odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

江戸川乱歩

江戸川乱歩「大金塊」(青空文庫) 国民学校の優秀な軍国少年は愛国心で苦難を克服する

江戸川乱歩には暗号小説がある。「二銭銅貨」、「算盤が恋を語る話」、「孤島の鬼」、「幽麗塔」をすぐにおもいつくが、なんといっても最高の暗号小説は「大金塊」だ。ということが、竹本健治「涙香迷宮」(講談社文庫)にかいてあったので、青空文庫に収録…

江戸川乱歩「探偵作家としてのエドガー・ポオ」(1949)(エドガー・A・ポー「ポー全集 4」(創元推理文庫)から全文採録)

探偵作家としてのエドガー・ポオ 江戸川乱歩 1 推理三味(ざんまい) 探偵小説史は一八四一年から始まると云われているとおり、ポオの処女探偵小説『モルグ街』は、その年の四月フィラデルフィアの〈グレアム雑誌〉に発表されたのだが、彼はそれ以来一八四…

江戸川乱歩「カー問答」(1950)(ミステリマガジンNo255,1977年7月号から全文採録)

略歴 「あなたはカーがひどくお好きなようだから、いろいろお訊ねして見たいと思いますが、先ず彼の略歴から一つ」 「そうだね、僕も詳しいことは知らないが、ここにあるヘイクラフトの『娯楽としての殺人』(探偵小説史)と、やはりヘイクラフトの執筆してい…

江戸川乱歩 INDEX

2016/08/12 江戸川乱歩「江戸川乱歩集」(新潮文庫) 1920年 2016/08/10 江戸川乱歩「パノラマ島綺譚/一寸法師」(講談社文庫) 1925年 2016/08/11 江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」(講談社文庫) 1925年 2016/08/9 江戸川乱歩「陰獣」(講談社文庫) 1925年 2…

江戸川乱歩「江戸川乱歩集」(新潮文庫) 1920-30年代の短編代表作を網羅。最初に乱歩を読むならこれ。

現在は「江戸川乱歩傑作選」にタイトルを変更。例によって昔話をすると、1970年代、ポプラ社の少年向け小説を読んだあと(俺は小学時代の乱歩体験はなく、中学3年で「探偵小説の謎」現代教養文庫を読んでから)、本屋にいくとあるのは、角川文庫の選集(表紙…

江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」(講談社文庫) 1925年に書かれた短編を網羅。引きこもり体験者が夢想した奇妙な味や幻想譚。

大正15年、1925年の短編を集めたもの。全集の一冊なので、アンソロジーには収録されない作品も含まれる。 算盤が恋を語る話 1925.04 ・・・ 内気なTくんは、S子に恋したが言い出せない。そこで算盤でデートの誘いをした。「ゆきます」の返事があったのだが………

江戸川乱歩「パノラマ島綺譚/一寸法師」(講談社文庫) プライド高い厭人癖の男が人間の掟を踏み越えた先に作った欲望の城。全編が引用できたパノラマ小説。

乱歩の本は編集を変えていろいろな出版社から出ているから、どれで読んだというのは意味がないかもなあ。これは1970年代の講談社文庫ででた全集の一冊。最初期の長編(中編)2本を収録。 パノラマ島綺譚 ・・・ 夢想癖の強い若者・人見広介。毎日、下宿に引…

江戸川乱歩「陰獣」(講談社文庫) 被虐嗜好者と加虐嗜好者の奇妙な依存関係は快楽の主導権をどちらが持っているかわからない

デビュー2年目、著者31歳のときの作品集。 踊る一寸法師 1925.01 ・・・ サーカス団の打ち上げで、女性軽業師が障害者をいたぶる。騒ぎものの楽器を持ち出してはやし立てる。次第にエスカレートしていって…。今読むにはちょっときついね。 ポオ「跳び蛙」と…

江戸川乱歩「孤島の鬼」(創元推理文庫) 自己を探究しみずから変革する成長物語には第三者の冷静で客観的な眼で眺める傍観者「探偵」がいる余地はない。

内気で女の子に話しかけられない蓑浦君(25歳)は、新人社員の木崎初代(18歳)にひとめぼれ。でも半年も声をかけられない。ようやく話ができてデートもするようになると、初代は家族親類のない淋しさをまぎらすためか、自分の身の上を語る。記憶にある海岸…

江戸川乱歩「蜘蛛男」(創元推理文庫) 無声連続活劇映画の系譜にあるチェイス・アンド・アドベンチャー小説。

美術商の稲垣兵造が開いたオフィスを借り、問屋に電話して什器他をそろえる。この急造の会社の募集広告に応募してきた18歳の女性を採用した。仕事を教えると都会に連れ出した。数日後、彼女は空き家の浴槽で惨殺される。死体は切断され、石膏でコーティング…

江戸川乱歩「黒蜥蜴」(角川文庫) 明智に一方的に恋心を抱くも、無関心のせいでひとり相撲をとるばかりの恋愛下手。それでもなお追いかけ、彼の腕に抱かれ接吻されることを求める黒蜥蜴こそ哀れ。

