odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-4

2017/10/04 筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-1 1984年 2017/10/03 筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-2 1984年 2017/10/02 筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-3 1984年 第3部で特徴的なのは、話者の意識の流れや発話内話が優先順位を持たずに垂れ流しのよ…

筒井康隆「夢の木坂分岐点」(新潮文庫)

この作家の小説では、たいてい主題が作中で説明されていて、ここでは章「5」で語り手が行う講演に他ならない。現実と虚構と夢には差異がなくて等価。どれが地でどれが図なのかということこだわることは不要。であれば、積極的に現実と虚構と夢の境を取っ払…

筒井康隆「ベティ・ブープ伝」(中公文庫) アニメのキャラクターを一人の俳優とみて、できるかぎりの出演作を収集し、その演技や成長を確認し、賛辞を贈る。

アニメのキャラクターを一人の俳優とみて、できるかぎりの出演作を収集し、その演技や成長を確認し、賛辞を贈る。21世紀となっては、とくに不思議なことでもなくなっているのだが、昭和の最後の年に、それも50代の人気作家が行ったとなるとセンセーショナル…

筒井康隆「驚愕の曠野」(河出書房新社)

「おねえさん」が子供たちに本を読んでいるようだ。すでに大量にある本の半分は読み終えている。「おねえさん」が朗読する本を読者はいっしょに読む。 すでに332巻に達した書名の不明な本には、紹介なしに複数の人物が現れ、飢えや強盗、裏切り、とりわけ巨…

筒井康隆「薬菜飯店」(新潮文庫)

1986-87年にかけて発表された短編をまとめて1988年に出版。1994年に文庫化。これも繰り返し読んで、いったい何回目の読み直しになるのかな。 薬菜飯店 ・・・ 場末の中華料理店に入り、珍しい中華料理を食べる。実在しない中華料理の名前、それに対応する疾…

筒井康隆「残像に口紅を」(中央公論社)

読者の物理現実の側では、事物そのものが「在る」のだし、それについて語ることができる。コップ(サルトル)、くつ(ハイデガー)、太陽(カミュ)みたいに事物そのものを語れるし、事物は他の言いかえをしても在ることは変わらない。でも言葉でできた虚構で…

筒井康隆「文学部唯野教授」(岩波書店)-1

小説を読みながら、政治や文化の知識も教えられるというのは稀有なこと。「純文学」と呼ばれるような小説ではめったにお目にかからず/かかることが少なく、むしろ多くのエンターテイメント小説で見ることが多い。吸血鬼退治のバイオレンス小説で人類の起源が…

筒井康隆「文学部唯野教授」(岩波書店)-2

2017/09/21 筒井康隆「文学部唯野教授」(岩波書店)-1 1990年 の続き 「大いなる助走」で同人誌の世界を風刺した作者は、今度は大学文学部をオワライの舞台にする。アカデミーの人たちが身に着けた権威ほどの知性の持ち主でもなくリーダーシップを持ってい…

筒井康隆「フェミニズム殺人事件」(集英社)

紀伊・産浜のリゾートホテルに作家・石坂は招かれる。ブランドファッションをテーマにした仕事をするためだ。ホテルには優れた支配人に美しい妻、見事なコックらがいて、完璧な接客を見せる。ホテルの会長が招いた客は、作家の他に、助教授、実業家夫妻、大…

筒井康隆「朝のガスパール」(新潮文庫)

複数のレベルの話が交互に進行する。それを抜き出すと、 「1.現実の筒井康隆と読者たち物語世界外の存在 2.この小説を書いている第二の自己としての筒井康隆 3.筒井康隆の第三の自己である榛沢たちがいる世界 4.榛沢が書く貴野原たちの世界 5.貴野…

大阪圭吉「とむらい機関車」(創元推理文庫)「坑鬼」 戦争で若死にしなかったら、戦後の探偵小説の革命を主導する一人になれたかもしれない。

大阪圭吉の創造した名探偵は、「青山喬介」「大月弁護士」「水産試験所所長・東屋三郎」の三人。どれもみな同じ。性格がいっしょで、事件のかかわり方も型通り。東屋氏が担当するのは職業がら海に関係したものになるのが特徴になるくらい。まあ、20代の仕事…

大阪圭吉「銀座幽霊」(創元推理文庫)「三狂人」「灯台鬼」「動かぬ鯨群」 20代前半の青年作家が家ではないところで起こる探偵小説をつくる。

大阪圭吉は1912年生まれで、20歳のときに「デパートの絞刑吏」でデビュー。愛知県新城市で役場勤めを続けながら1940年ごろまでは探偵小説を発表したが、対米戦開始後はユーモア小説からやがては時局に乗じた通俗スパイ小説に転向。1945年にルソン島で戦死し…

甲賀三郎「日本探偵小説全集 1」(創元推理文庫)「琥珀のパイプ」「支倉事件」ほか 1930年代に「本格」優位を主張した作家だが、実作では小説の技術不足。「支倉事件」は正力松太郎よいしょの犯罪実話。

