江戸川乱歩
江戸川乱歩には暗号小説がある。「二銭銅貨」、「算盤が恋を語る話」、「孤島の鬼」、「幽麗塔」をすぐにおもいつくが、なんといっても最高の暗号小説は「大金塊」だ。ということが、竹本健治「涙香迷宮」(講談社文庫)にかいてあったので、青空文庫に収録…
探偵作家としてのエドガー・ポオ 江戸川乱歩 1 推理三味(ざんまい) 探偵小説史は一八四一年から始まると云われているとおり、ポオの処女探偵小説『モルグ街』は、その年の四月フィラデルフィアの〈グレアム雑誌〉に発表されたのだが、彼はそれ以来一八四…
略歴 「あなたはカーがひどくお好きなようだから、いろいろお訊ねして見たいと思いますが、先ず彼の略歴から一つ」 「そうだね、僕も詳しいことは知らないが、ここにあるヘイクラフトの『娯楽としての殺人』(探偵小説史)と、やはりヘイクラフトの執筆してい…
2016/08/12 江戸川乱歩「江戸川乱歩集」(新潮文庫) 1920年 2016/08/10 江戸川乱歩「パノラマ島綺譚/一寸法師」(講談社文庫) 1925年 2016/08/11 江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」(講談社文庫) 1925年 2016/08/9 江戸川乱歩「陰獣」(講談社文庫) 1925年 2…
現在は「江戸川乱歩傑作選」にタイトルを変更。例によって昔話をすると、1970年代、ポプラ社の少年向け小説を読んだあと(俺は小学時代の乱歩体験はなく、中学3年で「探偵小説の謎」現代教養文庫を読んでから)、本屋にいくとあるのは、角川文庫の選集(表紙…
大正15年、1925年の短編を集めたもの。全集の一冊なので、アンソロジーには収録されない作品も含まれる。 算盤が恋を語る話 1925.04 ・・・ 内気なTくんは、S子に恋したが言い出せない。そこで算盤でデートの誘いをした。「ゆきます」の返事があったのだが………
乱歩の本は編集を変えていろいろな出版社から出ているから、どれで読んだというのは意味がないかもなあ。これは1970年代の講談社文庫ででた全集の一冊。最初期の長編(中編)2本を収録。 パノラマ島綺譚 ・・・ 夢想癖の強い若者・人見広介。毎日、下宿に引…
デビュー2年目、著者31歳のときの作品集。 踊る一寸法師 1925.01 ・・・ サーカス団の打ち上げで、女性軽業師が障害者をいたぶる。騒ぎものの楽器を持ち出してはやし立てる。次第にエスカレートしていって…。今読むにはちょっときついね。 ポオ「跳び蛙」と…
内気で女の子に話しかけられない蓑浦君(25歳)は、新人社員の木崎初代(18歳)にひとめぼれ。でも半年も声をかけられない。ようやく話ができてデートもするようになると、初代は家族親類のない淋しさをまぎらすためか、自分の身の上を語る。記憶にある海岸…
美術商の稲垣兵造が開いたオフィスを借り、問屋に電話して什器他をそろえる。この急造の会社の募集広告に応募してきた18歳の女性を採用した。仕事を教えると都会に連れ出した。数日後、彼女は空き家の浴槽で惨殺される。死体は切断され、石膏でコーティング…
昭和8-9年に連載していた通俗長編2つが収録されている。 黒蜥蜴 1934 ・・・ ダークエンジェルとも呼ばれるその女の二の腕には黒蜥蜴の彫り物がある。男たちの前で全裸になって、ダンスを始めると、彫り物の蜥蜴は生きているようにうごめくのだ。この女盗賊…
昭和9年1934年に「講談倶楽部」に連載された長編。 いいとこのボンボンである神谷青年が銀座のカフェの女給弘子に恋したのがそもそもの始まり。カフェでいちゃいちゃしているところに、痩せ型の青年恩田が嫉妬し、弘子を付け狙う。その1年後に、弘子に生き写…
いくつかの版があるが、ここでは角川文庫のもので読んだ。宮田雅之のカバーが素敵。 緑衣の鬼 ・・・ 夕刻の銀座で突如サーチライトが一人の若い女性に向けられる。そこには巨大な手の影が彼女を押しつぶそうとするかのように。それ以来、女性・笹崎芳枝に奇…
自註で「おそろしく大時代な善玉悪玉の冒険小説で、涙香の『巌窟王』にルパンの手法をまぜたようなもの」といっていて、なるほどそのとおり。 漂流中に瀕死になった大富豪は遺言で同乗する親友に資産と妻を譲るという。しかし親友は富豪を裏切り、ただ一人救…
昭和14年に連載していた通俗長編2つが収録されている。 暗黒星 1939.1-12 ・・・ 麻布に大西洋館を構える伊志田家。ある夜8mmフィルムの上映中(当時は国産品はなくて、フィルムともども輸入していたのではなかったかな。相当な資産家でインテリでスノッ…