昭和8-9年に連載していた通俗長編2つが収録されている。 黒蜥蜴 1934 ・・・ ダークエンジェルとも呼ばれるその女の二の腕には黒蜥蜴の彫り物がある。男たちの前で全裸になって、ダンスを始めると、彫り物の蜥蜴は生きているようにうごめくのだ。この女盗賊…

江戸川乱歩「人間豹」(講談社文庫) 挑発して逃げる人間豹と笑顔で追いかける明智はライバルであるというより、むしろカップル。

昭和9年1934年に「講談倶楽部」に連載された長編。 いいとこのボンボンである神谷青年が銀座のカフェの女給弘子に恋したのがそもそもの始まり。カフェでいちゃいちゃしているところに、痩せ型の青年恩田が嫉妬し、弘子を付け狙う。その1年後に、弘子に生き写…

江戸川乱歩「緑衣の鬼」(角川文庫) フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」の翻案。事件が起こりすぎで意図がみえやすくなったかも。

いくつかの版があるが、ここでは角川文庫のもので読んだ。宮田雅之のカバーが素敵。 緑衣の鬼 ・・・ 夕刻の銀座で突如サーチライトが一人の若い女性に向けられる。そこには巨大な手の影が彼女を押しつぶそうとするかのように。それ以来、女性・笹崎芳枝に奇…

江戸川乱歩「大暗室」(講談社文庫) 「おそろしく大時代な善玉悪玉の冒険小説で、涙香の『巌窟王』にルパンの手法をまぜたようなもの」

自註で「おそろしく大時代な善玉悪玉の冒険小説で、涙香の『巌窟王』にルパンの手法をまぜたようなもの」といっていて、なるほどそのとおり。 漂流中に瀕死になった大富豪は遺言で同乗する親友に資産と妻を譲るという。しかし親友は富豪を裏切り、ただ一人救…

江戸川乱歩「暗黒星」(講談社文庫) 「地獄の道化師」。戦前通俗小説の最後期作品のひとつ。

昭和14年に連載していた通俗長編2つが収録されている。 暗黒星 1939.1-12 ・・・ 麻布に大西洋館を構える伊志田家。ある夜8mmフィルムの上映中(当時は国産品はなくて、フィルムともども輸入していたのではなかったかな。相当な資産家でインテリでスノッ…

江戸川乱歩「三角館の恐怖」(創元推理文庫) 戦後の翻案探偵小説。原作よりも男キャラがたち、犯人当ては容易になった。

「隅田川近辺の川岸に建つ石とレンガの古色蒼然たる3階建ての洋館―元は正方形の屋敷だったものを対角線で真二つにしたため、付近の人々から三角屋敷とも三角館とも呼ばれる蛭蜂一族の洋館で、1月下旬の雪の日の深夜、突如として1発の銃声が鳴り響いた。二つ…

江戸川乱歩「日本探偵小説全集 2」(創元推理文庫)「化人幻戯」は「斜陽」のような敗戦占領期の貴重な描写。

この日本探偵小説全集には、二銭銅貨/心理試験/屋根裏の散歩者/人間椅子/鏡地獄/パノラマ島奇談/陰獣/芋虫/押絵と旅する男/目羅博士/化人幻戯/堀越捜査一課長殿が収録されている。いくつかの短編と「パノラマ島奇談」「陰獣」は別のエントリーで取り上げたの…

江戸川乱歩「堀越捜査一課長殿」(講談社文庫)「月と手袋」「ぺてん師と空気男」。戦後の短編。セルフパロディとた作品の引用でできた技巧的な作品。

戦後、仕事の軸足を創作から評論と雑誌編集に移したので、創作小説は極端に減ってしまった。長編は「化人惑戯」「影男」「十字路」、翻案の「三角館の恐怖」、中短編はほぼこの一冊。創作の意欲は本人が認めるように薄れていて(国策小説を書いたこととか、…

江戸川乱歩「鉄塔の怪人/海底の魔術師」(講談社文庫) 鉄塔王国はこの国の急激な工業化・電化に対する恐怖のシンボル。少年は機械の奴隷である工場労働者になることにおびえる

戦後になってから書かれた少年向けの明智探偵冒険譚。 鉄塔の怪人 ・・・ 白髪の老人がのぞきめがねを見せた。奇怪な鉄塔とカブトムシ。その翌日から、荻窪(周囲に民家のない閑静地)に住む高橋家に奇怪な事件が起こる。一千万円を鉄塔王国に寄付せよ、さも…

江戸川乱歩「怪人二十面相」(講談社文庫) 永遠に決着がつくことがない明智小五郎と小林少年と怪人二十面相の嫉妬の三角関係がここから始まる。

1980年までに小学校を卒業した人には、江戸川乱歩の児童読物の読書体験があるみたい。おどろおどろしい表紙に、奇怪な犯罪とその謎解きに魅了されたのかな。自分はあいにく江戸川乱歩体験をもっていないので(かわりに戦記ノンフィクションとファンタジーを…

