odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ノンフィクション

渡部哲郎「バスクとバスク人」(平凡社新書) 国家と民族が一致しない人々のナショナリズムと自治権。

バスクはフランスに隣接する大西洋に面したスペインの一部。地中海に面したカタルーニアもそうだけど、スペインには多数の「地方」があって、それぞれ独立した民族とみなされている。ことにバスク地方は、海や険峻な山地のために他の人たちが入りづらく、独…

土井敏邦「アメリカのユダヤ人」(岩波新書) 遅れて移住したユダヤ人は自助コミュニティを作ったが、考え方や生き方は多種多様。

上田和夫「ユダヤ人」(講談社現代新書)は、紀元前からのユダヤ人の歴史を追い、20世紀初頭までを記述した。本書はそのあとの1980年代のアメリカに住むユダヤ人をテーマにする。もとよりアメリカのユダヤ人も先住していたわけではなく、むしろ遅れて移住し…

荒このみ「マルコムX」(岩波新書) 欠点が多い青年のアジテーションは被差別黒人の「教師」「鼓舞する人」「希望の象徴」。

以前にマルコムXの言葉を読んできたが、ピンとこなかった。そのあたりは、下記のエントリーで。アレックス・ヘイリー「マルコムX自伝」(河出書房新社)デビッド・ギャレン編「マルコムX最後の証言」(扶桑社文庫) そこで、第三者の視点による評伝を読む…

清水潔「殺人犯はそこにいる」(新潮文庫) 日本の警察は優秀かもしれないが、捜査を隠蔽し記録を公開しない。民主的にはほど遠い。

1980-90年代に北関東で幼女誘拐事件が断続的に発生した。唯一「足利事件」だけが犯人がみつかる。著者はこの「解決」に疑問を持ち、チームで個人で追跡する。結果、足利事件の「犯人」は冤罪であることがわかり、裁判所が被告に謝罪するまでにいたった。一方…

小沢健志「写真で見る関東大震災」(ちくま学芸文庫) 震災直後に撮影された写真で被災地別の状況を把握。国の支援はいつも不足していて、支援策の失敗が重大な問題に波及した。

初出2003年は関東大震災から80年目(阪神大震災から8年目)。その節目の年に編集された。震災記念館(だったか?)の設立準備中に、震災直後に撮影されたネガフィルムと焼き付けが大量に見つかった。それまでは引用で見ていた写真のオリジナルが発見されたの…

土門拳「腕白小僧がいた」(小学館文庫) 世界第2位のGDPを達成した豊かな国が抱える貧しい人々の記録。

写真家・土門拳の仕事のなかから、子供を撮影したものを収録。1935年ころから1960年ころまで。 「下町のこどもたち」は1950年代前半の江東区や佃島、月島の子供たちを映す。「日本のこどもたち」は主に戦前に撮影した写真。カメラをもって下町にいくと、子供…

ウィノカー編「SOSタイタニック」(旺文社文庫) 事故調査記録の極めて初期のもの、「失敗学」の初期のケーススタディ

1912年4月4日、当時世界最大の客船タイタニック号がイギリス・サザンプトンを出港し、ニューヨークを目指す航海にでた。乗客、乗務員は合計2208人。4月15日午前2時20分、氷山に衝突し、約2時間後に沈没。救助されたものは750人ほど。1400名弱が死亡した。…

朝比奈菊雄編「南極新聞 上」(旺文社文庫) 敗戦と占領で自信喪失した日本人がおっかなびっくりで国際社会の顔色をうかがっていた時代

「2001年宇宙の旅」のディスカバリー号はオタクの天国だよなあ、と妄想していて、ではリアルではどうなのかを考えていたら、それに近いのは南極観測隊だと連想した。あそこでは、冬季になると外部からの資材が届かなくなるし、以前は連絡もなかなかつけにく…

浜村紀道「自転車野郎世界を行く」(秋元文庫) 理由不明で世界に飛び出した若者は理不尽や不便に出会うと天皇を思い出して安心できる。日本型愛国心が生まれるドキュメント。

広島出身の著者が、24歳の1968年から1973年までの5年間をかけて世界一周自転車旅行をした時の記録。 1964(昭39)年の海外旅行自由化によって、渡航は可能になったが、固定相場による円安(1ドル=360円)のためにそう簡単には海外旅行はできなかった。クイ…

