘える)が主な原因。加害者教育と予防プログラムが大事。
7.「女らしさ」という課題 ・・・ 女性であることは「保護される」「甘えられる」という特権があるようにみえるが、それは一人前に扱われず評価が低いことの裏返し。その意識は、1.乳児幼児の大人の扱い、2.メディアによる刷り込みによって、ジェンダーが作られ、再生産される。大人は性別不明の幼児を見た時、性別を知りたがりジェンダーに固定的な対応をするとのこと。(それは自分が幼児にうけた時の対応を反復しているのだ。)
8.「男らしさ」のゆくえ ・・・ 生徒へのいじめによる自殺、過労死は圧倒的に男性が多い。定年後の男は夫婦関係を維持できないことが多く、離婚後自立できない。それは男性も「男かくあるべし」「男は仕事」というジェンダーに捕らわれているため。近年は男性(解放)運動も起きている。ただし女性差別無視や家庭の権力保持という批判を受けている。
以上は原論と個人に関する話題。これを読むと、たいていの性差別や女性問題は男性の問題。「女性問題」と書くと被害者に原因や理由があるかのように思い込んでしまうが、実際は加害する側の問題なのだ。だから男性がジェンダーの思い込みから解放されて、「新しい人間(ニーチェとかドストエフスキーとかの言う意味で)」にならないといけない。
(なお、女性問題にしか関心を持たない男性フェミニズムもあるとのことなので、注意しないといけないなあ。また男性が「新しい人間」になるのは思想や内面が変革されることではなく、女性に押し付けてきた仕事や生活や活動を行うこと。なので家事や炊事や地域運動などをやらないといけないのだよ。)
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2024/04/15 伊藤公雄「ジェンダーの社会学〔新訂〕」(放送大学教材)-2 男性優位社会のジェンダー観は社会のしくみの隅々まで浸透している。転換が必要。 2008年に続く