甲賀三郎(1893-1945)は戦前の探偵小説作家。技手になった公務員時代に大下宇陀児や江戸川乱歩との付き合いがあり、30歳のときに「真珠塔の秘密」でデビュー。人気作家になる。享年51歳という若さで死去。 琉璃のパイプ 1924 ・・・ 台風の夜、ある家で火災…

小酒井不木「疑問の黒枠」(別冊幻影城) ヴァン・ダインが未紹介の時代、日本の探偵長編小説のモデルはゴシックロマンスの因果応報譚で、キャラのモデルは外国映画。

1978年3月刊行の「別冊幻影城3」小酒井不木集から長編を読む。記憶ではその後文庫化されていないので、読むのは困難かと思ったが、有志によるテキスト化が行われていた。どうやら、初出の雑誌「新青年」を稿本にしたらしく、本文の他に編集者がつけたと思わ…

小酒井不木「短編集」(別冊幻影城) 女性への加虐趣味と誤った科学的知見が気になって、読むのがつらい。

1978年3月刊行の「別冊幻影城3」小酒井不木集から短編を読む。 「恋愛曲線」(ちくま文庫)には収録されていない短編もある。タイトルの前に★をつけたもの。 痴人の復讐 (1925) ・・・ これは別冊幻影城にはないので、「日本探偵小説全集 1」(創元推理文…

坂口安吾(探偵小説) INDEX

2011/10/12 坂口安吾「不連続殺人事件」(角川文庫) 2017/09/05 坂口安吾「能面の秘密」(角川文庫) 1955年 2017/09/06 坂口安吾「復員殺人事件」(青空文庫) 1949年 2017/09/07 坂口安吾「坂口安吾全集 12」(ちくま文庫)-「明治開化安吾捕物帖」1 19…

坂口安吾「坂口安吾全集 13」(ちくま文庫)-「明治開化安吾捕物帖」2 近代的自我をもっていて、「おれが」「私が」と存在を主張する者がいないから犯人当ての意外性がない。

2017/09/07 坂口安吾「坂口安吾全集 12」(ちくま文庫)-「明治開化安吾捕物帖」1 1952年の続き つづけて後半。このころには狂言回しの虎之介や海舟はほとんどでてこない。 タイトルのまえに★がついているのは、「日本探偵小説全集10 坂口安吾編」(創元推…

坂口安吾「坂口安吾全集 12」(ちくま文庫)-「明治開化安吾捕物帖」1 ややこしい人間関係を味気なく、事件の起こる前のできごとを時間順に書くから読むのは厳しい。

ちくま文庫の坂口安吾全集から第12巻。ここと第13巻には「明治開化 安吾捕物帖」全作が収録。創元推理文庫、富士見文庫は抄録なので、これは助かる。昭和二十五年から二十七年まで、新潮社の雑誌「小説新潮」に連載されたとのこと(この連載のために同時…

坂口安吾「復員殺人事件」(青空文庫) 盛り込みすぎの中絶長編を高木彬光が「樹のごときもの歩く」と改題して完成。「『不連続』にはおよばなかったろう」に同意。

40年前には角川文庫で出ていたが、ずっと品切れ絶版のままなので、今回は青空文庫で読んだ。昭和24-25年にかけて雑誌に連載。途中には「読者への挑戦」が挿入され、正解者には総額3万円(現在価値にするといったいいくらになるのか?)を作者が提供するとい…

坂口安吾「能面の秘密」(角川文庫) 批評眼は新しいのに、実作は古い探偵小説のフォーマットを踏襲。

坂口安吾の探偵小説集。創元推理文庫の都筑道夫の解説によると、全集の4分の1が探偵小説というくらいに作家はこのジャンルに入れ込んだ。ここでは角川文庫に収録された短編に、日本探偵小説集(創元推理文庫)に乗っているものを加えた(不連続殺人事件と明…

都筑道夫「少年小説コレクション1」(本の雑誌社)-「ゆうれい通信」 大学生・和木俊一が主人公の昭和35年ころのジュブナイル探偵小説。

都筑道夫のジュブナイル小説(少年小説と呼ぶ方が当時にはあっている)。敗戦後に生まれた大量の子供がティーンエイジになり、娯楽のマーケットが生まれたのだ。学習誌、マンガ雑誌、貸本マンガなどのメディアがいっせいにできた。そのために書き手が不足し…

都筑道夫「少年小説コレクション2」(本の雑誌社)-「ゆうれい博物館」 大学生・和木俊一が主人公の探偵小説。中学高校生向け。

「少年小説コレクション1」に続いて本格探偵小説を集める。前の巻よりも少し後の時代のものを集める。初出誌は「中〇コース」「中〇時代」「高〇コース」「高〇時代」「少女コース」など。〇には学年を表す数字がはいる。 ゆうれい博物館 1970.04-71.03 ・…