「隅田川近辺の川岸に建つ石とレンガの古色蒼然たる3階建ての洋館―元は正方形の屋敷だったものを対角線で真二つにしたため、付近の人々から三角屋敷とも三角館とも呼ばれる蛭蜂一族の洋館で、1月下旬の雪の日の深夜、突如として1発の銃声が鳴り響いた。二つ…
この日本探偵小説全集には、二銭銅貨/心理試験/屋根裏の散歩者/人間椅子/鏡地獄/パノラマ島奇談/陰獣/芋虫/押絵と旅する男/目羅博士/化人幻戯/堀越捜査一課長殿が収録されている。いくつかの短編と「パノラマ島奇談」「陰獣」は別のエントリーで取り上げたの…
戦後、仕事の軸足を創作から評論と雑誌編集に移したので、創作小説は極端に減ってしまった。長編は「化人惑戯」「影男」「十字路」、翻案の「三角館の恐怖」、中短編はほぼこの一冊。創作の意欲は本人が認めるように薄れていて(国策小説を書いたこととか、…
戦後になってから書かれた少年向けの明智探偵冒険譚。 鉄塔の怪人 ・・・ 白髪の老人がのぞきめがねを見せた。奇怪な鉄塔とカブトムシ。その翌日から、荻窪(周囲に民家のない閑静地)に住む高橋家に奇怪な事件が起こる。一千万円を鉄塔王国に寄付せよ、さも…
1980年までに小学校を卒業した人には、江戸川乱歩の児童読物の読書体験があるみたい。おどろおどろしい表紙に、奇怪な犯罪とその謎解きに魅了されたのかな。自分はあいにく江戸川乱歩体験をもっていないので(かわりに戦記ノンフィクションとファンタジーを…
1970年から雑誌「幻影城」に連載された論文に、書下ろしを加えて1975年に出版。その年の「日本推理作家協会賞」の評論部門を受賞。講談社文庫にはいったのは1977年。 取り上げられた作家は以下の通り。 小酒井不木、江戸川乱歩、甲賀三郎、大下宇陀児、横溝…
戦後に書かれた随筆を集めたもの。生前には単行本に収録されなくて、没後の全集でまとられた。地方紙、業界紙、雑誌のコラムなどの小さいものがほとんど。まあ、どうしても読まなければならないというものではないですね。研究家、愛好家でないと手に取るこ…
「続・幻影城」は「幻影城」の3年後、昭和29年の発行。 解説にあるように、「幻影城」は総論で、「続」は各論という趣き。前者は新しい作家や作品の紹介に力を入れて、後者では小説のテクニックや歴史についての話題が多い。注目するのは、こちらには渾身の…
探偵小説から見ると、15年戦争の敗戦によって起きたことは、1)戦争動員体制で書けなくなったジャンル小説を書けるようになった、2)弱小出版社が林立し、雑誌がたくさん発行された、3)洋書輸入禁止で読めなかった本が入手できるようになった(その結果、…
「悪人志願(昭和4年)」「探偵小説十年(昭和7年)」「幻影の城主(昭和22年)」「乱歩断章(単行本未収録)」の随筆集が入っている。随筆だけで700ページあって、なかなか読むのが大変。よほどの愛好家か研究者でないと、興味が持続しないのではないかなあ…
江戸川乱歩の「幽霊塔」はこれで4度目の読み直しになる。なぜこんなに惹かれるのだろうな。 長崎県の片山里に建つ寂れた西洋館には、幽霊が出ると噂される時計塔が聳えている。このいわくつきの場所を買い取った叔父の名代で館を訪れた北川光雄は、神秘のベ…
「雨続きに増水して、不気味ににごる川面。岩角にぶち当たってすりむけたのか、顔全体がグチャグチャに崩れ、醜くふくれ上がった溺死体! 死後十日以上経過している。恋に狂った男たちの奇妙な毒薬決闘の果て、<死の淵>へ誘い込まれた哀れな男の末路? 艶…
探偵小説作家・江戸川乱歩登場。彼がその作品の大半を発表した1920年代は、東京の都市文化が成熟し、華開いた年代であった。大都市への予兆をはらんで刻々と変わる街の中で、人々はそれまで経験しなかった感覚を穫得していった。乱歩の視線を方法に、変…
ベイリー「黄色いなめくじ」1935 ・・・ 小学生低学年の男の子が幼児の妹といっしょに沼に入って死のうとする(日本人だと心中だが、欧米だと心中という概念がないので、殺人と自殺とみなされる)。この子供たちに興味を持ったフォーチュン探偵は、二人の幼…
ヘミングウェイ「殺人者」1927 ・・・ 放浪者ニック・アダムスの冒険(作者は彼を主人公にした短編を複数書いている)。都会の安い飯屋で働いている。二人の不思議な男がくる。彼は大男のスウェーデン人を探している。ニックたちは監禁されそうになるが男たち…