竹中労「琉球共和国」(ちくま文庫) トップ屋が返還前の沖縄に古代日本の現像を夢想する。

1960年の映画「日本の夜と霧」(大島渚監督)では、戸浦六宏の演じる役がトップ屋であった。とすると、この時代には「トップ屋」という職業ができていたことになる。トップ屋を始めた、というよりそれで生計を立て、かつ人口に膾炙するまでの存在になった最…

神山典士「「日本人」はどこにいる」(メディアファクトリー) 著者が考える日本人は集団の中にはいなくて、一匹狼として生きている。それって日本人なのか?

著者のやりたいことのひとつである「日本とは何か」を、多くの人のインタビューやレポートで考察したもの。武道家、成田闘争参加者、ストリップ劇場小屋主、宗教家その他のさまざまな職種の人が登場する。もともとは個別に雑誌に発表されたものであって、本…

室賀信夫「日本人漂流物語」(新学社文庫) 江戸時代からこの国の住人と政府は外国人が嫌いで、おもてなしをしなかった

3つの近代の漂流譚が収録。まれに古本屋でみかけることがあるが、非常に入手しにくいだろう。 孫太郎ボルネオ物語 ・・・ 1764年。ミンダナオ島に漂着。以後、ボルネオ、ジャワ、スマトラを経由して帰国。7年ぶり。光太夫ロシア物語―第一編・第二編― ・・・…

大宅壮一編「日本の一番長い日」(角川文庫) 熱しやすく激しやすくて、成功の見込みのない行動をすぐ起こし、あっという間に挫折。「観念」への熱狂と乗り換えはいかにも日本的。

学生時代に読んでいて書架に眠っていたものを再読。岡本喜八監督による同名映画をみたのが最近(2006年現在)だったので興味を持ったから。著者名は手元にある古い角川文庫版によるが、あとがきによると実際の著述は半藤一利氏。最近、文春文庫で復刊されたほ…

多川精一「戦争のグラフィズム」(平凡社ライブラリ) 日本陸軍が制作した幻の雑誌「FRONT」の記録。東方社に集まった顔ぶれがすごいメンツばかり。

対米開戦の避けられないと思われた昭和14-5年ころに、陸軍参謀部は考えた。米にはLifeが、ソ連にはUSSRというグラフ誌があるではないか。それに比べわが軍、わが国には。というわけで、参謀本部の肝いりで「対ソ宣伝計画」を目的にした民間雑誌会社を作るこ…

高杉一郎「極光のかげに」(岩波文庫) 共産主義者の育成学校であったソ連の捕虜収容所。。自分で考える時間を奪われ、集団意思に強制的に従わさせられる。

「敗戦後,著者は俘虜としてシベリアで強制労働についた.その四年間の記録である.常に冷静さと人間への信頼とを失わなかった著者の強靭な精神が,苦しみ喘ぐ同胞の姿と共に,ソ連の実像を捉え得た.初版(一九五〇)の序に,渡辺一夫氏は,「制度は人間の…

レナ・ジルベルマン/マリ・エレーヌ・カミユ「百人のいとし子・革命下のハバナ」(筑摩書房) ポーランドがナチス占領から解放されてもユダヤ人差別はなくならない。シオニズム団体がユダヤ人をイスラエルに移住させた。

ロバート・キャパ「ちょっとピンボケ」 ・・・ 略 レナ・ジルベルマン「百人のいとし子」 ・・・ フランケル「夜と霧」(みすず書房)はナチスの絶命収容所でいかに生き延びるかが主題であったが、こちらは収容所から解放されたものをいかに復帰させるかとい…

沢木耕太郎「テロルの決算」(文春文庫) 日本のテロリストの動機は「不気味」。〈私〉がいないノンフィクション。

感想を書く気が重い。この時期(2008年)では、イスラム過激派のテロに重ねて考えることになるだろうし、ドスト氏の「悪霊」に重ねた政治テロの系譜も興味深いし、なにより自分の命を捨てて他数の命を救うために権力者を殺害することの是非(ないし自分の態…

早乙女勝元「東京大空襲」(岩波新書) 行政が空襲記録をつくらないので、民間が聞き取り調査する。無差別空襲を立案指揮したルメイに日本国は勲章を贈った。

サイパン島などを陥落したのち、アメリカ海軍は空爆の指揮官をルメイ将軍に変えた。その結果、軍事施設をピンポイントで狙う作戦が変更され、無差別爆撃になった。東京への昭和20年1月と2月のテスト空襲で十分な成果を得られると判断したため、3月10日、14日…

溝口千恵子/三宅玲子「定年前リフォーム」(文春新書) 子供が独立し、二人で老後を過すことになる夫婦を対象にしたリフォーム。資産を持っていないと実現は困難。それより独居老人はどうなる?