権田満治「日本探偵作家論」(講談社文庫) 戦前探偵小説が読めなかった時代、リアリズム文学流行の時代にロマン主義復活を目す。踏み込みが浅いのはしかたない。

1970年から雑誌「幻影城」に連載された論文に、書下ろしを加えて1975年に出版。その年の「日本推理作家協会賞」の評論部門を受賞。講談社文庫にはいったのは1977年。 取り上げられた作家は以下の通り。 小酒井不木、江戸川乱歩、甲賀三郎、大下宇陀児、横溝…

江戸川乱歩「うつし世は夢」(講談社文庫) 戦後に書かれた随筆集。戦後創刊された探偵小説雑誌「宝石」の編集に熱心に取り組んでいたころ。

戦後に書かれた随筆を集めたもの。生前には単行本に収録されなくて、没後の全集でまとられた。地方紙、業界紙、雑誌のコラムなどの小さいものがほとんど。まあ、どうしても読まなければならないというものではないですね。研究家、愛好家でないと手に取るこ…

江戸川乱歩「続・幻影城」(光文社文庫) 乱歩は探偵小説の博物学者。大量のカードを作成して収集した個体の分類と体系化をもくろむ。

「続・幻影城」は「幻影城」の3年後、昭和29年の発行。 解説にあるように、「幻影城」は総論で、「続」は各論という趣き。前者は新しい作家や作品の紹介に力を入れて、後者では小説のテクニックや歴史についての話題が多い。注目するのは、こちらには渾身の…

江戸川乱歩「幻影城」(光文社文庫) 乱歩は探偵小説の博物学者。戦中20年のブランクを埋めるために大量の情報を読者に提供する。

探偵小説から見ると、15年戦争の敗戦によって起きたことは、1)戦争動員体制で書けなくなったジャンル小説を書けるようになった、2)弱小出版社が林立し、雑誌がたくさん発行された、3)洋書輸入禁止で読めなかった本が入手できるようになった(その結果、…

江戸川乱歩「悪人志願」(光文社文庫) 戦前、戦後すぐの随筆集集成。乱歩の関心分野が網羅。

「悪人志願(昭和4年)」「探偵小説十年(昭和7年)」「幻影の城主(昭和22年)」「乱歩断章(単行本未収録)」の随筆集が入っている。随筆だけで700ページあって、なかなか読むのが大変。よほどの愛好家か研究者でないと、興味が持続しないのではないかなあ…

江戸川乱歩「幽霊塔」(創元推理文庫) 黒岩涙香「幽霊塔」の翻案は同じ話を少しずつ意匠を変えて語っている。

江戸川乱歩の「幽霊塔」はこれで4度目の読み直しになる。なぜこんなに惹かれるのだろうな。 長崎県の片山里に建つ寂れた西洋館には、幽霊が出ると噂される時計塔が聳えている。このいわくつきの場所を買い取った叔父の名代で館を訪れた北川光雄は、神秘のベ…

江戸川乱歩「吸血鬼」(角川文庫) 冒頭は「カラマーゾフの兄弟」のゾシマ長老一代記の引用。これで読者にしっかりをフックを打ち込んだ。

「雨続きに増水して、不気味ににごる川面。岩角にぶち当たってすりむけたのか、顔全体がグチャグチャに崩れ、醜くふくれ上がった溺死体! 死後十日以上経過している。恋に狂った男たちの奇妙な毒薬決闘の果て、<死の淵>へ誘い込まれた哀れな男の末路? 艶…

松山巌「乱歩と東京」(ちくま学芸文庫) 1920年代の乱歩作品を都市分析のツールにすると、東京の多面性が見えてくる。

探偵小説作家・江戸川乱歩登場。彼がその作品の大半を発表した1920年代は、東京の都市文化が成熟し、華開いた年代であった。大都市への予兆をはらんで刻々と変わる街の中で、人々はそれまで経験しなかった感覚を穫得していった。乱歩の視線を方法に、変…

江戸川乱歩「世界短編傑作集 5」(創元推理文庫) 1960年にみた短編探偵小説の最新作。探偵小説はさらに多様化している。

ベイリー「黄色いなめくじ」1935 ・・・ 小学生低学年の男の子が幼児の妹といっしょに沼に入って死のうとする(日本人だと心中だが、欧米だと心中という概念がないので、殺人と自殺とみなされる)。この子供たちに興味を持ったフォーチュン探偵は、二人の幼…

江戸川乱歩「世界短編傑作集 4」(創元推理文庫) 30年代の短編探偵小説。謎解きだけからハードボイルドやサスペンスなどに探偵小説が多様化。

ヘミングウェイ「殺人者」1927 ・・・ 放浪者ニック・アダムスの冒険(作者は彼を主人公にした短編を複数書いている)。都会の安い飯屋で働いている。二人の不思議な男がくる。彼は大男のスウェーデン人を探している。ニックたちは監禁されそうになるが男たち…