バブル経済の破綻によって、建築業界はダメージを受けたのか、現在ある家を作り直すリフォーム番組をたくさん作るようになった。たしかに一軒の家を作るよりは安上がりであり、最近の建築技法を駆使し、多くの建築家のデザインにより新築と見まがうばかりの…

ヘンリー・クーパーjr「アポロ13号奇跡の生還」(新潮文庫) 大失敗を若い人たちが創意とマネジメントを発揮して運用と説明の責任。こんな事例は日本にあった?

2009年2月8日に「ザ・ムーン」という映画を見た。原題はThe Shadows of the Moonで、月着陸計画のドキュメンタリー。NASAの秘蔵フィルムとこれまで月の地に落りたった12人のインタビューを合わせたもの。これまで見たことのない映像もあれば、30数年前のライ…

本多勝一「アメリカ合州国」(朝日新聞社) 差別を経験したいなら被差別者と行動すればよい。1960年代の命がけの取材まとめ。

1969年に著者が「アメリカ」という国を取材した時の模様。 1.ベトナム戦争から帰郷したブライ軍曹 ・・・ 1969年はベトナムに派遣された米軍兵士数が最大になった年。この時最初に兵士が撤退された。その黒人軍曹を取材する。白人カメラマンなどと同行した…

ネリン・ガン/グリフィン他「ダラスの赤いバラ・わたしのように黒く」(筑摩書房) 白人ジャーナリストが黒人に変装してもっとも人種差別の激しいディープ・サウスと呼ばれる地域をヒッチハイクした記録。

この国には8月15日や2月26日のように、その日付がある出来事というか感情というか国家と個人の両方の入り混じった記憶や感傷を喚起させる日付がある。アメリカにとっては7月4日と11月22日(あと9月11日)がそれになるだろう。前者は独立記念日、後者はケネデ…

アレックス・ヘイリー「マルコムX自伝」(河出書房新社) Xを名乗ることは差別する社会への闘争を続けるという決意。

革命家、しかも途中で挫折した革命家には、奇妙なことに人気があって、定期的にリバイバルされる。数年前(2000年)にはチェ・ゲバラの青春を描いた映画「「モーターサイクル・ダイアリーズ」が公開され、その10年前にはスパイク・リー監督による「マルコム・…

小田実「何でも見てやろう」(河出書房新社) 1957年に、西洋、貧困、知識人を考えながら、一日一ドルで暮らす貧乏旅行を決行。

終わりのところに、この国のインテリが外国とどのように向き合ってきたのかのをある種世代論的に語っている。分かりやすい図式なので、それを書くと、大雑把に明治維新から現在(1960年)までを第1、2、3の3つの世代にわける。最初の世代は、まあ、明治生…

神山典士「借金をチャラにする」(講談社+α文庫) 1990年代の銀行がやった貸しはがし。以後、企業は銀行を信用しなくなり、内部留保をためるようになった。

文庫書き下ろし。銀行の不良債権処理について、当初の予定よりも遅れが出ていることが問題になった2000年前後の事例で、中小企業の債務支払いを取り上げている。 1990年の直前、日本の土地・建物などの固定資産の評価額が非常に高まった。株価も高くなり、金…

佐山和夫「黒人野球のヒーローたち」(中公新書) 公式記録が残されなかった「ニグロ・リーグ」の歴史を掘り起こす。MBLの歴史は人種差別の歴史。

野球がアメリカで十九世紀中葉に生まれて以来、基本的に白人と黒人とが共にプレーをすることはなかった。そのため、一八八五年には黒人だけのプロ野球チームが誕生し、その後その数は激増、ニグロ・リーグを結成して、白人大リーグに勝るとも劣らない実力と…